第二十六話 中国国家主席・雷震河
天井に走る蛍光灯が無機質に光を落とす。
コンクリートを補強した会議室の中央には長机が据えられ、その端に大型プロジェクターの光が揺れていた。
スクリーンに映し出されるのは北京・中南海。無表情に並ぶ政府高官、勲章を胸に威圧的に座る軍幹部たち。
そしてその中心に鎮座するのは、国家主席・雷震河であった。
福岡を制圧した中国軍九州方面軍総司令官、劉建国大将は背筋を伸ばし、無言でモニターに一礼した。
60歳前後。文化大革命を少年時代に体験し「国家への忠誠」を叩き込まれた世代。
会議というよりは尋問にも似た空気。
彼の報告を待つ視線が画面の向こうから刃のように突き刺さる。
「劉大将、現状を報告せよ」
雷震河の低く重い声が響いた。
劉は書類を片手に、冷静さを装って口を開いた。
「はっ。九州における主要都市の掌握は予定通り進んでおります。福岡市、長崎市、熊本市は完全に制圧下に置きました。インフラ管理については現地の行政組織を一部温存し、我が軍の監督下にて運営しております。現在、最大の問題は――」
彼は一拍置き、映像資料を切り替える。
スクリーンには九州北部の山岳地帯の地図、そして散発的な襲撃報告が表示された。
「“白虎隊”と名乗る抵抗勢力であります。我々が九州統治を始めて数年、拠点を定めずゲリラ戦を継続。補給路を狙った夜襲や破壊工作を繰り返しております。特に──下関侵攻の要衝である関門橋を爆破され、我が軍の進撃は著しく足止めされております」
会議の向こうでざわめきが走る。
雷主席が眉をひそめ、鋭く言い放った。
「烏合の衆に過ぎぬはずだ。なぜ何年も我が軍を釘付けにしている?」
劉は表情を崩さぬまま答える。
「奴らは正規兵ではないものの、旧自衛隊員や地元民を糾合しており、正面からの戦闘を避け、周到に地形を利用しております。山中や廃墟に潜伏し、奇襲と撤退を徹底。結果として、兵站線は常に攪乱され続けているのです。さらに厄介なことに、我が軍に忠誠を誓い、協力を申し出た日本人さえも、容赦なく標的にされております。そのため、現地統治の拠点形成が思うように進みません」
劉が現状を一通り報告すると、一瞬の沈黙が会議室を支配した。
雷主席は軽く頷き、声を落として次の議題へ移した。
「よろしい……では次だ。ロシアの件はどうなっている?」
別の高官が立ち上がり、淡々と報告を読み上げる。
「北海道方面についてですが──同盟国ロシア軍もまた、現地抵抗勢力に手を焼いております。しかしながら、それは局所的な摩擦に過ぎず……我々の進める“計画”に大きな支障を及ぼすものではなく、進行は予定通りであります」
会議室の空気はさらに重くなる。
雷震河が冷酷な瞳を細めると、長机を囲む軍幹部たちは一斉に姿勢を正し、視線を下げた。
誰一人として声を発する者はいない。
沈黙の中で、彼らの胸中には恐怖と絶対的忠誠が渦巻いていた。
雷震河はしばし顎を撫で、瞳に冷ややかな光を宿した。
「……よかろう。薄汚いテロリストどもの掃討を最優先とせよ。奴らの存在は、この列島における我が国の威信を汚す汚点だ。根絶やしにしろ──名を残す者すら許すな。従わぬ者は見せしめに吊るせ」
雷の言葉が響き渡ると、幹部たちは無言のまま深く頭を垂れた。
重圧に耐える沈黙の中、誰もが、この命令の残虐性を深く理解していた。




