森の妖精、エルフは汚れなき存在です(大嘘)
「あれ、先輩?」
「…………」
満腹になったので、さて帰ろう……そう思っていたところへ、思わぬ人物と出会ってしまった。達志が、猛を呼んだ理由……その話の大元にいるのが、まさしく彼女、シェルリア・テンだ。
その見た目、輝く金髪にエメラルドグリーンの瞳はまさに妖精。スタイルもモデル並みで、出るとこは出て締まるとこは締まっている。
白い無地のワンピース……その味気ない服装は、彼女が着ることにより何物にも勝るドレスへと変貌する。一枚の絵画から飛び出してきた、芸術品のようだ。
「よ、よう、奇遇だな……」
いきなりのことに驚いていたので、大したリアクションが取れない。人間驚くと、ホントろくなリアクションが取れないものだ。
だから、とりあえず手を挙げて軽く挨拶をしておいた。
「こ、こんにちはです! どうしたんですか、お、男二人で、ファミレスになんて……」
丁寧に腰を折って挨拶を返してくれるシェルリア。いい子なのだ。だから、男二人で、の部分で妙に声色が興奮気味だったのは気のせいだと思いたい。
そして、達志と猛、二人を見る目がいやらしいのも気のせいだと思いたい。
「まあ、ちょっとした悩み相談ってやつだよ」
「そ、そうなんですか……年上の男性に悩み相談、ふむ……年下の悩みを聞く年上が、強引に迫って……んん、これは新しいカップリング。シチュエーションとしては問題なし。むしろいい。いや逆に、年下が年上を押し倒す展開も……?」
何かぶつぶつ言っているが、何も聞こえない聞きたくない。
「……達志、知り合いか?」
……と、ここまで達志とシェルリア交互に視線を向けていた猛が、ちょいちょいと達志をつつく。そういや紹介もしてなかったなと、はっと気づいた達志はこほんと咳払い。
「あぁ、俺テニス部入ったって言ったじゃん?そこの後輩だよ。エル腐……エルフのシェルリア・テンだ」
「なんで何を言い直したんです? ……えぇ、テンです。先輩とは部活仲間で、仲良くさせてもらってます。個人的にもとても」
まるで天使のような……種族的には妖精だが……輝く笑顔を浮かべ、シェルリアは挨拶する。それに合わせて猛もお辞儀をし返すのだが、直後に達志を半目で睨み付ける。
「……なんだよ」
「お前……由香や、リミちゃんだっているのにお前ってやつは……」
呆れたように額に手を当て、呆れたようにため息を漏らす。どうやらシェルリアが言った「個人的にもとても」が気になったらしい。
もちろんシェルリア的には、他意はない。体育祭に向け達志が一番に頼ってきたのが自分であった、などと、部活仲間の中では達志と特に仲良くしている。
そういった意味なのだが……その事情を知らない猛は真意まで受け取れなかった。
由香やリミといった綺麗所に囲まれているのに、ラノベ主人公みたいに片っ端から手出す気かこいつは、といった感想を持ってしまう。
もちろんその考えも、そもそも言葉の意味もわからない達志は……
「なんでそこで由香やリミが出てくるかわからんが、シェルリアとはそんな変な関係じゃないからな?」
こう答えるしかない。なぜここで由香とリミの名前が出てくるのか、まったく意味がわからない。それを受けて、猛は深いため息を一つ。
まあおそらくは、達志の言うようにシェルリアとは変な関係ではないのだろう。達志は女関係に疎いし、何より……
「まあ、お前にこんな綺麗な子をどうこうできるとは思ってないから安心しろよ」
「それはそれでムカつくな」
このエルフ、かなりの美人さんだ。町中を歩けばすれ違った人皆振り向くであろうほどの。彼女ほどの美しさに叶うのは、猛の知ってる中ではリミくらいだろう。
由香やさよなも、綺麗じゃないわけじゃない。だが、高校生でこの美貌を持っていたかと言われると……黙るしかない。
それほどの美人、達志がどうこうできるとは思えない。例外としてリミは、達志にぞっこんであるが……あれは恩人だからだろうというのが高い。
猛から見ても、達志に対して恋愛感情を持っているかは曖昧なところだ。
「仲がよろしいんですね?」
「あぁ、まあ……えっと、こっちは茅魅 猛。俺の幼なじみで、今は大工やってんだと」
話が脱線しつつあったが、無事猛の紹介も完了する。猛と幼なじみということは、達志の境遇を知っている相手ならば妙な誤解を生むこともない。
十年歳が違う幼なじみ……字面だけなら不思議なことはないが、達志達の場合は少しばかりややこしい。
「幼なじみ、ですか。十年の時を経て再会した幼なじみの熱い一夜……うへ、へへへ……」
また何かぶつぶつ言っているが、無視しよう無視。
「それで……シェルリアはどうしてここに?」
あまり、シェルリアの本性を猛に知らせたくはない。いや問題ないといえばないのだが、とりあえず嫌だ。
問いを投げられたシェルリアは、一瞬固まったあとにこちらに戻ってきて……
「あっ、私ここで待ち合わせを……!」
「リアー、なにしてんのさ?」
ここに来た理由を、思い出した。どうやら、このファミレスで待ち合わせをしており、偶然に達志と出会ったわけだ。
つまりここで話しているということは、待ち合わせ相手を待たせているということになって……ここで失礼しよう。そう思ったときだ、シェルリアの後ろから声がかかったのは。
「あ……はーちゃん! お待たせ」
「ホントにだよ、ファミレス入ってきたはいいけどいきなり立ち止まってんだもん」
振り向き、シェルリアはにこにこと笑顔を浮かべている。対してその正面にいる、はーちゃんと呼ばれた女の子は不機嫌そうだ。
それもそうだ。待ち合わせに現れた相手が、自分をすっぽかしていきなり知らない男と話に花を咲かせ始めたのだから。
「ごめんごめん。ちょっと先輩と会っちゃって」
手を合わせ謝るシェルリアだが、顔には笑顔を浮かべて舌を出している。てへぺろ、というやつだ。正直かわいい。
どうやら相当に気心が知れた中なのか、ガシガシと頭をかいたはーちゃんは「はぁ」と軽くため息を漏らした後、「まあいいよ」と告げる。
シェルリアとはいい友人らしい。が、その見た目は一言で言ってしまえばギャルだった。褐色の肌に、染めたか地毛かはわからないが金髪をお団子にして頭の右側に乗っけている。
ちなみに達志眼によると、胸はシェルリアより大きそうだった。
「センパイねぇ……ってことは、テニス部の? んじゃ、こっちの筋肉おっさん? やっべふけすぎじゃね!?」
先輩と聞き、はーちゃんが目を向けたのは達志……ではなく、猛だ。どうやら体つきからそう判断されたのだろうか。それにしても猛、そこまでふけているとは思えないが……女子高生からするとそうなのだろうか。
知らないうちにバカにされたっぽくなった猛は、ぷるぷる震えている。これは、ちょっとイライラしてきている。
「ち、違うよ! こっちの人!」
「えぇ……うっそ! こんなナヨったのが!? 超ウケるんですけど!」
いつの時代のギャルだよ、と言いたくなる言葉遣い。それはそうと、こちらをなめきっているその態度……ちょっとだけイラッとする。ちょっとだけ。ホントだよ。
「は、はーちゃん! す、すみませんお二方……ほら、行くよ!」
「あっはははは!」
これ以上はまずいと思ったのか、バカ笑いしているはーちゃんの背中をいそいそと押していくシェルリア。
元々はーちゃんが座っていた席に戻る途中も、度々シェルリアは頭を下げてきていた。なんだろう、この組み合わせは。
腐ったエルフとくそったれなギャル、なんと異色の組み合わせだろうか。
「……行くか」
「……そうだな」
嵐が通りすぎたのを確認してから、二人は席を立った。始めこそ、どうか俺と猛で変な妄想をしないでくれ……と願っていた達志だがもうそれどころではなさそうだ。
とりあえず店を出てからも、シェルリアはともかくはーちゃんの話題に触れるのは、やめておいた。




