男二人のファミレスランチ
「そういうわけで、近々体育祭があるらしいんだよ」
「いや、どんなわけだよ」
目の前にあるメロンソーダをちゅーちゅーストローで飲みながら、達志は愚痴るように口を開く。それを聞くのは、達志の正面に座っている茅魅 猛だ。
「いや、なんでわざわざ貴重な休日に呼び出されて、野郎二人でファミレスランチしながらお前の愚痴に付き合わなきゃいけないんだよ。しかも俺の奢りで」
「状況説明どーも。まあいいじゃない、どうせ暇だろ? 日々木材に打ち込むしか楽しみのない彼女もいない猛くん」
「なに、喧嘩売りにきたの?」
そう、今こうして達志と猛、幼なじみ二人が向き合っているのは、今猛が言った通りだ。
休日中に達志が同じく休日中の猛を呼び出し、猛の奢りでランチをご馳走になり(させ)、こうして愚痴を聞いてもらってる。
「まあいいじゃんか、体育祭なんて学校行事の目玉の一つ……存分に楽しめばいいじゃんか」
「そうなんだけど、そうじゃないんだよなぁ。体育祭は楽しみなんだけど、めんどくさそうな要因ができたというか……」
あの日、達志は人生の転機とも言える場面に出くわした。
知りたくもない後輩の一面を知り、見たくもないエルフの腐った部分を目の当たりにしてしまった。誰だ、エルフは清廉な妖精だと言ったのは。達志本人だ。
達志の想像上、またアニメやマンガといった娯楽の中のエルフは、それはそれは清い存在として描かれていた。森の中で暮らしているため、世間知らずのちょっとドジっ子……そんなイメージがあった。
だが、蓋を開けてみればどうだろう。確かに見た目は清廉な妖精そのもので、性格に関しても文句の付け所がない、優しい人思いなものだ。
問題はその中身。本人は隠しているつもりだろうし、周りにバレているのかはわからないが……とにかく、知りたくなかった一面だ。本人に聞くのはちょっと無理だし、他の人に聞くにしてもやっぱり無理だ。
未確定情報をペラペラと喋るわけにもいかない。この胸の内、どうすればいい。
結果、なんの関係もない猛を呼び出し……いろいろ整理できないままなので、まあとりあえず話に付き合ってもらおうじゃないかと思ったわけである。
体育祭の話はあくまで前菜……メインはここからだ。
「なあ、猛はもし、人の意外な面を見たとしたらどうする?」
だから聞けるのは、こんなレベルのものだ。誰かと特定するのではなく、あくまで例えばの話で。
「どうした藪から棒に……意外な面、か。そうだなぁ……わっかんね」
役にも立たない答えだった。
「役に立たねーな」
「人を呼びつけといてその言い種……お前、世間的には俺が十も年上なの忘れんなよ?」
「十もおっさんだもんな」
「よっしゃ表出ろ」
言葉だけ聞くと刺々しい二人のやり取りも、しかし表情を見ればただじゃれているだけというのがわかる。口端に笑みを浮かべながら、なんだかんだこの会話を楽しんでいる。
特に……猛にとってはそうだろう。幼なじみとの十年越しの会話、嬉しくないはずがない。今日会えたのだってなんだかんだ言って嬉しかったし、くだらない会話ですら楽しい。
決して、二人の時間が埋まることはないけれど。それでも失った時間を取り戻すように、二人は語り合った。
「いやぁ、食った食った」
それからしばらくして、満腹だとお腹を叩く達志が、満足だと呟く。こいつ、人の金だからって遠慮なく食いやがって……猛の恨めしそうな表情に達志は気づかない。
いや、気づいても敢えて無視しているのかもしれない。
デザートまで平らげた達志は、今度は俺が奢るからと言っていたが……さすがに、三十手前の大人が高校生に奢ってもらうわけにはいかない。
「そんで結局、お前の悩みはなんだったのよ」
楽しい会話の時間を過ごしたものの、結局のところ達志が猛を呼び出した本当の理由を聞いていない。愚痴はおまけで、単に語らいたかった、というのなら話は別だが。
「さっき言ってた、意外な一面ってやつか?」
「そうそう。長く人生を生きてる先輩として、ここは何卒ご教授を」
猛にだって、人の意外な一面を目にしたことがあるはずだろう、多分。だから、何か参考になればと思ったのだが……
「わかんねえよ。その意外な一面ってのがなんなのかわからんことには」
「ですよねぇ」
答えは、先ほどと同じ。とはいえ、猛の言う通り、意外な一面の内容がわからないことには答えようがないだろう。かといって、まさか後輩のエルフが腐ってるからどうしたらいい、とは言えない。
収穫なしか……ま、久々に一緒に飯食えたし良かったとするか、と思い始めた頃……
「ただ……別に、付き合い方を変える必要はないだろ。どんな一面があろうとそいつはそいつ、何も変わることないだろ。その一面を知ったからそいつとはもうやってけないってんなら、しょせんそこまでの付き合いだったってことだしな」
と、猛は自身の思いを口にする。まさかこうもちゃんとした答えをくれると思っていなかったので、意外だ。これこそ意外な一面……というほどでもないけれど。
思えば猛は、なんだかんだいって付き合いがいいのだ。以前はこうして、よく相談に乗ってもらった。
「……どうしたよ、そんなじっと見て。気持ち悪い」
「いや、なんかお前がスゲー大人に見えて……」
「大人だよ!」
まったく……と猛はぶつぶつ言っているが。やはり今日、猛と話して良かった。そうだ、別に腐ってるくらいどうでもいいことじゃないか。何を小さなことで悩んでいたんだ。
心の中がスッキリしている。これなら今日は気持ちよく眠れそうだ……と、そろそろ店から出るために「行こうぜ」と声をかけようところへ……
「あれ、先輩?」
「…………」
スッキリしたはずの問題が、いきなり目の前に現れた。




