エル腐
「つ、つか、れた……」
バタン、とその場に倒れる。汗はたくだく、息は絶え絶え、もはや体は一歩も動きそうにない。大の字になって空を見上げているが、時期が時期だからか部活終わりでもまだ明るい。
そんな中、誰かが達志を見下ろしている。
「先輩、大丈夫ですかー?」
金髪が眩しく風に揺れている。シェルリアは屈んで、達志に声をかける。どうやら心配してくれているようだが、残念ながらそれに応えられるほどの体力すら今はない。
それでも、ようやく喋れるようになるまでじっと待ってくれている彼女はやはり天使か。いや妖精だ。
「あ、あぁ……あの野郎、ようしゃ、ねぇ……」
結局あれから、マルクスの特訓が始まった。決して長い時間ではなかったが、それでも今の達志の体力を奪い取るには充分であった。
「まあまあ、マル先輩も先輩のこと想ってのことですし。ぜひとも二人で、二人で頑張ってください」
「……うん」
さっきからちょくちょく、言葉の変換や言い回しがおかしい気がするのは、やはり気がするだと思いたい。
シェルリアから手渡されたスポーツドリンクを飲み干し、ようやく一息。ちなみにマルクス含め他の連中は、部活終わりでさっさと帰ってしまった。薄情な奴らめ。
それを思うと、わざわざ待ってくれていたのだろうかこの子は。
「悪いな……なんか、待ってくれてたの?」
「いえ、友達と一緒に帰る約束してるので、それを待ってただけです」
とんだ赤っ恥である。
「……とにかく。まあ、練習ってか特訓はハードだけど、これならなんとかなりそうな気がする」
「少しはテニスの特訓もしてほしいんですけどね」
「うぐっ……」
痛いところを突かれてしまった。確かに、あくまで体力の底上げなのでテニス関連の特訓はしないのだが。
それでも、体力をつければテニスにも生かせるから問題ない。と訴えたい。
「でもただ走ったり筋トレするだけじゃ……先輩、明日はマル先輩と相撲してくださいよ」
「なんで!?」
「いや、相撲じゃなくてもいいんですけどね。お二人の距離が密着……げふん! 接近するくらいで。むしろ、お二人で共に汗を流す感じで。男の青春みたいな」
最近、シェルリアが怖い。人としてというか、もっと別のベクトルでなのだが。
今回のこともそうだし、いやに達志とマルクスを二人にさせようとするのだ。しかも、それを遠目に見ている。やたら熱い視線で。
「いやいやまさか……」
達志の頭に一つの疑惑が浮かぶが、振り払う。いくらなんでもそれはないだろう。清廉が形になったような女の子だぞ。
「どうしました?」
と、かわいらしく首をかしげている。ほら、この様子を見るだけで、汚れた心など吹き飛んでしまいそうなほどなのに。
「いや、最近マルちゃんと絡むことが多いなって……主にキミが原因で」
「そうですか? 私はただ、親交を深めてもらいたいとか思ってるだけです。別に、身も心も弱いところのある先輩を、マル先輩が厳しくも実は優しい指導でいろいろ導いてくれたらな、とか思ってませんし」
「……」
これは、グレーかもしれない。
「なら、明日はマルちゃんと相撲でもしてみようかな……」
「ホントですか!?」
試しに、カマをかけてみる。もちろん本当に相撲するわけではないし、あくまで反応を調べるだけだ。
すると、予想以上に食いついてきた。
「ででででしたら、二人激しく絡み合う感じでお願いします!友情を深めあった二人が「これからも俺の特訓に付き合ってくれるか」「特訓?お前のすべてに付き合ってやるよ」「バカヤローお前、バカヤロー」みたいなやり取りを交わして!
その後二人で共に流した汗を流すために二人でお風呂にでも入ってお互いの背中を流してさらに友情を深めてむしろ深める以上までいってもらえると言うことなしなのですが!」
「…………」
とても綺麗な顔を寄せられ、その口からとても信じがたいこと場を聞いた。聞き違いと思いたいが、さすがに無理だろう。
目を輝かせ、頬を赤らめ、ちょっと興奮して。まるで、好きな人への告白を語ったみたいだ。語ったのは、達志とマルクスの……まあしっぽりとした願望だが。
隠すつもりがないのか、それとも歯止めが効かなくなったのかは知らないが。とにかく、一つ言えることがある。
(こいつ、腐ってやがる……エルフじゃねえ、エル腐だ)
人は見かけによらない、ということだ。
「し、シェルリア……さん?」
「うへ、へへ、ぐぅへへへへ……」
すでに達志の存在がないものとされているのか、達志の声が届いていない。美少女が、しちゃいけない顔でしちゃいけない笑い方をしている。
その様子に……達志の中の、何かが崩れ去っていく気がした。
(俺の中の、清廉なエルフのイメージが……!)
知りたくなかった一面を、知ってしまった。




