やっぱりツンデレだったんだね
思ったよりもすんなりとマルクスの協力を取り付けられ、これで一安心だ。
副部長を任せられるだけあってテニスの実力は他を圧倒している……だけでなく、人並み以上に体力があるのはこれまで見てきてわかっている。
練習を始める前に軽く……軽く三キロのジョギングをした後、腕立て伏せ腹筋スクワットそれぞれ百回を三セット、素振りを百回通した後にようやく練習に入るのだが、それで息切れすら起こしていない程度には馬鹿げた体力の持ち主である。
このメニューは、マルクスオリジナルのものだ。強制はないが、他の部員もやっている……とはいえ、距離や回数は少なくしているが。
マルクスとしては、体を作ることも大事だがそれ以上にコートに立ってボールに慣れておけとのこと。さすがは副部長、素晴らしい思いやりである。
ちなみに達志は、一キロ走りきれる程度でその後の筋力トレーニングは無理だ。よって玉打ちに時間を割いている。
「貴様が一キロ走りきる間にボクは五キロ走りきる……なんて情けない。時間の無駄だからラケットの握り方でも勉強していろ」
こう言われたときにはさすがに心にクリティカルヒットが入った。返す言葉もないのが余計に悲しかった。
「せんぱーい、お疲れ様でーす」
とまあ、嫌なことを思い出してしまったが。そんな人並み以上の体力野郎マルクスの指示の下ならば今以上に体を鍛えられることは間違いない。
とりあえず今は忙しいからと、約束を取り付けたのみで戻ってきた達志をシェルリアが手を振りながら迎えていた。
「あ、どうも。なんとかオーケーだったよ」
「むふふ、そうですか……それは大変喜ばしいですね!」
ひとまずは、成功を喜んでくれているのだろうか。それにしても、マルクスに指導をしてもらう許可をもらっただけでこうも嬉しそうにするとは。
「ちょっと意外だったけどね。「体力のない貴様を指導するなんて時間の無駄だ」とか言われると思ってたんだけど」
「マル先輩、ああ見えて面倒見いいですから」
「ふむ」
見た目は、子供が見たら一発で泣いてしまうであろう顔をしているのに……その中身は、なかなかに面倒見のいい奴らしい。
ただ、リミ関連になると容赦がないのは勘弁してほしいなとは達志の本心から思うのだが。
「それに、部活対抗の競技もあることですし」
くすくすと笑いながら、指を立てて話す後輩エルフ様の姿はやはり絵になる。これを写真に撮っただけで売れるんじゃないだろうか。
「あ、やっぱりあるんだ、部活対抗」
「はい。去年見学に来たときにやっていたのは、部活対抗リレーですね。白熱で面白かったです」
部活対抗リレー、とはなるほど、十年前とは変わってない競技も当然あるらしい。部活のメンバーが決まっているのなら、マルクスが協力してくれるのもうなずける。
「でもさ、勝ちたいんなら体力がない俺は出さないんじゃない?」
そう、勝ちにこだわるなら、体力のない達志を競技に出す必要はない。まさか全員出場しなければいけないルールがあるわけでもなし。
勝ちにこだわるなら体力のない人間を出さず、体力のある人間で固めるのが合理的だろう。きっと達志がマルクスでもそうする。まあマルクスにメンバーを選ぶ権利があるかは知らないが。
「ふふ……実は聞いちゃったんですよ、マル先輩と部長が話してるの。体育祭を経験していない一年生に出番を多く与えたい……それに、十年も眠ってていろんな楽しみを味わえなかったイサカイにもそうしてやりたい、って」
「……マジっすか」
「マジっす」
二人の会話……そしてそれを提案したであろうマルクスの言葉が、にわかには信じられない。そんなこと一言も、態度にすら出していなかったのに。
これでは、まるで……
「マジもんのツンデレじゃんかマルちゃん……」
とはいえ、これをネタにからかおうだなんて思わないけど。なんだこれ、めちゃくちゃいい奴じゃないか。
これは、素直にお礼を言った方がいいのだろうか。いやマルクスのことだ、達志に知られたと知ったらどんな反応をするかわからない。黙って心の中で感謝しておくべきか?
「そうなんですよ! いやもー、あの堅物のマル先輩がそんなお約束みたいなツンデレの片鱗を先輩相手に見せたなんて、これだけでもうご飯三杯は……ぐ、ぐへ、うぇへへへへ……」
「……あの? シェルリア、さん?」
「……はっ! 失礼しました」
なんだか今、見てはいけないものを見てしまった気がする。そう、見てはいけない……見てない。
何も見てない。あのシェルリアが変な笑い方してたのも、破顔してたもの、涎を垂らしてそれを拭ってたのも……
見間違い、そうこれは単なる見間違いだ。
「あ、先輩、マル先輩が呼んでますよ!」
「え? あ、うん」
意識を別のところに持っていっていたためか、反応が遅れた。指摘されたために確認すると、確かにマルクスが手招きしている。
うまく話をそらされた感があるが、仕方ない。おそらくは早速特訓メニューのご提示であろう、それを聞きに行かねば。
「じゃー、行ってくるわ……」
「はい、ご存分に!」
引きつりそうになる顔の表情筋を固定するのが辛い。なんだか変な返答が返ってきたが、それには気にしないようにしてマルクスのところへ向かうこととする。
マルクスと二人。会話をしているとき、先ほど同様の、いや先ほど以上の熱い視線が向けられていた気がするのは、気がするであったと願わずにはいられない。




