ちょっとした出来心だったんですマジすみませんでした
「タツ、どういうことですか!」
教室に入ったリミと達志の下に近づいてくる人影があった。二人のところに……正確には達志のところに向かってきた人物はあっという間に達志の目の前に立つ。
どうやら憤怒しているらしくムスッとした表情で達志を見上げている。
その人物、ルーアは腰に手を当て、聞かなくても不機嫌なのだとわかるくらいにぷりぷりしている。今の台詞がその証拠だろう。
朝の挨拶もなしにいきなりのことに達志は目をぱちくりさせている。まさかリミとのラブレター話を聞かれてしまったのかとも思ったが、どうやらそうでもないらしい。
その話詳しく、という顔ではない。
集まり始めていた生徒達も騒ぎに気づいたらしく、何事かと視線を向ける。
「あ……」
周りから注目され、しまったと口を押さえる。それからこほんと小さく咳ばらいして、声を潜める。
「タツ、どういうことですか」
「いや、何が?」
いきなり主語もなしにどういうことかと言われても、こっちがどういうことだだ。ちゃんと説明してほしいものだ。
半開きの目をさらに細め、「こいつぬけぬけと……」みたいな表情をしている。なんだいったい。
「昨夜のことです。私、ちょっと傷つきました」
「さく、や?」
はて、昨日ルーアの家に寄った時のことを言っているのだろうか。そうなると昨夜という言い回しが妙だが、何か怒らせるようなことをしてしまったのだろうか。
考えている間も、ルーアは続ける。
「えぇ。私、昨夜タツの夢の中……心の奥底を覗いてタツの好きな人を探ろうとしたんですよ。そしたらなんでか、夢の中を覗けなくて……結局タツの好きな人もわからずじまい。
タツ、何か対策してたんですか? 私これまで一度もこんなことなかったので、ちょっとショックでいたたたたた!」
聞いてもいないのにやたら詳しく話してくれたルーアだが、その内容を黙って聞き流すことはできない。
「ほぉ? 俺の夢の中をねぇ?」
「いたた、は、鼻はやめていたたた!」
なるほど、何か変なことを企んでいる気がしていたが、そういうことだったのか。いつの間にか夢の中を見られようとしていたとは、まったく油断も隙もない。
自慢げな不満げなルーアの鼻先を引っ張りながら、してやられたと達志は悔いていた。
結果的には夢の中を見られることはなかったらしいとはいえ、これはしっかり言っておかねばならないだろう。
それにしても、達志の夢の中が覗けなかったとルーアは言った。はて、いったいどういうことだろうか。まさか、達志の中に眠る何かが何かして何かが目覚めたのだろうか。
「は、はぁながもぉげるぅ……」
元々魔法を使える世界に住んでなかった人も魔法を使えることになるとの話だし、現に由香だって回復魔法を使えるようになっているし。
もしかして魔法が効かない魔法とか? いやそれだと回復魔法も効かなくなってしまうしいろいろ意味わかんなくなっちゃうし、そもそもルーアのは魔法じゃなくてサキュバスの特殊能力だし。
「はなぁ! すびばせん! ちょっと調子のってばしたぁ! 出来心だったんっすばじずびばぜんん!」
そろそろルーアが限界そうなので、手を離してやる。すっかり赤くなってしまった鼻を押さえるルーアはもう涙目だ。
恨めしそうに達志を睨んでいるが別に俺悪くないと顔をそらされてしまったため不服そうだ。
「お前、しまいにはクラスの連中にエロい夢見せてるってバラすぞ」
「ホントすみませんでした」
ルーアとしてもそこはバレたくないところなのだろう。とりあえずはこれを脅しの道具として使わせてもらうとする。
素直に謝るルーアのその様子がなんだかおかしくて、思わず達志は吹き出す。それでますます不服そうになるルーアだが、そんなものお構いなしに達志は大声で笑い始める。
そんな二人の様子を、少し離れた位置からリミは、なんとも複雑そうな表情で見つめていた。




