モテる女
何となく気まずい夜を越え、そして翌日。リミにいろんな意味で絞られ、みなえにも注意され……結構反省した達志はあまり眠れなかった。少し眠いが、二度寝するにも微妙な時間だし仕方ないだろう。
今日もリミと揃って登校。学校にて下駄箱から上履きに履き替えて、教室に向かう……その行程の中に、今までの達志の生活の中にはなかったものが一つ増えている。それは……
「……はあ、またですか」
ため息を漏らすリミ。下駄箱を開き、その中を見てのため息のようだ。それがどんな理由であるのか、すでに達志は知っている。これこそが、達志が経験した新しい行程。
「ははは、モテモテだなリミ」
下駄箱から何かを取りだし再度ため息。それは紙……封筒のようにも見える。しかも一枚や二枚ではない。白色や桃色、色とりどりの封筒は華やかにも見えるが、リミはまったく嬉しそうではない。
それもそのはず、リミは毎日のようにこれを経験しているのだから。
「笑わないでくださいよ、困ってるんですから」
うんざりしたような顔のリミはひとまず複数の封筒……ラブレターを抱え直す。さすがにその場で破り捨てたりはしないようだが、もう後で捨ててしまいそうな勢いだ。
毎日毎日、登校の度に下駄箱にラブレターが入っている。端から見ればうらやましいことこの上ない光景も、その当人ともなれば話は変わってくる。
「そんなモテていいと思うけどなぁ」
「そりゃ好意的な感情を持たれるのは悪い気はしませんが……でも、毎日毎日だとさすがに。いちいち断るのも面倒ですし」
リミも初めからこうも面倒そうな態度だったわけではないだろう。だが毎日のように繰り返されるラブレター攻撃はさすがにリミの寛大な心も耐えきれなかったらしい。
とはいえ、律儀にも一人一人に返事はしているらしい。もちろん名前がわかるものや、告白場所を指定されているものなど告白する意思のあるものに限るが。
一番困るのが、好きですとか自分の気持ちだけを書いてあるもの。
告白するでもなく気持ちを伝えるだけのためにラブレターを送る相手とか、何がしたいんだと思う。そしてこっちに何をしてほしいんだと思う。名前もなしにあなたを想っていますとか、怖すぎる。
とりあえず仕方なしといった具合に、ラブレターの束を鞄に突っ込む。モテる女も大変だということだ。
「断るってことは……リミ、好きな人でもいるの?」
教室への道すがら、やはり話題はラブレター関連のものに。誰かと付き合うつもりがないらしいリミ、その理由はぱっと思いつくのは、リミに好きな人がいるということだ。
何気なしに聞いてみたが、そういえばリミとこんな話するの初めてだったなと思う。これに対してどんな反応が返ってくるだろう、そんな興味もあった。
「好きな人、ですか。いませんね」
反応はばっさりしたものだった。
「じゃあいいじゃないか……と思うかもしれませんけど、誰かと付き合うとか、そういうのあまり考えられなくて。もちろん、付き合ってみないと結局わからないとは思うんですが」
どうやらリミも、自分がどうして告白を断るのか、よく理由はわかっていないらしい。付き合うとかはよくわからない、ならば試しにでも誰かと付き合ってみればいい……でも、なんだか嫌だ。
そんな、矛盾した気持ち。それを抱えたまま、気付けば教室の前まで来ていた。
「まあ、ラブレター出してくれた人には悪いですが、今回も全員お断りです」
「そっか……」
教室に入る前に、この話題をばっさり終わらせる。そうして教室へと入っていくリミの背中を見ながら達志はふと思う。
もしかしたらリミは……本当は好きな人がいるのではないか。好きな人はいない、と嘘をついてる風ではなかったし、自分でも気づいてないだけで。
だからこそ、他の誰とも付き合う気が起きない。
もしそうなら……なんとか、その気持ちに気づかせてやりたいなと思う。恋も知らない少女に、それが恋だと知らないまま終わらせないために。




