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【リメイク連載中】目が覚めたら世界が異世界っぽくなっていた件  作者: 白い彗星
異世界召喚かとテンションが上がった時期が俺にもありました
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失ったものは取り戻せない



 意図せずしてルーアの家庭事情を聞くことになってしまったが、ルーアは明るく振る舞っている。ならばこちらも、気遣いを見せれば逆に失礼というものだろう。


 達志が変に萎縮していないのを確認してから、ルーアは続ける。



「当時、私は風邪で寝込んでいたんです。ちょうどその頃、インフルエンザが流行ってて見事に貰っちゃいましてね。いやあ、辛いなんてもんじゃないですねあれ。……で、一人両親の帰りを待っていたわけです」



 インフルエンザなんて病気、元いた世界にはなかったもんなあ……と笑うルーアであったが、当時を思い出しているのか、その表情はどこか懐かしんでいるように感じる。



「わざわざ仕事を休んで、私の体が良くなるようにたっくさんいろいろ買ってくると息巻いて出掛けた二人を、私は待ってたんです。……でも、いつまで経っても二人は帰ってきませんでした」



 風邪で寝込み、出掛けた両親の帰りを待つ……それはどれほど心細かったであろうか。達志も風邪で寝込んだことくらいはある。


 風邪になると人恋しくなってしまうものだし、その気持ちがわからないほどではない。



「しばらくして、変な人から連絡があって、両親に不幸があったと……いやはや、今思えばそんな詐欺の手口みたいなもの、風邪で弱ってたとはいえ早々に信じるなんて迂闊にもほどがありますよ」



 油断しました、と軽く微笑むルーアに、やはりかける言葉が見つからない。おそらく、当時は頭がごちゃごちゃになっていたに違いない。


 そんな達志の様子を気にすることなく、さらにルーアは続ける。



「当時の私は、そりゃ信じられませんでしたよ。だっていきなり、あなたの両親は死にましたーって。けど、実際に両親の遺体を見て……驚きました。

 人って、あんなに白くなるものなんですね。それから一日中……いや一週間は部屋にこもって泣いてました」



 風邪に追い打ちをかけるように両親の死を突き付けられ……当時の彼女はどれほどのダメージを負ったのだろうか。それも、まだ高校生にもなっていない歳でだ。


 それからまだ二年。傷が癒えているはずもないだろうに……達志に気を遣わせないためか、本人の強さゆえか、ルーアの口調は変わらない。



「もちろん、お医者さんに泣きすがりましたよ。でも……医術は、万能ではない。魔法が取り入れられていたとはいえ、絶対ではありません。

 手をかざせばさあ元通り……とはいきません。それに……死んだ者は生き返らない。両親は、即死だったそうです」



 いかに魔法が万能に見えていても、それは見えるだけだ。達志自身、魔法が使われているこの環境下で十年間も眠っていたのだ。


 便利にはなっただろうが、それでもまだまだ問題は山積みだろう。


 それに、死者を生き返らせるなんてマンガみたいな話、実際にできるはずもない。



「もー参りましたよ。ただでさえ初インフルで大変だったのに……そこに顔面にパンチでも貰った気分でしたよ。苦しいの辛いのって」



 年端もいかない少女にとっては重すぎる現実。それなのに……彼女は今ここにこうしていて、クラスではバカやったりしてムードメーカー的な存在になっている。


 中二病だのなんだの言ってきたが、もしかしたらすべては、寂しさを紛らわせるためのものかもしれない。


 強いんだろうなと、思う。



「……って、相づちなりなんなりしてくださいよ。でないと私、一人で語り始めた痛い奴じゃないですか」


「え、あぁ……痛い奴とは思わないけど、大方あってる気がする」



 どんな返し方をすればいいのかわからない達志だが、その返しには若干いつもらしさがあるような気がする。ルーアがいつも通りしているので、達志も少しは気が楽になったのだろうか。



「なんて言うか……いきなりこんなヘビーな話がくるとは思ってなかったからさ」


「ははは、それもそうですね。すみません」



 まさか家に来てからの初話題がこんなに重たいものになるとは思っていなかった。ルーアも、いきなりこんな話をしてしまったことに少し申し訳なさを感じているらしい。



「でも……」


「うん?」


「タツになら話してもいいような、そんな気がしたんですよね。あ、話しても、って別に隠してるわけじゃないんですけどね。自分から言うこともないので」



 ルーアが何を思ってこの話をしてくれたのか。最初に親の存在に触れたのは達志ではあるが、こんなに深いところまで話してくれたのは、単なる気まぐれというだけではないらしい。


 ……話してもいいような、か。



「あのさ、俺もいいかな」


「えぇ、どうぞ」


「話してくれたからお返しに……ってわけでもないんだけどさ」



 今のルーアの話を他人事で聞けなかったのは、彼女がクラスメートだからでも、仲のいい友達だからでもない。それもあるだろうが、大元の部分で……達志にも、同じような体験があるからだ。


 静寂の室内に、微かに息を呑む音が聞こえる。これはルーアのものか、それとも達志自身のものか……おそらく後者だろう。そして……



「……俺さ、妹がいたんだ」



 達志は、口を開いた。これから話そうとすることを考えるだけで、口の中が渇いてしまう。



「……いた、ですか」


「あぁ。俺にとってはついこないだのことなんだけどさ……知ってるだろうけど俺ちょっとドジって車に轢かれちゃって、十年眠ってたのよ。そんで十年の時を経てようやくお目覚め。

 ……そん時聞いたんだ、ことり……妹が、轢き逃げにあって死んだって」



 ルーアに倣って、というわけではないが、なるべく達志も明るく話すよう努力する。


 そうすることで相手に気負わせない……と同時、自分の気持ちもほんの少しだけ楽になるような気がした。



「それは……辛いですね」


「ルーアにそれを言わせるのも、ルーアの前でそう言っていいのかもわかんないけど……な。……ま、実感はなかったよ。寝ている間に、家族がいなくなったなんて……悪い夢かと思った」



 体感としては、ただ眠って起きただけ。それなのに実際は十年の時が流れ、その間に妹が死んだというのだ。


 そう聞かされても実感はなかったが……家では、どうしても思い出してしまう。いつも後ろをついてきていた、妹のことを。



「そうですか、タツも家族を……ですか。私達、ちょっとだけ環境が似てるのかもしれませんね」


「……そうだな」



 あまり嬉しくない部分ではあるが……自分達の環境が、少しだけ似ている。自分の手の届かないところで家族を失った。


 こうして判明した境遇……そのせいか、家に来る前より少しだけ、ルーアへの印象が変わった気がした。

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