レッツ部活トーキング
……あの激烈な復学初日から、数日が経った。
初日が初日だけに、波瀾万丈な日々が始まると構えていた達志であったが、驚くことに、あれからは特に何が起こるわけでもなく……比較的平穏な日々が流れていた。
驚くとはいっても、多分あれが異常なのだが。
とはいえ達志にとっては、一日一日が驚きの連続だ。魔法ありきのファンタジー世界になった世界での学校生活は、新鮮の一言に尽きる。
初日ほどの騒動はなくとも、退屈しない日々を過ごしていた。
数日のおかげで達志もある程度学校生活慣れてきた。そんなある日……
「……で、結局テニス部にしたと」
「おう。懐かしのテニス部……そしてマルちゃんへのリベンジのためにもな!」
昼休み時間、教室は自然と騒がしくなる。それぞれ弁当を持ち寄る者、学食、購買へ向かう者……各々がそれぞれの時間を過ごす。
教室の中に複数あるグループの中の一つに、達志を中心としたものがある。
食事の途中でも……いや、だからこそ会話は弾むものだ。
「タツシ様が決めたこととはいえ、些か残念です。……はむっ」
「むぅう……せっかく我が『魔法部』に来るかと思っていたのですが、見学にすら来ないとは」
「何その捻りもない部活名。しかも我がって……」
自身が所属している部活を、さも当然のように語る眼帯少女は、弁当箱に詰め込んだ食パンの耳に手を伸ばしながら、会話を続ける。
「そりゃあ……もぐもぐ……設立したのは私ですし、我がぶふぁふおろうれんでひょふお。ごっくん」
「食ったまま喋んな汚い後半何言ってるかわからん」
弁当に詰められたご飯をおかずと共に食べながら、会話に花を咲かせる。話題は、達志がテニス部に入部したこと諸々についてだ。
中でも話に食いついてきたのが、ルーアだった。
「我が部活も同然ですよ!」
「お、おう。けどそれはすごいな……なんか興味はあるわ。いろんな意味で」
「でしょう!? とにかく魔法をバンバン使ってあれこれして成長させようという素晴らしい部活なのですよ!」
「それお前が魔法撃ちたいだけじゃね?」
「他にも走り込みとか、筋トレとか、ゲームやったりとか……」
興奮気味に自らが設立した部活のことを話すルーアのおかげで、もはや達志の入部した部活というよりもルーアの話になっている。
達志としては、いろんな話を聞けるから全然いいのだが。
頭悪そうな部活名な上に、内容がもはや部活ではなくサークルだ。関係ないし。……本人が満足そうなのでとやかく言うつもりはないが。
「せっかくタツが来てくれると信じてたのに! 魔法部には今部員が四人しかいなくて、後一人来ないと廃部なんですよ! こういうのって、転入生が五人目に来て廃部阻止っていうストーリーでしょう!?」
「知らねえよ、なんだその一方的な信頼! 来てほしいなら諸々の詳細かせめて部活名くらい教えてくれる!? それに俺転入生じゃねえし!」
理不尽なルーアの物言いに、理不尽だと達志は返す。そういうストーリーが頭の中でできあがっているのなら、せめて一言くらい教えてほしいものだ。
それにしても……
「なんで部員それだけなんだ? 楽しそうな部活なのに」
部員の数が気になる。それを問いかけると……
「部活設立当初はそれなりにいたんですよ。けど、やめていく人が続出して。……やれお前の魔法の練習台になってたら体がもたないだの、やれもうついていけないだのと、皆訳のわからないことを……」
「オーケーわかった。部員がやめていく理由も、それが訳のわからないことじゃないってことも」
部員はいたのだが、やめていったらしい。確かに、ルーアの魔法……あの規模の威力の練習台になれと言われたら、大抵は逃げ出すだろう。
いくら自由な部活とはいえ、命がもたない。
逆にそれでよく三人も残ったものだ。それがまた不思議だが、曰く……
「私の魔法を受けると、気持ちいいんだとかなんだとか。私の魔法に快楽機能なんてないはずですが……」
「それは練習台生徒が特殊な性癖の持ち主ってだけだろ!」
不思議そうなルーア。本人はわかってないようだが、現在の魔法部にはルーアを除いて、痛いのが気持ちいい特殊な人達しかいないヤバい部活らしい。
ある意味ルーアもヤバい人だし、とんでもない。
「ルアちんが魔法部、リミたんが調理部、タツがマルちゃんと同じくテニス部……いやあ、それぞれの人間性がよく表れてると思うわ」
「え、マジで? まったくそんなこと思わないんだけど」
現在机を囲っているメンバー、達志、リミ、ルーア、そしてヘラクレス。その中で冷静に分析する、手を生やして弁当を食べるスライムを見ながら達志は紙パックのリンゴジュースを飲んでいく。
スライムの体から手が生える光景を見慣れてしまった自分が、なんだか怖いなと感じながら。慣れって怖い。
「そういうヘラは、なんの部活入ってんのさ」
「折り紙研究会」
「!?」
「ちなみに部員は三十はいるぜ」
「!!?」
達志以外も初めて知ったのか、驚いたルーアが部員何人かわけてくれだのギャーギャー騒いでいる。やはりもう部活ではない気がするし、そもそも会だし。
だがそこをツッコむのは、いろいろとめんどくさそうなのでやめた。
「そういえば最近、魔物をよく見ますね」
水筒から注いだ熱いお茶を飲みながら、ポツリとリミが口にする。達志としてはあまりわからないが、最近魔物が現れる頻度が増しているらしい。
それが聞こえたルーアは、なぜかドヤ顔になる。ふっふっふ……と口元に笑みを浮かべて。
「確かにそうですね。しかし、我が魔法にかかれば魔物の一匹や二匹へのへのかっぱ……現に、部活動中に現れた魔物は我等部員一同で袋だたき! その後おいしくいただきました!」
「お前一人の魔法だけでも充分すぎる気がするんだけど。あとやっぱ食うんだ」
ルーアの火属性魔法だけでもオーバーキルだろうに、そこへ部員一同で袋だたきとはもはや魔物が不憫だ。そして魔物を食べるスタイルは共通らしい。
この間のテニス試合の時もそうだったが、ちょくちょく魔物が出没しているらしい。魔物が現れて悪いわけではないのだが、頻度が増えているのはちょっと不穏であるらしい。




