ロリキュバス
「私の体のこと、どう思ってますか?」
それは、唐突に。
謎の発言が上がる。突然の理解不能な言葉に、達志は、いや他のみんなも困惑の表情だ。
過ごして数日が経つが、ルーアのこうしたいきなり発言は珍しくない。中二病だし仕方ないか、と謎の納得をしていた部分もあるが、それを差し引いてもこれは意図のわからない質問だ。
「何突然。新手の逆セクハラ?」
「ち、違いますよ! なんですか、この、変態!」
顔を真っ赤にして抗議するルーアだが、抗議したいのはこっちだ。セクハラ発言をされて困っているのはこっちだというのに、理不尽すぎる。
ルーアの基準がよくわからない。
「まったく……こほん。あのですね、タツは私がサキュバスだってこと、忘れてるんじゃありませんか?」
「……」
本題に入ったルーアの言葉を、達志はただただ黙って聞いていた。これは、話を黙って聞くという意味の沈黙ではなく……
「え、ルーアってサキュバスだっけ?」
言っている意味がわからない、という意味の沈黙だ。
「案の定の反応! いや、せめて覚えてるって取り繕わないだけになおひどい!」
返ってきた達志の言葉に、ルーアは怒ってみせる。ぷんぷんだ。ぷりぷりだ。
そこで、思い返す。言われてみれば、自己紹介された時にそのようなことを言っていた気がしないでもないが……正直今の今まですっかり忘れていた。
ごめんという気持ちが湧かないほどに清々しく。
サキュバスといったらあれだろう、なんかえろい悪魔。その程度の知識はあるが、自分がそうだと言うルーアを達志は信じていない。
だってそんな素振り全く見せなかったし、このロリボディでそんなこと言われても。
まあ、それはそれで需要あるのかもしれないが。
「まったくタツ! 人の人種を忘れるなんて何事……」
「え、ルーアってサキュバスでしたっけ?」
「え、ルアちんってサキュバスだっけ?」
「ぬがぁあああ!」
追い討ちをかけるかのようなクラスメートからの言葉。知り合って数日の達志はともかく、クラスメートにまで忘れられてるとは……
「おこなの、ルーア?」
「そりゃあそうですよ! 一体私をなんだと思ってるんですか!」
頭を押さえ、髪を掻きむしっている。おいおい、そんなに激しくすると髪が抜けてしまうぞ。プラスにハゲの属性まで付けてどうするんだ。
ルーアの叫びを聞いた、達志、リミ、ヘラクレスの見解は……
「「「頭の悪いロリっ子中二娘」」」
「ぬぁあああ! なんなんですか、三人で示し合わせたんですか!」
見事にハモった三人の見解に、ルーアの興奮は収まらない。自分が今までそのように見られていた事実に、ルーアは……
「な、なんてこと……クラスには私が『頭のいい謎のミステリアス美少女サキュバス』として認識されていると思ったのに……!」
床に膝をつき、うなだれる。どうやら本気でショックだったようだ。
その小さな体がさらに小さくなってしまった姿を見て、達志は慰めの言葉を……
「そんなん認識してる奴は一人もいねえよ。そもそも謎とミステリアスの意味が重複してる時点で頭悪いじゃねえか」
「そんな……!」
……かけるわけがなかった。追い討ちに次ぐ追い討ちによりもうルーアは涙目だ。
ちなみに四つん這いになっているため後ろにいる男子達がスカートの中、パンツを見ようとしてるが、それを教えてやるほど達志は優しくない。
ルーアが突然騒ぎ出したので、クラス中の視線はルーア、そしてその輪の中にいる達志達にも注がれている。
「なあルーア、みんな見てるしもう少し落ち着いて……」
「落ち着け!? 私の個性の一つを知らないと言われたんですよ!?」
どうにも聞く耳を持ってくれない。
正直ただの人間である達志にしてみればどうでもいいことなのだが、自分の個性ともいえるものを知らないと言われてルーアには何かしらのダメージがあったのだろう。
「おいどうした」
「めんどいのが来ちゃった」
騒ぎを聞き付け、現れるマルクス。堅物だけに面倒そうであるが、それがまた口に出てしまっていた。
それを聞いてマルクスは、異論を唱えようと口を開く。
「マルー! マルは私のことわかってくれますよね!?」
「うおう!?」
だがそれは、飛びかかるルーアにより防がれる。いくらロリボディとはいえ、油断していたところにいきなりタックルされてはたまらない。
「な、何を……」
「マル! 私が何か、わかりますか!?」
もう喋ることさえ許さないルーアの圧に押されたのか、あのマルクスが押し黙る。正直質問の仕方もどうかと思うのだが、ここは見物だと思うのでおとなしく見物していよう。
マルクスは頭いいし、質問の意図を汲み取れるかもしれない。なのでちょっと期待しておこう。
「何って……高校生の皮を被った小学生じゃないのか?」
「ぬぉおおおお!」
……ダメだった。期待していた分、がっかり度が高い。
「ひどいなマルちゃん、せめて中学生と言ってやれよ」
「誰がマルちゃんだ。それとひどいのは貴様もだろ」
どちらもひどいが、優等生であるマルクスにまでそんな認識だったのがよほどショックだったらしい。再び膝をつき、「ぐぅううう……!」と唸りながら床を叩いている。
時折「あんちくしょーめ」といった恨み声も。
その姿を見てしまうと、さすがにいたたまれない。だから……
「まあ、サキュバス云々についてはスマンと思ってる、ちょっとだけ。これからはロリのサキュバス、略してロリキュバスと呼ぶよ」
「呼ばんでいいですし、中学生についてはスマンと思わないんですね。……ちょっとって、どれくらいですか」
ひとまず謝る。が、最後にくっつけた余計な一言がやっぱり余計だったらしい。
納得するわけもないルーア。涙目で不機嫌な彼女にどう説明すべきか……少しだけ考えて、言った。
「ルーアの胸くらい?」
「…………」
てへっ、と舌を出した達志の言葉に、場が凍った。
凍ったといってもこの会話を聞いていた者達の間でだけで、ルーアの奇行を受け流すことができるほどに慣れている者達はまだ騒がしいためクラスは静寂に包まれてはいない。
だが達志達には、周りの声など聞こえていなかった。
「……我が胸の内にある漆黒の怒りよ、この男に制裁を与えたまえ……」
「詠唱やめろ! 俺が悪かったから!」
これに関しては達志も、やっちまったと思ったため素直に謝る。こんな場所であんな魔法をぶっ放されてはたまったものではない。
「……はぁ。まったく……でしたら、提案があります!」
「提案?」
呆れなのか疲れたのか、ため息を漏らすとともにひとまず落ち着いたらしいルーアは、倒れていた椅子を立て直して腰を下ろす。それから、提案があると達志を見つめて……
「今日、私の家に来て下さい!」
「どうしてそうなった」
……またも唐突に、なんの脈略もないような言葉を告げた。




