激動の一日
結論からいうと、魔物はマズいことはなかった。むしろ美味しかった。
丸焼きの方が素材の旨味がそのまま出るんだとかなんとか言っていたが、そんなのはどうでもよかった。むしろ聞きたくない情報を次々聞かされた。
食べる際、アレが魔物じゃないと必死に考えることで達志はなんとか意識を保っていた。だが意識を魔物から別のところにそらしても、アレを食べたという事実は変わらない。
マズくなかった。むしろ美味しかった。……が、アレを食べたことで何か大切なものを失ってしまったような気がする。
「ただいまー」
部活見学に行ったはずか副部長と試合、最中に紛れ込んだ魔物を撃退しそれを食して今、自宅に帰ってきたのだ。今日学校から起こった出来事を通して、どっと疲れてしまった。
「おかえり! ……あぁ、なんて素敵なのかしら」
玄関で靴を脱いでいる達志に駆け寄って来るのは、母みなえだ。エプロンをつけていることから、何か作っていたのだろうか正直、あまり腹は減ってないが。
みなえは達志を出迎え、何かに感激している。
「どしたの母さん」
「あぁ、ごめんね。いや、ね……こうして達志と、ただいまおかえりのやり取りができるのが嬉しくて」
感激しているみなえに疑問をぶつけた達志だが、それは野暮だったと後悔した。
達志にとってはつい最近のことでも、みなえは十年間、息子と話すことができなかったのだ。当然、おかえりとただいまのやり取りなんかもできるはずもない。
だからこうして、息子と、達志と何気ない会話ができるのが嬉しいのだ。
「……これからは、毎日言ってよ。俺も、毎日言うから」
恥ずかしいよりも、何気ないやり取りで母さんが喜んでくれるなら……と、達志はこれから、毎日何気ないやり取りを続けていこうと決意する。それが、自分も嬉しいから。
「えぇ。……あら、リミちゃんは一緒じゃないの?」
なんだか恥ずかしいことを言ってるなと思っていたが、後ろを覗き込んでくるみなえの質問に達志は顔の熱を冷ます。みなえの言うように、リミは一緒にはいない。
「あぁ。なんか、調理部の先輩に魔物の新しいレシピを聞きに行った」
「へぇー、勉強ねっし……魔物? レシピ?」
リビングへと向かうと、そこにはいい匂いが充満していた。やはり何か作っていたのだろう、なんともおいしそうな匂いだ。
とはいえ、今から作るなんて、すぐ食べるわけでもないのに冷めてしまっては味が落ちるし少し気合いが入り過ぎでは? そう、思ったが……
「せっかくの達志の復学祝いなんだもの、腕によりをかけないと。それに今作ってるのは、時間が経っても冷めにくい料理で、むしろ時間が経つほど美味しくなるのよ」
とのことらしい。なんだか不思議な料理に思えるが、達志にはよくわからない。
「復学祝い、か」
「えぇ。どう? 友達できた? ……って、まだ一日目だもんね」
「……そうか、まだ一日目なのか……」
できる限り頭から離していたが、今日は、復学初日なのだ。
大きく変わった世界の学校に通い始めた初日。
幼なじみがクラスの副担任になってて、個性的すぎるクラスメートに囲まれ、いろんな魔法を見て、変なトサカがテロを仕掛けてきて、部活見学に行って、試合して、魔物を目撃して、食べて……
「……いやいや、今日が特別なだけだろ、うん」
濃すぎる一日だったが、今日が特別なだけだったのだろう。そう信じたい。でないと身が持たない。
まあ、いい土産話になった。母も、いろいろ話を聞きたそうだ。ひとまず、先ほどの、友達できた?に答えるとしよう。
「友達……って答えるにはまだお互いのことを知らなさすぎるけど、いろいろ話す奴ならできたよ」
「まあ、そうなの? どんな子?」
息子の友達(仮)に、母は興味津々だ。どんな子か……答えるのは難しい。なにせ、一人一人が個性的すぎるのだ。とりあえず、名前だけでも答えておこう。
「一番話しかけてくれるのは……ヘラクラス、って奴」
「あら、カッコイイ名前ね。カブトムシのお友達?」
……当然、こうなる。こうなるよな。ヘラクラスと聞いて連想するのはカブトムシだ。いったい誰が、ヘラクラスからスライムを連想するだろうか。
「他には……ちょいちょい突っ掛かってくる、マルちゃんかな」
「あらあら、ラーメンでも作りそうな名前ね。女の子?」
……名前というか、あだ名(本人は認めていない)を言ってしまった。そりゃこのあだ名なら、女の子と思ってしまうだろう。
「ま、他にも……」
他にも今日話したクラスメートのことや、濃かった一日の出来事を思い出し……それを語る。騒がしくも、楽しかった一日を。
それはリミが帰ってきて、セニリアとの四人で晩御飯を食べている間も続いた。達志の学校での出来事による話で、食卓は終始盛り上がった。




