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幕間 麒麟・ユニコーン・爆乳黒ギャル

えっち注意報!

本編は卑猥な表現をそれはもうたぶんに含みます。

苦手な方は飛ばして6話を待っていただければと思います。

ストーリーラインに影響はありません。

 水が多重の線を描いて落ちてゆく。

 その軌道は褐色の肌に弾かれ、霧散する。


 脇下から伸びる二乗の曲線は、鎖骨から伸びたもう一つの曲線と肋骨から離れて少し上向きに収束する。

 浴室の照明は滑らかな表面に丸みを強調するようにハイライトをいれる。


 彼女――剛月丹 ナヨ にとって至福の時間。

 シャワーを浴びれば肌にこべり付いた俗世の醜悪な欲望、目線、思惑。すべてが流れ落ちるように感じる。


 水を含んで重さのある栗色の長髪を払えば、不安も、自己嫌悪も、意に介さない未来さえも排水溝へいざなわれて行く。


 本来、人間は水辺の生き物なんじゃないかな?

 なんて思うほどに心地いい。


 素敵な時間は一瞬。だからいい。

 そう納得させて体を乾かし、全身に素早く美容液を塗りこみ、浴室を出る。


 ビビットなピンクのクッションにどっかりと胡坐を描いた彼女は、おもむろに脇にある一升瓶の首をつかみ、片手で軽々と口部を口に当てる。


 魔道王―その芋焼酎は口に含めば強烈な薩摩芋の芳香が鼻孔を貫き、42度という酒精が喉を、食道を、胃を焼く。


「ップフゥゥウッ!」


 一口飲んで、息を吹けば、部屋に香ばしくも柔らかい芋の香りが充満する。


「よしッ」


 丁寧に髪を乾かせば、髪がしなやかになびく。

 後ろに束ねれば、耳のスタッドピアスと勝気奈剃り込みが垣間見える。

 ベースクリームを全体に塗り、浅黒いファンデーションをまとわせる。

つけまつげは、目の外枠を大きく外し、目じりのふくらみを強調させる。

 アイシャドウを重ね、チークを気持ち程度。目尻には朱を入れる。


 もう幾度となく繰り返した作業。だが一切の妥協は無い。


 最後にドウランを鼻筋と目頭に乗せる。


 顕現する。

 誰もがその存在を信じているが、その誰も存在を確認したことがない。


伝説の生物――


――黒ギャル。


 遠い昔に唐突に現れ、栄華を誇った黒ギャルという部族は、僅かな期間で時代の狭間に消えた。

と、されている。


 日本古来の妖怪の一種と認識している人もいるが、鮮烈な姿は人々の脳裏に焼きつき、色褪せない。


 薫陶を受けてに追随する者は今もなお存在し、細々と文化を繋いできた。


 己の信じたカワイイを体現すべく、大枚叩いて装備を整える。

 今の時代、消費型化粧品は高級品。

 それは供給が極端に少なく、恒久メイクアセットが一般的だから。


 だが、歴史ある黒ギャルを踏襲するならアセットなんて使わない。

 暗黙の戒律。

 その真意は、常にカワイイを追求すること。

 日々試行錯誤を繰り返し、昨日の自分を超えてゆくためには、固定化されたメイクなど邪魔でしか無い。


 カワイイの求道者。

 誰になんと思われようと、どれだけ苦悩しようと、果ての無い理想へ手を伸ばす。

 承認するのは自分だけでいい。わき目も振らずに、ただ真直ぐと。


 今は昔、黒ギャルの尊師というもの有けり。渋谷の喧騒にまじりて踊りつつ、ガラケーをよろづの事に使いけり。名をば、瑠璃道山みくちよとなむいひける。

 みくちよ曰く、

「己の欲するところ、人が欲せざるともそれを誇れ。」


 これを読んだ12歳。稲妻が落ちた気がした。

 中等論理学校でAI黎明期の文化を調べていて見つけた文献を見た瞬間。

 私の進むべき道は決まった。そう確信した。天命だと。


 成長期の体の変化に困惑し、桃色教育になんとも言えない気持ち悪さと疎外感を感じ、結局何者でもないと落胆した。

 その沈んだ胸に、黒ギャルの凛々しく気高い、心の孤高さが染み渡った。

 世界に対する淡く根深い不快感を示し続けた顔は、恍惚の表情を浮かべ、どうせ意味ないと思っていた高等選抜学校への進学を決めた。


 ちゃんとした化粧品には手が届かないが、やれることはすべてやった。

 教えだか何だか知らないが、一汁一菜なんて養分が足りない。食事を変え、時に栄養カートリッジを使い、走り込みと遠泳の運動によるボディメイク。そしてひたすらに豆乳を飲みまくった。

 太陽が出た日には全裸で日光を浴びた。


「どうした?何があった??」と兄と慕う同居人に心配されようとも曲げない。


 世界が変わった。

 いや、自分を変えた。

 この世界は素晴らしい。


 気が付けば自他共に認める黒ギャルであった。


 そして、体はすくすくと大きに成り増さる。

 その姿は朱雀、鳳凰に並び立つ。


 神獣――爆乳黒ギャル


 そんな彼女は、ぴっちりとしたタイトスカートとジャケットに身を包み、戦準備を整えた。


「今日のあーしも、どちゃくそカワイイ」

 鏡の前で確認しているとタクシーが到着した通知が入る。

 小さいクラッチバックを持って、今日の会議室へ向かう。


 車内では2000年代のdub stepを聞く。UK garageと行ったり来たりしているが今日はワブルベースの震える波の間に沈みたい。


 何せ今日の商談は独立地帯への予備電源用リニアローター蓄電装置、通称「ぐるぐる君」の押し売り。

 勝てば設営のために何処か遠く南の人工島のいずれかに飛ぶ事になるだろう。

 日焼けできる南国への渡航は好ましくない事もないが、面倒というのが先立つ。

 だからといってメンツにかけて負けるわけにも行かない。


 深く、深く、重低音が頭蓋を揺さぶる。

 単調な電子音を重ねた隙間が沈む意識を辛うじて水面に引き留める。


 やっぱ、正解。


 ふと脳の皺の奥底から昔のギャル仲間との会話が浮き上がる。

「ナヨッピみたいなオールドスクールな黒ギャルならユーロビートでパラパラっしょ?」


「あーしのギャルをお前が決めるな。無礼超えてブレイクコア、爆速BPMでファッキンアーメン踊っとけ。」


 ふざけるなと、当時は憤慨したが、今となってはわざわざ型にハマりに行くのも面白いかもしれない、なんて余裕がある。


 思い出に浸っていると目的のビルへと到着する。


 強い日差しに虹彩のカム機構は瞬時に露光を絞る。

 外は少し発酵したような匂いが漂う。

 壁の代謝物を洗い流す、定期散水でもあったのだろう。


 気持ちのいい陽気。すぐにでも服を脱ぎ捨て日光を浴びたい。


 気持ちが浮つき過ぎているかもしれない。

 正直、今回の商談には気合が入らない。


 相手がイケメンならまだしも、退屈おっさん。ナイスミドルでも無い。


 ニューロキャストが絶えず脳へダブステップを流し続ける。


 軽快な足が控室へ向かうが、時間はすでに5分前。一息つく暇は無い。もとよりそんな気も無い。


 置いたバッグからリップグロスを取り出す。

 ラメ入りのめちゃプルいアプリコット。


「うしっ、かますか」


 グロスを丁寧に乗せ、唇を軽く破裂させる。

 AIコンシェルジュは的確なDJをこなし、音楽はビルドアップを迎える。

 近所のおばあちゃんがよく歌ってたダブステップ。


 拍はしだいに短く早くなり、ライザーエフェクトがあばらを押し上げる。


 扉に手をかけ、気道に空気を流す。


「…Bonfire」


 ブレイク。その一瞬、静寂がすべてを包む

 小さなつぶやきは、猛烈な熱を持っていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~



 今日の商談を思うとトキメキが止まらない。

 対戦インビがきた時は絶賛賢者タイムだったが相手のプロフィールを見た瞬間猛り散らした。


 ギャル。それも黒。

 激レア。未確認。


 ぜひ桃色遊戯に誘いたい。どうしても。

 貢献ポイントをいくらか融通しても良い。

 無条件で商談を通しても良い。


 売り込みに来るぐるぐる君は、常温超伝導シャフトで支えたオモリを真空内で回転させ電気を運動エネルギーとして保存する蓄電設備で低コストで長期的に損失が少ないことから優秀だか、強力なジャイロ効果と事故発生時の周辺被害から設置場所は制限される。

 別にわざわざ選ぶものではない。


 そもそも蓄電設備なんてどうせ使わないからどうでもいい。


 ただ。とにかくヤりたい。


 はっきり言おう。桃色遊戯が好きでしょうがない。

 数世紀前の男女対立の時代を知れば、今はまさに桃源郷。


 人々の関係は次第にプラトニックで表面的なものへと変化した過去の人類は、協調性など等に忘れて自らのルールを絶対として、極度な潔癖症となった。

 それは、病理学的にも精神的にも。

 見たいものだけ見て、聞きたいことだけを聞いた。

 その結果極端な思想に浸り、その輪を広げてゆく。

 男女という相容れない区別はやがて、明確な旗印となり、おかしな抗争を始めるまでに至った。

 人口は大暴落。社会制度は根底から破綻した。


 そして新生児工場を作るきっかけになった。


 社会的動物と呼ばれた人間がその社会性を捨てるという愚かすぎる結果なった。


 全ての人間がプラスチックバッグからまれてくる現代では生殖など必要ない。

 だがイルカやボノボなど高度な知性を持った動物は娯楽として交尾を行う。

 そしてその幸福度のコスパと手軽さは群を抜いている。

 コミュニケーションの手段として非常に有効なのだ。


 生殖が不要となり、生まれた時点で生理も精通も排除され、感染症のリスクも無い現代において、戦略AIスサノオが人身管理のためにこの手段を使わないわけがない。


 最終脊髄インプラントへの交換が完了した中等論理学校で桃色教育が開始され、一般的な一つの娯楽と社交の手段して確立されている。


 ビバ、スサノオ。最高だ。たまらねえぜ。


 この世に生まれたならば、いろんな女を抱きたい。

 願わくば全タイプコンプ。これしかない。


 楽しみすぎて3時間も前に控室に来てしまった。

 もう貧乏ゆすりで膝の浮いた回数分米粒を貰えるならば、丼100杯はくだらないだろう。

 百度の飯より桃色遊戯。そもそも飯など久しく食ってない。

 食事など排泄が増えるだけの野蛮な行為だ。きもい。

 桃色遊戯こそ神に許された崇高な喜びなのだ。


「ドンッタタタツンドン ドンドンタン」


 待ちに待ったアラーム音が脳内を響きわたる。

 その昔、大勢の男を救ったドラムのビートは、聞くだけでオーガズムに達しそうだ。


 いち早く確認したい。所作など関係ない。

 早く。早く。


 扉を蹴破り、廊下の向こうを眺めるがまだ見えない。


 早く。早く。

 ドアノブが下がる。


 早く。

 扉が開く。


 早くしてくれ。頼む。


 ドアから突き出された引き締まった足は艶やかに光を反射し、浅黒い肌が見える。

 象牙や珊瑚のような有機的な宝物。

 家に、飾りたい。


 猟奇的な妄想が膨らみそうになるのをグッと抑えていれば。

 全身が見えた。


 でっか。なっが。

 タッパは1800はあろうか。

 股下は全身の半分を超えている。

 そして。おぉおおぉおおおぱ、おおっぱい。

 引き締まったウエストで協調されるバストはあまりにも暴力的。


 黒ギャル。黒ギャル。


 お目にかかれるとは。

 ただただ興奮する。

 性欲からくる激情だけではない。

 未確認を確認した。虫取り少年の心持ち。


 ビックフットやネッシーを見つけたような、ただならぬ興奮。


 辛抱たまらん。

 呼吸は荒く。血が沸き立つ。


 歩速など知らない。

 ズカズカと突き進む。

 目指すは黒ギャル。女。女。


 近づくほどに心が惹きつけられる。

 既に目は釘付け。瞬きさえも許されない。


 異変。

 目の奥のフォトダイオードが焦げるような感覚に襲われる。むしろその姿を焦げ付かせたい。

 心臓が暴れている。なんだ。なんなんだ。

 これが一目惚れというやつなのか?


 足が止まった。

 視界の端に矯正鎮静化実行の脊椎インプラントの通知。


 既に会議室の扉の前。これより先は禁足地。

 もどかしい。厭わしい。


 わずかに冷静さを取り戻した脳は命令を下す。

 ここで迎え撃つ。


 右足を半歩引いて両肘は120度。

 柔硬系の基本の構え。


 俺だって第二次子会社いずみ組の実力者。

 正面から叩きのめして要求を通す。


 全身の筋肉を確かめるように力を入れる。

 熱が太い筋繊維の内側ら溢れてくる。


 細い柱をわたるように、コツコツと踵の低いパンプスが交互に一列に並ぶ。

 歪みないリズムを刻む歩みの裏打ちで遅れた胸が弾む。


 近づいてるほどに心臓がまた早まる。

 目はとうに乾ききっている。

 だが、決して写すのをやめない。


 異質。


 なんで。

 なんでこんなにも目を引くんだろう。


 黒ギャルはいた。爆乳もいる。

 だが爆乳黒ギャルは存在しない。

 なぜか。


 爆乳はすでに完成されているからだ。

 圧倒的な双璧は容易に理性を吹き飛ばし、どんな悪漢をも原初のサルへと還す。

 生まれながらの絶対的強者。

 古来より縦横無尽に暴れまわり、目にするものの心情を破壊しつくす暴君。


 それはまさに白亜紀の王――ティラノサウルス。


 頂きを統べる王が、どうして理想を掲げて手を伸ばそう?

 すでに達しているのに。


 ゆえに爆乳は黒ギャルになり得ない。

 唯一、爆乳へ遂げる前に黒ギャルになる道があるが、この徹底された教育で生まれる可能性は万に一つもあり得ない。


 人々は、夢を見た。

 太陽を目指して孤高に飛ぶ最強の古代生物。

 黒き翼を携えた、ティラノサウルス。

 そんなのはあり得ないと分かっている。

 ギャル文化は海外までも広がっているが、世界中どこを探しても見つからなかった。

 存在しない分かっているが、人々の最強を見たいという衝動はいつしか信仰じみた感情へ変わり、神話の生き物へ昇格させた。


 今、俺は神話の1ページを見ているのかも知れない。


 神代の生物が降臨してくださった。

 麒麟。ユニコーン。シルフ。アプサラ。フェニックス。九尾。

 それらと並ぶ、爆乳黒ギャル。


 既に目の前に迫る神獣へ極挨を放つべく、キツく厚く収縮した筋肉を緩める。

 脱力からのインパクト。


 スポーツでも武道でも瞬間的な力が最も強い。


 間合い。

 音速を超えるお辞儀。


 脳が揺れる。

 ソニックムーブが服をたなびかせる。





「ヤらせてくれッッッ!!!!!」




 …

 ……ミスった。






 恐る恐る顔を見れば、うっすらと微笑んでいる

 慈母の慈しみか、あるいは肉食獣の嘲りか。判別できない。

 ただコツコツと。

 距離が縮まる。


 コツッ。


「どーも。こんにちは。」


 揃た踵から伸びる細い足は、上になるほど逞しく。

 頭頂と地面を結ぶ垂直な直線を纏う官能的な曲線。

 ろくろ陶芸作品の一輪挿し。

 あまりに美しい。


 なめらかな加速。

 頭部が降下した。

 安心感のある尾骶骨を支点とした完璧な円。


 35度。

 ひたと止まる。

 ずっと前からその姿勢だったかのように。

 だが惰性は動作があったことを悠然と示す。


 乳。


 大きく撓んで柔らかさを見せびらかして見るものを嘲笑う。

 重力は恋焦がれて手を伸ばす。

 強引に惹かれて一度だけ弾んだ。


 左右へも、前後へも、微塵もなびかない。

 それはブレのない完璧なお辞儀がなした荒業。


 たった一度の撓みは、水面に落ちた一粒の雫のように波紋を広げる。


 静かに心がゆらめく。

 あたたかい。冷たい。

 世界がキラキラと眩しく見える。


 ああ、心安らかなり。


 乳こそ世界で最も尊い物質だ。

 心も脳も全てが肯定してる。


 乳。ああ乳よ。

 俺はお前が好きだ。お前の美しい姿に夢中なのだ。


 ありがとう。ありがとう。

 既に完成されたあなたには必要ないだろうが花を送りたい。

 白く包み込むような大きな花弁の百合を一輪。

 その有機的な美しさの花瓶に添えさせていただけないだろうか。


 どうか矮小な私めに意識をほんの一瞬でもむけてくれるなら、それは極上至極の喜びでありましょう。

 ただ見つ続けられれば、どんな困難も乗り越えて見せましょう。


「はぁ」


 吐息が漏れる。

 うっとりと顔が崩れるのが止められない

 続くことばを待つ。

 それしかできない。


「キッッッッッッッッッショッッッッッッッッ!!!!!」

「うせろッ!!雑魚オスがッ!!」


 光を放つ鋭い眼光がこちらを捉えている。


「ああ、ありがとうございます。」

 ただ、感謝の念だけが心を掌握した。

お目汚し失礼いたしました。

なんとも、数年後に読み返して奇声を上げて転げ回りそうな文章ですね。


お分かりかと思いますがこの話の世界には基本バカしかいません。

それは後々説明します。

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