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極挨覇道 挨拶侍  作者: 石鹸ソイソース
第1章 社内の人にこんにちは

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19/28

第16話 料理は一番美味い状態で提供される

近未来のタグをつけていましたが、全く近ではないように思えますので外します。すみませんでした。

『極東!魅惑の海!全く新しいイーストウェークベース!』


 巨大シイラが泳ぎ回るド派手な広告に包まれた、青いビル。

 ホンオフェスタ本社ビルに入ると、少しのラグを経て目が明るさに順応する。


 今日の会場は、このビルで最も大きい会議室。

 内輪で”コロシアム”と呼んでいる大会議室はワンフロアを丸々占領している。


 乗り込むと感慨にふける間もなくエレベーターが56階の到着を告げる。

 扉が開くと目の前には一面の白い液晶ガラス。

 会議室の扉はそこにはない。

 入口があるのは向こう側。


 ぐるりと会議室を囲む廊下を通って、会議室正面の大路へ向かう。

 透明度の高いガラス張りの外壁の向こうには、色鮮やかで派手だが、どこか鬱蒼としたビルの森が広がっている。


 反対側の白いガラスの向こうからは人の話し声。

 まだかなり早いというのに炭酸水のように弾ける音が無数の人間の存在を示している。

 知っている声も多いが、知らない方が多そうだ。


 そもそも知っている人間なんてそう多くない。

 せいぜい同僚か、入社時に挨拶した役員くらいだ。

 今日来ているだろう、広報部とか総務も物流部門も同じ会社であっても見た事すらない。

 外部の人間が来ていても、内部の人間と判断すら難しいだろう。


 お偉方もくるだろうが、何人見ていようがどうでも良い。

 配信され賭けの対象にされようが、あまつさえ自分のオッズが跳ね上がっていようが関係ない。


 今日対峙しなければいけないのは、大艦。

 見るべき相手は、たった一人。


 角を曲がると控え室の壁が見えた。

 長く深い呼吸、体幹を意識して、体の具合いを確かめながら歩く。

 悪くない。いつも通り。


 ギロリとこちらに向く巨大な目玉。


 回遊してるシイラの瞳の向こうに、写るはずの俺の姿は無い。

 処理低減グラフィックだからだろう。

 どこまでも黒く、空虚。

 シイラは、何かに興味を示すわけでもなく、決められたルートをひたすら進む。

 目指す場所がない行き先には幸福な終着点なんぞ無いはずなのに、その雄大な出で立ちに気圧されそうになる。

 

 体色の緑と黄色のグラデーションにちりばめられた青い斑点が流星のように通り過ぎてゆく。

 自分の歩みが何倍にも早く感じられる。後ろへ流れてゆく景色がそんな錯覚を押し付けてくる。

 あまのじゃくな頭には疑問が浮かぶ。

 自分は進んでおらず、自分を囲むすべてが進んでいるように思わせているだけではないかと。

 この歩みにかかわらず、すべてのことが人生が、前に進んでいるのかと。


 尾びれが抜けてからやっと、立ち止まっていた気が付く。


 バカなことを考えた。

 緊張からかセンチになっているのかもしれない。


 シイラが来た方向には控え室のドア。

 フロアの長方形の角を切り取ったような三角の部屋。


 ドアの前に立てば、横には幅20mを超える広い廊下。

 遠く、奥の控え室には既に彼は来ているのだろうか。

 白色のガラスの向こうには、どれだけの人が来ているのだろう。

 考えると、ゾクゾクと腹の底がせり上がるが、同時に五臓六腑が冷えて縮こまった形状が分かるような気がする。


 会議室から良く見えるよう作られた外開きのドアを開くと、意外に広い部屋にポニーテールが揺れていた。


「おはようございます。なんでここに居るんですか?張先輩」


 流れるような赤のアッシュの髪を揺らして振り返ったのは、教育係だった先輩――張 湯覇


「やあやあ。やっと来たかい。待ってたよー。一人じゃ寂しくてね。」

 ぴっちりと閉まったボタンの無いこげ茶色の詰襟には斜めの皺が寄る。

 ひり返った先輩はにこやかだが、細い目からは考えがどうにも読めない。


「早く座りたまえよ。立ち合い前に無駄な体力を使うもんじゃない。ささ、どうぞどうぞ。」


 あたかもこの部屋のホストみたいな対応をしているが、なんなんだろうか。

 その言動もさることながら、そもそもここに居るのも意味が分からない。


「ああ、はいどうも。それじゃ失礼して。で。」


「で、なんでここに居るんだ?って聞きたいんだろ?」

「そりゃ、ここに居た方が面白いからだよ。」


 質問をかぶせられた上に、その解答も全く自分が求めているものではない。

 からかっているのだろうか。


「最初はね。大艦先輩の陣に行ったんだけどね。結構人いたし、みんないかに大艦先輩がすごいかのよいしょ話ばっかりで面白くないし。あといくらかけたか自慢ね。うんざりだよ。敵情視察の結果を教育係としてしっかり教えてあげようと思って。」


「はあ。そりゃどうも」


「もっと嬉しそうにした方がかわいげがあって良いと思うけどな。僕は」

「昨日ラーメンをおごった自由市民の少年なんて、何だこれ何だこれって言いながらもりもり食べて、本当に好感がもてた。末ちゃんも若いんだ。ミココ先輩見習って愛嬌ってものを覚えるのも良いと思うけどな。僕は」


 何だよ。わざわざ高説垂れに来たのか。

 とりあえず一息ついて、茶が飲みたい。

 急須にお湯を注ぎながら返答する。


「そうですね。今日の一戦には思い入れがありまして。どうにも硬くなってたようです。すみません。」


「そういう素直な所は、家系のほうれん草くらい好きだよ。あれがあることでなんだか健康的で良いものを食べてる気分になれる。コミュニケーションも健全であるほどいいからね」


 隙あらばラーメン話。久々に会った気がするが、旨味ジャンキー加減は衰えないようだ。


「よくわかりませんが、それはどうも。家系は飽きたって前におっしゃっていませんでしたか?」


「好き嫌いには波があるんだよ。確かに前は飽きたけど、最近戻りつつある。僕は大艦の女児好きみたいに一途じゃないからね。」

「昨日だって見ちゃったんだ。」


「ほう、何を?」


「昨日自然公園で女子学生に手を出そうとしているところだよ。」


「ほう。」


 正直言えば下世話なニュースは嫌いじゃない。

 とても身近で想像しやすいからだろうか。

 だが身近なゴシップを鵜呑みにしない節操は持ち合わせている。


「僕が歩ってたら女の子が走ってきたんだ。すごい形相をしてね。でね、その奥を見たら大艦がいた。あれはナンパして逃げられたと見るね。僕は」


 ケラケラと笑う張先輩はバカにしているのだろうが、自分はなんだか嬉しくなった。

 親しみを覚えてきたが堅物だと思っていた大艦課長補佐がなんだかとても人間らしくて微笑ましく思えたのだ。


「ずいぶんといいタイミングでしたね。それにしても相変わらずの嫌いっぷりですね」


「そうさ、いつだって嫌いさ。忘れもしない。あの研修の事件。僕の貴重な一杯を奪ったあの男は絶対に許せない。」

 きつく縛っているはずの髪が逆立っただったように見えた。

 一瞬床が抜けたのではないかと思えるほどの重圧は錯覚ではない。


「外回り連れまわし事件ですよね。もう百回くらい聞きました。」


「十一万二千三百二十回。人生120年で自由に食えるラーメンの数。その貴重な一回を奪った奴を許せるわけないだろう。何度だって呪詛を垂れ流す。忘れてはいけないからね。」


 空気が重い。

 冷や汗が出そうな雰囲気のなか、いまだ居座る先輩を少し突いてみることにした。

 まだ立ち合いまでの時間はある。


「前にも言ったかも知れませんが、逃した分食べれば良かったじゃないですか」


 開き切った瞳孔がこちらを捉えた。

 その眼には確かに自分が写っている。


「空腹。それが最高に美味く感じるタイミングだろうよ。」


 ビクリと肩が跳ねる。

 感じたのは殺意。


 でも、待て。

 なんで立ち合いを控えた自分の部屋でそんな目を向けられなければならないのか。

 確かに藪を突いたのは自分だが、敵意を向けるのはよしてくれ。

 出来心が招いた、反射的な後悔。

 実にバカバカしい。

 付き合う体力が惜しい。今日はやめておくべきだ。


「そうですね。失念してました。すみません。」

「それで逃したラーメンは特別だったんですか。」


 やるせない。

 先輩である以上追い出せない。

 仕方がないから話を逸らすつもりで言ってみたが、ラーメン談義を続けさせることになるだろう。

 案の定、表情が一挙に柔らかく変化した。

 何なんだこの人は。マジで。


「そうだね。特別さ。燕三条ラーメン。知ってるかい?。しょうゆベースに下品なほど大粒の背油を乗せたラーメン。イーストウェークベースの特殊ルートを使ってやっと手に入れたんだ。ホンモノの豚の背油を。それをあの男は。僕のラーメンスケジュールを乱しやがって。外道だよ。彼は。」


「ナチュラル産ならさぞ入手は大変だったでしょうね。それにしても燕三条って日本ですか?」


 イーストウェークベースにはドールライドでは行けないエリアが多い。むしろ行けるところの方が少ないくらいだ。

 軍事施設や、プラント区画はもちろん入れない。

 そんな中、限られた特権階級のみが知る、ナチュラルを相手に物品交換できる場所がある。

 ここは生身でしか行くことを許されていない。膨大な交通費とリスクを負うことになる。

 それでも問題をクリアできる超高所得者から人気は絶大だ。

 普通では入手できない品々。ホンモノの肉や乳。規制薬物に旧時代の掘り出し物。

 お使い依頼だってかなりのポイントが必要だ。


「そうだよ。日本人なのに知らないのかい?新潟さ。寒いからエネルギー源が必要だったんだろうね。」


「新潟ですか。私も新潟の米は大好きです。ラーメンは知りませんが米はもちろん酒も美味い。」


「そうだろう。第二次世界大戦以降の爆発的なラーメンの普及とともに生まれた土着的な風土がプラスされた深みは何物にも代えがたいんだよね。末ちゃんも米しか食べないなら米粉ラーメンだってあるから試すべきだよ。何事もとりあえず、まず試す。これが重要さ。ラーメンに限らずどんなことでもね。」


「確かにそうかもしれませんね。」


 なんだか含みのある物言いにモヤモヤする。

 このままで勝てるのかと、今もまだ胸の隅にクシャクシャに丸められた感情を突かれたような気がした。

 この先輩は柔らかい表情の裏でなにを考えているのだろう。

 愛好家界隈で”烈湯”と異名で呼ばれるほどラーメンにご心酔の先輩の細い目の向こうが分からない。


 こんなにも進歩して、何不自由なく暮らせて、見えないものまで見えるようになった世の中でも、他人の考えは一向に分からないのだから、人間は本当に前へ進めているのか分からなくなる。


 何かが心に積もってゆく。

 きっと綺麗なものでもなく、集めるべきものでもない。

 ふわりと降って、堆積して圧縮された何かは、じわじわと内壁を蝕む感覚。


 良い傾向では無い。

 立ち合い前に、こんなのはよくない。

 どうすべきか。頭の周りを疑問が周回し始めた。


「すべてを試していないのに、自分の一番はコレなんて言えないでしょ?僕はまだ食べたことないラーメンが五万とある。もっと多いかもしれないし、少ないかもしれない。でも、人生最高の一杯はこれから出会うもののはずだよ。僕はそう信じてる。僕はそのために生きている。人生の希望ってやつさ。」


「希望ですか…」


「希望は人生が劇的に美味くなるトッピング。ニンニクよりも強烈だよ。それさえ分かっていればほかに何もいらない。考えることすら必要ない。」


 幸せそうだ。

 頭蓋骨に花鰹でも詰まっているのではないだろうか。


「考えないなんてあまりにも短絡的では?」


「短絡的であることこそ重要なんだよ。」食い気味に答えた先輩はさらに続ける。

「見たところ末ちゃんは考え込みすぎな気がするよ。まだ起きていない未来の事なんか考えて悩む。自論だけどそれじゃあ人生は不味くなる。」


「より良い未来になるように悩むんです。それのなにがいけないのかさっぱり理解できないですね。」


「それで、”今”は楽しいのかい?」


「悩んで考えて、勝率が少しでも上がるなら今が苦しかろうとどうでもいいことじゃないですか。それにそれこそ、勝利という希望ではないですか。」


「はぁ。」

 先輩の溜息に眉をひそめざるを得ない。


「ダメだね負けるよそれじゃあ。今を楽しめない奴に良い未来は絶対に来ない。断言するよ。」


 なんかちょっと腹立ってきた。

 大一番を目の前にした人間に説教か。


「そうですか。では負ける所でも見て先輩は楽しんでください。」


「それじゃあ困るよ。だって僕は君の勝ちに6か月分のポイントを賭けている。君も僕からラーメンを奪うのかい?」


 もはや飽きれて言葉もない。

 どうして社会人は揃いもそろって、自分勝手な人間しかいないのだろうか。

 考えるのもばかばかしくなってきた。


「知りませんよそんなこと。負けるって断言した相手に賭けた先輩が悪いんじゃないですか。なんだってそんなこと。正気じゃない。」


「なんでって。その方が面白いからだよ。今がね。」

「末ちゃんは勘違いしているよ。希望はトッピングなんだ。メインディッシュじゃない。」


「はあ。」

 なに言ってんだろうこの人。


「トッピングはあった方が美味しいけど、無くたって美味しくなきゃいけない。」

「それでメインディッシュは未来でもなければ過去でも無い。今。この時この瞬間だよ。」

「未来ってのは積み重なった今の姿でしょ?だったらたとえどんなに良い未来の瞬間があったとしても、積層した今に不味い部分があっちゃいけない。楽しい今が積もり積もったのが良い未来だ。」

「だから僕は、先々のラーメンを棒に振っても今一番楽しい事をする。」


「結局なにが言いたいんですか?」


「今を楽しめって事だよ。」

「どんな思いで今日を迎えたのか知らないけど、この一戦を待ちわびていたなら、それを迎えた今を喜ぶべきだ。悩んでこねくり回して苦い顔をするもんじゃないよ。煮干し系は苦味もいいんだけどね。」


 回りくどいが、先輩なりに励ましてくれているらしい。


「私はこの戦いに勝たなきゃいけないんです。イーストウェークベースへ行かなきゃいけない。今回のポストを逃すわけにはいけないんです。絶対に。」

「そのために今できることはもう、勝てる算段を考えるしかない。悩みぬいた方法を実践できなければ計り知れない後悔に見舞われるのは目に見えている。」


「またそうやって、来てもいない未来を考えてる。そう言うのなんて言うか知ってるかい?杞憂って言うんだ。」

「人間は未来予知なんてできないし、予測だってあまりに不完全だから、はっきり言って無駄でしかないね。」


 さすがに暴論だ。

 この人は極端過ぎる。


「全部が全部、無駄って事はないでしょうに」


「いいや、無駄だよ無駄。全く無駄。だってこの期に及んで何か考えたところで、君の極挨は変わるのかい?変わらないだろうさ。変わったってほんの些細なものだろうよ。」

「むしろ害悪ですらある。土壇場で変えようって考えが意識を逸らして、いい方向に行くわけがない。断言するよ。」


 確かにそうかもしれない。

 いくらイメージトレーニングをしたところで、体が覚えていない動きには混乱が生じる。

 身になってない業は身を滅ぼす。


「でもさっき試すのが大事って言ってたじゃないですか」


「いいかい。よく聞いてくれよ。」

 ズズっと椅子から尻を半分浮かせて詰め寄ってくる。


「太古の昔から料理ってのは、料理人が一番美味いと思う状態で提供されるんだよ。ラーメンに限らずね。」


 今度は何の話だ?

 怪訝な顔をしていると張先輩は続ける。


「どうやって料理人は美味い料理を作ると思う?未来予知でこうすれば美味いって啓示を受けるかい?」


「そんな事はありえませんが、こうすれば美味しくなるだろうって未来予測はするでしょう?」


「確かにそうだね。でもそれは試作段階の話で本番じゃない。試すのは本番じゃないんだ。それに未来予測はどうやる?”この食材はこういう味だったからこれと合いそう。逆にあれとは合わないだろうなんて考える。いつだって”今”までの経験から予測する。決して未来からじゃないよ。」

「これは調理って物が生まれてからずっと変わらない。食材が増えて、調理方法も増えてどんどん料理が増えていく。機械が料理する今の時代だってそうさ。こうした方が受けがいいとかこの組み合わせが人気だとか。いつだって今までの結果から来てる。そうやって料理人が一番うまいと思えるものを提供してる。」


「でも、先輩はラーメンにトッピングをするし、コショウとか酢とかかける人もいるじゃないですか。それは料理人が一番うまいと思う状態とは違うのでは?」


「相変わらず末ちゃんは可愛げが無いよ。客が料理を変えるのは客の問題だよ。」

「もしこの人は酸っぱいのが好きだと分かっていれば、料理人はそれに合わせて調整して提供をしてる。ただ客の好みが分からないなら、自分が一番美味い状態で出すしかない。」


 眉尻を下げた先輩は、物分かりの悪い子供を相手にするみたいな目を向けてくる。

 ちょっと癪だが、言い返した自分が悪い。


「大艦との真っ向勝負は初めてなのに、末ちゃんは大艦の好みを知っているのかい?」


「いいえ」


「だったら自分のシグネチャーメニューを出す以外、選択肢は無いと思うけどね。僕は」


 やっと言いたいことが分かった。

 ようは、今更小手先の変更をしたところで諸刃の剣でカスだから、今までのスタイルを突き通せって事だ。


 癪だが妙に納得してしまった。

 大艦をちょっと調べて知った気になって、うじうじと勝てないかもなんてつまらない考えは無駄でしか無い。

 しかも、それは自分の業を信用していないことに他ならない。

 永外師匠にも言われたばかりじゃないか。これではまた特大巻き糞を貰ってしまう。


「そうですね。その通りです。立ち合い前に気付かせていただきありがとうございます。」


 言うべきことはまだある。

 先輩の態度と長話から苛立って、不遜な態度をとってしまった。

 好意を無下にした、自分の幼さが情けない。

 他人へ敬意だって、師匠に言われただろうに。


「あ、あと、さっきはご厚意に対して口答えするような態度をしてしまってすみませんでした。」


 食んだ下唇が震える。

 社交辞令では無く、本心から謝りたいと思ったのは一体いつぶりだっただろう。


「いいさ、反骨精神があるのはいいことだよ。豚骨ベースだじゃ面白くない。」

「しおらしくならないでおくれよ。塩味も悪くないけど、今はパンチが必要だからね」


 何言ってんだか分からないし、申し訳ないがやかましい。

 でも、気が晴れた。

 それは素直に感謝したい。


「ふう。任せてください。顔面に叩き込んできますよ。」


「おっし、面白くなってきた。大艦をぶちのめして来たら、高山まぜそばをご馳走しよう。現状世界一美味い。それで僕は儲けたポイントでフカヒレラーメンを食べる。」


「楽しみにしています。でもフカヒレって入手困難な割にそこまででもないって聞きますが」


「可愛げないこと言うなあ。何事も物は試しだよ。それが大事なのさ。」


 またやってしまった。

 どうにも敬意にかけている。

 でもそれが自覚できているのとそうでないのは、雲泥の差がある。

 これは学びだ。失敗ではない。はず。


「そうですね。すみません。」

「そういえば、なんで張先輩は公園行ってたんですか?」


「よくぞ聞いてくれたね。僕はずっと探し続けているんだよ。都市伝説のラーメン屋台。でも確かに存在している。歴史は古くて21世紀の初めにはすでに京都で確認されている。なんだかよく分からないけどとにかくうまいって話で、一説には猫から出汁をとってるなんて噂もある。そんなわけないだろうけど確認直後から通称”猫ラーメン”なんて呼ばれている屋台で、とにかく神出鬼没。北は網走、南は桜島、旧日本の各地に現れる。沖縄は目撃情報がないから、小さい島にはいかないだろうって予測はあるけど、それにしたって見つからない。だから僕は毎日その辺の公園を見回っているんだよね。同じ場所で連続して営業は絶対しない。でも期間が空けば同じ場所でも目撃されてる。昨日は青森なのに今日は小豆島って事もあれば館山から房総半島を連日北上してたこともある。見つかるのは決まって日が落ちてからで。。。」


 場を和ませるつもりだった質問は、最悪の結果を招くことになった。

 いつになったら出ていくのだろうかこの人は。


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