55 (番外編)パートナーシップⅠ
「僕たちの馴れ初めが知りたいのかい?」
「うん。そう。後学のためにも。
あっ、特に兄様には必要だと思うのっ。」
桃香が僕たちの最初の出会いを知りたいと言い出したのは、旅立った柊が戻って来ていた時だった。
年末年始は神社の仕事も忙しくなるから、手伝うために戻って来ていたのだ。
本当のところは、桃香に会いたかったのだろう。
今は亜州を横断しているところのようだ。
予め決めていた箇所を巡りながら西に向かっている。
柊の今回の旅には目的が2つあった。
1つ目は、勿論進路に関するものだ。
もともと興味を持っていた場所を直接見て、自分の進路(専門を何にするか、大学をどこにするか、だね。)を決めること。2つか3つに絞ってはいたようだが、最終決定は見てから決めることにしているようだ。
まあ、専門が決まれば大学も決まるだろうね。
2つ目は、各地の浄化だ。
浄化が必要だと思われる何カ所かを巡っているのだ。
だから、この話を聞いた桃香は「ふーん。そぉなんだぁ~。じゃあ『夢の道』じゃなくって『浄化の道』じゃ~ん。」などと言ってたな。
なぜ、こんなことになっているかということなのだが。
昔はどの地にも、我が家のように住んでいる地を浄化できる力を持つ一族がいたようだ。
ところが、いろんな要因(流行病や戦いなど)によって集落ごと消えてしまった一族や後継者がいなくなってしまった一族が出てきた。
その結果、浄化が必要な地なのに浄化されないことになってしまったのだ。
そのため、昔から浄化を行っていた我が家に、どこからどう伝わっているのか色々な伝手を介して浄化の依頼が来るようになってしまった。
時には、国内だけではなく国外からも。
依頼も人からだけでなく、その地の人ならざるものからも・・・(こちらについては、連絡を受けるのは導き手たちだが)。
受け付ける窓口は雷和神社となっているので、以前は全ての依頼は一旦ここに集めて判断し、担当が割り当てられるようになっていた。
今では、他国からの要請については、その場所の近くにいる僕の弟たちが担当するようになっている。
ただし、新しい依頼や厄介な案件については、今でも必ず1度は確認して担当を決めている。
それまでも、十分経験を積んだ冒険者(と導き手)は、小さなモノや緊急のモノについては、各自の判断で対処していいことになっていた。事前連絡と事後の報告は必要であるが。
緊急の場合は、導き手同士の念話で来ることが多く、予想に反して苦戦することになった場合も他の導き手が協力できるようにしているのだ。
亜州については、夏海が担当しているのだが、せっかく柊が横断して行くのだからと、修行も兼ねて、ここにある樹海のような場所を何カ所か巡らせているのだ。
柊には言ってないが、彼が浄化をしている時には、コッソリと近くには夏海もいるようだ(夏海が付けない場合は、必ず他の誰かが付くようにしている)。
同じような樹海であっても、場所によって趣が違う。
だから、どこでも同じように浄化すればよいというわけでもない。
それぞれの特徴を考えなければならないのだ。
そして、時にはここの樹海に道を繋ぐこともある(これは、導き手が行うが)。
その結果、桃香には申し訳ないのだが、「んー?なんか浄化するのが増えてるような気がするよーん。」と桃香が言うような状況になっている。
「うん、その前に・・・柊、旅はどんな具合かな?」
「そうですね。今のところは予定通りに順調にいっていると思います。
それより父様、少し気になっていることがあるのですが。」
「うん?何かな?」
「はい。
今まで僕たちが浄化してきた場所は、どこからか依頼があったのだとは思いますが、あそこは今後もうちが担当することになるんでしょうか?
今回だけならいいのですが、今後も継続的にということであれば、国内からの依頼もあるのですから難しくなってきませんか?普段の龍頭領での仕事もあるのですから。」
「うん、そうだね。
今のところは、他領や国外からの依頼については、世の中のバランスが崩れないように、どうしても必要な分だけ浄化するようにしている。
その中でも、導き手に来る依頼は、割と切羽詰まった状況が多いようだね。
でも、こちらもやり過ぎないようには気をつけているんだよ。
まあ、現地で浄化ができなくなっていることが多いから、取り敢えずの対策として道をここの樹海に繋げているけれどね。
ただ、これも全てではなく、数を減らすぐらいだ。
それに、この道は永続的なものではなく、いずれ消えて元通りになるものだ。それでもこれがあることによって、大分マシにはなるからね。
うーん、本来であれば現地にまた浄化できる者が生まれるはずなんだが、場所によってはしばらく難しい所もあるようだねえ。
そちらは、僕たちの管轄ではないからねえ・・・。
まあ、父様たちの代で何らかの策を考えて、できるだけ柊たちの負担が大きくならないようにはしておくつもりだよ。」
「わかりました。」
「うーん?ちょっーと、待ったー。
それって、最近、私が樹海で浄化するモノの数が増えてるなーって感じることと関係ある?
あるよねっっ!」
「あーー 」
「うん。ごめんね、桃香。言ってなかったね。
柊たちがすぐに対処した方がいいモノや大物については、現地で浄化しているけれども、その後も出てくるモノはあるからねえ。
数を減らすために、蓮が道をここの樹海に繋いでいるんだよ。
だから、桃香も間接的に柊たちに協力していることになるねえ。
ありがとうね。」
「くーーっっ。やっぱりー、な~んか多いかな~って思ったのは、気のせいじゃなかったんだー。
それなのにっ、桐葉は『そうか?』な~んて言うんだよーー。知ってたはずなのに~。」
「まあまあ、悪かったよ、桃香。
冒険者の浄化の力は、どうしても巫女には及ばないから協力しておくれ。」
「はーい、わかりましたぁ。もう、しょうがないなあ。」
「お願いね。」
「桃香、ありがとう。」
「あらあら、何の話かしら。」
そこに、アリスがお菓子と飲み物を持って現れた。
今日は、久しぶりに少し時間が取れたので、4人でお茶をしながら話でも、ということになったのだ。
寒いからアリスの温室の中で。
寒い時期は、アリスはここで仕事をすることが多い。
だから、ここでゆっくり休憩もできるようにと作業机以外にもソファーやテーブルまで置かれている。
僕たちは、ソファーで話しながらアリスを待っていたところだったのだ。
ここからは、桃香たちがもらって、愛国から移植したサンザシの木もよく見える。
「まあ、その話は今はどうでもいいよ。それより、さっきの話だよっ。」
「あら?それって何かしら。」
「父様と母様の出会いの話だよぅ。
母様も来たことだし、ちょうどいいじゃん。」
「うん。そうだねえ。」
「あらっ、そんな話になってたのねえ。」
「じゃあ、どこから話しましょうかねえ・・・。」
なぜかアリスは嬉しそうだね。
そういえば、昔、あれは桃香が生まれて1年経った頃だったかな?うーん、自信はないねえ。確か、しゃべり始めた頃だったような・・・。
まあ、その頃に、「年頃になった子供たちと恋バナしたいわあ」と言っていたから、「まだまだ気が早すぎるよ」と答えたことがあったんだけれど、子供たちはあっという間に成長したってことだね。
僕は、何となく寂しい気持ちの方が強いんだけれど、アリスは念願叶って子供たちと恋バナできるんだから楽しいんだろう。
ただ、話の中身は僕たちのことになりそうだけれどね。
さて、僕たちの最初の出会いはいつだったかな?
勿論、忘れてなんかいないよ。
あれは、薔子さんが自分の屋敷に、親しい人を招いて開いたパーティーだった。
「ちょっと春樹、あのお嬢さんたちを別室にお連れしてくれない?
さっきからしつこく絡まれているのよ。
かわいい子たちだから、多分口説かれているんだと思うんだけど、目に余るわ。
アイツら一体誰が連れて来たのかしら。
確認して、次からは除外ね。」
「了解!」
僕は薔子さんに頼まれて、2人の若い男に絡まれて困っていた(というより不機嫌そうな顔になっていた)2人の女性を、薔子さんに指示された部屋に連れて行くことになった。
その2人が、アリスとアグネスだったんだ。
2人は、その頃注目されてきていた「Kelly」に興味を持った薔子さん自身が招待していた。
デザイナーのドナと経営者のアグネス、そしてモデルのアリスの3人を招待していたみたいだけれど、ドナはほとんど社交の場には出てこないからね。この日も2人で来ていたようだ。
薔子さんのパーティーだからね。来る価値があると判断したんだろう。
実際、錚々たる顔ぶれだったよ。
一部変なのが、どこからか紛れ込んでいたみたいだけれど。
「不快な思いをさせてしまって申し訳ない。
しばらくこの部屋で休んでいてください。
ああ、自己紹介がまだでしたね。
私はショーコの甥、神代春樹です。よろしく。」
僕と北斗は、薔子さんから連絡が来るまで彼女たちの話し相手を任されていた。
その間に、あの男たちを連れてきた人物と話をつけてお引き取り願っていたんだろうと思う。
その後、パーティー会場に戻ったときにはいなかったからね。
「ねえねえ、一目惚れだったの?
それか、最初に会ったときにさあ、直感で『ああ、この人と結婚するんだなあ』と思ったり、『この人が運命の相手!』と感じたりした?
まあ、鐘の音が聞こえたりはしないと思うけどさあ。」
「うん?一目惚れ?いや、一目惚れではなかったよ。」
「そうねえ、違ったわね。
うーん?あの頃は、恋愛にも結婚にも興味なかったしねえ。」
「「えっ?なんで?」」
(あんれぇ~?一目惚れではない?おっかしいなぁ、一目惚れだったって聞いたような気がするんだけどなぁ?えーーっ、何か話が・・・?)
桃香は心の中で首をかしげていた。
「なんでって、そうねえ。
その頃、近付いてくる人の大半は、私の見かけとか家とかばっかり見ていたからかしらね。
鬱陶しいくらいだったわ。
兄弟たちは相も変わらず構いすぎだし。
1人で静かに過ごせる環境を求めていたのよ。
それに、やりたいことも一杯あったしねえ。」
「「へーー。」」
うん。僕たちは最初の時は、当たり障りのない会話しかしなかったねえ。
「で、何で結婚することになったのー?」
「うーん、縁があったってことかな?」
「「えん?」」
「うん。なぜかその後、何回も会う機会があったんだよ。偶然ね。」
「そういえば、そうだったわね。」
そうだ。その時は、米国にいる日にちは限られていた。
仕事で訪れ、そのうちの何日かだけ、近くに行くからと薔子さん宅に泊めてもらっていたんだ。
なのに、仕事関係のパーティーや休憩していたティーラウンジで、少なくとも3回は顔を合わせることになったな。
ティーラウンジでは、「おや、奇遇ですね」って北斗が声をかけて、一緒にお茶することになったんだった。
その店の人気のデザートが食べたくなったらしい。
その日はいつもよりも混んでいたらしく、僕たちの席に誘ってもらって助かった、って言ってたね。
お互いに気楽に話すようになったのは、本当に幸せそうにデザートを食べる彼女の姿を見てからだった。
そして、その時に初めて、彼女の傍にいる妖精を見たんだった。
「ねえ、理想の結婚相手ってあったの~?」
桃香が、今日はいつにも増してグイグイくるね。
そんなに興味があったのかな。
「なかったわね。その頃は、結婚する気がなかったから。」
「僕にも特にはなかったかな。
あえて言うなら北斗に嫌われていないことかな。」
「あら。それなら私もベルに嫌われない人ね。」
「そおなんだぁ~。何か残念っ。
なのに、なんで結婚の方に進んだのさ?」
「あらっ?何でだったかしら?」
「そうだねえ・・・何回か会っているうちにかな。
ある時、一緒にいるのが自然だと感じたんだよ。」
「そういえば、私はベルに『ハルキハオススメヨ』って言われたことがあったわね。」
「僕も北斗に似たようなことを言われたことがあったねえ。」
「ふーん。てことは、兄様も蓮に嫌われない人ってことが重要だね。」
「えっ?何で急に僕なの?」
「兄様が変な女に引っかからないように心配してるからだよっ。」
「えーーっ。この話は僕のためなの?」
「そうだよ!
私は恋バナなんて今のところ興味ないんだよ。
紫乃ちゃんたちの話を聞くだけでお腹いっぱいなんだよっ。
父様たちの話を聞いてるのは、兄様の参考にだよ。」
「そ、そうだったんだ。
桃香が恋愛に興味を持ったのかと心配していたからホッとしたよ。
桃香はずーっと家にいていいんだからね。
無理して結婚もしなくていいんだよ。」
「そうだよ。父様もそう思うよ。」
「あらぁ、春樹も柊も私の兄弟たちと同じことを言うのね。
桃香がかわいいのはわかるけど、あんまり言うとウザがられるわよ。」
「「うっ。」」
「それよりさ、結婚する時って、やっぱり導き手に認められないとダメなの?」
「いや、ダメってことはないと思うよ。
ただ、結婚相手と導き手が合わないと自分が大変なんじゃないかとは思うよ。精神的にもね。
これまでにも何人かいたみたいだけれど、ほとんどが上手くいかなかったみたいだね。」
「ふーん。そうなんだあ。」
「うん。
僕たちのような冒険者や桃香のような巫女には、どうしても導き手の協力が必要だ。
彼らよりも結婚相手を選ぶということは、冒険者や巫女の仕事から引退するということだよ。
なぜかは、説明しなくてもわかるよね。」
「うん。」「はい。」
「まあ、結婚については、まだ先だと思うからそれまでに考えておけばいいよ。
あんまり急がなくてもいいからね。」
「ねえ、神代家には結婚の条件?のようなものはないのかなぁ?
関係者以外には秘密ってのもあるよね。」
「ああ、そうだね。
だから、導き手が相手を見るんだよ。
僕たちと相性がいいってだけでなく、神代家に入れても大丈夫かって点でもね。
アリスは、ベルがいたから、我が家の特殊性もすぐに理解できたみたいだけれど。」
「ああ、そっかあ。」
「基本的には、結婚したい人ができたら結婚すればいい。無理に結婚しなくてもいい。
そこは、自由だよ。
導き手に認められなくても、どうしてもその相手がいいと思うのなら、その相手を選べばいい。
さっきも言ったように、冒険者や巫女は辞めることになるかもしれないけどね。」
「ふーん。
そこで、神代家の役割を取れ、って言わないんだー。いいの?」
「いいよ。
気持ちがね、他に向いていたり、迷いがあったりしたら危険だからね。命に関わってくる。」
「でも父様、昔は違ったんじゃないの?」
「うん。昔は違ったよ。
昔は、我が家の事情がわかっている一族の中から適した人物が選ばれていたんだよ。特に跡取りにはね。
政略結婚もあったみたいだけれど、相性が良かったり導き手が認めたりしなかったら、跡取り以外、というか導き手がいない者との結婚になっていたみたいだよ。
まあ、昔は今と違って交流がある範囲もそんなに広くはなかったからね。
今の形になったのは、寅お祖父様の頃からだよ。」
「「へー、そうだったんだ。」」
「じゃあさあ、お互いに相手と結婚しようと決めたきっかけとか、何かあったのかな?」
「そうねえ。
私の場合は、2人だったらもっと楽しいかも、って思えたからかしらね。
仕事は楽しかったし、収入もそれなりにあった。
一緒に過ごして楽しい友人もいたから、別に結婚しなくてもいいかなって、それまでは思ってたのよね。
でも、春樹と会って、『あらっ?今までとは環境も変わるし、今までより友達とは会えなくなるけど、別の新しい楽しみもあるかも』って思ったのよね。
そして、それは今までのところ当たってるわ。
もちろん、楽しいことや嬉しいことだけでなく、辛いことやイヤなこともあったけど、春樹はどれも一緒に受け止めてくれたしね。
それに、あなたたちにも出会えわ。」
「僕は、そうだねえ・・・。
アリスのグラスプリーフ家と神代家とは、似ているところもあったから、ほら、妖精への理解があるところなんかがね。
生まれ育った国は違っても、理解し合えるところが多いなあと思ってたんだよ。
まあ、最初はグラスプリーフ家と妖精のことなんか知らなかったから、後で『ああ、だからか』って思ったんだけどね。
あとは、さっきも言ったけど、一緒にいるのが自然だと感じたんだよ。年を取った自分の横にいるのがイメージできたっていうかね。
北斗からも『彼女、いいと思うよ』って言われたしね。」
「「へぇー。」」
「ただね、僕は結婚の形は夫婦の数だけあると思うんだよ。
だから、他の家庭との比較って、あまり意味はないと思っている。
だって、考え方も仕事も、家族の人数も、そもそも求める家族像も違うかもしれないのに、一体何を基準に比べるんだろうね。
比較しても幸せにはなれないんじゃないかな?
まずは、自分がどう生きたいかをよく考えてみるんだね。それがないと、何かに流されて生きていくことになるかもしれないよ。
出会いや別れ、挑戦と成功や挫折、妥協することが必要なこともあるかもしれない。
自分としての軸って大事だと思うよ。」
僕とアリスは出会って結婚して、子供も生まれた。
そして、「今」は幸せだよ。
でも、それが今後も続くかは誰にもわからない。
日々は選択の繰り返しだとも思っているしね。
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