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異世界の管理人  作者: 東風
第3章
54/54

54 じゃあねぇ~

最終話です。


 シオンがやって来たのは、翌日の午後だった。

 ここまでは、アスル殿に送ってもらったそうだ(ワープか?)。


 「来るのが遅くなってしまい申し訳ない。

  それと、今回のこと、本当にありがとう。

  お陰で私だけでなく、地底王国も助かった。この恩は絶対に忘れないよ。

  これから先、私の力が必要な時が出てきたら連絡してほしい。」


 そう言うと、彼は深く僕たちに頭を下げたんだ。

 向こうの世界にいた時は、途中から「僕」って言っていたけど、また「私」に戻っていたね。

 次の王としての自覚が、そうさせたのかもしれないね(そういえば、父様も場で「私」と「僕」を使い分けてるね)。


 「うん。なんとか無事に終わって良かったよ。

  助けについては、今後必要になったらお願いするよ。

  それより国の方はいいの?これから忙しくなるんじゃないの?」


 「数時間ぐらいは大丈夫だよ。これまでも準備はしてきていたからね。

  それより、桃香は大丈夫だった?

  あの魔道具を1人で壊すとは思ってなかったよ。

  あれを壊すのに前回は、父上と母上2人の力が必要だったんだ。今回はより強力になっていたはずだよ。」


 「うーん?僕が見たときの桃香は、桐葉の上で寝てたようにしか見えなかったんだよね・・・。

  その後聞いても、まだ寝てるとしか言われてないんだよね。

  何かあれば、連絡が来るとは思うけど。」


 桃香は、今、トラスト辺境伯邸にいる。桐葉は、あの後、トラスト辺境伯領まで戻っていたんだ。

 まあ、あそこにはキクがいるから、そっちの方が安心だけど。

 僕の方は、ここでマルクやジョンと今後のことを相談することになっていたからね。

 地底王国が攻めてくることはなくなったけど、魔獣については、まだしばらく様子を見た方がいいからね。

 それに、僕はこの後、ウィルを冬馬叔父さんの所に連れて行くことになっているから、桃香と会えるのは家に戻ってからだ(ウィルは、アスル殿がシオンを迎えに来るときに連れて来るそうだ)。



 「そうなのか。それなら、桃香の力は相当スゴいな。柊も同じくらいあるのか?」


 「僕たちは異世界に来ると力が増えるそうだから、多分・・・・・・。」


 「それはスゴイね。」


 「ああ、シオンに聞きたいことがあったんだよ。」


 「うん、何?何でも聞いていいよ。

  ただ、答えられないものについては、そう言うよ。」


 「それは、わかってるから大丈夫だよ。

  あのさ、今回のように地底王国の誰かが、地上の世界を求めて攻めようとすることって、これまでにもあったのかな?」


 「ああ、そのことか。

  うん。あったみたいだよ。毎回ではなかったようだけれど、地底王国が浮上するのに合わせて地上を狙おうとする者はいたようだね。

  もう、かなり昔のことになるから、私もアスル師に聞いて知っているぐらいだ。記録にも残ってるね。

  勿論、王ではないよ。そんなことを考える者は王にはなれないからね。

  今回の叔父上は王位も狙っていたけれど、昔は地底王国を追放された者や出奔(しゅっぽん)した者たちだったみたいだね。

  全て地上の者たちに討伐されたみたいだけれど。」


 「もしかして、その集団を率いていた者が『魔王』と呼ばれていた?」


 「ああ、・・・うん。そうだよ。よく気付いたね。

  地上の者たちは、そう呼んでいたみたいだね。

  記録にもそう書かれていたよ。なぜそう呼ばれるかは、私にはわからないけどね。」


 「やっぱりそうだったのか・・・。

  いやね、いつか桃香がこんなことを言ってたんだ。

 『魔法がある世界で、聖女って存在もいるんなら、魔王もいたりしてねぇ。

  でもさ、魔王ってどんな存在なんだろうねえ。

  自分たちも魔法が使えるんなら、その中で飛び抜けて魔法が使えたり、魔力が強かったりする人も魔王になれるよねえ。

  それに、以前は自分たちの仲間であっても敵対するようになったら、自分たちの都合に合わせて魔王って呼ぶこともあるかもねえ。

  そしたら、討伐してもいいじゃん。』ってさ。」


 桃香は、「わかりやすい敵がいるのって都合いいよね。でも現実は、もっとわかりにくいじゃん。同じ国の人や民族であっても争うことは私たちの世界でもあるよね。」とも言っていたね。

 僕は「そうだね。」とだけ答えた。

 人も物事も、直接自分で話したり、見たりしてみないとね。その場の空気感から直接肌で感じるものもあるはずだ。

 だから、僕は直接自分の目で世界を見てくるつもり。

 映像で見ても、それは映像を撮ってる人や流している人が見たいものや見せたいものだ。

 僕が知りたいことは、その映像では()られていない外側にあるかもしれないからね。

 ここから戻ったら、僕も出発だな。



 「ハハハッ。さすが桃香。面白いことを言うねえ。

  でも、そうだね。私たちは地底王国人だと、自分たちでは思っているよ。ただ地底に住んでいるだけだ。

  だから、地上の者たちよりも日の光には弱いけれど、それは生きている環境からなんだろう?

  柊たちの世界では、そう学んでいたよね?

  地上でも、住んでいる土地や民族によって違いはあるんだろう?それと同じだと思うけど。」


 「うん。そうだね。僕もそう思うよ。

  ねえ、シオンは叔父さんのように地上にも国が欲しいとは思わないの?」


 「私?・・・いや、思わないな。

  私は地底王国の役割について、父上や母上に幼い頃から教えてもらっていた。

  そして、その役割に王として真摯(しんし)に取り組む父上を尊敬していた。いや、今でも尊敬しているよ。

  父上や母上は、国のことや民のことを思い、そして特に父上は、この世界での地底王国の存在意義についても理解しておられた。

  私も父上のような王になりたいと思っている。」


 「うん、頑張って、シオンの目指す王になってよ。」


 夕暮れ時、アスル殿がシオンを迎えにやって来た。

 「鳥好きのウィル」さんも一緒だった。

 ひょろっとした人だけど、顔色なんかは大丈夫そうだね。なんか興味ありそうに周りをキョロキョロ見てるけど。きっといつもあんな風なんだろうね。


 「柊よ、今回もお前たちには世話になったな。お陰で地底王国も丸く収まりそうじゃ。

  ああ、この者のこともよろしく頼む。

  お礼と言っては何じゃが、これを受け取ってくれ。

  あの魔道具の副産物じゃが、きっと役に立つぞ。

  それと、もし我らの助けが()るときは遠慮無く言うがよい。必ず力になろう。」


 そう言うと、アスル殿はシオンを連れて帰って行った。

 何か(あわ)ただしかったね。やることがたくさんあって、きっと忙しいんだろう(と思っとこう)。


 「それじゃあ、ウィルさん、行きましょう。

  僕は神代柊。神代冬馬の甥です。これから冬馬叔父さんの所まで送りますよ。

  詳しい話は叔父さんに聞いてください。」


 「えっ?(きみ)、トーマの甥っ子なの?」


 「そうです。行きますよ。僕の後ろに乗ってください。元の世界に戻ります。」


 僕は、蓮の背中に乗るとウィルさんに声をかけた。

 アスル殿がシオンを迎えに来るまでに、出発の準備は済ませていたのだ。

 蓮も大きな白い犬になってたし。

 それでは、ウィルさんを引き上げて出発だ。




 「ふわぁ~、あーよく寝た。けど、お腹空いたよ~。」


 「あら、桃ちゃん起きたのね。」


 「うん。おはようサクラちゃん。お(なか)がペコペコだよ。」


 「じゃあ、ご飯にしましょうね。」


 「はーい。」


 私は食堂で朝ご飯を食べることにした。朝ご飯よりも昼ご飯に近かったけれど。

 食べ終わったら、家に帰るのだ。

 だからなのか、食堂にはサクラちゃんとタイガ、キクとアンバーもいた。桐葉も当然いるけど。


 「桃ちゃん、食べ終わったら少しお話ししましょう。」


 「んー? いいけど・・・何?」


 「そうね。いくつか聞いておきたいことがあるのよ。」


 「ふーん。いいよ。」


 「神気を時間差で出すのは、どうやったじゃ?」


 キクに質問されたから、答えることにした。


 「あー、それかー。正確に言うと、時間差じゃなくって、兄様が“朱理”で切ったら神気が出るようになってたんだよ。

  私たちの力は、導き手の神力と違って、力の表面に神気がコーティングされているようなものじゃん。

  この世界では、私たちの力も魔力になってたし。

  魔力が神気でコーティングされて、より強力になってたけど。」


 「桃香、知っておったのか?」


 「んー?私や兄様のを何度も見ているうちに何となくわかったんだよ。

  人間に神力はないはずだから、どうなってんだろう?って思いながら見てたらさ。

  なら、表面と入れ替えられるかな~って試してたらできたんだよねー。

  で、私が閉じた状態の“珊瑚”の先から線状の力を出して、桐葉に神力で切ってもらったり触れてもらったりしたら、神気を纏った力に変わったんだよねえ。

  ってことで、兄様に“珊瑚”と同じ力を持つ“朱理”で切ってもらっても同じようになる、って思ったんだよ。

  一応、ダメだった場合は蓮が切ってくれたはず。」


 「はあぁ~、桃香は色々考えるのう。」


 そんなに(あき)れられるようなこと?

 桐葉、そんな残念な子を見るような目で見ないでよ。

 これがあったから上手くいったんじゃない!


 「それとな、今回のことで桃香の『金粉持ちの力』が失われるかもしれんということを柊には話しておったのか?」


 「ううん、それは言ってない。」


 「なぜじゃ。」


 「言ったら、反対されるから、かな。うん、兄様、絶対反対するよね。だからだよ。

  私はさ、金粉の力がなくなっても困らないけど、兄様は金環の力があった方が絶対いいよね。

  その分、生き残れる確率も跳ね上がるでしょ。

  私は異世界に行けなくなっても別にいいし(てか、行けなくてもいいかなっ。休みも減らないしぃ)。」


 「ほお。今まではできていたことが、できなくなるのによいのか?」


 「別にいいよぉ~。

  金粉の力がなくても巫女はできるし。

  それに、その力って巫女が普通に持ってるものじゃないでしょ?

  なら、なかったかもしれないものだし。

  あったものがなくなることもあるからさ、なくても困らないように訓練もしてきたしっ。」


 「「「「 訓練? 」」」」


 「そっ。心眼(しんがん)(きた)えたし、皮膚感覚も鍛えてみた。割といい感じよ~。毒なんか()めたり触れたりしなくてもわかるようになったしぃ。

  備えあれば憂いなしだよねえ。」


 「桃香、何を目指しておるのじゃ?」


 「んー?別に何も。」


 「申し訳ありません。別にあって困るものでもないと、吾も見逃しておりました。」


 「まあよい。

  桃香の目は、今のところは金粉持ちの力が少し残っているようだが、向こうに戻ったら消えるかもしれぬ。そのくらいの力じゃ。

  気をつけて戻るのじゃぞ。」


 「はーい。(頑張ったから月兎に頼もうっと)」




 持ってきていたスマホで月兎に連絡して、ここから家まで繋いでもらうことにした(ヤッター、すぐに帰れるよお)。

 帰る準備をして、タイガの書斎に行く。

 今回は、この部屋から戻れるって。


 「なんか、寝ててマーカスさんたちに会えなかったし、テッドたちにも会ってないな~。

  皆によろしくね~。」


 「伝えておくわね。」


 「まあ、兄様はまた来ることもあるかもだし。ねえ、父様たちも来るかもよ。いいの?」


 「あらっ!そうねえ・・・・・・。」


 「こちらに仕事があれば来ることもあるでしょうが、個人的な理由で来たりはしませんよ。

  そんな教育はしておりませんよ。」


 「はははっ。そうだね。来ないだろうね。」


 「ふーん。そうなんだあ。」


 「じゃあ、桃香は来ようと思うのかえ?」


 「思わないねっ。」(即答なの!)(即答か。)


 「そうであろう。」



 (( 「桃香~、準備できたわよ~。」 ))

 月兎の声が聞こえたと思ったら、フォンって音がして、部屋の中にあの兎型の穴が現れた。


 「それじゃあ、一件落着ということで帰るね。 じゃあね~、元気でねーー。」

 そう言うと、桃香は桐葉に乗って穴の中に消えていった。


 「行ってしまったわねえ。」


 「そうじゃな。」


 「あの子、無事に着くかしら。」



((「あら~、大丈夫よお。入口入ったらすぐ出口にしといたから、もう着いてるわよ~。だ・か・らっ、金粉の力も少し残ったままよお。そのうち復活するわよっ。ただ、さすがにアタシでも、それがいつになるかまではわからないけどねえ。でもまあ、桃香に会いたがっているのがアチコチにいるから、そんなに先ではないかもねえ~。」))


 フォンと音がすると同時に兎の形をした入口が消えると、月兎の声も聞こえなくなった。



 「ねえキク、さっきのどういうことなのかしら?」


 「やれやれ、どうして余計(よけい)なことまで言うのかのう。」


 「あら、私たちは知らない方がいいのかしら?」


 「まあ、サクラもタイガも前の記憶が残っているから問題はなかろうよ。

  桃香はのう、大神(おおがみ)様が生み出された一番若い神なのじゃ。

  もうそろそろ新しい星を任されるんじゃが、その前にもう少し『命あるもの』について学ばせたいと、それまでの実績から神代家に預けられたのじゃ。

  なにしろ、好奇心旺盛なのはまあよいのじゃが、面倒くさがりでのう。心配であったのだろうよ。

  今の桃香には以前の記憶も、人の器に入っておるから神力もないがのう。」


 「えーーーっ。」「ほう。」


 「何を驚いておる。

  お前たちも死んだ後、雷和神社の神から『われの所で神になるための修行をするつもりはないか?』とスカウトされておったではないか。

  異世界に行ってみたいと断っておったが。」


 「「そうだった(わ)!」」


 「どうやら桃香に会いたがっておる神がアチコチにおるようじゃの。」


 「ああ、そういうことなのね。

  あら、なら次は桃ちゃんが担当する所に行きたいわ。」

 「ああ、それも面白そうだね。」


 「ほう、ならば今生(こんじょう)のうちに、桃香の所で人として過ごすのか神として手伝うのか決めておくとよいぞ。」


 「神として・・・って、できるの?」


 「今生の後で、修行すればよいであろう。

  雷和の神の所で修行して、その後は桃香の手伝いをしながら修行を続けることもできるであろうよ。

  まあ、その前に今生をどう生きるか、だがのう。」


 キクはサクラたちを見ながら、いろいろ(それに、もしこのことを知ったら柊や春樹たちも一緒に行く、とか言いそうだのう。)と考えていた。




 「柊、久しぶりだね。仕事お疲れさん。」


 「冬馬叔父さん、ウィルさん連れて来たよ。じゃあ、後は任せたよ。」


 「あれえ、もう戻るの?」


 「うん。旅立ちの準備もしないといけないからね。」


 「ああ、そうだったね。じゃあ、今度はゆっくり訪ねて来てよ。」


 「いいけど。その時は訪ねやすい場所にいてよ。」


 「ははっ。善処(ぜんしょ)するよ。」


 柊は冬馬にウィルを引き渡すと、再び兎の形をした空間に飛び込んだ。

 どうやら空間は冬馬の部屋の中にあったようだ。

 さて、今度の出口はどこかな?山かな?本殿の奥の間だといいけどなあ。


 その後、家に戻って桃香の金粉の力がほぼ失われていることを知り、衝撃を受けることになるのを、この時の柊は知らなかった。




 「じゃあ、行ってくるよ。 でも、桃香、ちょくちょく戻って来るからね。」


 「いやいや兄様、落ち着いてゆっくり色々と見て来なよ。せっかく行くんだからさ。留学先も探すんでしょお。そして、そのまま留学するんだよね。

  じゃあね~。」


 兄様は、後期が始まる頃に蓮とともに旅立った。

 和国から華国に行き、華国からは「夢の道 (ドリーム・ロード)」を通って西を目指すそうだ。

 陸地を行くのかあ。でも、それって結構過酷な道のりじゃない?いくら時間をかけてゆっくり行くっていってもさあ。

 まあ、兄様たちがそうしたいんならすればいいけど。

 それに「夢の道」って何さ。

 なんか昔の人が東には黄金の国があるって信じて、西側の国から東を目指して来るときに通った道のことを「夢の道」って呼ぶようになったらしいんだけどさ。

 じゃあ、兄様のように西を目指して行く場合は?「夢の道」なの?って思うよねえ。どうでもいいけど。


 私も数年後は世界を見に旅立つ予定だ。

 兄様より早く、高等部の1年が終わったら行く予定。

 でも、「夢の道」なんか通らないから。

 桐葉や紅葉が一緒でも不便な所はイヤなのっ。

 そろそろどこにするか考え始めようかな。楽しみっ。


 ああ、そうそう。今回の報酬はプラチナの狼だった。

 今回は最初っから狼の形をしていた。

 今は私の部屋に3つ並べて置いてるよ(狐と兎と狼だね)。

 まあ、今後は異世界に行くこともないだろうから、いい思い出ってことになっていくんだろうねえ(よかったよかった)。




 「えーーーっ。なんでだよおっ。戻ってるーー。ねえ、なんでえぇ~、桐葉っ。」


 「なんでって、桃香の金粉の方の力がもともとあった分まで戻ったからであろう。

  力が全部消えたわけではないから、そのうち戻るかもしれないと言われていたではないか。」


 「でっ、でも~どれくらいかかるかわかんないって~~・・・・・・。」


 「どれくらいかかるかわからんってことは、長い年月がかかるかもしれないってだけではなく、早くなることもありうるのではないのか?」


 「え~そんなあ~ショックだよーん。」


 桃香の嘆く声が、神代家に響きわたったのは柊が旅立って半年後のことであった。




       おわり

読んでくださった方、ありがとうございます。

一応話は終了しましたが、3章も番外編があります。

内容は春樹とアリスの話になる予定です。7月中には投稿したいと考えています。

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