56 (番外編)パートナーシップⅡ
「ああ、そうだった。
桃香に聞きたかったことがあるんだよ。」
「ん、何?」
「向こうの世界では、お祖父様と琥珀さん、お祖母様とお菊さんの関係ってどうなっているんだろう?
わかるかい?」
「んー?母様とベルとの関係に近いと思う。」
「ほお・・・なるほどねえ。」
一応、桃香の聞きたい気持ちは満たされたのかな?
それとも、僕たち以外にも聞きに行くのかな?
父さんたちや薔子さんたち・・・・・・。
まあ、直接自分で聞くといい。
それぞれの生き方があるからね。
薔子さんは、パートナーはいたけれど(今もいる時もある)、結婚はしなかった。子供も持たなかった。
けれど、親がいない多くの子供たちのサポートをしてきている。
彼らの中には薔子さんを慕う者も多く、その中には大人になり自立したら、今度は自分が近くで支えたいと考える者も出てきた。
米国の薔子さんの屋敷で働いている執事もそうだし、ボディガードもそうだったね。まだ他にもいる。
薔子さんも、彼らのことを「私の子供のようなものよ」って言っていた。
竹子伯母さんは、同じ建築家であるダンナさんと世界中を巡っている。
興味を持った建物を見に行ったり、依頼を受けて新築の建物を建てたり、古い建物の修復をしたりしている。
一応、欧州にある西国に自宅もあるし、夫婦ともに大学で教えてもいる。
まあ、大体1年の半分くらいは国内外を移動しているみたいだ。
あの夫婦は、誰が見ても価値観が一緒だと感じるだろうね。そんな2人だよ。
その2人は建築物が好きすぎるし、自分たちの興味・関心に従って行動する。
だから、話し合って自分たちには子育てはできないと思ったみたいで、子供は持たないと決めた。
その代わりなのかは知らないが、建築家の卵たちや苦学生たちを助けているよ。
まあ僕たち4兄弟は、2人の伯母に自分の息子のように構われてきたから、まるで母親が3人いるみたいだったけれどね。
寅お祖父様たちは、考え方が柔軟だったのだろう。
自分たちの考えを娘たちに押し付けることはなかったみたいだ。
相談されたり、彼女たちが悩んでいたりしたら、助言だけして見守っていたように、僕には見えていた。
「そういえば、今日は蓮たちがいないね?」
「ああ、蓮なら島を見に行ってますよ。」
「桐葉も一緒に行ってるよ。見るのは違うみたいだけどー。」
「ああ、なるほど。」
「あっ、そうだ。ねえ母様、あの薬、できそう?」
「ああ、あれね。
そうねえ、大体の目処がついたから、もう少ししたら治験に入るわね。」
「桃香、母様に何の薬頼んだの?
まさか、桃香の具合が悪いんじゃないよね?」
「違うよ~。どっちかというと蓮が喜ぶかな~。」
僕は、桃香がアリスに頼んだ薬のことを聞いたとき、ビックリしたんだった。
桃香がアリスに頼んだのは、「性的興奮を抑える(あるいは失わせる)薬」と「精巣・卵巣を凍結状態にできる薬」だった。
何でそんな薬を?って思ったよ。
桃香は、「そんな薬があれば、犬や猫の避妊・去勢手術ってしなくてよくなるんじゃない」って思ったみたいだ。
「だって、人間の都合で体にメスを入れられて、かわいそうじゃん」とも言っていたね。
言われれば確かに、だよね。
今日、蓮たちが訪問している島々も関係している。
龍頭領には、周辺にたくさんの島がある。中には、無人島もいくつかある。
その中のいくつかの島には、犬や猫が雄と雌に分けられて暮らしている。
これは実験的な取り組みで、捨てられた犬や猫を避妊・去勢手術をせずに放し飼いしているんだ。
もちろん、小屋などの雨風をしのぐ場所もある。
蓮は、導き手になる前に、犬としての一生を何回か経験させられたみたいで、その経験から動物愛護活動に熱心に取り組んでいる。
彼の提案で、この領には生体販売を行うペットショップはない。
ペットを飼う場合は、ブリーダーのところからか保護施設からになっている(島から、ってこともある)し、飼った後も定期的に追跡調査が行われている。
飼い方が悪ければ指導が入るし、改善されなければ、その後は飼うこと自体が禁止されることになる。
今では、この領に野良犬や野良猫はほぼいなくなっているが、困ったことに他領から捨てに来る者がいる。
問題は1つ解決しても、次から次に出てくるものだから、その都度対処していくしかないけれどね。
桃香は、各家庭で飼われている犬や猫のことを考えて、アリスに薬の依頼をしたのだろう。
ただ、「上手くいけば人へも使えるんじゃないのお」と言われたのには閉口したけどね。
桃香によると、薬の強弱によってや薬は「毒にも薬にもなる」ことから、性犯罪の犯人への処罰として活用するだけでなく、逆に精子や卵子の温存という方面でも使えるんじゃないか、ということだったが。
薬に詳しくない僕には???だったが、アリスはしばらく何か考えていたようだった。
ああ、犬や猫がいる島には刑務所もある。
受刑者等も動物と触れ合えるようになっている。
そこでは、動物の訓練も行われていて、受刑者の中にはその補佐をする者もいたりする。
訓練された動物は、その後、高齢者施設や病院などで活躍している。
動物虐待を行った者は、生き物がいる島以外に入れることになっているから、島には動物に危害を加える者はいないはずだよ。
島には定期的に視察が入る。予告して入ることもあるし、予告しないこともある。
今日、桐葉と蓮は予告せずに行っている。
蓮が動物を中心に見て、桐葉が人の方を担当しているのだろう。彼ら以外にも数人が一緒に行っているけどね。
柊は、桃香とアリスから薬の説明を聞いたようだね。
最初は、呆気にとられたような表情をしていたけれど、今は真剣な顔をしているね。何か考えさせられることがあったんだろう。
「ねえ、母様。治験って、動物の負担にはならないよね?」
「ベルがいるから大丈夫よ。ねえ、ベル?」
「ダイジョブ。クスリツヨカッタラヌクシ、アブナカッタラトメルヨ。」
「ねえ、母様。僕から質問。
治験に入るってことだけど、上手くいくと思う?
薬って、欲しいからって簡単にできるもんじゃないよね?」
「あら、もちろん簡単ではないわよ。」
「あのさ、兄様。
この世の中は、本当に必要な物や強く在るのを願っている物は、うま~く見つかったり生み出されたりするものなんだよ。」
「ソウソウ。アリスガネガッタラ、ベルガテツダウ。
コノセカイニナカッタラ、ヨウセイオウカラデモモラッテクルヨ。」
「えっ?そんなんでいいの?」
「あら、何でもかんでもベルに頼んだりはしないわよ。」
「そう。ならいいけど。
桃香は、薬を人にも使いたいと思っているの? なんで?」
「うん?
兄様は、せっかくできたんなら、色々試して有効活用したらいいじゃんって思わない?
私は思うね。
それにさ、前、兄様が言ってた異世界の話があったじゃん。
ほら、使っている資源の埋蔵量があと50年ほどでなくなるって言われていたのに、そろそろなくなるって頃に、あと50年分あるってわかった、って話。
あれってさあ、その世界で真っ当に頑張っていた人たちがいたから出てきたんだと思うんだよね。
次の世代に繋ぐために。
でもさ、使い方を間違ったらダメなんだよ。
試されているようなもんだからね。
それと一緒だよ。
できたなら「使っていいよ」ってことなんだと思う。
問題は使い方。真っ当に使って、人を幸せにするために使う。それだったら使えると思う。
間違った使い方をしたら、いずれ消えるかもね。」
「ああ、・・・そうかもしれないね。」
「そういえば、桃香の『目』の力は、まだ戻ってないの?」
柊が心配そうな顔で桃香に聞いている。
「んー?戻ってないよー。
ていうかー、10年20年戻らなくていいなー。」
「えっ?なんで?」
「逆に何で戻った方がいいのかがわかんないね。
別に困らないし。
必要な能力は、自力でなんとかできるようになってたしぃー。」
「えっ?そうなの?」
「そうだよ。だから全く困ってないね。」
「異世界に行けなくてもいいの?」
「全然いいね。
冒険者でもないのに、何回も行ってる方がおかしいんじゃないの?
私は、こっちの世界でやりたいことが、たっくさんあるんだよ。」
「そ、そうなんだね。」
桃香は冬休み前、『さあってと、長期の休みは思う存分時代劇を堪能するぞぉー』と意気込んでいたからねえ。
今のところは、自分の部屋にテレビを置くことを許可されていないから、使えるテレビのある部屋を見つけては、テレビを見たりDVDを見たりしている。
DVDが全種類3つずつあるのには驚いたよ。
桃香は、見る用と保存用と布教用って言っていたけれど、ちょっとわからないね。
アリスは「わかるわぁ」って、2人で盛り上がっていたけれど、まあ彼女たちが幸せならそれでいい。
桃香は、冬休みの宿題はすでに終わらせているし、自分の仕事はきちんとやっているから、特に注意することはないから僕たちは好きにさせている。
時々、桐葉からは注意されているようだけれどね。
柊は気にしているようだが、僕としては桃香がこっちの世界にいてくれた方が安心だし、本人が困ってないなら今のままでもいいと思っているよ。
どんな関係であれ、長く付き合うためにはバランスが大事だと思う。
どちらかが頑張りすぎても、我慢しすぎてもダメ。
無理は長く続かないからね。
常に同じ状態を保つって難しいから、時々は助けたり助けられたりも当然ある。
お互いを尊重し、安心できる関係を築く。
特に、一緒にいる時間が長いなら大切なことなんじゃないかな。
この話で終了です。最後まで読んでくださった方、ありがとうございます。
あとは、途中から改行の仕方(特に会話文)が変わっているので、最初の方を後に合わせて手直ししたら
完結とします。




