51 再会
「お待ちしていましたよ。」
その男性は、私たちに向かってそう言った。
初対面だよねえ・・・変!だよねえ・・・。
んーー、でも、さっき、彼を見た桐葉と蓮からは、ハッとしたような感じ以外にも何か感じたんだよねえ。
何かなーー(う~むむむっ)。
「待ってた?僕たちを?」
「ええ、そうですよ。
私はデーン。シルヴェスト公爵家で家令をしております。」
「家令?別の人じゃなかった?」
「前任のベルナルド引退後、私が引き継ぎました。」
「引退?」
「ふーん。そうなんだあ。」
「はい。皆さんには、まずはトラスト辺境伯邸への移動をお願いいたします。
詳しい話は、そこでいたしましょう。」
よく見ると、彼の背後には馬が何頭かいる。
うん?馬?何か違うぞ。
「ねえ、桐葉。あれ、馬?」
「あれ?ああ、あれは馬型の魔獣だな。」
「魔獣なの?」
「あれは上手く馴らせば便利だぞ。普通の馬より速く走るし、長く走れるからな。」
「へー、そうなんだ。でも、今まで見たことなかったかもー。」
「ああ、あれですね。
馬もいますが、今のトラスト辺境伯家では、あちらの方を多く使っていますよ。
今日もあれで移動しますが、皆さんは馬には乗れますか?
馬に乗れれば大丈夫だとは思いますが。」
デーンに話が聞こえていたようだ。
「ああ、我々は皆馬に乗れる。大丈夫だ。
だが、桃香には小柄なのがいいな。
いますか?
いなかったら、桃香は吾が乗せていこう。」
馬型の魔獣を見て、私が「うわ、でかっ」と言ったのが聞こえた桐葉が尋ねてくれた。
「あの中にいますよ。
小柄ですが早さもスタミナもあります。それに、気性も穏やかで賢いですよ。」
よく見ると、魔獣は5頭いて、中の1頭は本当に他のより小柄だった。
私たちは、その馬型の魔獣に乗ってトラスト辺境伯邸に移動することにした。
兄様たちは、異世界で訓練するときに乗ることがあるみたいだ。
私は普通の乗馬はしたことはあるが(というか、時々馬場に行って乗っている。乗馬は趣味の一つだよ)、馬型の魔獣には乗ったことがなかったなあ。
だから、桐葉がコツを教えてくれた。
こちらでは自分の魔力を流して馴らすらしい。
私の力を流せばいいってことね(私たちのは魔力ではないけど)。
魔獣は、馬に比べると本当に速かった。
これ、初めての人はちょっとキツいんじゃない?
私は桐葉に乗るために、速さや急な動きにも対処できるように練習させられていたから大丈夫だけどさ。
それより、今回、私たちが来たのは、前回来た時代の前?それともずーっと後?
一体いつぐらいに来たんだろう。
さっき、デーンが言っていたベルナルドが、私たちが知っているベルナルドと同じ人なら、後になるんだけど。
でも、名前は同じでも別の人だったら、ずっと前ってこともあるしなー・・・。
うーん、わからん。
アレコレ考えてたら、あっという間にトラスト辺境伯邸に着いたよ。さすが魔獣だね(まあ、桐葉や蓮の方がもっと速いけど。馬に比べたらかなり速いよ)。
邸では、人払いがされていたのか、デーンが私たちを客間に案内するまで誰とも会わなかった。
まあ私の服装を見たら、どこの人?って思われるかもねえ。
兄様たち3人は、白いシャツに黒いパンツ姿だから、こっちでも違和感はないかも。
でも私はねえ、淡黄蘗色の両裾にスリットが入っているワンピース(裾には向日葵と狐の透かし模様入り)にモスグリーンのレギンス、スニーカー型スリッポン。動きやすいけど、こっちにはないよねえ。
そして、斜めがけしたポシェットはマジックバックになっている。このポシェットはホ~ント便利。元の世界では普通のポシェットだけど、異世界に行くとマジックバックになるもんね~。
このポシェットには大吉が入ってついてきているし、紅葉が行き来できる木彫りの狐も入っている。
ああ、兄様たちのウエストポーチもマジックバックになってるよ。
客間に入ると人がいた。4人。見たことがない人たちだ。
その中の男性が話しかけてきたんだ。
「いらっしゃい。
私はトラスト辺境伯のタイガだ。隣にいるのが、私の妻のサクラ。そして、私たちの横にいるのが、私の従者のアンバーとサクラの侍女のキクだ。
アンバーはトラスト辺境伯邸の家令も兼ねている。キクはこの邸の侍女長でもあるよ。」
タイガはプラチナブロンドに空色の瞳。サクラは銀髪に桜色(だよね?珍しい)の瞳。美男美女って感じ~。
アンバーは銀髪に金色の瞳。キクは白い髪(もともとなのかなー?)に、こっちも金色の瞳だー。
ふーーーん。
「お邪魔します。
僕は神代柊。隣にいるのが妹の桃香です。
僕たちの横にいるのが、蓮と桐葉です。」
兄様が私たちの紹介までしてくれていた。
私は、キクにタタタッと駆け寄って抱きついた。
「お菊さん、久しぶり。会いたかったよーん。」
キクの顔を見上げると苦笑していた。
「なんじゃ、もうわかったのか。」
「当然だよー。」
「ええーーっ。」
兄様、気付いてなかったの~。ダメじゃん。
お菊さんに抱きついたまま、サクラの方を見て言った。
「櫻ばあばって言えないから、サクラちゃんでいいの?」
「ふふっ、いいわよ。桃ちゃん、元気そうね。
身長も伸びたわねえ。」
「うん。もっと大きくなる予定だけどね。」
「さあ、話は座ってからにしよう。」
タイガがそう言ったので、私が聞きたかったことは座って、お茶を飲みながら聞くことにした。
「それにしても、すぐにバレちゃったわね。
桃ちゃん、どうしてわかったの?」
「うーんとねえ、人は生まれ変わっても魂は同じだからかなあ・・・。
お菊さんから、櫻ばあばは異世界に行ってみたかったって話も聞いていたから、異世界に生まれ変わってるかも~と思うこともあったし、そうなら寅じいじやお菊さんたちも近くにいるだろうなと思っていたからね。」
「えっ?桃香の目には魂も見えるの?」
「うん。何となくだけど。兄様はわかんない?」
「うん。わからないよ。魂を見るってことを意識したこともなかったからねえ。」
「ふーん、そうなんだあ。
それよりさ、サクラちゃんの両親はテッドとエウラリア?タイガはマルクとジャスミンの子になるの?
あっと、呼び方はタイガでいいの?ひいじいじって呼べないし。」
「ああ、タイガでいいよ。
それに、私たちの両親もそれで正解だよ。」
「ふーん。なら、今回は前回来たときから20年くらい経っているんだね。
それとさ、そこにいるデーンって隼人さんの導き手だったっていう『伝』なのかな?」
「おやおや、私のことも御存知でしたか。」
「やっぱり?」「えーーっ、そうなの?」
兄様、後で蓮から再教育決定だね。隼人の導き手が伝って名前の鷹だってことは知っていたはず。
あの4人とここに一緒にいるんだから、私たちのことをよく知っている存在ってことになるのに(まだまだ鈍いよっ)。
「デーンは、何でここにいるの?
今まで会ったこと、なかったよね?」
「ええ、そうですね。
ただ、私はこちらの世界で100年に1回くらいは、シルヴェスト公爵家の様子を見るために家令として戻って来ているのですよ。」
「へぇ~っ、そうなの?」
「そうなのですよ。
隼人は、自分が起こしたシルヴェスト家がつまらないことをするようになったら、自分が責任を持って終わらせるつもりのようですから、私が時々様子を見に来ているのですよ。」
「ふ、ふーん。で、その隼人さんは?」
「彼は今も、どこかの世界で、荒れた世の中をどうにかしようと頑張っている人たちの手助けをしていますよ。
久しぶりにこちらの様子を見に来ていますが、櫻に寅、菊に琥珀までいれば十分でしょう。
まさか彼もシルヴェスト家に、隼人の甥や姪が子孫として生まれ変わってくるとは思ってもいなかったでしょうからね。
サクラたちから柊君と桃香ちゃんの話を聞いていましたから、直接会ってみたかったのですよ。」
デーンから、現在の隼人(もう生まれ変わって別人だけど)のことや、シルヴェスト公爵家には定期的にデーンという名の家令が現れるという話を聞いて驚いたよ。
イーストウッド国の王家とシルヴェスト公爵家の後継については、ある秘密がある、とはチラッと聞いたことがあったけど・・・。
シルヴェスト公爵家では、初代の家令が定期的にチェックまでしに来ていたとは思わなかったね。
ハヤトが、ある場所に家令の育成を指示しているから、デーンという名の家令候補が来たら受け入れるようにと代々の当主に伝えられているらしい。
その日は、サクラちゃんたちから今のトラスト辺境伯領についての話を聞いたり、私たちがこっちの世界に来ることになった経緯について話したりして終わった。
けっこうお腹いっぱいだよ~。
翌日、デーンは王都のシルヴェスト公爵家に戻って行った。そっちの方が今後、動きやすいだろうって。
兄様は、夕方シオンと待ち合わせているらしく、午後には蓮とここを出発するって言ってた。昨晩、大吉に連絡を頼んでたね~。
私は、しばらくここトラスト辺境伯邸にいるつもりだ。
お菊さん(今後は間違えるとマズいだろうから『キク』にするけど)によると、元の世界でシオンと話をしていたから、地底王国がいずれ浮上して姿を現すことは知っていたみたい。
どうも最近は、ここでは珍しく地震が起こったり、魔獣の数が増えたり、魔人が現れる回数が増えたりしているようだ。
キクは、そこら辺の動きは予想していたみたいで、トラスト辺境伯領やシルヴェスト公爵領、そしてイーストウッド国でも対策はしていたみたいだ(現在のイーストウッド国の宰相はテッドなんだってさ)。
イーストウッド国には、聖女ミーナがいて、彼女、頑張っているみたいだしね。王都の方は、彼女に任せていればいいでしょう。
ノースランド国も自国で対応できるだろう。
サザンウィンド国も王が替わってなければ大丈夫だろうけど、ここは後で要確認だね。
ウェストデザート国は、うーん・・・。兄様がシオンと待ち合わせてるのが、この国だから兄様たちに確認してもらおうっと。
んじゃ、兄様から連絡があるまで、私はここで待機だから、準備をしながらサクラちゃんたちと色んな話でもしとこっかな~。フフッ、た・の・し・み~。
「シオン、ここだよ。」
「ああ、柊、久しぶりだね。
来てくれて嬉しいよ。ありがとう。」
「うん。取り敢えず、テントに入って。
中で話そう。」
「わかった。」
ここは、ウェストデザート国の海沿いにある樹海の中だ。辺りはもう暗くなっている。
シオンの肩の上には、アスル殿がいて、辺りを警戒しているみたいだ。
僕たちのテントの周囲には、蓮が結界を張っているから、許可した人間にしか見えないし、入れない。
ここに入れば、ゆっくり話もできる。
周囲の魔獣については、シオンたちが来る前に、邪魔になりそうなのは全て狩ってしまっているしね。
僕たちは、シオン側の状況と何を手助けすればいいのかを聞くことにしたんだ。
シオンによると、地底王国は早ければ、ここ2、3日のうちにも海上に姿を現すだろう、ってことだった。
「叔父上は、あの他の生き物から魔力を奪える魔道具を再度作らせたんだ。今回は、より強力にしてね。
そして、その魔力を自分のために使っている。
自分が役に立たないと思っている魔獣の魔力を搾り取ったり、自分に敵対している地底王国の人から奪い取ったりして蓄えているんだ。
そして、地底王国が浮上したら、地上にある国々を制圧していくつもりなんだ。
そのために、力を与えて強力にした魔獣も準備しているよ。
僕は、それを止めたいんだ。
そして、地底王国も父上が治めていた時のような国に戻したいんだ。
だけど、今の僕だけの力では、あの魔道具を破壊することができないんだ。
だから、あれを壊す力を貸してほしい。一緒に壊してもらいたいんだ。」
地底王国には、シオンに協力する人々もいるらしい。
シオンの叔父に隠れて地底王国で活動している者もいるし、国を出てしまっている者もいる。
中には、叔父の近くで働きながら情報を知らせてくれる者もいるみたいだ。
その中の1人は、叔父の息子で、シオンの従兄らしい。
もともとシオンの側近候補だったらしく、一緒にアスル師に学んでいたみたいだ。(アスル殿がシオンの肩の上で、「彼奴は信用できるヤツなんじゃ」って言ってるねえ。)
彼と父親との関係は、昔から良くも悪くもないって関係だったから、今でも同じような関係でいるらしい。
彼の母親と父親の関係も同じようなものらしいよ。
彼の両親は、いわゆる政略結婚で、父親が妻に求めたのは、家柄と魔力の多さ、そして自分に相応しい見映えの良さだったらしい。
シオンによると、従兄の母親は知性や教養も備えた女性だが、叔父上の前ではそう見えないようにしていたって。
シオンの母親と親しかったらしい彼女は、こっそりとシオンたちに協力してくれているらしい。
シオンは、こちらの世界に戻ってから、自分に協力してくれる人たちと連絡を取ったり、連携が取れるような形を作ったりしていたようだ。
当然、それにはアスル殿も大きく関わっている。
僕たちは、少しずつでも彼らの力を削ぎながら、地底王国が浮上したときには、戦って勝てるように準備を急ぐことにした。
時間は、あまり残されてない。
でも、やるしかないんだ。
地底王国に関することはシオンに任せて、僕はアルミスト大陸にある国々にどのように連絡して、どう連携を取っていくかについて考え、動くことにしたんだ。
勿論、蓮や桐葉、曾お・・・じゃない、トラスト辺境伯たちとも意見交換はしたよ。
報・連・相は大事だからね。




