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異世界の管理人  作者: 東風
第3章
50/54

50 助っ人、参上


 「行ってきま~すっ。」


 桃香は桐葉と一緒に樹海に向かった。

 今日は、樹海に行く前に、本殿に寄ることにした。


 「んっ?桃香、本殿に寄るのか?」

 「うん。精神統一してから行く!」

 「そうか。」


 私は、本殿にある鏡(「水鏡」じゃないよ)の前に座った。

 心の中で、自分と向き合い、モヤモヤとしたものを固めてボールにする。イメージがしっかり出来上がると、そのボールを手に大きく振りかぶると、鏡に向かって投げた。


 「よしっ。」


 スッキリした私は、樹海に向かうことにした。



 あれは、いつ頃のことだったかなあ。

 桐葉から怒られた後で、イライラしていた私は、1人で樹海に向かっていた。

 その時に、いつの間にか横に来ていた神楽山の神様に言われたんだ。

 「桃香、イライラして樹海に行ってはならん。」って。

 なんでさ?って思ってたら、説明してくれた。


 「あそこにいるのは、怒りや恨みや憎しみなどの感情が大好物なんじゃよ。だから、ネガティブな感情を持ったまま近付いてはならん。ヤツらを活気付かせるぞ。

  その分、桃香がより頑張らねばならん。」


 「あーー、それはイヤだなー。」


 「そうじゃろ。心を落ち着かせて行くのじゃ。」


 「はーい。でも、どうやって?」


 「鏡の前ででも精神統一すればよかろう。

  その感情を鏡に投げてもよいぞ。われが消そう。」


 私は、本殿にある鏡の前に座って、鏡と向き合った。

 その時に、以前、この鏡の前で、お祖父様が行っていたことを思い出した。


 「桃香、『かがみ』という言葉から『が』を抜くと何になるかな?」


 「何?なぞなぞ?んーー、『かみ』かな?」


 「そうじゃ、正解じゃ。

  (かがみ)から()を抜くと(かみ)になる。

  鏡に向き合うときに、自分を振り返り『我』を抜いてみれば、(おのれ)の中にも神がいることに気付けるぞ。」


 思い出したが、それだけではイライラはなくならなかったので、心の中でイライラをこねこねと丸めてボールにして、鏡に向かって思いっきり投げてみたんだ(神様がいいって言ってくれたんだから大丈夫でしょ)。

 スッキリした。

 その後、樹海をキレイにして、帰りにもう1度鏡の前に行ってみた。

 「上手く精神統一できたようじゃな。」

 いつの間にか、鏡の横に神様が立っていた。

 私は(うなず)いて、「はい。ありがとうございました。」って、お礼を言った。


 その時に、ついでに前から聞きたかったことを聞くことにした。

 以前、桐葉から聞いた話だ。


 「ねえ、神様。聞きたいことがあります。」


 「ほう。なんじゃ?」


 「桐葉から聞いたんだけど、お守りが働いたら真ん中が破れるってことあるの?(ひも)が切れたり、少し糸が切れたり、色が薄くなったりなら、何かわかるけど。」


 「ほう・・・おお、あの時のことか。

  あれはのう、その方があの娘さんにはわかりやすいと思ったからじゃよ。

  神社に来てくれたら、その後の様子も確認できるからの。

  何か影響が残っておったら、それもどうにかできるしのう。」


 「ふーん。そういうことか。」


 「そういうことじゃ。少しの変化でわかる者もおるが、わからん者もおる。

  そのままにしておっても問題ない場合もあれば、対処した方がいい場合もある。

  その時によりけりじゃ。」


 この時、私は精神統一の仕方と大切さを学んだとともに、長く疑問に思っていたことの答えも知ることができたのだ。

 これ以来、精神統一が必要な時には、樹海に行く前に本堂に寄って、心の中で怒りんボールやイライラボール、モヤッとボールなんかは鏡に向かって投げてから向かうことにしたのだ。


 で、今日も精神統一をした後で、樹海を浄化したのだった。


 今日の仕事を終えて、気分よく戻って来ていたら、兄様に呼ばれて、また本殿に行くことになった。

 何だろう?って思ってたら・・・水鏡の所に連れて行かれた。

 何かイヤな予感がするよねえ。



 水鏡の中には、なぜかシオンの姿が。


 「あれっ、シオン? なんで水鏡に?」


 「桃香、久しぶりだね。

  そっちに連絡を取りたいと思っていたら、アスル師の伝手(ツテ)でね。」


 「はあぁ~、月兎(つきと)とも知り合いだったってことぉ。

  で、何かあったの?」


 「うん。こっちに戻って叔父上(おじうえ)を倒す準備をしていたんだけどね。そろそろ行動に移そうと思っているんだ。」


 「ふーん。いよいよだね。」


 「ただ、少し問題があってね。

  以前、地底王国で他の生き物から魔力を奪える魔道具が開発されたって話をしたことがあったよね。」


 「うん。」「ああ、そういえばあったね。」


 「あの魔道具が、叔父上の指示で、また作られていたんだよ。

  そして、近々、地底王国は浮上して地上に出そうなんだ。

  どうやら叔父上は、魔道具を使って自分の魔力を増やした上で、地上にも自分の勢力を広げるつもりらしいんだよ。

  僕は、それも阻止(そし)したいんだ。

  でも、今の僕には、あの魔道具を破壊するだけの力がないんだ。

  だから、本当に悪いとは思うけれど、また力を貸してもらいたいんだ。

  お願いします。


  ああ、それと、僕がそっちの世界に行ったときに、巻き込まれたみたいで、そっちの世界から地底王国に来てしまった人がいるんだ。

  今は、僕たちが保護しているから、その人も戻してあげてほしいんだ。」


 「はあぁーー?」「えっ?」


 「これは、行くしかないね。」

 「うん。兄様の仕事だね。いってらっしゃーい。」


 「わかったよ、シオン。

  準備してから向かうから、少し待っててくれ。」


 「うん。ありがとう、柊。こっちでも、もう少し準備をしておくよ。

  では、待ってるよ。」


 水鏡からシオンの姿が消えた。

 すると、その後に月兎の姿が・・・。


 「ちょっと、桃香。アンタも行くのよ。」


 「えーーっ、なんでだよーーー。異世界に行くのは冒険者の仕事じゃん。

  私は違うもんっ。こっちでの仕事だしぃ。」


 「柊と蓮が行っても、まだ力が足りないのよっ。

  あの魔道具は意外と厄介(やっかい)なんだから。

  柊たちを守るためにもアンタも行ったがいいわよ。」


 「・・・また、私の夏休みが・・・」


 「桃香、“義を見てせざるは勇なきなり”って言葉を知ってるか?」


 「ぐぬっ、知ってるし(桐葉、余計なことを)。

  わかった。わかりましたよっ。私も行くよっ(うえ~ん)。」


 「じゃ、頑張ってくるのよ~。

  ああ、行くときは山から行くのよ。入り口と出口は、わかるようにしておくから、ねっ。」


 言い終わると、月兎の姿も水鏡から消えた。


 ちょっと(ひど)くない。いくら私が金粉持ちとはいえ、異世界行き過ぎじゃない?えーと、今度で3回目だよ。巫女は1回も行かないのが普通なのに~。

 それに、月兎!こっちから異世界に行ってる人がいるのに今まで気付いてなかったの?ちゃんと仕事してんの?((やっだー、桃香、()()たりぃ?あの時、近くにいた大吉も気付いてなかったんだから、さすがのアタシでも無理よぉ。それに、地底王国は見えにくいのよぉ。でも、辻褄(つじつま)はしっかり合わせるから大丈夫よぉ。))

 せっかく精神統一してスッキリしていたのに、またイライラしてきたよっ。


 兄様によると、夏休みに入ったらすぐに向こうに行くそうだ。

 それまでに、家族への説明と準備をするんだって。

 まあ、今日入れて2日しかないけどね。

 今日は日曜日(あーー、私も『今日、耳、日曜』って言って聞きたくなかったよう。桐葉に怒られるだけだけどさ)。火曜日から夏休みだからね。

 週末から長期休みに入ると、補講に来なきゃいけない子の欠席が増える傾向があるらしくて、必ず週の途中から休みになるんだよね(夏休みに補講があるのは2年生からだね。前年の成績を参考に国語や数学なんかの継続(積み重ね?)の教科・科目は呼ばれるんだ)。


 兄様に、諸々(もろもろ)の準備はポイッと任せて、自分の準備!準備‼

 夏休みの宿題は、もう終わってる。

 長期の休み中の宿題は、割と早めに連絡してくれる先生が多いから(遅い先生には聞きに行く)、すぐに取りかかれば休み前には終わる。

 兄様に負けないようにと早くやるようにしていたから、毎回休みに入る前には終わってるよ。

 だから、私がやるのは、お祖父様へのとっても大事な依頼だけ(録画よ、録画っ。楽しみにしていた特集もあるんだからねっ)。ちゃんと詳しく言っとかなきゃ!ああ、紙に書いて渡しとくかー。

 今年、兄様には夏休みの宿題はない!

 だって、高等部卒業に必要な全教科・科目の単位は取得済みだからね。


 兄様が今やっているのは、海外に行く準備だ。

 荷物の準備以外では、異文化についての学びの復習と語学力に磨きをかけることだ。

 私たちの学校では、小学部の高学年から異文化理解の学習が入ってくる。基礎編は必修で応用編は選択になっているが、兄様は応用編まで学んでいたはずだ。

 宗教や文化の違いから価値観も違ってくる。和国の常識は、どこでも通用するわけではないのだ。そこをわかっていないと、争いに発展することもあるから大事なことだ。

 だから、他国に行く場合は、当然違いについては学んでおくべきなのだ(自国でも価値観や考え方の違いから喧嘩(ケンカ)になることがあるんだから、他国ならもっと注意が必要だよねえ)。

 語学については、私と兄様は母様の国の言葉も小さい頃から使っていたから、和語と米語、関連で愛語と英語も使えるんだ。

 学校では第2外国語まで選べるから、兄様は仏語か西語を学んでいたはず(うーん、どっちだったかな~)。

 言葉って今使われているものだから変化するよね。

 だから、気をつけておかないと「今はそんな言い方しないよ」ってことになる。

 母様は、行けるなら年に1回は米国に行くようにしているし、ライアンやエイダンが家に来るときには、私たちとは米語で話して新しいことを教えるようにしているみたいだよ。

 あー、あとはシオンの所に行く準備だね(父様たちへの連絡は、その日のうちに終わらせてたし)。


 余談(よだん)

 今年の高等部の体育祭では、兄様は応援団の団長を任されていた。来年はいないだろう、ってことで。

 昨年以上の高得点で優勝してたよ。

 (ちな)みに、私も中等部の体育祭では応援団の副団長をやった(なぜだろうね~)。

 で、中学部の歴代最高点だった兄様たちの点には、ちょっと及ばなかった(キーッ、くやしいっ)けど優勝したよ。一部、扇子を使った舞を取り入れたんだよね~。全員でするんじゃなくて、真ん中の一部がやるんだけど、周囲と合わせるとカッコよく見えるんだよね~。振付(ふりつけ)と指導は私だよ。卒業までには兄様の点を超える予定。



 さあ、いよいよ出発の日。

 今日の分の浄化は、朝ご飯の前に終わらせたし、明日からはお祖母様たちがやってくれるから大丈夫。


 「じゃあ、行ってきま~す。」「行ってきます。」

 「「行ってらっしゃい、気をつけてね。」」


 お祖母様と母様に見送られて出発。

 お祖父様と父様は、今朝は早くから仕事だって。まあ、昨夜話はしたから別にいいけどね。


 今回は、1回目に異世界に行った“あの場所”から出発する。

 山の斜面にある洞穴に入ると、奥に(うさぎ)の形が見えた。


 「また、これかぁ。予想はしていたけどさあ。」

 「桃香、行くよ。」

 「あいよっ。」


 兄様と私は、巨大な白い犬と銀狼(シルバーウルフ)になった蓮と桐葉の背中に乗り、異世界への入口に飛び込んだ。


 入口から出口までの道は、月兎が繋いでくれているみたい。よく見ると、私たちの周囲に透明なチューブ状の管みたいなものが見える。背後は見てないけど、多分、私たちが通った後は消えていってるはず。

 私たちは、この透明なものによって守られているんだ。

 ただ、兄様は自分でも周りに薄い防御膜みたいなものを張ってるけど(蓮に練習させられていたからね)。

 私の周囲にも張られてるけど、これは桐葉が張ってくれてる。私のは防御だけでなく、認識阻害もしてるって。

 ほら、私って金色にピカピカ輝いて見えるらしいから。見えにくくするの大事だよねえ。


 んーー。ホントにここって不思議空間。

 何回か通ったことがあるけど、毎回見えるものが違うもんね。

 私たちの世界じゃないの?って思うくらい似た世界がチラッと見えることもあるし、あれはいつの時代なの?っていうような過去や未来のような世界が見えることもある。

 あれっ?昔の兄様と私?って姿が見えたこともある。

 ここを通っていると、私たちの世界以外の世界もたくさんあるんだなあって思うし、もしかしたら過去・現在・未来っていう時間の流れも、ここでは同時進行なのかも、って思ってしまうよ(なんか怖いけど)。


 「桃香、そろそろ出るぞ。」

((あっ、そうそう。今回の到着地は、桃香たちが1回目に降りた辺りよお。じゃあ、がんばってね~。))


 兎の形をした出口から地上に降りると、そこは樹海の中だった。

 近くには兄様たちもいる。

 今回の兄様は1回目に近い色だった。金髪に緑の瞳だ。

 人の姿になった蓮は、金髪に青い瞳。

 私は、確認しなくてもわかってるよ。多分、ピンクゴールドの髪と金色の瞳だ。

 桐葉も人の姿になった。焦げ茶色の髪に灰色の瞳。

 うーん?桐葉と蓮は、前と同じ色だよね?あの色しか見たことないもんね。


 「お待ちしていましたよ。」


 近くから声がした。

 ハッとして、皆でそちらを見ると、執事服姿の長身の男性が立っていたんだ。


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