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異世界の管理人  作者: 東風
第3章
48/54

48 領地を守り、そして繋ぐⅡ


 「行ってきますね。」「行ってきまーす。」


 「行ってらっしゃい。」


 お祖母様と桃香は、乳児院の慰問(いもん)に出かけていった。

 お祖母様たちは、定期的に乳児院や老人ホームの慰問を行っている。内容は、その時々によって違うが、物資支援のときもあるし、箏などの演奏を行うことも一緒に運動して体を動かすこともある。

 今日は何するって言ってたかなあ(あれ?忘れたかな?)。


 2人が行く乳児院は雷和(かみなぎ)神社と頼山寺(らいざんじ)のちょうど真ん中辺りにある。

 もともとは、2つの寺社が協力して運営していた施設だ(現在は、龍頭領)。

 昔は、乳幼児だけでなく、成人するまでの子どもがいたらしい(子ども院って呼ばれてたかな?)。

 でも、今は小学部に入る前までの子どもたちだけだ。


 どうも、小学部になったら寮に入るという今の形になったのは、50年前くらいから徐々に・・・らしい。

 その頃は、乳児院のような施設が今よりもたくさんあった。そして、大半が宗教に関係するところや個人によって運営されていたんだ。

 昔は、領が直接運営に関与している、そのような施設はなかったみたい。

 領が関わるようになったのは、曾お祖父様が領主になってからだ。

 ちょうど、龍頭領が大きく変わろうとしていた頃だ。

 神代家が治めていた領地は、以前から領民の教育に力を入れていた。

 だから、文字の読み書きができたり、計算ができたりする人は、割と多かったんだよ。

 そして、他の領だったところでも(今の東区だね)領民に教育を、という動きが出てきた。

 当然、最初は学校だけ作って通う形にしていた。


 ところが、色々と事件(だよね?)が起こったんだ。

 個人運営の施設から子どもが他領に売られたり、親が子どもを売ったり。子どもの中には、他領から連れて来られて、しばらく龍頭領の施設にいた後で売られることもあったらしい。

 ある程度、読み書きができる子が欲しいということで、この領に子どもを(かどわ)かしに来て売る者もいたみたいだ。

 読み書きができる子は、できない子より高く売れたらしいから。

 だから、読み書きができる子が多かった龍頭領にわざわざ1度連れて来て売る場合もあったってことだ。

 他領から連れて来ても短期間じゃ無理なのにね。

 読み書きできるって騙して売ってたんだろう。

 また、同じ施設の中で、年が上の子が幼い子をいじめたり、男の子が女の子に暴行を働いたりということもあったんだ。


 こういうことがあったから、各施設には定期的に領から視察が入るようになった。

 いくつかの施設については領が直接運営する形を取るようになった。

 と同時に、学校に小学部から寮を併設することにしたんだ。

 これによって、小学部に入る年の子から男女で棟が分けられるようになったし、家で虐待されているような子もすぐに親や家族から離せるようになった。

 高等部までは自分の力だけで通えるようになっているから、学校にいる間に色んな資格を取ったり大学などに進学する準備もできる。

 保護者がいなくても就職までできるようになっている(後見は各区が行う)。就職したら経済的にも自立できるしね。


 今日、お祖母様と桃香が訪ねる乳児院の隣には、老人ホームがあるんだ。

 さっき、2つの寺社が協力して運営していた施設があった、って言ったよね。

 ここは、お寺と神社がそれぞれ建物を作っていたから、話し合って男の子用と女の子用と分けて使っていたんだ。

 それが、学校に寮ができたから乳児院だけになった。

 その後、乳児院に預けられる子も少なくなったから建物も1つでよくなったんだ。

 だから、古くなった建物を改築して乳児院と老人ホームにしたんだよ。こちらは、建物の正面中心部に玄関があって、その左右で男女の部屋が分かれてるんだ。

 敷地内には畑もあるし鶏や犬や猫もいる。

 それらの世話は、職員や施設に入っている人々がやっている。

 乳児院の子たちのお世話を、老人ホームに入っている人たちが手伝ってくれることもよくある。

 一緒に協力しながら生活している、って感じだ。

 子どもたちは構ってくれる人がたくさんいて、うれしいみたいだよ。


 この領が最近取り組んでいることの1つが、高齢者への対策だ。

 長生きする人が増えるのは良いことだけど、そのことによって経済的な不安や親しい人がいなくなって寂しいと感じる人も割と多い。

 どうせなら、最後まで人生を楽しむ人が多い方がいい。

 「早く死んでしまいたい」と思いながら生きてほしくはないからね。

 最後まで、家族の中で暮らせる人もいるけれど、そうでない人も多い。

 だから、どうすればいいのかってことで色んな試みがなされてもいる。

 例えば、乳児院や保育園、幼稚園と老人ホームを近くにしてみたり、農地や酪農関係の近くにしてみたりだ。

 そして、施設に入っていても自分ができる仕事はやっていいことになっている。

 当然、仕事に対する手当(てあて)も出る。仕事内容によって金額は違ってくるけどね。

 それは、お小遣(こづか)いにしてもいいし、施設に払うお金に()ててもいい。

 なかには、「ちょっとしたことだからお金はいらない」って言う人もいるけれど、タダ働きはさせない。

 だって、それを認めたら払わない所が出てきたり、お金が必要だけど受け取りにくいって人も出てくるだろ?

 感謝の気持ちや言葉があればいいって人もいるけれど、人は仙人のように(かすみ)を食って生きられるわけない。

 対価がある方がやりがいがあるって人もいるしね。

 お金がいらない人には、受け取った後で寄付してもらってるよ。

 こっちも寄付金の積立額によって特典がある。

 例えば、スポーツや劇のチケット、旅館の宿泊券などだ。これらは龍頭領にある企業が寄付してくれたものだ。(株)KAMISHIROがスポンサーになっているものもある。


 老後に関しては、お祖父様とお祖母様が自分たちのことでもあるからと頑張ってる。

 「ずっと頑張ってきた人たちが多いのに、年取ったからと(ないがし)ろになんてさせないわよ。」と言ってたお祖母様の横で、お祖父様も頷いていたっけ。

 まあ、人間誰でも年を取るんだ。

 それまで頑張って働いてきた人が、年取ったからって軽く扱われているのを見たら、若者だって暗い将来しか考えられないよ。

 頑張ったって、ああなるんじゃ、頑張るだけバカらしいって考えるようになるよねえ。

 年取っても(いや、どの年代でもだろうけどさ)、元気で楽しそうにしている人が多い方が、いい世の中って思えるよ。



 さて、僕も稽古に行かなくちゃ。


 「おっ、柊君。」


 「あれっ、陽太君。今日は仕事、休み?」


 「そうそう。だから、ここに稽古つけに来た。」


 「へえっ。ありがとうございます。助かります。」


 真壁(まかべ)陽太(ようた)君は、学園の寮監長夫婦の息子さんだ。

 彼の(じつ)の両親は、彼が小学生の頃、事故で亡くなっている。

 その後、縁あって妹の風花(ふうか)ちゃんと一緒に真壁夫妻の養子となったんだ(その数年後には、(さや)ちゃんって女の子も養子になってる)。

 成人したら実の両親の姓にもできたんだけど、彼は真壁姓を選んだ。何の時だったか忘れたけど、その理由を話してくれたことがあった。

 「両親の結婚を許さず、死んだ後も俺たちを見捨てたような親戚と同じ姓はイヤだったんだ。両親もそれでいい、って言いそうだしな。」って。

 今、彼は、領兵空部に入って働いている。年は、・・・25才くらいじゃないかな(多分)。

 彼は小学部に入った頃、道場に入門し、ずっと稽古を続けていた。今では師範代(しはんだい)として初心者を中心に稽古をつけてくれている。仕事が休みの日に、時々だけどね。


 龍頭領には領兵部がある(大体どの領にもある)。

 領兵部とは全体の言い方で、陸部、海部、空部、警備部の4つの部から成っている。

 領兵部の本部は中央区の領政館の中にある。

 あとは、陸部が南区、海部が西区、空部が東区、警備部が北区にある。

 ああ、警備部というのは、町の安全全般を担当している部だ。

 南区には陸部だけがあるんだけど、南区にある山(南区のほとんどは山々だ)で全ての部の訓練は行われているよ。

 高等部卒業程度の資格があれば領兵養成学校を受験することができる。

 そして、ここを卒業する時に4つの部のどこかに配属される。大体は自分の希望した所になれるはずだ。養成学校在学中に、4つの部に一定期間研修に行き、適性面でも大丈夫か本人と部の両方から確認するようになっている。部から適性に関する評価もされるからね。

 1度配属されても、途中で別の部への転属願いを出せば変わることもできる。

 陸部・海部・空部は定年退職が警備部より早い。

 だから、その後は警備部に行く人もいれば、各部の教官になる人も民間の企業に行く人もいる。


 まあ、龍頭領では学生時代に色んな資格を取ったり、アルバイトをしている人が多いからなのか、自分の生活環境が変わったら仕事を変えることを躊躇(ためら)わない。柔軟に対処する。無理はしないし、変に(こだわ)ったりもしないみたいだ。

 大事なのは何かを見失わないことだ。

 色んな仕事について実際に知っていると、こういう生活環境の場合は、こういう仕事だったらできるかも?って考えられる。

 別に仕事は生涯1つだけとは決まってない。

 状況に応じて変えてもいいと思う。

 「自分らしく」って、僕にはよくわからないけれど、息苦しくなく、自然に笑える状態ではいたいよね。


 龍頭領には、研究熱心な人が多いのか、新しい物が次から次に生み出されているんだ。

 当然、情報の管理は厳重に行っているよ。

 ここら辺は、コンピューターG・グレート・ドラゴンも関わってくる。

 しっかりチェックするからね~。

 このG・Dは、約30年前から領で使われるようになった。開発も製作も龍頭領だ。詳細については一部の者しか知らないようになっている(当然だね)。


 他には、面白い物としては空飛ぶ車や水陸両用の車がある。

 でも、これらは他領や他国にもあるかもね~。

 ただ、この領のは龍頭領で開発・製造されているから独自の機能もあるんだけどね。

 空飛ぶ車は緊急の場合に使うことがほとんどだ。

 夜、急用で国都に行かなければならなくなった時なんかに、お祖父様や父様が使っている。あとは、空部が使ってるね。

 水陸両用車は、領兵の海部と陸部が使っていることが多いよ。


 龍頭領では(他領でもやってるかもしれないけど)、自分の身を守る方法を、必ず何か身につけることを推奨(すいしょう)している。

 学校では、性別を問わず武道か護身術を選択して学ぶようになっている(必修だ)。

 (株)KAMISHIROの社員は海外に行く(出張や赴任などでだね)前には、必ず護身術が身についているか確認されている。何もやったことがなかったら、|道場で必要最低限のモノだけ学んで行くようになっているんだよ。社員の身の安全のためだ。


 陽太君の話から、またズレたかなあ。



 その日の夕飯は、ここ最近では珍しいことに全員がそろっていた。

 夕飯が終わる頃に、桃香が何かを思い出したように言ったんだ。


 「あっ、玄爺(げんじい)から伝言があったんでしたよ。

  『あの男に関するネット上のモノは消したぞ。』だって。

  『そう言えばわかる。』って言われたけど~。わかる?」


 「うむ。」

 「わかるよ。ありがとう、桃香。」


 「そう。忘れなくてよかったよ~(うっかり忘れるところだったよ。危なかった~)。」


 僕は、疑問に思ったことを、つい口に出していた。

 「玄先生はネット上のモノを消せるの?」


 答えたのは、桃香だった。

 「消せるんじゃない。

  月兎が繋いだスマホは、どこの世界だって繋がるくらいなんだから、消すのもできるでしょ。

  だったら玄爺には、楽勝なんじゃないの~。」


 そう言われれば、そうなのか・・・な?

 以前、桃香と話していた時に、桃香がこんなことを言っていた。


 「『私には霊感がない』って言う人がいるけどさ、人には魂があると思ってる人は意外と多いんだよねー。

  不思議だよねー。

  だって、魂は霊魂(れいこん)とも言うんだよ。

  自分に霊魂があるなら、霊感もあるよねえ。

  五感と一緒で鋭い、鈍いはあるだろうけどさ。

  味覚が鋭い人と鈍い人がいるのと変わらないと思うんだけどねえ。

  電波と一緒であれも波動だから、波長が合えば普段見えないモノが見えることは誰にでもあることなのにねー。」


 あれは、桃香と肝試(きもだめ)しの話をしていた時だったかな?

 そういえば、桃香は夏になるとTVの特集である怖い話関係は絶対に見なかったね。

 「何で見ないの?」って聞いたことがあったっけ。

 桃香が怖がるはずもないのはわかってたんだけど。

 桃香によると、TVの画面から電波を伝って写っているものが、こちらに来るからイヤなんだって。

 「来たら、桃香の仕事が増えるじゃない。面倒!」 桃香らしい。


 ああ、僕が気になっていたこと。

 あの男、境出(さかいで)は試用期間中だったんだけど、結局、途中で不採用ということになった。

 この領では、しっかりした証拠があるのは蓮が関わったあの時のだけだったから、解雇で終わった形だ。

 他領でのことに関しては今のところ、どうなるかは不明だ。

 なぜなら、彼は幼児退行の症状が出て現在は治療中だから。

 いつ治るのか、現段階では不明だ。

 幼児からの人生をやり直した後になるのかもしれないが・・・先のことは、わからない。

 今は、彼の祖母に当たる人が付き添っているみたいだ。

 父様たちは、僕にも詳しくは話さなかったけど、他領でのことも知っているんだろう。

 桃香が言っていた、彼の「魂が弱ってる」、彼の魂が「汚された」ってことは、彼も被害者なのかもしれない。

 加害者でもあり、被害者でもあるってことか。

 彼は、まだ先のどこかで(つぐな)うことになるのかもしれないが、じゃあ彼は?誰かが償ってくれるんだろうか?


 何か釈然(しゃくぜん)としない気持ちが残った。 

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