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異世界の管理人  作者: 東風
第3章
47/54

47 領地を守り、そして繋ぐⅠ


 「たっだいまー ・・・ あれっ、何かしてんの?」


 「うーん? ・・・ いや、特にはないよ。」


 「ふうぅ~ん、そうなんだぁ~。」


 私が、いつものように樹海を浄化して帰ってくると、兄様が蓮と何か話してたみたいなんだけど、な~んか兄様の表情が暗い?気になることでもあるのかなー?

 それって、まだ桐葉が帰って来てないことと関係があるとか?


 学校の寮で行った宿泊研修から、家に戻って来たのは私の方が早かった。

 だから、部屋に荷物を置くと、ブランを連れて樹海に行ってきたのだ。

 帰りに神社にも寄ってきた。

 本殿の奥にある部屋に行くと、お祖母様だけでなく、母様までいた。

 「あれっ、ここにいたんだー。母様もなんて、珍しいねー。」って言ったら、2人に「あらっ、お帰りなさい。」って言われたから、「ただいまー。」って答えたよ。

 何してるんだろうって近付いたら、水鏡の中から月兎が「あらっ、桃香~。お帰りなさ~いっ。」だって。

 どうも母様たちが昨晩見てきた劇の話で盛り上がっていたらしい。よく見たら、水鏡の傍には大吉もいた。

 お祖母様も「そんなに良かったなら、私も見に行くかねえ。」とか言ってるし。

 楽しかったんなら、良かった良かった、だよ。


 「桃ちゃん、柊ちゃんは?」


 「んー?さっきはまだ帰ってなかったよー。」


 「そう。・・・あっ、お腹空いたら、冷蔵庫の中に入ってるから見てみてね。

  柊ちゃんにも、会ったらそう言ってね。」


 「うん、わかったー。」


 まだ話すみたいだったから、私は家に戻ってきたのだ。 お腹も空いてたし(グウゥ~ッ)。何か食べたい。



 「兄様も何か食べる?」


 「うん。食べるよ。ありがとう。」


 「あー、俺は甘いのだけでいいよ~。」


 私は冷蔵庫の中から出して、食べる準備をする。

 ちゃ~んとデザートも入ってたー(ヤッター好きなヤツだー)。

 具だくさんの冷製ミネストローネ。パンは電子レンジで少し温めれば十分。

 それと、固めのプリンだ~。カラメルソース多め!

 さあ、たべるぞー。


 準備は私がしたから、後片付けは兄様がしてくれた。

 で、今は飲み物を持ってソファーでのんびり。


 「兄様、何か気になっていることでもあるの~?」


 「うんっ、何で?」


 「んー?何か、さっき表情が暗かったからかなー。」


 「えっ?そうだった?」


 「うん。」


 「そうか ・・・ いや、昨夜(ゆうべ)境出(さかいで)の様子がなぜか気になってね。」


 寮監室での境出は、特に()(わけ)することも(あば)れることもなかった。

 ただ、言われたことに淡々(たんたん)と対応するだけだった。無表情で感情の動きも(まった)く感じられなかったんだ。

 それが、なぜだか気になった。


 「ふーん。・・・ねえ、マロン。

  ブランが言ってたんだけど、その人が『やばい』って、どういうこと?

  その人の中、魂が汚れているってこと?」


 「ンッ?ヨゴレル?チガウ。ヨワイ。チイサクナッテル?ヨワヨワシイ?

  ヨゴレ ・・・ スコシアッタケド、ソレハ ・・・ ウーン、セツメイムズカシーイ。」


 「ふーん。 ・・・ それってさあ、魂が弱ってるってこと?汚れも汚されたってこと?」


 「ンー、ソンナカンジカナー。」


 「ふーん ・・・ 」


 桃香は、マロンの言葉を聞いて何か考えているみたいだ。

 父様と北斗さんは昨晩一度戻って、今朝早くからまた出かけたそうだ。

 父様は、昨晩は一度母様と帰宅して、また学校にって感じだったから大変だよねー。

 今朝はお祖父様も一緒に出かけたらしいよ。

 まあ、神社の方は他にも神職はいるし、お祖母様もいるから大丈夫だけどね。

 多分、寮監代理の仕事を終えた桐葉も合流してるんだろう。

 僕もあっちの話が気になるよ。



 中央区の中心に、領政館はある。

 その中に領主の部屋もあるし、コンピューターG・Dもある。

 G・Dはグレート・ドラゴンの略で、通常G・Dと呼ばれている。スーパーコンピューターって呼ぶ世界もあるって聞いたことがあるよ。

 龍頭領だから、ドラゴン(龍)だ。

 まあ、他との大きな違いは本物の黒龍である玄殿がG・Dには関わることがある、ってことかな。

 G・Dに入ってくる膨大な情報の中から、一見(いっけん)どうってない情報であっても、先に大きな問題になりそうなモノについては、お祖父様に連絡が来たり(ただし、詳しく教えてくれるってことはなく、調べるのは自分たちでやれってこと)、北斗さんに指示が来たりするみたいだ(スゴいよね)。


 領政は合議制で行われているんだけど、領全体ではなく各区でできることについては、各区で決めて行うようになっている。区役所もそれぞれあるからね。

 領政について、もう少し詳しく説明すると、北区の区長(神保(じんぼう)氏)、東区の区長(志道(しどう)氏)、西区の区長(大山(おおやま)氏)、中央区の区長(神保氏)、南区の区長代理の5名で話し合うんだ。

 そして、(けつ)()って、最終の決定を領主が行う、って形だ。

 まあ、大体は十分に審議(しんぎ)されているから、そのまま通るんだけど、(たま)に差し戻されることもある。


 ああ、北区と中央区の神保氏は、先祖は一緒みたいなんだけど、昔から執政(しっせい)という面で、神代家の補佐をしていた一族だ。それぞれ政治(現北区)と法律(現中央区)を得意としている。

 最近では、北区と中央区の長を交互に担当しているみたいだね。

 東区の志道氏は、昔、あの辺りを治めていた一族の子孫に当たる。

 まあ、直系は曾お祖母様の祖母だけだから、どうもその人の叔父の子孫になるみたいだ。

 西区の大山氏は、もとは今の南区辺りにあった領の領主一族の子孫だ。今の西区辺りに昔あった領は全滅して、生き残った人はいなかったみたいだからねえ。

 南区は研究施設や冬期のみ使用するスキー場はあるけれど、常時住む一般の人はいないから、通常の管理は中央区が行っている。

 だから、一応、中央区の区長が南区の区長も兼務という形になっている。

 けれども、会議の時は5人になるように区長代理が出される。選ばれるのは、大体、研究施設の長か領兵部の長となっている(領兵部の施設も南区にあるからだ)。

 後は、ああ、そうそう。会議の場には、財務部の長である財善(ざいぜん)氏もいることが多いよね。

 大体何をするにもお金が関わってくるからねえ。

 この財善氏の家は、代々神代家の金庫番をしていた一族だ。

 お祖母様が、今の(株)KAMISHIROの前身(ぜんしん)となる事務所を作ったときに連れて来て、お金の管理を任せた隠居と若手の2人も、この財善家の者だった。

 だからなのかは知らないけど、今の(株)KAMISHIROにも財善家の人が働いているみたいだよ。

 領政については、とりあえずこれくらいかな。




 「御領主殿、今回のこと、誠に申し訳ございません。

  あの者の処分については、一任いたします。

  それと、あの者を推薦した責任を取り、私も役目を後任に譲ろうと考えております。」


 そう言うと、北区の長をしている神保氏(名は正人(まさと)だ)は領主室を出て行った。

 後は(すべ)て我々に任せるということだろう。


 「彼奴(あやつ)も、なかなかの(たぬき)よのう。

  自分の引退を、区役所の綱紀粛正(こうきしゅくせい)に利用するつもりじゃろう。」


 「はあ、そういうことですか。」


 領政館の最上階にある領主室では、集まってきた資料をもとに、昨夜から警備部で拘束している境出(さかいで)という職員の処分について話し合っていた。

 直接の責任者は、境出が区の職員であるので、北区の長になるのだが・・・。

 その区長が推薦者であるのなら、今回は関わらせられない。

 それが分かっているから、本人も早々(そうそう)にこの部屋から出て行ったのだろう。

 部屋に残っているのは、領主である父さんと私(春樹)、そして北斗と桐葉だ。


 北区の区長が、あの男を推薦することになったのは、彼の奥さんから何回も頼まれたからだった。

 どうも、区長の奥さんを幼い頃から可愛がってくれた従姉(いとこ)の孫になるらしい。

 その従姉の女性には一人娘がいたようだが、高校を卒業すると同時に、父親に反発して家を出て行ったらしい。

 父親は、それまでも自分が認めた人以外との付き合いを禁止したり、娘が選んだ進路に反対したりしていたみたいだから、そうなっても不思議ではない。

 その娘から数十年ぶりに連絡があったそうだ。「助けて欲しい」と。

 それでも、父親の方は「勝手に出て行ったんだから、ほっとけ。」と相手にしなかったようだ。

 その後、他領から娘の死亡の連絡を受け取ることになった。

 あの男は、その娘さんが遺した、たった1人の孫ということらしい。

 娘さんの実家は西区のはずなのに北区での就職を頼んだのは、娘さんの父親が会ったこともない孫に対しても、「息子なら母親ぐらい守れ」と言いそうな人間だからだ。

 あの調子で孫にも言われたら・・・、と心配して北区での就職を頼んできたのだった。


 北区の長である神保正人氏は、筆記試験と面接をして、あの男を採用することにしたが、その際、領主にも報告はしていた。

 だから、我々も知っていたし、寮監長にもしばらく様子を見るよう伝えていたのだ。

 そして、寮生や寮長からの話、他の寮監たちと寮監長からの報告などを受けて、今回の桃香の宿泊研修に会わせて柊を派遣することにしたのだ。

 結果は、この通りだ。

 幸いなことに、実害を(こうむ)ったと言えそうなのは蓮(が変装した人物)ぐらいだった。

 ただ、これはこの領では、ということで、ここに来る前については調査結果を見てからになるだろう。

 いずれにしても、正人氏は責任を取る形で引退するだろう。

 それによって、最近の区役所職員の採用について、一石(いっせき)(とう)じるつもりなのだろう。

 近年、区役所の職員の質が低下したという話をよく耳にするからな。

 原因は分かっている。

 採用に関わる一部の者が、自分の利になるよう動いた結果、適性のない者が採用され、他の人の業務に悪影響を及ぼすことになっている。

 内部の職員からも苦情が寄せられているはずだ。

 別にコネが悪いとは言わないよ。その仕事に就くのに求められる学力と適性があるならば、ね。

 仕事をする上で人脈は大事だからね。

 でも、職場が上手く機能しないようになるのはダメだね。その原因になるような人物を意図的に採用したのであれば、責任は取ってもらわないとね。

 正人氏が今回辞めることで、後任は他の連中にも責任を取らせやすくなるだろう。

 正人氏は数年前からそろそろ引退を、と考えていたから今回のことを上手く使うつもりだろう。



 あの男、境出(さかいで)(たもつ)の過去は・・・(ひど)いものだった。

 他領での調査については、「アッシガ、ヤルッス。」と大吉が協力してくれた。(あるじ)月兎(つきと))のために観劇に連れて行ってもらったお礼らしい。義理堅い(うさぎ)だ。


 境出保の母親は、当時の夫の暴力によって亡くなっていた。

 最初の夫(保の実父)は病気で亡くなっていたので、再婚した2番目の夫だ。

 この夫が、非道(ひど)い男だった。

 最初の夫が、自分の死後も妻子が安心して暮らせるよう(のこ)していた保険金のことを、一体どこから知ったのか、心細く思っていた母親に上手く取り入って再婚すると、保険金だけでなく多くのものを彼女から搾取(さくしゅ)した。

 保険金を自分の遊びで使い切ると、母親を働かせて今度はそのお金を奪った。暴力によって支配し、人としての尊厳も奪った。

 保は母親を奪われ、安全な家も奪われた。

 男は子どもも金儲けに利用した。遊び仲間とともに児童ポルノを撮影して売ったり、小児性愛者に子どもを売ったりしていた。

 小学生になった保は、(みずか)ら薄汚れて見えるようにしたり、髪で顔を隠していたりしていたことから学校でいじめられてもいたようだ。

 その後、継父の遊び仲間から(そそのか)されて、女性からお金を(だま)し取ったり、少女を騙して写真を撮らせたりしていた。


 こんな生活が、龍頭領に来るまで続いていたのか。

 柊が、昨夜の境出の様子を気にしていたようだが、彼が無表情で淡々と対応するのは、誰にも何も期待していないからだろう。

 今まで誰にも助けてもらえなかったから。

 ただ、起こる出来事やその結果を受け入れるしかなかった。

 今度も同じだ。何も変わらない・・・、と。


 資料を読んで、皆黙り込んでいる。

 その時だった。

 桐葉が、急に顔を上げて一点をしばらく凝視した後、話し始めた。


 「すみません、今、蓮から連絡がありました。

  桃香が、『境出の中に小さな男の子が()っちゃく座りこんでるから、カウンセリング受けさせて。もう大分(だいぶ)弱ってるから、急いで。』だそうです。」


 「ふむ。どちらにしてもカウンセリングは必要か?」


 「そうですね。やったがいいでしょう。

  ただ、・・・・・・ 」


 「うん。場合によっては、退行(たいこう)が出るかもしれませんね。」


 「その時はその時だ。

  彼にとっては、そっちの方がいいかもしれん。」


 「そうですね。寮監長が言ってましたよ。

  学校の寮が、小学部から全生徒受け入れ可能になっているのは、親からの虐待があった場合、すぐに子どもを守れること、乳児院までと違って男女で棟が違うから性被害から守れる可能性が増えることも理由だと説明したら、彼、本当に(うらや)ましそうに『ここの子は守られてて幸せですね』って言ってたそうですよ。

  育った環境が違っていたら、彼の状況もきっと違っていたでしょうね。」


 「そうじゃのう。

  桃香もよく『罪を憎んで、人を憎まず』と言っておる。」


 「ただ、その後に必ず、『でも、やったことが確かなら、それに応じた償いはしろ』って言ってますけどね。」


 「確かにのう。」「「確かに。」」


 ハハハッと皆が笑い、重苦しい雰囲気も薄れた。


 「それでは、まず彼にはカウンセリングを受けてもらおう。

  その結果を待って、判断しよう。それまでに新しく出てくることもあるかもしれんからな。」



 領主の言葉で、今日の会合は終わった。

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