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異世界の管理人  作者: 東風
第3章
44/46

44 領地改革


 「もも、こりぇ!こりぇがいいのっ。」


 「ほお、桃香はこれがいいのか?」


 「あいっ。」


 桃香はいくつか並んでいた中から一つを指さした。


 辰雄は桃香を連れて、敏さんの工房を訪ねていた。

 数日前に、敏さんから「見本ができたから時間があるときにでも見に来て欲しい」と連絡があったからだ。

 雷和神社では、10年ごとに式年祭を行う。

 それが今年にあたり、10月に行うことになっている。

 今回の式年祭には狐の縁起物を加えようと考え、敏さんに依頼していたのだ。


 「狐で、ということでしたんで、置物でいくつか作ってみました。

  貯金箱になっているのもあります。

  どれにするか決めていただければ、期日までには必要な分だけ仕上げますよ。」


 「ふむ。どれもよくできているから迷うよ。」

 と、辰雄が見ていると、抱っこしていた桃香が一つを指さして「これっ」と言い出したのだ。

 それは、白い狐が金の稲穂を(くわ)えているものだった。


 「ああ、それは貯金箱になってますよ。

  だが、それだと、実際に作るときは稲穂の感じが少し変わりますね。」


 「感じが変わる?同じにはできないのかい?」


 「ああ、その見本はたまたま近くにあった使いかけの金箔(きんぱく)を稲穂に使ったんですよ。

  実際に作るときには金箔を使わずに、顔料(がんりょう)を使います。」


 「この金の稲穂は金箔なのか・・・、桃香は、これがいいのか?」


 「うんっ。じぇったい、これっ。」


 「そうか。じゃあ敏さん、この狐で頼むよ。」


 「辰さん、何なら顔料使ったのがどんな感じになるかも見てみますか?

  今ならまだ時間もありますし。」


 「うーん・・・いや、いいよ。敏さんに任せるよ。」


 「わかりました。では、これで作ります。

  桃ちゃん、これ持って帰っていいよ。」


 敏さんが見本の狐を桃香に手渡してくれた。

 桃香は両手でぎゅっと握ってニコニコ顔だ。


 「敏さん、いいのかい?」


 「実はこれと同じのはもう一つあるんですよ。

  使いかけの金箔を使い切るために。それに、見本ですからね。」


 「桃香、お礼は?」

 「どうもありあとうごじゃいましゅっ。」


 桃香が狐を握りしめたままペコリと頭を下げた。


 「どういたしまして。いやあ、かわいいですねえ。

  いやね、娘の下の子もこのくらいなんですよ。」


 「おや、そうだったんだね。そういえば2人目が生まれたと聞いたことがあったねえ。」



 そうやって桃香がもらってきた見本の狐の貯金箱は居間に置かれた。

 辰雄が桃香に「貯金箱に入れてごらん」と小銭(こぜに)を渡すと、すぐに桃香は貯金箱に入れてニコニコだった。

 桃香がよく貯金箱を持っては、「おっ、ふえてましゅよ!」とニコニコするのが可愛くて皆が貯金箱に入れるもんだから、貯金箱の中は日々増えていった。


 この狐の貯金箱は式年祭の時だけの限定だったのだが、なぜかお金が貯まると少しずつ評判になったのだった。



 「そういえば、そんなこともあったわねえ。

  桃ちゃんの小銭入れのお金も、いつの間にか増えることもあったしねえ。」


 「ほほっ、あの狐の小銭入れじゃな。」


 「そうよ、それっ。その小銭入れよ。

  桃ちゃんが『あれっ、なんかふえてましゅ。』って首をかしげるのが、もうかわいくって。」


 「はははっ、そんなことがあったのかい。」


 「そうよぉ。ああ、そうね。あれは、桃ちゃんたちが初めて異世界に行った後のことだから、トラは知らないのよね。」


 「ああ。最初に行った時のことを聞いて驚いたよ。

  まさか、そんなに早く行くことになるとは思ってなかったからね。

  念のために、早めに教え始めといてよかったなあ。」


 「ふふっ、桃香は勝手に増えたと思ったお金は自分で使っていませんでしたね。」


 「そうじゃな。『泡銭(あぶくぜに)は有効活用』と言って全部寄付しておったな。

  だから好かれるのだろうよ。」


 「ほう、では、桃香は“そう”なんだね。」


 「多分のう。

  櫻はお金の流れがわかった。梅子は、お金のことは直接はわからなかったが、どれとどれを繋げば良いかがわかり、その結果、利益を生んだ。

  そして、桃香はお金に好かれ、向こうからやって来ておる。

  お金は、自分たちが気持ちいいと思うような使い方をする人のところに集まろうとするからのう。」


 「そういえば、桃ちゃんは、自分の力で(かせ)いでいないお金は泡銭と言ってたわねえ。

  それに『泡銭は身に付かぬ』なら役に立つように使ってやるよ、ってさっさと使い切ってたわねえ・・・?」


 「ほほっ、そうじゃったな。

  お金は水と同じじゃよ。

  流れぬ水は濁って悪臭を放つようにもなる。そうすると、よくないモノが寄ってくる。

  多くの人が触れたお金は、人の念が付いているからのう。そんなモノが同じ場所に留まっていると、その場の運気を下げることもある。

  まあ、桃香の所に集まってきているお金は、桃香に自分たちが気持ちいいように使ってもらいたいから集まってきておるのじゃ。桃香は誰かが喜ぶような使い方をしておるからのう。お金も喜ばれた方が嬉しいのじゃろ。

  桃香は、その願いを叶えておるのじゃよ。無意識のようだがの。」


 「あらあら。それって、桃ちゃんにとってはいいこと・・・・・・なのよねえ?」


 「勿論いいこと、なんじゃないかな。

  必要なときに必要な分、集まるはずだからね。」


 「そうよねえ。」


 「それよりも、今は、この領のことですよ。」


 「ああ、そうだった。」

 「ああ、そうだったわねえ。」


 「優先順位としては、インフラ整備と領民の教育。

  まずはその2点を急いだ方がいいな。」


 「そうだね。

  この世界は、魔法があるのは便利だけれど、逆にそれがあるから発展していない面もあるからね。

  魔力が無いものにとっては生きづらい世の中だよ。」


 「そうよね。

  魔力が無い人は庶民だけでなく、貴族の中にもいるのにね。

  貴族で魔力なしで生まれると、本当に生まれた家によって扱いが天と地ほど違うみたいね。

  屋敷(やしき)の中を魔力がなくても快適に過ごせるようにしてくれる家もある一方で冷遇する家もあると聞いたことがあるわ。」


 「まあ、まずはこの領から始めようか。

  残念だが、僕たちには全ての人を救うことはできないよ。

  できそうな所から始めるしかない。」


 「そうね。

  では、衛生面から改善していくの?」


 「そうだねえ。

  先のことを考えると、上下水道と道路の整備を同時にやっていくかな。」


 「それから、領民の教育よね。

  読み、書き、計算は、やっぱり必要よ。騙されて損をしないためにもね。」


 「うん。そうだね。」


 「ねえ、上下水道には本当にスライムが使えそう?」


 「うん。調べてみたところ使えそうだよ。」


 「桃ちゃんが話すのを聞いたときには『ええっ?』って思ったけれど・・・・・・。

  本当にできそうなのね?」


 「あちらには、日常に魔物なんていなかったから考えもしなかったけれどね。

  こちらでは、貴族は魔法を使うし、庶民は清潔なんてあまり気にしない。毒は知っていても細菌は知らないだろうしね。衛生って言ってもわからないだろうね。

  衛生についての考え方は、あちらでの昔のことを思い出すよね。

  ただ、本当に医療が発達していないから、まずは生活環境の衛生面を整えるのが、病気を予防するためには効果的だね。

  それに、スライムを上手く活用すれば、水を汚さないだけでなく、田畑のためにもよさそうだよ。

  まさか、色で効果が違うとは思ってもいなかったけれどね。」


 「上下水道も道路も、ある程度は魔法で作って、後は領民に任せるの?」


 「ああ、そのつもりだよ。

  今回は、ほとんどを僕たちで作って一部を作ってもらおうと思っているよ。

  作り方を知ってもらわないと、自分たちでできないからね。いずれは、当然メンテナンスも必要になってくるだろう?」


 「そうねえ。

  でも、本当に魔法って便利よね。あっという間にできてしまうわ。

  使える者にとっては・・・だけど。

  使えない者もいるんだから、その場合どうするかまで考えておかないと、やっぱりダメよね。」



 小高(こだか)い場所から辺りを眺めている4人以外、近くに人は見当たらない。

 4人の背後には小屋が建っている。

 1人が手に持つ地図と地形を見ながら工事の手順を確認していく。



 そして、一刻(いっこく)後には、見える範囲の道と上下水道が出来上がっていた。


 「うん。上手くいったみたいだね。

  飲み水もちゃんと出るし、排水の方も大丈夫そうだ。

  それじゃあ、領民を集めて説明したら早速始めようか。」


 「一遍(いっぺん)にやるのは難しいだろう。

  何回かに分けた方がよくはないか?」


 「そうだねえ。

  それでは、4地区ぐらいに分けてやるか。」


 「ふむ。それならいいんじゃないか。」


 「では、それでやっていこう。」



 「ふふっ。それにしても、ここでもまた領地改革することになるとは思わなかったわねえ。」


 「ほほっ、確かにのう。」

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