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ⅩⅧ

最近、学院の女子生徒達の様子がおかしい気がする。


「おはようございます。シヴィル殿下…日に日に女性が増えていますね…」

「おはよう。フリード…学院に着いてからずっとこんな感じだよ」


わたしが学院にいる間は、生け垣や窓の向こう側。壁の死角など、あらゆる場所から女子生徒達がこちらを見ていた。


特にわたしが男性に話しかけると、まわりから黄色い悲鳴が飛び交う。しかしなぜかフリードと話すときは皆静かになるのだが、彼女達の目は何かを期待するかのように()()()()していて怖かった。


「この反応。まるでアニエスのようですね」


フリードにそう言われて、ふと出会った頃のアニエスを思い出す。確かに彼女はわたしとフリードのBLを期待してわたしをつけ回していたが…


「…まさか。そんなことはないと思うけど」

「シヴィル殿下。ちょっとだけ失礼します」


フリードはそう言うと、わたしを突然抱き締めた。


「なっ!?」

「「「「キャーーーッ!」」」」


フリードがわたしを抱き締めた瞬間、まわりの女子生徒達が悲鳴をあげた。後ろにいたオーディは、必死にわたしをフリードから引き剥がそうとしたが、フリードは中々わたしを離さなかった。


「皆は私とシヴィル様のBLを期待しているようですね」


まさかフリードの口からBLの文字が出てくるとは思わなかった。


「…フリード。その言葉の意味知ってるの?」

「聞いてもいないのに、アニエスが教えてくれましたよ」

「そ、そうなんだ」


フリードのこの笑顔を久々に見た気がする。ところで彼はいつまでわたしに抱きついているのだろうか。


「…フリード。そろそろ離してくれる?」

「私はこのままで構いませんよ」


わたしは構わなくないのだが。そんなフリードに隣にいるオーディはイライラしている様子だ。


「フリード様。シヴィル様から離れてください」

「オーディ。君に指図される覚えはないんだけどね」


わたしもこの世界のことはあまりよく分かってはいないが、閣下は王族の次に位が高いらしい。


つまりオーディにとって、フリードやコーネリアは自分よりも高貴な立場であった。二人の間には険悪な空気が流れている。


「二人とも落ち着いて。それよりも何でこんなことになってるのかを探らないと」

「そうですね。シヴィル殿下もこれでは落ち着かないでしょうから…それなら彼女達を」

「…捕まえて聞いてみるか」


先程まで険悪だった二人の意見が一致したようだ。オーディとフリードはまわりの女子生徒にターゲットを移し、逃げ遅れた二人を捕まえてこちらに連れてきた。


「きゃあ!殿下とフリード様がこんなに近くに!」

「最高だわ」


女子生徒二人はわたしとフリードを交互に見てうっとりしている。この反応は本当にアニエスそのものだ。


「何で殿下の後をつけ回してるか、教えてくれるよね?」


フリードがにっこりと笑うと彼女達は頬を染めて頷いた。フリードに襟を鷲掴みにされている状態だというのに、二人はフリードが恐くないのだろうか?


「実は今、殿下とフリード様を思わせるその…恋愛小説の本が流行っているんです」


わたしとフリードを思わせる恋愛小説が流行ってる?一体どういうことなのだろうか?とにかくその本を見れば何か分かるかも知れないと思い、わたしは彼女に聞いてみた。


「…その本を見せてくれる?」

「それが、最近図書室に入ってきたばかりの本なので一冊しかないんです。しかもなぜかお店にはその本は置いていなくて。皆、順番待ちしているところです」


図書室に置いてある本なのに、お店にないというのはどういうことだろう?魔導書のような貴重な本ならともかく、恋愛小説となれば普通に売られていてもおかしくはないと思うのだが。


「今は誰が借りているか分かる?」

「今は…誰だったかしら」

「確かリーナよ」



「オーディ。本を読む時くらい離して欲しいんだけど」

「嫌です。今日はフリードに貴女を盗られましたし。こうして二人きりになることなんて少ないのですから」


あの後リーナから本を借りたわたしは、学院が終わると早々に城に帰った。


本を読もうと部屋のソファーに座ろうとすると、一緒にいたオーディがわたしを抱き上げ、自分の膝の上に乗せた。今のわたしは、後ろから彼に抱き締められている状態になっている。


とりあえず抵抗しても無駄のようなので、わたしは諦めて再び本に目を向けた。受け取ったときにも表紙を確認したのだが、この本にはなぜか題名が書いていなかった。


本の主要人物は、カトブレハス国の王子シヴァル。閣下令息のフリート。魔法騎士団長のオーティン。で、王子を巡る三角関係が書かれていた。もちろん全員男である。


それにしてもこの名前はアウトだろう。これを読んだ誰もがわたしとフリードとオーディを連想する。


「なんで俺が相手じゃないんだ…」


突っ込むべきところはそこではないとは思うが。いつもは常識のあるはずのオーディも、わたしのことになると時々方向性がおかしい。


とりあえずそのまま読み進めてみたのだが、この本の内容は…とにかく凄かった。


最初は、王子に一目惚れをした閣下令息が、淡い恋心を抱いているという内容だったのだが、中盤以降になると、その想いがどんどん歪んでいき、最終的には、閣下令息が盗賊を雇って王子を誘拐し監禁する話になっていた。


しかも閣下令息は、監禁した王子に毎日○○○(ピー)をしたり○○○○○(ピー)をしていた。


残りの数ページを残し、わたしはそっと本を閉じた。


「これは…酷いですね」


オーディもこの内容には驚いたようだ。彼の顔はひきつっていた。


「この本…出版されていたら怖いんだけど」

「彼女達も店にはないと言っていましたから、それはないとは思いますが…問題は誰が書いたものかですよね」

「まさか…アニエスとか?」

「…有り得ますね」


この本は店で売っているものと同じくらい、しっかりした作りをしている。本の内容もアニエス好みであるし、なにより有名な大商人の娘である彼女なら本の1つや2つ簡単に作れそうである。


「ちょっと…アニエスのところに行ってくる」

「その方が…よさそうですね」


わたしは本を片手に、アニエスの家に向けて転移魔法を使った。



「シヴィル殿下!?」


直接アニエスの部屋に転移すると、彼女はわたしを見るなり顔を青くさせた。どうやらコーネリアも一緒にいたようで、わたしが来たことに驚いた様子だ。


「アニエス。君に聞きたいことがあるんだけど」

「も、もしかして。本のことですか?」


やはりこの本はアニエスが関係していたようだ。わたしが頷くと、アニエスは頭を床にこすりつけて「すみません!!」と謝った。いわゆる土下座というものだ。


アニエスが言うには、先月趣味で書いていた本を図書室に落としてしまったらしく、気付いて取りに戻ったときはどこにもなかったらしい。


それが最近になって突然、学院の女子生徒達がわたし達をつけはじめたので、おかしいと思ったアニエスが女子生徒に聞き、その本が学院に出回っていたことを知ったようだ。


「それでアニエス。まさかこの本、出版はしていないよね?」

「そ、それはさすがに」


とにかくこの本は学院内にだけ広まっていることを知って安心した。とは言っても、学院ではすでに変な噂が流れてしまっているので、居づらいことには変わりはないが。


「趣味で書いて作ったものが、まさかここまで騒ぎになるとは思わなくて…ごめんなさい」


アニエスもこのことは想像していなかったようで、だいぶ落ち込んでいた。


「もういいよアニエス。でもこの本は家の中だけで読んでね」

「シヴィル殿下…」


アニエスに本を返すと、彼女は目をうるうるさせて、わたしに抱きついてきた。


「シヴィル殿下。ちょっとよろしいですか?」


アニエスに泣いて抱きつかれている状態のわたしに、突然コーネリアが話しかけてきた。そういえばコーネリアもいたことを忘れていた。わたしはキョトンとして彼女を見た。


「オーディと付き合い始めたと聞きましたが…彼と結婚されるのですか?」


この状態でその質問をされることに驚いたが、コーネリアは一応わたしとオーディを結びつけることに協力してくれたし、わたしは正直に答えた。


「わたしも自分の気持ちに気付いたばかりで…まだ結婚まで気持ちが追い付いていないのが本音だけど」

「オーディとの仲を協力したのは私ですが、それならもう少し考えてみては?シヴィル殿下でしたら、もっと相応しい相手がいらっしゃると思いますよ」

「そうですよ!フリード様とか!」

「アニエスあなた黙っててくれる?」


アニエスは立ち直りが早かった。わたしに抱きついて泣いていたはずの彼女は、いつの間にか泣き止んでコーネリアの隣に立っていた。


しかしあんなに協力的だったコーネリアが突然なぜこんなことを言うのだろうか。


「コーネリア。わたしは他の人とは考えられないよ」

「オーディのどこがいいのですか?オーディはシヴィル殿下のタイプとはほど遠いですよね?」


確かにオーディは筋肉はあるものの、細くてスラッとしたモデルのような体型をしていて、わたしのタイプとはかけ離れている。


「…オーディはわたしが困ったときに必ずわたしの欲しい言葉をかけてくれるし」

「確かに…オーディは相手の気持ちを汲み取るのが上手かったですね」

「それに、わたしのことを本当に大切に思ってくれていると思えたのはオーディだけだったんだ」

「…そうですね。オーディならシヴィル殿下を泣かせることもなさそうです」


コーネリアも昔からオーディと一緒にいるため、彼の良いところを彼女もよく知っていた。それなら彼女はなぜわたしをオーディから引き離そうとするのか。


「やっぱり…コーネリアはオーディのこと」

「絶対にありません!」

「違いますよシヴィル殿下!コーネリアは夏休みの殿下の恋人探しを楽しみにしていたんです。それが出来なくなって拗ねているんですよ!」

「ちょっと!アニエス」


成る程と納得した。わたしが街へ行くためのドレスの仕立ても、コーネリアが一番張り切っていた気がする。


「恋人探しはなくなったけど、ドレスもせっかく仕立てて貰ったし、夏休みは三人でどこかに行こうか?」

「は、はい!」

「やったぁ!」


とりあえずコーネリアの機嫌は治ったのだろうか?アニエスはもう少し落ち込んだ方がいいような気もするが。


とにかくもうすぐ夏休みに入る。最近はアニエスの本騒ぎで気持ちが休まらなかったので、これがいい気分転換になればいいと思った。

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