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ⅩⅨ

「うわぁー!素敵」

「本当にすごいわね…」


わたしは今エルフの里に来ている。エルフの里はキュクレイが言っていた通り、山岳地帯の深い森の中にあった。


エルフの住むこの森の中は、大きな木々が立ち並び、空からは雪のような不思議な粉が降り注いでいた。その粉は虹色にキラキラ光輝いていて、アニエスの言っていたようにこの里は本当に幻想的な場所だった。


その大きな木々の中でもひときわ目立つ巨大な大樹の枝に、エルフ達の住む家が建てられていて、大樹にはまわりには、大きな葉っぱの螺旋階段があった。よくよく見るとその葉っぱは木から生えているわけではなく浮いている。この葉っぱは魔法がかけられているのだろうか。


「これ乗っても落ちないの?」

「えぇ。大丈夫ですよ」


わたしを城まで迎えに来たエルフは、何ともないようにその葉っぱに乗った。大の大人が乗ったというのに、葉っぱはびくともせず、宙に浮いたままだ。


不安そうにしていたコーネリアも、それを見て安心したようだ。彼女は戸惑うことなく、葉っぱの螺旋階段を上っていった。アニエスは器用にもスキップしながら上っていく。


「シヴィル様。大丈夫ですか?」

「…正直言うと帰りたい」


足取りの重くなっているわたしを、オーディが心配して声をかけてきた。これからわたしは例のエルフの王子に会うのだ。


わたしがなぜエルフの王子に会うことになったのかは、夏休み一日目の今朝にまで遡る。



「おはようございますシヴィル殿下!」

「おはようございます!その服殿下に良く似合っていますね!」

「二人ともおはよう。アニエスありがとう。コーネリアはセンスがいいよね」


今日から学院の夏休みに入った。

わたしは仕立てて貰ったワンピースを着て、コーネリアとアニエスの三人で…といってもオーディもいるが、約束通り皆で出掛けるため、城の門の前に集まっていた。


「それでどこへ行こうか?」

「私は当初の目的通り、殿下の第二の恋人探しに行きたいですわ」

「…コーネリア。俺がいること忘れてないよな?」

「あ、オーディ様いたんですね!私気付きませんでした!」


アニエスはオーディがいたことに本当に気付かなかったらしい。彼女の言葉にオーディは落ち込んだようだ。わたしは励ますように、そっとオーディの肩を叩いた。


「ところでシヴィル殿下。あちらから馬車が来ましたが…今日はどなたかいらっしゃる日だったのですか?」

「え?父上も母上もそんなことは一言も言ってなかったけど…」


コーネリアの指す方を見れば、確かに馬車が城に向かって来ていた。馬車はわたし達のいる門の前に止まると、一人の男性がその馬車から降りてきた。


「あなたがシヴィル様ですか?」


降りてきた男性の姿は人間と全く変わらなかったのだが、ただ彼の耳だけは長く尖っていた。もしかしたら彼はエルフだろうか。


どうやら男性はオーディをわたしだと思ったようだ。女性のわたしとコーネリアとアニエスには脇目も振らずに彼はオーディの元に行った。


「俺は違う」

「それではシヴィル様はどちらへ?」


男性はまわりをキョロキョロと見回している。何か嫌な予感がするのでこのまま知らぬ顔をしようと思ったときだった。


「この方がシヴィル殿下です!」

「え。シヴィル殿下は男性だと伺っておりましたが」


アニエスがそう言ってわたしを指した。男性はわたしを見て驚いていた。やはりこの男性はエルフのようだ。わたしのことを知っているということは、彼はきっとエルフの里から来たのだろう。


「まさか女装趣味があったとは知りませんでした。…申し遅れましたが、私はエルフの王子の従者のクシャタと言います。本日はシヴィル殿下をエルフの里にお招きしろとの王子の命にて参上致しました」


やはり彼はエルフの里の者だった。どうやらわたしはまた誤解されたようだ。しかし手紙に「王子」と出した手前、わたしは本当のことは言えなかった。


それにしても…わたしはエルフの里に行くことを確かに断ったはずだ。彼はなぜわたしを迎えに来たのだろうか。


「以前失礼なことをしてしまったお詫びをしたいと王子は思っております。なんでしたら、皆様も一緒に来て頂いて構いません」

「えっ!エルフの里に行けるの!?行きたいッ!」

「私も…行ってみたいわ」


コーネリアとアニエスの期待に満ちた眼差しにわたしは断れなかった。彼女達も一緒にいるならと、彼の言葉にわたしは頷いてしまった。



葉っぱの螺旋階段を登りきると、大樹の頂上には小さめの城が建っていた。しかし木の上に城が建っているというのは、なんとも不思議な光景だった。


「カトレバス国のシヴィル様をお連れ致しました」

「クシャタか待ちかねたよ」


城のエントランスには…10歳くらいだろうか?プラチナブロンドの可愛らしいエルフの少年が待ち構えていた。


「はじめまして。僕が王子のラフィムです」

「ショタ王子キター…モガッ」

「アニエス。失礼でしょう」


まさかエルフの王子がこんなに若いとは思わなかった。キュクレイから聞く限り良いイメージはなかったが、見た感じは温厚で、真面目そうな好青年ならぬ…好少年だった。


しかしムウラ王妃はこんな若い少年とわたしを結婚させようとしていたとは…あの時断りの手紙を書いて本当によかったと思った。


ラフィムはクシャタと同じく、オーディをわたしと勘違いしたようだ。彼は一目散にオーディに挨拶に行った。


「王子。シヴィル様はこちらの女装をしているお方です」

「…女装」


ラフィムはオーディからわたしに目を向けると、値踏みするかのようにわたしを見た。彼にわたしは女装してるわけでなく、女性だと言いたい。


「うん。有りかもね」

「えっ!ラフィ×シヴィってこと!私も有りだと…モガッ」


アニエスがまたコーネリアに口を塞がれている。何が有りなのか分からないが、とにかくわたしはラフィムに会釈をした。


「はじめましてラフィム王子。本日は友人共々お招き頂きありがとうございます」

「シヴィル様。僕のことは友人だと思って、どうぞ普段通りの話し方をしてください」


初対面で友人だと思うのは難しいのだが…断る理由もない。わたしは言われた通りに彼に話しかけた。


「ラフィム王子がそれでよければ」

「王子もいらないよ。ラフィムで。僕もシヴィルって呼ぶから」


そう言うとラフィムはわたしの手を取り、エントランス正面に見える奥の部屋へ、わたしを引っ張っていった。


「クシャタ。僕はシヴィルと話しているから、シヴィルの友人達をお願い!」

「かしこまりました」

「なっ!どういうことだ」

「そうよ!ラフィ×シヴィが見られないわ!」

「アニエス…あなたそればっかりね」


ラフィムの言葉にオーディと…一応アニエスが不満の声をあげた。わたしも皆と一緒にいるものだと思っていた為、驚いてラフィムを見た。


「大丈夫。ちょっと二人で話がしたいだけだから。終わったらすぐに会えるよ」



「…あの鳥かごは何?」

「遠くからわざわざ来てくれたんだ。立ち話も何だし座って」


部屋に入ってすぐ目についたのは、部屋の隅にある巨大な鳥かごだった。中には何もいなかったが、以前大きな鳥でも飼っていたのだろうか?


ラフィムはわたしの質問に答えることもなく、わたしの手をそのままの引くと、部屋にあったソファーに座らせた。


「…それで二人で話って?」


とりあえず鳥かごは気にしないようにして、わたしはラフィムに二人きりになった理由を尋ねた。


「クシャタから聞いていたと思うけど、今日はこの前のお詫びをしたくてシヴィルを招いたんだ。けど気が変わった」

「どういうこと?」

「僕はやっぱり君と結婚したい!」

「は?!」


この王子は一体何を言い出すのだろう。それに彼はわたしのことを男だと思っているはずだ。王子であるラフィムは、跡継ぎを作らなくてはならない。それはどうするつもりなのだろうか。


「あ、跡継ぎは…」

「シヴィルが嫌じゃなければ、妾を作るよ」

「悪いけど。わたしはラフィムとは結婚出来ない」


こんな少年から妾という言葉が出たのは驚いたが、曖昧に断ってもラフィムには通用しなさそうだと思い、わたしは率直に断った。


「…本当は手荒な真似はしたくなかったんだけど」

「!?」


気付くとわたしは先程の鳥かごの中にいた。まさか人を入れるためのものだったとは思わなかった。どうやらラフィムはわたしに転移魔法を使ったようだ。


「ラフィム。突然何を」

「考えが変わるまでそこに入っててもらうよ」


にっこりと頬笑むラフィムに恐怖を覚え、わたしはすぐに転移魔法で鳥かごから抜け出そうとした。しかし不思議なことに、わたしは魔法が使えなくなっていた。


「さっき手をつないだときに魔力封印の魔法をかけておいたんだ。封印が解けるまで魔法は使えないよ」

「な!?」


どうやらラフィムはわたしが魔法を使えることを知っていて、先手を打っていたようだ。子供だと思い油断していたが、彼はかなり頭がきれる。


「昔そのかごを使ってよく遊んでたんだけど、彼にはいつも逃げられちゃうんだよね」


ラフィムが言っているのはキュクレイのことだろうか?キュクレイが逃げ出せたのなら、わたしもここから出ることが出来るかもしれない。それにしても彼はキュクレイの言っていた通りの性格のようだ。キュクレイがラフィムを嫌っていた理由も今なら理解できる。


とりあえずこのまま彼の様子を見て、わたしは逃げ出す機会をうかがおうと思った。

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