ⅩⅦ
わたしは今、コーネリアとアニエスの三人で商人街にある仕立て屋に来ている。
「ティリア様!このくらいの丈にしましょう!」
ティリアというのは…もちろんわたしのことである。
アニエスはそう言いながら、白のサテン生地をわたしの膝上10センチにあてた。
「ちょっと…短すぎるんじゃ…」
「そうよアニエス。気持ちは分かるけど…膝上丈のドレスなんて着てたら痴女だと思われるわ。シ…ティリア様はもっと気品のある長めの丈にしましょう」
「えー。絶対似合うと思ったのに」
この世界の女性の服はくるぶしが隠れるくらいの、マキシワンピースのようなものが多く、短くても膝下丈というのが一般的だった。
「丈は…足首辺りにして頂けるかしら。あとはこのドレスに合わせて、ストールも仕立ててもらえる?」
「かしこまりました」
むくれるアニエスを無視し、コーネリアは店主に話しかける。
とりあえずアニエスの言っていた膝上10センチのワンピースにならなくて良かったと思った。
服の仕立てには最低3日はかかるとのことなので、わたし達は仕立て屋を出て、馬車に乗った。向かう先は商人街で有名だというカフェだ。今日の一番の目的はこのカフェのシフォンケーキだった。
「コーネリアとアニエスはドレスを仕立てなくてよかったの?」
「私とアニエスは街用のシンプルなドレスがありますので。ティリア様のドレスは、ムウ…お母様のものですから。あまり高価なドレスですと、平民街へ行ったときに目立ってしまいますわ」
「ルドラのお母さんはそれで目をつけられましたからね!」
そういえば昔、ルドラ親子が盗賊に襲われたことがあった。
確かにそのときのヒルテのドレスは、ドレスの裾に宝石類が散りばめられている高価そうなドレスを着ていた記憶がある。
「あの盗賊は金品目的だったんだね」
「それもありますが、ヒルテ様は容姿も目立っていましたから。盗賊の誘拐の目的はヒルテ様を自分の妾にしようとしていたんですよ」
「なるほど…ね」
「でもティリア様はメイン攻略者だけあって、美人ですからね!質素なドレスでも狙われちゃいそうです」
「…そうね」
アニエスが身も蓋もないことを言うと、コーネリアはわたしをチラリと見て頷いた。それならやはりムウラ王妃のドレスでもよかったのではないだろうかと思った。
「到着致しました」
馬車が止まると、御者が声をかけてきた。どうやら目的のカフェについたようだ。
「それじゃあ行こう!」
カフェは本当に人気のようで、店の外まで行列が出来ていた。デザートが有名なカフェというだけあって、客は全員女性だった。アニエスは列には脇目も振らず、わたし達を連れて店内へ入っていった。
「これはアニエスお嬢様。お待ちしておりました」
店内に入ると、店主らしき男性が声をかけてきた。どうやら彼はアニエスと知り合いのようだ。
「奥の席取っておいてくれた?」
「はい。こちらへどうぞ」
案内をされる間にわたしもコーネリアも店の中を見回す。カフェというからもっと洋風なイメージをしていたのだが、ここは日本の茶店のような作りをしていた。
「これって…」
「まさかとは思ったけど…」
彼に案内されたのは、なんと畳の個室だった。驚いてるわたし達を見て、アニエスは満足そうに笑っている。
「驚きましたか?実は畳の個室を作って貰ったんですよ!」
「作って貰ったって…どういうこと?」
「ティリア様。ここは私のお店なんです!」
「そういえばあなた商人の娘だったわね。すっかり忘れていたわ」
アニエスが言うには、彼女の父は有名な大商人で、ここはアニエスがその父に出資してもらって建てた店らしい。つまりこの店の店主はアニエスということだった。
「やっぱり畳っていいよね。ずっと靴履いてると疲れちゃう」
「うーん。確かにね。ドレスを着てなければ横になりたいわ」
ふと、オーディもここにいたら喜んだだろうか?と考えてしまった。彼とはあれからあまり会話もなく、今日も彼に黙って出掛けてしまっている。
「もしかしてオーディのこと考えていますか?」
「え…」
「オーディ様?そろそろ来るんじゃないですか?」
「「は!?」」
コーネリアに図星をつかれドキリとしたのも束の間、アニエスが驚くべきことを言った。
「ちょっとアニエス。オーディが来るってどういうこと?」
「昨日オーディ様に今日の行き先を聞かれたので、ついでにオーディ様もお店に誘っておきました」
「…店の外を見てくるわ」
どうやら今回のオーディは先手を打っていたようだ。
そう言うとコーネリアは畳から立ち上がった。おそらくオーディが店の外にいると思ったのだろう。
しかし彼女は足が痺れていたようで、生まれたての小鹿のように足がガクガクさせていた。アニエスは面白がって、そんなコーネリアの足をつついている。
「…コーネリア。わたしが行ってくるよ」
足の痺れをつつかれて悶えるコーネリアを見かねて、わたしは店の外へ出た。店から出てまわりを見渡すと、すぐに赤い髪の彼が目についた。彼は店の向かいにある植込み付近に立っていた。
「オーディ。お店に入ったら?」
「いえ。俺はここにいますので、シヴィル様はごゆっくりなさって下さい」
オーディに話しかけたが、結婚話が出てから彼はずっと素っ気なく、わたしを避けてるようにしてならなかった。
「オーディはわたしが嫌いなの?」
わたしはそんなオーディにムッとして聞いてみた。しかしオーディは首を横に振って答えた。
「俺の気持ちはあの時のままです…だから俺は…」
「それなら避けなくても。そんなにわたしとの結婚が嫌?」
「は!?」
気持ちは変わらないと言った彼だったが、行動は矛盾している。わたしはイライラしているというのに、そんなわたしを無視するかのように彼は驚いた顔をしてこちらを見ていた。
「えっ!?シヴィル様はエルフの王子と結婚されるのではないのですか?」
オーディの言葉に今度はわたしが驚いた。
「エルフの王子の縁談はもう無くなったけど…母上から聞いてはいないの?」
「いえ。俺はシヴィル様が好きな人と結婚するということしか」
なぜわたしの好きな人が会ったこともないエルフの王子なのかは分からないが。…つまりわたしがオーディを好きだと言うことを彼は知らなかったようだ。
「ということは、シヴィル様の好きな人というのは…お、俺ということですか?」
オーディは信じられないという表情を浮かべていたが、わたしが頷くのを見ると、彼は本当に嬉しそうに笑って、わたしを抱き締めた。
「まさか…そんな。本当に夢のようです。貴女をまた抱き締めることが出来るなんて」
またというのは、書庫でオーディに抱きつかれて寝てしまった時のことだろう。オーディはよほど嬉しかったのか、抱き締めている手に更に力がこめられていく、正直苦しいので離して欲しい。
「中々戻ってこないと思ったら」
「オディ×シヴィもいいですよね!」
そういえばここはカフェの前だった。わたしとオーディが抱き合う姿に、並んでいた女性達がキャーキャーと叫んでいた。すぐ目の前にはコーネリアとアニエスが並んでこちらを見ていた。
「オーディ。あなたころころ気持ちが変わるなんて最低ね」
「ち、違う。俺は勘違いしてただけだ」
事情の知らないコーネリアは、オーディを軽蔑した目差しで見ている。オーディは必死にフォローしているようだ。
「ティリア様!シフォンケーキが来ましたよ!戻って食べましょう」
「そ、そうだね」
とりあえずわたし達は、再びカフェの奥の個室に向かった。




