高卒だけど、頭は良いんだぞ
私は、約束の時間に少しだけ遅れてしまった。
ちゃんと時間には家を出たんだよ?
電車遅延って、なんなん?
私は、赤い鉄製のドアの前に立って、深呼吸する。
大丈夫、怒られるのは慣れてる。
ピンポーン
ドアが開く。
「すいません、遅れました。」
私は即座に謝った。
結局、これが一番なんだよね。
「大丈夫ですよ、まだまだ時間はありますからな。」
おじいちゃん怒ってなかった。
なんだ、謝って損した。
早く言えよな。
玄関の脇で、ジャッキーが寝そべってた。
「どしたん、ジャッキー。」
ジャッキーは困り顔で、小さく尻尾を振った。
「においが苦手みたいですな。」
「におい?」
「まあ、とりあえず木暮さんも中に来てください。」
私は、おじいちゃんの後からリビングに入った。
その時、お花畑みたいな匂いがした。
美人でもいるのかな?
おじさんが増えてただけだった。
誰?
「誰?」
「岡部純平です。」
おじさんが律儀に名前を答えた。
「木暮真奈です。」
私はちゃんと頭を下げて自己紹介した。
どう?
意外とちゃんとしてるでしょ?
みんなを見るけど、特に何も言われない。
ちゃんと褒めろよな。
「純ちゃんって、呼んでね。」
「……岡部さんはなんなんですか?」
「純ちゃんはねぇ、元刑事さん。」
「へぇ、辞めたんですね。」
「辞めたってか、辞めさせられたのよ。嫌〜になっちゃう。」
「ああ、負けたからだ。」
岡部さん、急に暗い顔になったんだけど。
検事の時みたいに、そんなんで辞めたらとか言うんじゃないの?
え、当たってたの?
「まあ元気だせよ。」
「うん。」
『うん』って何だよ、『はい』だろ。
いい年した大人がちゃんと喋れないのかよ。
なんなん、その口調?
ウケ狙いか?
検事とおじいちゃんを交互に見るけど、特に何も言わない。
検事は完全に無表情だ。
なんなん、この状況?
「三席、こんなことして大丈夫なんでしょうか。」
岡部さんが、神妙な顔でおじいちゃんに言う。
「さんせき?何?名前?おじいちゃん、さんせきさんって言うの?」
私は思わず聞いてしまった。
横から検事が教えてくれる。
「三席だよ。主席、次席、三席。の三席。」
「ああ、三席ね。」
で、どこの三席?
弁護士にも試験とかあるの?
みんなを見るけど、誰も教えてくれない。
なんなん、こいつら。
教えないのが流行ってんの?
教えてくれればちゃんとできるぞ?
高卒だけど、頭は良いんだぞ。
「岡部さん。あなたにはもうあとはないですよな。」
「……はい」
「まあ、今後の生活費は保証しますから安心しなさいな。」
「助かります。」
「あ、私のお給料っていくらですか。」
お金の話が出たので、私はすかさず聞いてみた。
まだ、事務員のお給料を教えてもらえてないんだよね。
おじいちゃん、ちょっと驚いた顔してた。
なんでだよ。
働くんだぞ?
労働条件聞くのは当たり前だろ?
「そうですな。今までは、いくらでしたかな?」
「……22です。」
「じゃあそれで。」
「あ、あの……」
「なんですかな?」
「もう少しだけ上げてくれませんか?」
一瞬、変な空気になる。
失敗したかな、と思ったけど、途端にみんなが大笑いした。
なんなん?
「では、ジャッキーのお世話もしていただいて、25ではどうですかな。」
「え、ジャッキーの世話していいの?やったー」
みんなが、また笑ってる。
なんなん?
教えなさいよ。
聞けば分かるわよ?
高卒だけど、頭は良いんだぞ。




