論告の裏で
俺は、被告人に視線を送った。
本当に良いのか。
このまま、終わっちまうぞ。
お前、本当はやってないんだろ。
被告人は、何も反応しない。
あの時、笑ったのは何だったんだ。
俺は、内ポケットの中身を、ジャケットの上からそっと撫でた。
封筒が入っている。
なんで俺は検察官席に座ってんだ。
俺は、資料を読めば読むほど、この被告人に肩入れしていた。
こんな起訴自体が間違ってる。
ピーナッツパンを食べてただけで、捕まってたまるか。
逮捕した所轄の署長がキャリアだから?
起訴した検察官が検事総長の甥だから?
ふざけんなよ!
俺は、求刑が終わったあと、冷静なフリをしながら、怒りに燃えていた。
無罪になってくれよ。
俺は、それを見届けたい。
最終弁論に、一番心をうたれていたのは、たぶん俺だろう。
それからーー
判決ーー
検察内部は騒いでいた。
俺は公判部長の机に向かって歩いていった。
内ポケットから封筒を取り出す。
部長はしばし無言だった。
「……まあ、お前だけの責任ではないがな。」
「自分で決めました。私に、検察官の職は向きません。」
「そうか。残念だ。」
残念だと言った部長の顔は、全く残念そうではない。
俺に責任を押し付けて、自分の保身をはかるのだろう。
あとで歯軋りすればいい。
俺は、電車に乗って、品川駅に向かった。
品川駅からタクシーで行く。
着いた先は、5階建てマンション。
俺は、気がつくと900円の領収書を貰っていた。
もう出す相手もいないのに、癖とはおそろしいものだ。
俺はマンションに入っていく。
昔ながらのマンションはオートロックではない。
エレベーターに乗って、2階で降りる。
赤く塗られた鉄製のドアが厳かに俺を出迎えた。
俺は意を決してチャイムを押す。
ピンポーン




