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「異議ありですな。」

私が裁判所を出る時には、あたりは薄暗くなっていた。

私はのんびりと帰路についた。

品川駅に着く時には、すっかり暗くなっている。

事務所を兼ねた自宅までは、徒歩で15分かかる。

私は、健康のために歩くことにしている。

途中で、いつものコンビニに寄る。

買う物は決まっている。

ワンカップ酒、きゅうりの漬物、缶詰をひとつだ。

それ以外は買わない。

レジに並んだとき、ふと思った。


「ありがとうございました。」


生まれて初めて『唐揚げちゃん』を買ってしまった。

特に意味はない。

案外、彼女もこうだったのかもしれん。

だがしかし、買ったはいいが食べられるのでしょうかね。

揚げ物を買ったのは、遥か昔のことだった。


ぼんやりと考えごとをしながら歩くと、すぐにマンションに着く。

5階建ての小ぶりなマンションだ。

部屋は2階、健康のために階段を使う。


赤く塗られた鉄製のドアが、ひんやりと佇んでいる。


ガチャ


重たいドアを開けると、蝶番が軋む音がする。

この前、油を差したばかりだというのに、また差さないといけないようだ。


「ただいま。」


私は声をかける。

返事をする人はいない。


1匹の老犬が、のそのそと奥から出てくる。

特に、鳴くでも、懐くでもなく、ただゆっくりと出てくるのだ。


私は靴を下駄箱にしまった。


リビングの椅子に座る私の足元に、ジャッキーが寝そべった。

私が買ったものをテーブルに並べると、ようやくジャッキーが一声だけ鳴く。


ワフッ


私はジャッキーの皿に、缶詰を開けてあげた。

ジャッキーは、喜ぶのでも、がっつくのでもなく、のそのそと餌を食べる。


私はそれを微笑みを浮かべながら見ていた。

私は、今はただのおじいちゃんだ。


つけっぱなしにしていたリビングのテレビでは、ピーナッツパン事件の続報が流れている。

検察は控訴を決めたらしい。

私は小さなため息を吐いた。


「……異議ありですな」


私はワンカップ酒をちびちびと呑みながら、書類に視線を落とす。

何枚か読み進めてから、書類をテーブルに放り投げた。


「ま、私が検察でも控訴しますわな。」


これだけ事実認定しながら、有形力だけ認めないというのもおかしな話だ。

検察も詰めが甘い。

まだ、若い検事ならではの真っ直ぐな戦い方だった。

染まってないですね。

良いことなのですがな。


「……やってますね」


私は小さく呟いた。


ワフッ


内容を理解しているのか、ジャッキーが小さく鳴いた。


「どう有罪をとるかですよな。」


ワフッ


「そうでしたな、今は弁護人でしたな。癖が抜けないもんですな。」


ジャッキーが静かになったのを見てから、私はこっそり考える。


木暮真奈共犯説が一番でしょうな。

争点を有罪無罪ではなく、複数犯単独犯にまで引き上げれば、なんとか戦えるでしょうな。


ワフッ


私の心を見透かしたようにジャッキーが鳴いた。


「分かってますよ、ジャッキー。今は弁護人、木暮さんを先にこちらに引き込みませんとね。」


ワフッワフッワフッ


ジャッキーを見ると、餌が空になっていた。


「なんだ餌でしたか。」


私が餌を入れてやると、ジャッキーはもそもそと食べはじめる。


とてもかわいい犬ですな。


ピンポーン


おや?誰でしょうかね

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