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女性部隊の専属治癒士-田舎から引き抜かれた若き治癒士は女軍人たちの身体を癒す―  作者: アレセイア
第二章

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第5話

 オーロック城砦はクローデット王国の北方に位置する城砦だ。

 周囲は山や森に囲まれており、通っている街道もわずか。つまりは辺境の片田舎だが、過去はこの付近が今は亡き隣国との国境であった。城砦はその隣国との戦いのために築かれたものである。

 当時、築城の名手と呼ばれた将軍が指揮して作っただけあり、その造りは堅牢。数多の攻撃を退け続け、百年以上経った今も現役。魔王戦役の際は拠点としても活用されたほどだ。そして今は、女性を中心とする第七特務大隊が駐屯している。


 その日、そのオーロック城砦の門前で女軍人――レイリア・ウェイカーはそわそわしながら立っていた。軍服の襟を正しながら、何度も空を見上げて日の位置を確認して時間を確かめる。その落ち着きのない様子に隣に立つ副長がため息をこぼす。


「そんなに落ち着かないなら、部屋で待っていたらいかがですか? 時間通りに来るとも限りません」

「いや、待つ――私が招致したのだ。私自ら出迎えねば」


 レイリアは頑なにそう言いながら自分の右肩に触れ、ほう、と小さくため息をこぼす。それは任務から帰還したレイリアの最近の癖だった。

 やれやれ、と副長は肩を竦めていると、レイリアがぴくりと身を震わせた。


「――来たか」


 その言葉を裏付けるように、どこからか馬蹄と車輪の音が響き渡る。視線を先に向ければ、道の向こうから一台の馬車がゆっくりと近づきつつあった。

 レイリアは今一度、軍服の襟を正し、髪を撫でつけながら副長を振り返る。


「どうだ。髪や服は――」

「問題ありません。隊長。胸を張ってください」

「そ、そうか――よし」


 背筋を伸ばしてレイリアは馬車が目の前に止まるまで待つ。やがて女兵士が御者を務める馬車は門前で止まり、彼女はレイリアに対して敬礼する。


「定刻通りだな。ご苦労」


 敬礼を返し、レイリアは鷹揚に答えると、女兵士は身軽に御者台から降りた。それから扉を開けば、中からゆっくりと一人の青年が姿を現した。

 その姿にレイリアは表情を緩め、敬礼して見せる。


「ようこそ、アラン殿――招致に応えていただき、感謝している」

「こちらこそ、まさか呼んでいただけるとは思いませんでした」


 そう答えた青年はレイリアを見つめ返すと、微笑んで敬礼を返した。


「アラン・クラシック――レイリアさんの要請に従い、参上しました」


   ◇


(まさか、僕が軍癒――軍の治癒士として招致されるとは)


 オーロック城砦に辿り着いたアランは思わず苦笑をこぼしていた。

 招致の手紙が届いたのは、二週間前――第七特務大隊の兵士が直接、アランに手紙を持ってきてくれたのである。

 そこには懇切丁寧に、治癒士のアランを求めるレイリアの心境が記されていた。そして最後には彼を気遣うような言葉まで添えられていた。


『無論ではあるが、これは命令ではない。つまり、強制するわけでもないし、これを断ったところで何か不利になることはない。よく考えて決断して欲しい』


 その手紙をアランは何度も読み返し、何度も悩んだ。

 エーミールを始め、村人たちとも相談し、その日の翌日には結論を出して返事を使者の兵士に託した――答えは、招致に応じるというもの。

 そして、その返事に基づいてレイリアは迎えの馬車を寄越してくれ。

 それでとうとう、このオーロック城砦までたどり着いたのである。


「長旅で大変だっただろう。まずはこの部屋でゆっくり身体を休めるといい」


 城砦内は堅牢な見た目に反して、居心地良さそうだった。内装は現代風にリフォームされており、廊下は明るく広々としている。

 そして通された部屋も広く、一人で過ごすには充分すぎる部屋だった。

 案内してくれたレイリアは窓を開きながら、アランに笑いかける。


「ここがアラン殿の部屋になる。広さだけは充分だろう?」

「ええ――もっと狭い部屋でもいいのですが」

「気にするな。城砦内は意外と部屋が余っていてな。それに男性であるアラン殿を、女兵士たちが暮らす宿舎で一緒にするわけにもいかない」

「それは、確かに」


 女兵士たちも異性が入り込むことを意識したら、気は休まらないだろう。彼女は壁に寄りかかりながら、すまなそうに眉尻を下げる。


「その点、アラン殿には立入制限を掛けることになる。具体的には許可なく、宿舎には立入禁止だ」

「承知しました。無論、理解します」

「うむ、助かる。その代わり、城塔のこの部屋は好きに使ってくれ。この建物は参謀室や会議室の他、私を始めとした幹部たちの部屋しかない――ちなみに、隣は私の部屋だ」

「そうなのですね。あまりお邪魔しないように、気をつけるようにします」

「い、いや、そんなに気を遣う必要はないぞ。何かあれば気軽に訊ねてくるといい。むしろ、私も様子を見に来るようにする」


 そう告げるレイリアは視線が少し泳いでいる。その様子にアランは苦笑をこぼした。


(もしかして、暇な時間にマッサージさせようとしている、とかかな?)


 何にせよ、大きな部屋をもらえるのはありがたい。彼は軽く頭を下げて礼を口にした。


「いずれにせよ、こんな部屋までいただけて感謝しかありません」

「そう思うならば仕事で応えてくれればありがたい。この城砦には私のように肩や膝に痛みを抱えている者が多いからな」

「最善を尽くします。こうして招致していただいた以上、全力で対応します」

「うむ――ありがたい。しかし、本当に嬉しいな。アラン殿が来てくれたことは」


 レイリアは腰に手を当てながら吐息をこぼし、困ったような笑みを見せた。


「もしかしたら、断られるかもしれない、と思ったのだ。何せ、アラン殿はあの村を大事にしているように見えた。軍に属するよりも、村人を守る方を選ぶかもしれない、とも思っていてな」

「ああ……確かに、実際迷いました」


 アランは少し苦笑しながら頷いてみせる。

 レイリアからの招致は嬉しかったが、村に愛着もあったし、自分の実力が軍に見合っていないのでは、という不安もあった。

 そんな迷いを前に背中を押してくれたのは、エーミールを始めとした村人たちだった。


「若い者が遠慮するな、と叱咤されましてね。ここの村は私に任せてくだされ、とエーミール先生も豪語してくれたのです」


 そもそも、アランが来る前はエーミールが一人で治癒士を務めていたのだ。だから、遠慮する必要は一切ない――彼はそう諭してくれて。

 おかげで、アランはこうして軍癒になることを決意できた。


「それに、レイリアさんの肩も心配でしたから。正直、もう一度、よく診ておきたいな、というところもありまして」


 冗談めかしてアランが告げれば、レイリアは肩を揺らして笑みをこぼした。


「はは、なるほど――それはありがたいな。正直、今からでも診て欲しいところだ」

「なら、拝見しましょうか?」

「誘惑だが、それは後に取っておこう――っと」


 言葉の途中で扉がノックされ、一人の女兵士が入ってくる。長い銀髪をなびかせた彼女は凛とした表情で踵を打ち鳴らし、敬礼してみせる。


(確か、門前でレイリアと一緒に出迎えに来てくれた人だ)


 すぐに思い至ると、彼女はきびきびとした口調でレイリアに報告する。


「隊長、現在いる兵を全員食堂に集めました」

「ん、ご苦労――ああ、紹介しよう、アラン殿。副長のリーゼロッテだ。堅苦しい奴だが、頼りになるぞ」

「軍規に忠実なだけです」


 リーゼロッテは端的に答えると、アランに身体を向けて敬礼する。アランも慌てて頭を下げ、自己紹介を返す。


「アランです。よろしくお願い致します」

「……リーゼロッテです。予め申しておきますが、慣れ合うつもりはありませんので」


 淡々とどこか突き放すような口調で告げ、リーゼロッテは踵を返した。その冷たい態度に面食らっていると、レイリアは苦笑しながら肩を竦める。


「すまない。隊内でも男の軍癒を入れることに賛否が分かれているんだ。リーゼロッテは副長である手前、中立を標榜しているが、内心は複雑なのだろう」

「そう、でしたか――いえ、仕方ありませんね」


 治癒士はどうしても患者の肌を見たり、触れたりする。その相手が異性となれば、身構える者も少なくないだろう。アランは小さく苦笑しながら頷いた。


「ならば実力で認めてもらえるように努力します」

「うむ、その域だ。まずその一歩として、食堂で皆に挨拶をしてもらう」


 そこで言葉を切ると、レイリアは少し声を低くして耳打ちする。


「――ちなみにだが、早速処置をお願いすることができるか」

「え? ええ、一応、道具は用意していますが」

「ならば、その道具を持っていこう――デモンストレーションも大事だからな」


 レイリアは意味ありげに言いながら、視線をリーゼロッテに向ける。その視線を追いかけ、すぐにアランは目を細める。


「了解しました。そういうことでしたら」


 部屋から出る彼女は軽く右足を引きずっていた。

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