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女性部隊の専属治癒士-田舎から引き抜かれた若き治癒士は女軍人たちの身体を癒す―  作者: アレセイア
第四章

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第26話

「急患だ、通してくれ!」


 にわかに城砦内が騒がしくなったと同時に、医務棟の扉を蹴破る勢いで、兵士たちが転がり込んできた。

 アランとヘレナが弾かれたように腰を上げると、診察室に血まみれの兵士が担ぎ込まれた。途端に香る血と肉が焼け焦げた嫌な臭い。

 その姿にアランは思わず息を呑んだ。


「レイリアさん……っ!」

「あ、ああ……アラン、殿」


 掠れた声を出したレイリアは顔面が蒼白だった。腹部には引き裂かれ、夥しい血が流れ出している。また衣服も焦げ臭い匂いを漂わせている。

 明らかに危険な状況――命すら危ういと判断できる。

 だが、そんな中でもレイリアは弱々しく笑みを見せた。


「すま、ない……こんな、姿で……」

「喋らないで。レイリア。体力が惜しい」


 ぴしゃりとヘレナは鋭く言い放つと、周りの兵士に指示を出した。


「このまま、ここで診る。揺らさないようにベッドに下ろして。アラン、鋏。あとは脇腹の傷口の止血――出血もバカにできない」

「……っ、了解――!」


 その明快な指示は、動揺しているアランにありがたかった。一瞬で思考を切り替えると、アランは鋏を取り出してヘレナに渡す。

 ヘレナはその鋏で容赦なく彼女の軍服を切り始めていた。

 その理由はもう臭いで分かり切っている――服を引っぺがした瞬間、見守っていた兵士たちが声を詰まらせた。


(重度の熱傷――!)


 肌が赤黒くただれ、水ぶくれが不規則に浮かんでいる。一番ひどいところは炭化している部分すらある。あまりにも痛々しい姿にヘレナは舌打ちすると、レイリアは苦笑をこぼした。


「――竜の息吹。やはり完全に防げなかったのか……」

「その状態で戦っていたんですか、隊長……っ!」


 声を荒げる兵士にアランは手を挙げ、それを制しながら告げる。


「みんな、部屋から出てくれ。火傷は雑菌が入ると非常にまずい」


 熱傷で致命的になるのは、雑菌の侵入だ。普段、雑菌から守ってくれる皮膚が火傷によって壊死しているからだ。消毒魔術があるものの、過信し過ぎない方がいい。

 いつになく真剣な口調のアランに、兵士たちは気圧されたように部屋を後にする。

 ヘレナは掌をかざして魔術を行使。途端に冷気が迸り、同時に洗浄が施されていく。それに身を震わせながら、レイリアは力なく言葉をこぼす。


「我ながら、無理をしたものだ……ただ、皆を守りたくて、だな……」

「喋らないでください。レイリアさん」


 ぴしゃりとアランは言いながら、腹部の止血に取り掛かる。何か鋭いものに引き裂かれたのか、ごっそりと肉を持っていかれている。

 だが、臓器までに損傷はない。治癒魔術で回復させればいい。

 問題は、そこまで彼女の体力や気力が保つか。

 だからこそ、アランははっきりとした言葉で語り掛ける。


「まず申し上げますが、貴方を絶対に死なせはしません。治癒士の誇りに賭けて、それは必ずです。その後、絶対にお説教します」

「ふ、ふ……手厳しい……」

「絶対にお説教します。でもその後は約束のお時間です。覚えていますよね?」

「ご、ほうび――」

「そう、ご褒美。お説教までちゃんと耐えてください。じゃないと、生きて帰ることになりませんからね」


 鍼を取り出し、傷口の周辺に打ち込んでいく。その鍼から微弱な雷撃魔術を流し込む――簡易的にその周辺を麻痺させ、局所麻酔の代わりにする。

 それからアランは彼女の口の中に綿を詰め込む。その綿にはすでに薬剤を染み込ませている。これなら誤飲の恐れがなく、経口で薬を体内に送り込むことができる。

 それでレイリアは何も言えなくなるが、目を細めて微かに頷いた。

 ほんのわずかだが、レイリアの瞳に光が戻り始めていた。

 それに安堵しながら、アランは治療を続けて脇腹の止血を完了させる。肉を再生するのはさすがにまだ無理だが、ひとまずはここの手当ては問題ないだろう。


(他にも骨が折れていたり満身創痍だけど、一番ひどいのは――)


 ヘレナに視線を向ける。彼女は額に汗を滲ませながら、手を素早く動かしている。壊死した皮膚の切除と、皮膚の再生――それを同時にこなしている。

 また菌が入り込まないように、簡易的な結界も行使し、滅菌状態を維持。

 同じ治癒士から見ても感嘆してしまうほどの手腕。

 ただ、圧倒的に熱傷の範囲が広く、彼女は苦戦しているのがよく分かる。


「アラン、造血剤を彼女の口に。循環する体液量が減少してきている」

「――っ、了解……っ」


 見れば彼女の手足の肌が透き通るように白くなってきている。身体の中を循環する血液が減っているのだ。腹部の出血も原因の一つだろう。

 アランは棚から造血剤の瓶を取り出すと、レイリアの口の綿に流し込んだ。

 それから彼女の上体を少し起こさせ、胸に手を当てて魔力を込める。造血剤は魔力に反応し、急速に体内で血を生成する。


「血が急に増えると体内の魔力バランスが崩れる。だから――」

「急性魔力欠乏症に注意、だな」

「分かっているならいい。手が空いたら熱傷の処置を手伝って」

「了解」


 造血剤の反応が出始めたのを見て、レイリアの身体をまたベッドに寝かし、熱傷の処置の方に移る。だが、治癒魔術を行使する手はすぐに止まってしまった。


(こ、れは――)


 治癒魔術が浸透していかない。動揺しかけて、その理由にすぐ思い至る。脳裏に過ぎるのは、少し前、ヘレナから教わったことだ。


『重度の熱傷が大規模だと、治癒魔術が効かなくなる』

『壊死した部分に治癒魔術を掛けても治らない、ってことか』


「……っ、ヘレナ、この場合は……っ」

「健全な部位をどうにか探して。そこに治癒魔術を叩き込むの」


 ヘレナは早口で告げながら手を動かし続ける。その手つきは淀みなく、壊死した皮膚が切除されており、片隅には黒ずんだ山が出来上がっている。

 アランは言われて作業に取り掛かりながら、視線をヘレナに向けた。


「分かった――けど、この面積を治癒魔術でか?」


 重度の熱傷は広範に及んでいて、無事な部分を見つける方が難しい。

 それであれば、以前、彼女が言っていた手段の方が現実味がある。


「皮膚移植の方を検討した方が――」

「どこから皮膚を取るつもりなの」


 ヘレナが言葉を遮るように告げた。思わずアランが口を噤むと、語気を強めてヘレナは続ける。


「教えて。どこの部位から? 無事な部分の方が少ないのに?」

「――っ」


 その言葉に己の頭を殴りつけたくなった。

 レイリアの身体は全身、熱傷だらけだ。無論、一部は炎熱を防げたのか健全な場所がある。だが、大きな面積を確保できる部分は漏れなく炎症が及んでいる。

 そこから皮膚を移植すること自体、無謀だ。

 だからこそ、ヘレナは次善の策で地道な再生をしているのだろう。


(だが、それも――)


 レイリアの身体に手をかざす。次第に呼吸も、脈も浅くなっている。

 どうにかして皮膚を戻さない限り、このままだと命の方が保たない。アランは必死に施術を続けながら、思考を巡らせる。


(どこかに健全な肌はないのか、健全な肌、健全な肌――)


 アランはレイリアの身体に視線を走らせる。火傷ばかりの痛々しい肌。それを必死に回復させようと、ヘレナの白く繊細な手が忙しなく動いていて――。

 その手に、思わず目が奪われた。悪魔的な閃きが、降りてくる。

 できるだろうか。いや――。


「――ヘレナ」

「なに?」


 ヘレナなら、あるいは。


「他人から、皮膚を移植できないか」

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