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女性部隊の専属治癒士-田舎から引き抜かれた若き治癒士は女軍人たちの身体を癒す―  作者: アレセイア
第四章

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第25話

レイリア視点

「は――っ!」


 魔竜の真下から閃光が迸る。瞬間、地面から次々と光の鎖が飛び出した。

 咄嗟に魔竜は翼をはためかせて上空に逃れようとする。だが、光の鎖はすでに魔竜の後ろ脚を捉えていた。中空で体勢を崩した魔竜――その真横の木から人影が飛び出した。


「てああああああああああああああ!」


 彼女――ミカエラが担いだ大剣を一閃させる。血飛沫が宙を舞い、魔竜が苦悶の叫び声を上げながら地面に落ちる。そこを光の鎖がさらに雁字搦めにした。

 それと同時に、周りの木々が次々と倒れ、魔竜の上に次々と倒れ掛かっていく。


「上手く罠にかかりましたね。隊長」


 レイリアが足を止めると、傍に七人衆の一人が現れ、息を弾ませながら言う。

 彼女は魔術に長けており、足止め用の罠を仕掛けてくれたのだ。起動には三人分の魔術が必要だったが、間に合わせてくれたようだ。


(普段の魔獣駆除のときから世話になっているからな)


 その実力を遺憾なく発揮してくれた。レイリアは微笑みながらも注意を促す。


「油断するな。ポーションを飲んで回復してくれ」

「もちろんです」


 ポーションを飲む彼女を庇うように前に進み出て、レイリアは木に埋もれた魔竜を見据える。魔竜は振りほどこうともがくが、そこに数人の人影が駆ける。

 ミカエラを始めとした、攻撃が得意な兵たちだ。各々が得意な武器を魔竜に叩きつけては、魔竜が反応する前に離脱――代わる代わる攻撃を繰り返している。

 レイリアも剣を抜くとそれに加わり、魔竜の背に剣を突き立てた。


「オオオオオオオオオオオオ!」


 魔竜は悲鳴を上げ、暴れ回る――だが、すでにレイリアはその背から飛び降り、ついでに横腹に刃を叩きつける。魔竜の鱗が砕きながら、彼女は距離を取った。


(あまり優雅な戦い方ではないが――)


 動きが取れない魔竜に対して、集団で攻め掛かり続けているのだ。英雄譚に書けるような戦い方ではない――だが、これでいい。

 レイリアたちに見栄や面子は関係ない。大事なのは人命だ。

 優雅な戦いなど、英雄たちに任せておけばいい。


(私たちは私たちなりに戦えばいい――)


 轟音と共に木が弾け飛ぶ。自由になった尻尾が振り回された瞬間、レイリアはその場から離脱して距離を取る。その一方で矢を放った女兵士が鋭く声を上げた。


「隊長、見えました――逆鱗ですっ!」

「っ、でかした……っ! どこだ!」

「尻尾の付け根です!」


 レイリアは駆けながら目を眇める。見てみれば、魔竜の尻尾の付け根――砕けた鱗の下から、明らかに色合いが違う鱗が姿を見せている。

 魔竜の弱点――逆鱗。そこは神経が集中している部分だ。

 そこに充分な攻撃を叩き込めば、激痛で身体が硬直し、無防備になる。ただ、その場所は鱗に隠されており、個体によって場所が異なる。

 だからこそ、それを突き止めるために全員で袋叩きにしていたのだ。


(この情報を得ただけでも、大金星だが――)


 撤退の二文字が頭を過ぎる。だが、レイリアは戦う手を止めず、思考を巡らせて現状を確かめる。魔竜はまだ身動きが取れない。七人衆は健在――。


「てああああああああああああ!」


 そして、士気は充分高い。斬り掛かっているミカエラを始め、魔竜を討ち取る気が満々だ。それを見てレイリアは判断を下す。


「ここで魔竜を討ち取る――! 私が逆鱗、ミカエラが正面! 他は援護だ!」

「了解!」


 その声に全員が武器を構えて動いた。レイリアは魔竜の後ろに回り込み、ミカエラが正面から駆け始める。その圧力を前に魔竜の瞳が不気味に光った。直後、全身から瘴気が勢いよく吹き出し、めきり、と四肢が膨らんだ。


(――っ!)


 レイリアが踏み止まった瞬間、轟音を立てて勢いよく木々が弾け飛んだ。光の鎖も半分が千切れ、光の残滓を飛び散らす。その中で魔竜の瞳が正面のミカエラを捉えた。


「伏せろっ!」


 レイリアの怒号と同時に、魔竜はその口から凄まじい咆吼を解き放った。

 まさに、衝撃波――瘴気と共に一気に衝撃が押し寄せた。木々が根こそぎ抉られ、地面を削り取る猛威を前に、ミカエラたちは踏ん張って耐えるしかない。

 その隙を魔竜は逃さなかった。魔術罠の拘束を引き千切ると同時に、四肢を踏み鳴らした。一気に距離を詰めた魔竜の尾がうねる。


「まずい、避け――」


 レイリアが叫ぶ間もなかった。

 振り抜かれた尾が、ミカエラの身体を直撃する。鈍く重い衝撃音が森に響き渡り、弾き飛ばされた彼女の身体は大木に叩きつけられた。


「ミカエラ――っ! くっ!」

 他の仲間がそれに気を取られた瞬間、魔竜は間髪入れず地面に前脚を振り下ろした。轟音と共に揺れた地面に足を取られ、全員が体勢を崩す。

 魔竜は容赦なく前脚を振り上げ、鋭い爪を振り下ろし――。


「はああぁぁぁっ!」


 駆けつけたレイリアが、真正面から剣で受け止めた。

 激突と同時に火花が飛び散る。衝撃に全身の筋肉と骨が悲鳴を上げ、地面に足がめり込む――だが、彼女は完全に魔竜の一撃を受け止めていた。


「おおおおおおおおお――っ!」


 肚からの気迫と共に、彼女の身体から魔力が噴き出す。全身の筋肉が活性化し、限界を超えた力を引き出す。


(負けるものか――ここで負けたら)


 脳裏に過ぎるのは、第七特務大隊の仲間たちの笑顔。

 そして、どこからか優しい声が頭の中に蘇る。


『待っていますからね。レイリアさん』


 アランの困ったような笑顔と、約束――それがレイリアに力を与えてくれ、魔竜の爪をわずかに押し返し。

 その拮抗を、仲間たちは逃さなかった。


「シ――ッ!」


 仲間の一人が鎖分銅を放つ。それが鋭く魔竜の前脚に絡みつき、体勢を崩させた。それに合わせてレイリアは刃を全力で傾けた。

 刃の上を火花が散り、爪が脇に流れる。魔竜の体勢が、一瞬逸れた。


(好機――ッ!)


 その一瞬にレイリアたちは連携して動いた。

 後方で魔力が放たれた瞬間、再び光の鎖が魔竜に巻きつき、動きを阻害する。その一瞬の拮抗に鋭く二本の矢が宙を駆け、魔竜の目を貫いた。


「ォオオオオオオオオオオオ――ッ!」


 苦悶の叫び声と共に暴れる魔竜――その後ろへレイリアは回り込み、鋭く剣を構えた。肚の底から噴き出した魔力が全身を滾らせている。

 狙うは尻尾の付け根にある逆鱗。それに目掛け、レイリアは地を蹴った。


「――ッ、ォォオオッ!」


 気配に気づいたのか、その尻尾が大きく波打った。迫るレイリアを薙ぎ払うように振り払われる。それを前に彼女は大きく身を反らし。

 身体に衝撃が走り、脇腹が焼けるように痛みが迸った。


(――っ、いや、問題ない……っ!)


 掠めただけだ。レイリアは無視して体勢を立て直し、前へと踏み出す。

 尻尾が振り抜いた今、魔竜は反撃できない。その隙だらけの尻尾の付け根に向けて踏み込み、剣を全身全霊で突き出した。

 手応えと共に、魔竜の身体がびくりと大きく固まる。

 まるで、逆鱗を貫かれたことで身体の動きが止まった。その隙だらけの身体に一人の女兵士が大剣を構えながら歩み寄り――。


「オオオオオオオオオオォッ!」


 裂帛の気合と共に、振り抜かれる。静寂の後、どさり、と重たいものが落ちる音が響き渡った。魔竜の首が、地に落ちる音。

 それをミカエラがやり遂げたのを見届けると、レイリアは大きく吐息をこぼし。


 その場で、崩れ倒れた。

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