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女性部隊の専属治癒士-田舎から引き抜かれた若き治癒士は女軍人たちの身体を癒す―  作者: アレセイア
第四章

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第24話

レイリア視点

 ウェイカー家に生まれたレイリアは一言で言うなら、おてんば娘だった。

 幼い頃から活発に動き回り、兄たちを振り回していた。大人しくしているのが苦手であり、鍛錬を積む兄たちに交じって棒切れを振ることもままあった。

 そんな彼女が才能を発揮したのは、軍事方面である。

 祖父が語る英雄たちの武勇伝を寝物語に聞いていた影響もあったのだろう、彼女は貴族令嬢として社交界でお淑やかに振る舞うよりも、喧々諤々と軍略を語ることを好んだ。

 その様子を両親は苦々しく思っていたようだが、祖父はその道に進むことを応援してくれた。彼は魔王戦役を英雄たちと戦い抜いた一兵卒であったからだ。


『あの時代は女も子供も関係なく、魔王軍に抵抗するために剣を執ったわい』

『お前からはその英雄の気質を感じる。才もある。思うように前に進むと良い』


 そう告げる祖父に背中を押され、彼女は女性でありながら士官学院に足を踏み入れる。士官学院は魔王戦役で失った兵たちを補うべく、様々な人を受け入れていた。

 彼女は平民の士官学生たちと交じり、机を並べて軍事の勉学に励んだ。

 士官学院で彼女はめきめきと才覚を発揮し、実習でも粘り強い強さを見せ、教官たちを感心させ――同時にため息をつかせたものだった。


『女であることが惜しまれる』

『時代にも恵まれなかった。魔王戦役の場で生まれていれば』


 だが、レイリアは微塵も惜しく思っていなかった。

 この時代に生まれたことも。

 女として生まれたことも。


(こうして仲間たちのために剣を執って立てるのだからな――)


 外套をはためかせ、レイリアは身軽に木々の間を駆けていた。

 率いるのは六人の仲間たち。彼女たちは新兵を率いている熟練の兵士たちだが、前線に出る部隊として快く加わってくれた。

 隣に走る一人の女兵士が軽く肩を竦めながら告げる。


「しかしまさか、隊長と魔竜狩りに出るとはね」

「不服か? ミカエラ」

「まさか。奮い立っているさ。まさかそんな機会に恵まれるとは思ってもいなかったからね。なぁ、みんな」


 ミカエラは疾駆しながら傍の仲間たちを振り返れば、全員が好戦的な笑みを見せる。つられてレイリアは笑いをこぼしながら軽く頷いた。


「頼もしいな。さすがオーロック城砦の七人衆」

「はは、懐かしい呼び方だね。もう四年前のことか」

「そんなになるか。あの作戦から」


 目を細めて振り返る――それは四年前、レイリアたちがこのオーロック城砦に赴任して間もない頃。その頃はまだ百人にも満たない小さな部隊であり、まだこの付近も魔獣や野盗が跋扈していた。

 その中でも近くの山には名の知れた盗賊団が拠点を作っており、周囲の村から食料を搾取していたのである。討伐しようにも、その拠点は防備を固めてあり、当時の兵数では包囲するのもやっとという状況だった。

 そこでレイリアは一計を案じ、七人の人員を選出して行動する。


「まさか、村から搾取される作物に紛れて、野盗の拠点に入り込むなんてね。一歩間違えれば、私たちが貢ぎ物になる作戦だったよ」

「はは、でも上手く行っただろう?」


 村人たちの協力を得て、その荷物に紛れ込んだ彼女たちは見事、拠点の内側に潜入。それから彼女たちは大いに暴れ、たったの七人で盗賊団を壊滅させたのだ。

 その活躍からこの地にオーロック城砦の第七特務大隊の名を知らしめ、同時に活躍した兵士は七人衆として女兵士たちの注目を集めた。


(あの作戦は、とある英雄が使った作戦のパクリなんだがな)


 レイリアはひっそりと苦笑しながら、鼓舞するべく仲間たちに声を掛ける。


「期せずして、今回もその七人衆だ――あのときと同じ活躍を期待するぞ」

「もちろんですが、私たちも隊長には期待していますからね」


 何せ、とミカエラはレイリアを見やって、痛快そうな笑みを見せる。


「あの作戦で一番活躍したのは、隊長でしょう?」


 その言葉に答えず軽く肩を竦めながらレイリアは視線を前に向け、軽く手を挙げた。その合図に足を止めると、空を震わせる咆吼が響き渡る。

 鼓膜が痺れるほどの音だ。周りの木々が震え、葉も落ちてくる。

 その中で冷静にレイリアは指示を出す。


「私が誘導する。この先で埋伏してくれ」

「了解。そこからは手筈通りに?」

「そういうことだ。しくじるなよ?」

「隊長こそ。誘導する前に食われないでくださいね」


 軽口を叩き合い、ミカエラたちは素早く木々の間を駆けていく。それを見届けてから一息つくと、レイリアは意識を切り替える。


(さて――久々に魔獣討伐か)


 充分な兵員がオーロック城砦に集まってからは、彼女は訓練ばかりで前線に出ることはなかった。だが、最初の頃は積極的に彼女も魔獣討伐していた。

 そのときの感覚を思い起こし、魔力を全身に巡らせ――地を蹴った。

 瞬間、弾かれたように彼女は宙へ跳び、手頃な枝に着地。それを蹴ると身軽に宙を舞った。活性化した身体能力を活かし、木々を蹴って宙を駆ける。

 やがて、彼女の瞳が正面から近づく魔竜を捉えた。


(報告通りの形状――いや、やや大きいか?)


 黒い瘴気を撒き散らし、翼をはためかせて空を飛ぶ巨大な魔竜だ。漆黒の身体はすでに傷だらけであり、その傷口から湯気が立っている。

 それだけに気性が荒くなり、唸り声を響かせながら飛んでいる。その怒りに満ちた目はその進路上にある建造物に向けられている。

 オーロック城砦。目障りなそれを潰そうと、魔竜は飛び続ける。


(――それをやらせるわけにはいかないな)


 一本の木の梢に着地。魔力を練り上げ、掌を突き出す。意識を集中させ、レイリアは魔術を解き放った。

 瞬間、掌から放たれる紫電――それが流星のように空を切り、魔竜の腹部を直撃した。


「オオオオオオオオオオオオ!」


 苦悶の叫び声を上げて振り返り、魔竜が首を捻る。そしてその怒りに燃える瞳がレイリアの姿を捉えた。レイリアは挑発するようにまた紫電を放つと、身を翻した。

 そのまま、木々を蹴って離脱――その背後から怒りの咆吼が轟いた。

 振り返れば、猛然とした勢いで魔竜が追いかけてきていた。その圧力に少しだけ冷や汗を滲ませながら、レイリアは木の枝を蹴って加速する。


(予定通りではあるが――聞いていたよりも機敏だな……っ!)


 情報によればミドル級に至らない魔竜であり、力は強いが動きは鈍い、という報告だったが、どうやら情報に齟齬があったらしい。

 だが、恨み言を言う暇もない。レイリアは神経を研ぎ澄ませ、木々を蹴ってジグザグに宙を駆ける。その真上から魔竜が狙うように距離を詰め、息を大きく吸い込む。

 振り返れば、開いた竜の口の奥から光がちらついた。


「――ッ!」


 嫌な予感が背筋を駆ける。瞬時に全身から魔力を放ちつつ、外套で身を覆う。

 直後、魔竜の口から凄まじい業火が解き放たれた。

 竜の息吹というべき轟音と共に、炎の奔流が森を呑み込む。レイリアも為す術もなく炎の中に呑まれ――その業火の中から人影が飛び出した。

 その人影は体勢を立て直すと、身に纏った外套を脱ぎ捨てた。その下からレイリアは姿を現す。装備が煤け、所々燃えている部分があるが、何とか耐えている。


(装備をケチらなくて良かった――あの外套がなければ、焼け死んでいた)


 特殊材質のマントは魔力を帯びると、簡易的な結界になり、魔獣の牙や炎を防ぐことができる。ただ、魔竜の攻撃は強力で、一回防ぐのがやっとのようだ。背中は炎熱を防ぎきれなかったのか、激痛が走っている。

 とはいえ、何とか命は繋いだ。そのままレイリアは森の中を駆けながら、背後に向かって魔術を放つ。迸る紫電に魔竜は怒りの咆吼を上げると、さらに翼をはためかせた。

 ついてきている。それに彼女はほくそ笑みながら、頭上に向けて紫電を放つ。


 攻撃ではない――今回は、合図だ。


 すでに誘導は完了していた。地形はいつの間にか変わり、両側に急勾配がある谷になっている。そして、そこにはすでに仲間たちの気配があり。


 合図を受けて、彼女たちは罠を起動させていた。

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