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女性部隊の専属治癒士-田舎から引き抜かれた若き治癒士は女軍人たちの身体を癒す―  作者: アレセイア
第四章

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第21話

「ん? ああ、入れ」

「失礼します」


 リーゼロッテが扉を開け、先にアランを通してくれる。彼が中に入ると、レイリアは書類を片付けながら視線を上げて微笑む。


「やぁ、アラン殿、何か用かな?」

「少しお話に、と思いまして。最近、施術もしていませんし」

「ああ――そうだな、見れば分かる通りに多忙だ」

「お邪魔でしたか?」

「いや、構わない。息抜きするにはいい頃合いだ。なぁ、リーゼロッテ」


 苦笑しながらレイリアは軽く背伸びをする。リーゼロッテは一つ頷き、彼女の前に温かいお茶を置いた。それからアランにも差し出す。


「アランさんも、どうぞ」

「え、リーゼロッテさんのは?」

「私はまた別に用意します。アランさんは隊長の話し相手をお願いします」


 そう言うより早く踵を返して出て行ってしまうリーゼロッテ。思わず呆気に取られながらそれを見送っていると、レイリアは小さくくすりと笑った。


「気を遣わせたかな」

「どういうことですか?」

「リーゼロッテがいると仕事の雰囲気が抜けないからな。私に充分休ませるために、敢えて席を外したのだろう――ふぁああ」


 言葉の途中から欠伸がこぼれる。その目尻には涙が滲み、明らかに疲れが見え隠れしている。レイリアはすぐに口を手で抑えて、すまない、と謝る。


「少しみっともなかったな」

「いえ、お気になさらず。というより、もう休んだ方がよろしいのでは?」

「そうしたいのは山々だが、明日の朝までに部隊の再編をせねば」


 レイリアはそう言いながら手元の書類をめくり、ちら、と視線を上げる。


「そういえば、重傷者は問題なく手当てできたのかな?」

「ええ、ヘレナの的確な処置で」

「うむ、それは良かった――ただ、復帰には時間が掛かるだろうな。そのために穴埋めの部隊を動かさねばならない。アラン殿、見てくれ」


 レイリアは手招きするので、アランはその傍に歩み寄る。机を挟んで覗き込もうとすると、彼女は笑いながらまた手招きした。


「隣からの方が見やすいぞ。構わないから」

「……では、失礼します」


 彼女の椅子の横に移動し、肩越しに机の上を見る。そこには地図が広げられ、至る所に赤い丸印がついている。半数はそれがバツ印で消されているが――。


「これが今、調査の結果で発見された魔獣だ。バツ印は討伐完了したものだな」

「こんなに――十以上はいます、よね」

「ああ、それも人里に悪影響のあるものを絞り込んで、だ」


 彼女はそう言いながら、傍にある報告書の山を軽く叩いて続ける。


「さらにここにある報告書からまた情報を抽出し、対応するべき場所を確認しなければならない。本来なら参謀に手伝ってもらうべき事案だが、彼らは討伐作戦の立案を頼んでいてな――手が足りない、というのが実情だ」


 そこまで言うと、レイリアは振り返って困ったような笑顔を見せた。


「な? 大変だろう?」

「ええ、聞いている限り、充分に。すごいですね。レイリアさんは」

「すごくはないさ。私に従ってくれているみんなの方がすごいんだ」


 彼女は報告書に手を伸ばし、それを持ち上げながら言葉を続ける。


「今日、怪我をしてしまったサーニャだが、狩人の家に生まれてな。そのスキルを活かして、魔獣の巣を見つけてくれた。しかも殺されかけた仲間を怪我を負いながらも助け出してくれた。今回の勲一等は彼女だと思っている」


 誇らしげな口調と共に報告書をめくり、彼女は目を細めた。


「魔獣討伐数で言えば、リオナだな。女なのにタフで、剣もよく遣えるんだ。粉ひき小屋で働いていたが、多分、剣の才能があったんだろうな。そういえば、医務棟に通っているそうだが、どこか痛めているのかな」

「リオナさんは肩ですね。レイリアさんと同じような症状です」

「そうか。なら、討伐が終わったらゆっくり休ませないとな。それと褒美も」


 レイリアは一つ頷きつつ、報告書をめくると小さく笑った。


「ああ、褒美と言えば、この子もだな――ジュディス。読み書きもままならない子だったが、意外と地図が好きでな。今回の作戦では地形から魔獣の動きを読み、効率よく仲間たちを動かしていた。参謀に異動してもいいかもしれない」

「ジュディスさんはヘレナとも仲がいいですよ。趣味の本の話をしていました」

「ああ、らしいな。ふふ、どんな本か知っているか? アラン殿」

「――ノーコメントで」

「ふふ、その反応は知っているみたいだな。さぞ困っただろう」

「……ええ、まぁ」


 男同士が恋愛を繰り広げる、いわゆるボーイズラブというジャンルの本だったのだ。さすがに気まずくて席を外さざるを得なかった。

 レイリアは笑い声をこぼすと、お茶を口に運びながら報告書をめくる。


「話を戻すと――こんな風にみんなすごいんだ。女性だからという理由で活躍する機会に恵まれないが、機会があればこんなにも活躍してくれる」


 アランも視線を報告書に向ける。山のように積み重なった報告書――だが恐らく、その中にはこの部隊の面々と活躍がいろいろと記されているのだろう。

 それを語るレイリアはとても楽しそうで、誇らしげで――。


「――やっぱりレイリアさんは、すごいですね」


 自然と、そんな言葉が口からついて出てきた。それにきょとんとした彼女は苦笑をこぼし、首を振って告げる。


「私なんてまだまだだよ。アラン殿を始め、みんなに頼ってばかりだ」

「でも、そのみんなをまとめているのはレイリアさんでしょう?」


 アランは言葉を返しながら、レイリアの目を真っ直ぐに見つめる。部下のことを見つめ、支えてくれる――頼りがいのある上官の目を。


「レイリアさんはこうしてみんなのことを知り、理解し、そしてその才能を引き出そうとしている。だからこそみんな従っているのですし、慕っているのでしょう」

「……アラン殿……そう言われると、少し面映ゆいな」


 レイリアは視線を逸らしながら、照れくさそうに笑う。


「ただ、過大評価だと思うぞ?」

「そうでしょうか。少なくともここに一人、貴方に心から感謝して慕っている者がいますが?」


 アランは胸に手を当てて微笑み返すと、レイリアは驚いたように目を見開いた。澄んだ瞳が彼の姿を捉え、真っ直ぐに見つめ――。

 やがて彼女は我に返ると、慌てて視線を逸らし、咳払いをした。


「あ、アラン殿、からかうのは止してくれ。照れるだろう……っ」

「本音で話しているだけですよ。レイリアさん」

「全く、アラン殿は困った人だ――他の兵たちがキミに心を許すのも分かるな」


 彼女は小さく呟くと、もう一度アランに視線を戻して唇を尖らせる。


「だが、上官をからかったことは許せん。罰を与える」

「……不服の申し立てをしても?」

「却下だ。何、難しい罰ではない」


 そう言うと、レイリアは悪戯っ子のように笑って片目を閉じた。


「肩を揉め。気持ちを込めて、丁寧にな」

「――仰せのままに。隊長様」


 苦笑を返し、アランはレイリアの後ろに回り込んだ。それから彼女の肩に手を載せて、優しく力を込め始める。

 もう何度も解してきた、彼女の肩――だが、改めて触れると小さく感じられる。

 固く凝り固まっている肩には、いくつもの重荷が圧し掛かっているのだろう。

 その負担を少しでも和らげられるように、丁寧に揉んでいく。それにレイリアはくつろぐように長く吐息をこぼした。


「ん――ああ、やはりアラン殿の掌はいいな。触れられると、落ち着く」

「そうですか? お役に立てているなら、嬉しいですけど」

「ああ、充分過ぎるよ。いろいろな意味で、な」


 そう言いながら流し目をくれるレイリアその眼差しにはどこかいつもと違い、柔らかく甘えるような雰囲気が滲んでいる。


「――正直、もっと頼りたくなってしまうな。個人的に」


 それは一体、どういう意味合いだろうか。

 どこか意味深長な雰囲気を漂わせた言葉に、アランの手は思わず止まっていた。視線を向ければ、熱を帯びたレイリアの瞳がアランをじっと見上げていた。

 その瞳の中に答えが隠されているようで、思わず吸い寄せられそうになり――。


「――リーゼロッテです。戻りました」

「――っ」


 不意に響き渡った声に思わずアランとレイリアは視線を勢いよく逸らした。

 そこにリーゼロッテが足を踏み入れる。妙な距離感の二人を見て訝しむように眉を寄せていたが、ああ、と納得したように頷いた。


「隊長、アランさんに肩を揉ませていたんですね。どうぞそのままお続けください」

「わ、悪いな――仕事中なのに」

「いえ、休憩も大事です。アランさん、お手数ですがもう少しお願いしても?」

「もちろん、大丈夫です――」


 リーゼロッテに愛想笑いを返しながら、アランはレイリアの肩を揉む。レイリアは小さく吐息をこぼすと、何気なくアランを振り返って苦笑する。

 アランも思わず苦笑を返しながら、しばらくマッサージを続けていた。

 その彼女の耳が真っ赤に染まっているのを、気づかないふりをしながら。

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