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女性部隊の専属治癒士-田舎から引き抜かれた若き治癒士は女軍人たちの身体を癒す―  作者: アレセイア
第一章

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第1話

「じゃあ処置を始めますね、ダンさん」


 村の診療所――そこで働くアランは一人の初老の男性の背を見ていた。ベッドの上で俯せになった彼の背は見ただけで強張っているのが分かる。

 年季が入り、数多くの傷も刻まれた歴戦の身体――。

 その傷跡を意識しながら掌を腰に当て。


 指先を、ぐっと押し込んだ。


「――ぉ、おおお……っ、効くぅ……っ」


 温泉に浸かった瞬間のような、緊張感のない声が響き渡り、思わずアランは笑ってしまう。彼は指圧を続けながらダンに語り掛ける。


「体の力を抜いてくださいね……それにしても、大分凝っているというか」

「はは、腰を曲げて仕事をしていればこうなるわい……くぉおおっ」

「ちゃんと身体を伸ばさないとクセになりますよ」


 そう言いながら掌で彼の背を探り、血が滞っている場所を探す。そして見つけ出すと、そこに指圧しながら魔力を送り込み、滞りを解していく。

 腰、肩を重点的に解していき、最後に軽く首を解してからダンの肩を叩く。


「はい、ダンさん、終わりました」

「……お、ぉお、もうかえ?」


 少しうとうとしていたようだ。ダンは我に返ると、身体を起こして肩を回す。それからアランを振り返って嬉しそうに表情を綻ばせた。


「はは、身体が軽いわい。相変わらずいい腕じゃな、アラン先生」

「ありがとうございます。でもあまり身体を酷使しないでくださいね。あまりひどいと、こちらも大変ですので。お代もその分いただくことになります」

「ほほ、手厳しいな。気をつけるとしよう」


 ダンは朗らかに笑うと、お代を机の上に置いてくれる。少し多めに置いてくれたのを見て、アランは頭を下げた。


「いつもありがとうございます」

「こちらこそ、じゃ。また頼むよ」


 そう告げてダンは処置室から出ていく。その足取りは初老とは思えないほど軽い。それを見送ってから、隣の部屋に視線を向けて声を掛ける。


「今、他にお客さんはいますか?」

「いませんぞ。一段落、という感じですな」


 隣の部屋から顔を出したのは、恰幅の良い中年の男性だった。彼――エーミールは人懐っこい笑みを浮かべると、カップを差し出す。


「お疲れ様です。いつも助かっておりますぞ」

「ありがとうございます。今日も千客万来ですよ」

「アラン先生のおかげです。腕が良いですからな」

「あくまで、マッサージの腕前ですがね」


 軽く拝んでからカップを受け取り、お茶を口にしつつ思う。


(――そう、マッサージ、なんだよな)


 怪我を治すような治療行為では全くない。どちらかというと、日常の身体の負担を軽減させるような処置を、彼は毎日のように繰り返していた。

 怪我人が出ないわけではない。だが、ここの村ではそれよりも重労働で身体を消耗している人の方が多いのだ。無論、癒していることには変わりないのだが。


「まぁ、怪我人が少ないに越したことはありませんぞ。アラン先生」

「それもそうですね。悲しい想いをする人が少ない方がいい」


 アランとエーミールは苦笑を交換していると、ふと診療所の扉が開く音が聞こえる。


「アラン先生、おるかい? どうも腕が突っ張ってしまってねぇ――」

「ええ、いますよ――またお仕事です」


 アランは応えながらおどけてエーミールに言うと、彼は笑って一つ頷いた。


「隣の部屋で調薬を続けます。何かあったら声をかけてくだされ」


 それに頷き返すと、患者が扉を開けて処置室に入ってくる。右腕を大事そうに抱え、痛そうにする女性の姿に見て、アランは丁寧に語り掛けた。


「今日は、どうされましたか?」


 アランがこの診療所に雇われて、もう三年になる。

 それまでアランは引き取ってくれた治癒士の師匠に付き従い、修行を積んできた――だが、次第に様々な課題に直面した。

 まず治癒魔術を使うには、アランの魔力保有量は圧倒的に少なかった。

 擦り傷、切り傷一つ治すだけでも時間がかかり、息が上がってしまう。鍛錬を積んで少しずつ魔力量は増やしていたが、それでも他の治癒士には圧倒的に劣った。

 それに体力もあまりなかった。治癒士は過酷な環境で昼夜問わず働くこともあるため、これも致命的な部分だ。

 アランはそれを補おうとしたものの、日々勉強しつつ、魔力量や体力を増やす訓練をするには時間が足りなすぎる。それでも無理をして体調を崩す始末だった。

 そんな彼に対し、師匠は否定も肯定もせず、アドバイスしてくれた。


『自分の強みを伸ばしなさい。アラン』


 その言葉に向き合い、彼は教わった内容を復習していると、ふと思い出したことがあった。死にかけたあの日、治療してくれた女の人が手にしていたもの。

 鍼。それを打たれた瞬間、痛みが引いていったのだ。

 それについて師匠に聞いたところ、すぐに答えを出してくれた。


『妖鍼術だね。それは恐らく』


 それは東方から由来した治癒術であり、身体に鍼を打つことで、血の滞りを解すことができる術らしい。さらにはその鍼から魔力を流し込むことで、鍼から体内に効率よく魔力を流し込むことができるとか。

 恐らく、アランが鍼を打たれたときも魔力を流し込み、一時的に神経を麻痺させたのだろう、と師匠は推測を口にしていた。

 それに惹かれたアランはその妖鍼術を研究した。師匠には少し心得があったものの、それは知識だけ――彼は書物なども読み解き、独学で技術を身につけていった。

 そんな彼の様子を見て、師匠は古くの知り合いだというエーミールの診療所に努めることを勧めてくれた。


『貴方の技術は充分使える。だから、後は実地で学びなさい』


 その言葉に従い、彼はエーミールと共に患者と向き合う日々を過ごしていた。培った技術のおかげで村人たちからはもう受け入れられている。

 ただ、治癒士というよりはマッサージ師として、という気もするが――。


(これが、僕の目指したところなのかな――)


 そう思うと、少し自信がない。リロイに胸を張れるかと言われれば、微妙なところだ。村人たちに笑顔で接しながらも、どこか心が晴れない日々が続いていた。


 そんな彼に転機が訪れたのは、数日後のことだった。

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