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女性部隊の専属治癒士-田舎から引き抜かれた若き治癒士は女軍人たちの身体を癒す―  作者: アレセイア
第三章

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第17話

リーゼロッテ視点

「お疲れだったな。リーゼロッテ」


 執務室に戻ると、レイリアがにやにやした笑みで出迎えてくれた。

 リーゼロッテが医務棟で治療の続きを受けている間、七班の兵から報告を受けたのだろう。彼女は渋面になりながら敬礼をする。


「――帰還の報告が遅れ、申し訳ございません」

「構わんよ。充分な報告を受けている――アラン殿の叱責は効いたんじゃないか?」

「ええ、もう充分に。ヘレナからもたっぷり絞られました」


 半ば強引に受けさせられた治療にはヘレナも加わっていた。アランから症状を聞いた際には呆れ果て、諭すような口調で叱られてしまった。

 そして、それに言い返すことはリーゼロッテにはできない。


「――三日に一度、医務棟で診療を受けることを言い渡されました」

「ああ、それも聞いているよ。私からも正式な命令として下す。きちんと医務棟に通い、その膝を完全に治癒させること」


 レイリアはそう告げると、いたずらっ子のように片目を閉じた。


「痛みがない、というのはいいことだぞ?」

「それは今、痛感しています――アランさんが丁寧に治してくれたので」


 つい先ほどまで治療を受けていた膝を意識する。そこは今までの我慢が何だったのだ、というぐらい痛みが引いていた。サポーターで固定されているのもあるだろうが、何よりアランの治療の腕がいいのだろう。


「――今後はきちんとアランさんに診てもらうようにします」


 素直にそう告げれば、レイリアは少しだけ目を丸くした。それに片眉を吊り上げると、彼女はごまかすように笑って告げる。


「いや、リーゼロッテがここまで素直になるとはな」

「何ですか、いつも素直じゃないみたいな」

「はは、悪い。そういう意味ではないのだが」

「……まぁ、仰りたいことは理解しますが」


 小さくため息を一つこぼすリーゼロッテ。彼女自身、理解している。

 気になっていることがあると、素直には頷けずに確認してしまう。それは幼い頃からの彼女の癖なのだ。


 リーゼロッテの出身はウェイカー家の分家筋――そのため、幼い頃から主家に仕えるために教育を施されてきた。そのせいか、疑問をそのままにしておけず、質問ばかりして大人や教師を困らせてきた。


『女のくせに質問ばかりして生意気だ』

『使用人としては致命的だな』

『生まれてくる性別を間違えた子ね』


 様々な陰口を叩かれ続け、自身の癖を悪癖だと悩んだこともあった。だけど、それを唯一否定しなかったのがウェイカー家の子女、レイリアだった。


『すごいな。リーゼは。そんなこと、気付きもしなかった』


 疑問や質問を繰り返すリーゼロッテに対し、彼女は常に目をきらきら輝かせていた。レイリアはリーゼロッテの質問を厭うことはせず、一つ一つに答えてくれた。

 そして、分からないことがあれば『分からない』と素直に告げて笑った。


『だから、私も一緒に考えるとしよう――それでどうかな。リーゼ』


 そんな彼女に惹かれ、リーゼロッテは彼女の傍にいることを選んだ。彼女が軍人の道を選んだ際もその道を共にした。彼女が第七特務大隊の隊長に任命された際は、副長としてこうして彼女の傍で支え続けている。


(こんな私を叱ってくれる人なんて、レイリア様くらいだと思ったのに)


 突然、レイリアが連れてきた治癒士、アラン・クラシック。

 最初はその存在を訝しんだものの、優秀さはすぐに理解できた。リーゼロッテの膝を始め、兵士たちの身体の痛みを改善し、ヘレナからも認められている。

 同時に不思議でもあった――兵士たちが彼にかなり好意的だったから。

 話すと楽しい。きちんと耳を傾けてくれる。アドバイスをくれる。

 男だから、として警戒していた多くの兵士たちは次第に彼を受け入れていたのである。

 だけど、その理由は今日、充分に分かった。


「――アランさんはちゃんと人に向き合っているんですね」

「ああ、意外と悩みをよく聞いているようだ。時折、私に意見をくれたりする」

「アランさんが? そんなところ、見たことないですが」

「施術してくれているときに話を聞いているんだ」

「ああ、なるほど」


 レイリアは何かと理由をつけ、アランに施術をしてもらっている、その最中に聞いていたとすれば、納得だ。

 彼女は机の上の書類を軽く叩きながら目を細める。


「実は備品の靴のサイズを充実させることを提言したのも、彼でな」

「――そうだったんですね。でも何故」

「靴擦れの悩みが多いことから、気づいたらしい。彼女たちの足のサイズに靴が適していないと」


 その着眼点にまた感心する。リーゼロッテも気づかなかった点だ。

 だが、考えてみれば女兵士は足が小さい者が多いのに対し、既製品の軍靴は男を基準としているために大きめのサイズが多い。


(私たちは間に合っていましたけど、彼女たちは違いますからね)


 そういう細かい意見を拾い上げてくれているのだ。レイリアは笑いながら自分のことのように誇らしげな口調で言う。


「治癒士として優秀なだけでなく、ここまで兵に好かれるとはさすがだと思っている――リーゼロッテにも叱ってくれるしな」

「後者については複雑ですが、前者は同意です」


 リーゼロッテは眉を寄せながら頷くと、レイリアはまたおかしそうに笑った。リーゼロッテは咳払いをし、言葉を続けた。


「今回の訓練でも怪我をした兵士を落ち着かせつつ、迅速に治療しました。本人曰く、体力も魔力もそこそこ、と言いますが、我々の行軍に同行でき、的確な手当てをできるのは充分な戦力だと考えます」

「うん、そういう点が分かったのも今回の訓練の収穫だが――」


 言葉を切り、レイリアは真剣な顔つきになって報告書に目を落とす。そこには七班の兵士たちが報告した今回の概要がある。

 それを見てリーゼロッテも気を引き締めて背筋を伸ばす。


「想定外だったのは、猿型の魔獣が出たことか」

「はい、撃退後、付近を探りましたが、どうも山が全体的に妙です。山菜などは掘り起こされた痕跡があり、妙に足跡が入り乱れた部分も」

「そして言うまでもなく、普段見ない猿型の魔獣の出現、か」


 レイリアは手を組み、顎をその上に載せながら目を眇めた。


「――きな臭いな」

「同感です。調査の人員は割くべきだと思います」

「明日から作戦を立案しよう。あとは念のため、中央にも連絡を回すか。気は進まんが、最悪の場合を想定すれば、手は打っておくに越したことはない」


 最悪の場合――その言葉にリーゼロッテは唾を呑み込む。

 魔獣の分布の変化。それは環境変化などでも引き起きるが、ごく稀に災害の前兆として発生することもある。

 その名は、大移動――魔獣が大挙して押し寄せる災厄だ。


「あり得ますかね」

「可能性は低い。だが、異変が起きているのは事実だ。大移動も想定しておくべきだろう――無論、兵たちにはまだ伝えるな。杞憂である可能性の方が高い」

「承知しました。いずれにせよ、心に留めておきます」


 リーゼロッテが敬礼すると、レイリアは一つ頷いて立ち上がった。視線を窓の外に向け、闇夜に沈む森の方に視線を向ける。


「杞憂だと、良いのだがな」


 その言葉にリーゼロッテは心から同意していた。

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