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女性部隊の専属治癒士-田舎から引き抜かれた若き治癒士は女軍人たちの身体を癒す―  作者: アレセイア
第三章

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第14話

 オーロック城砦の周りは森に囲まれ、裏には山も広がっている緑豊かな土地だ。

 人里も遠いため、一部の兵たちからは田舎だ、辺境だ、と文句を言っているが、アランは別にその環境を嫌っていなかった。

 むしろ、生まれ育った村に似ていて、落ち着くところもある。

 今日、アランはその裏山に足を踏み入れていた。


 ――どこか不機嫌そうな顔をしているリーゼロッテと共に。


「そうでしたね。アランさんも広義の上では新入り、ですか」

「ええ、新入りです。なので、こういう機会をいただけて嬉しいですね」


 先を歩くリーゼロッテの言葉にアランは笑って答えると、返ってきたのはため息だった。思わずそれに目を瞬かせ、少し不安になる。


(――もしかして、僕が隊に加わるのは不服だったかな)


 だが、これは仕方のないことだ――何せ、レイリアからの要請だったから。


『アラン殿、すまないが、薬草採集の隊に参加してくれないか。薬草の目利きができる者が少なくな。確かアラン殿もできるのだろう?』

『ん、医務棟は私に任せて行ってきて。アラン。一度、裏山には足を踏み入れた方が良いと思うし。そこまできつい山でもない』


 ヘレナにもそう背中を押され、アランは薬草採集に同行することを承諾したのだが。


「すみません、アラン先生。今日、副長は何だか機嫌が悪くて」

「なんでも隊長に一杯食わされた、とか」


 同行する女兵士たちがフォローするように声を掛けてくる。彼女たちとは治療を経てすっかり顔馴染みになっている。


「そうだったんですね……しかし、レイリアさんが」


 ちら、と無言で山道を進んでいくリーゼロッテの背を見る。

 短い付き合いだが、リーゼロッテは仕事人という印象だ。書類仕事を淡々とこなし、感情を排して事務的に接してくる。それだけに露骨に不機嫌そうなのは珍しい。


(余程、肚に据えかねることだったのかな)


 アランは首を傾げていると、リーゼロッテが後ろを振り返ってじろりと睨む。


「無駄口を叩かないでください。一応、これも調練です」


 その言葉に慌てて女兵士たちは口を噤む。アランも黙り込むと、リーゼロッテの視線が彼に向き、少しだけ泳いでから声を掛けられる。


「それと――アランさんに不機嫌なわけではありません。何一つ、怒っていないので」

「そう、ですか」

「はい、何一つ。そこは誤解なきよう」


 強調するように言葉を続け、リーゼロッテは再び前を向いた。黙々と進む彼女の後ろについてアランも山道を進んでいく。

 ヘレナの言っていた通り、そこまで険しい山ではなかった。

 訓練で使われ、人が足を踏み入れていることもあるのだろう、一部の道は踏み鳴らされ、歩きやすくなっている。女兵士たちも息を上げることなく、易々と前に進む。

 やがて、少し視界が拓けた場所でリーゼロッテは足を止める。


「――到着しました。ここをまず拠点とします」


 そこは木々が少なく、休むにはもってこいの場所だ。リーゼロッテは荷物を足元に置き、鋭く指示を出していく。


「一班、二班は炊事の支度です。昼前までに食事ができる支度を整えなさい。食料はありますが、山菜などを採るも自由です。時間内できちんと整えること。三班、四班は周囲の警戒をしつつ、一班、二班の支援を。警戒網は決して穴を作らないように。五班、六班は斥候。周囲の地形を把握すること――では、動きなさい」

「はっ!」


 女兵士たちが素早く敬礼し、行動を始める。新兵たちではあるものの、班長を筆頭に自主的に役割を割り振り、行動を始めている。

 それに一つ頷き、リーゼロッテは声がかからなかった一部の兵士に視線を向ける。


「七班は遊撃です。いつも通り、新兵に目を配るように」

「了解。まぁ、今日は天気もいいし、下手なことは起こらないと思うけど」

「あはは、今の内にアラン先生に肩揉んでもらうのもいいかもね」

「さすがにそれはダメです。新兵たちをきちんと監督してください」


 どうやら第七班は熟練の兵士たちで固めているらしい。リーゼロッテにも少し気安く、ただ、きちんと新兵たちに視線を配っている。

 彼女たちは手を振って応じると、言葉を交わすことなく、それぞれの班を見に行く。

 後に残されたのはリーゼロッテとアランだけ――。


「――自分は、何をすれば?」

「待機です。貴方は衛生兵としての訓練も兼ねています。万が一、負傷者が出たときに備え、拠点で待機する必要があります」

「そう、ですか……薬草の採集は?」

「それは午後の予定です。昼前は簡単ではありますが、野営の訓練をさせる予定なので」


 そう言われてみてみれば、確かに兵士たちは手分けして竈を組んだり、薪を探したりしている。実際に野営するのを想定し、ここで訓練させているのだろう。

 納得してしまうと、二人の間には沈黙が走った。

 その場で待機し、兵士たちの動きを目で追いかけるしかやることはない――そんな中でふと視線を感じて横を向くと、リーゼロッテがちらちらとアランを見ていた。

 目が合うと慌てて視線を逸らすが、何か言いたげにこちらをまた見る。


(何か話したいことがあるのかな――?)


 疑問を抱きつつ、ふと思い出したことを口にする。


「そういえばリーゼロッテさん――足は大丈夫そうですか?」

「え、ええ。おかげさまで痛みは充分引きましたよ」

「でも、一回鍼を打っただけですので、すぐに痛みが戻ってくると思いますが」


 その言葉にリーゼロッテは少しだけ視線を逸らし、軽く首を振った。


「――いずれにせよ、問題はありませんので」

「……そう、ですか」


 言い方に違和感を覚える。恐らく、痛みが走っているのは事実だろう。だが、我慢してしまっているようだ。


「私よりも他に処置すべき兵士たちがいます――そちらを優先していただければ」

「……分かりました。でも、時間が空いたら来るようにしてください。さすがに心配です」


 アランがそう告げると、リーゼロッテは目を細めて一つ頷いた。それから遠慮がちに口を開き、さりげない口調で切り出される。


「それよりアランさん――少しお話したいことが」

「ええ、構いませんけど」

「実は――」


 そう言いかけた瞬間、不意に声が遮られた。

 森の方から響き渡った、悲鳴によって。


「――っ」


 リーゼロッテの表情が一瞬で切り替わる。懐から笛を取り出すと、吹き鳴らした。それを合図に駆け足で散っていた兵たちが戻ってくる。

 いち早く戻って来た第七班の兵を見て、リーゼロッテは鋭く告げる。


「七班で状況確認に行きます。一班、二班は警戒を継続。その他はここで待機。異常があれば笛を吹きなさい。無論、アランさんもここに」

「了解しました。お気をつけて」


 アランが頷くと、リーゼロッテたちは数人の兵士を連れて森の方へ駆けだす――悲鳴が上がった方向へと。

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