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女性部隊の専属治癒士-田舎から引き抜かれた若き治癒士は女軍人たちの身体を癒す―  作者: アレセイア
第三章

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第13話

途中からリーゼロッテ視点に切り替わります

「――む、しまった」

「ん、どうした? ヘレナ」


 その日の昼下がり、アランが処置を終えて診察室に戻ると、ヘレナは棚の中身を整理していた。道具を置きながら彼女に声をかけると、ヘレナは小さくため息をこぼしながら振り返った。


「薬の在庫を切らしかけている。うっかりしていた」

「何が切らしそう?」

「湿布薬。最近はアランが加わってから、全然使っていなかったから忘れていた」

「あー、なるほど」


 以前は多用していたという湿布薬だが、現在はアランの妖鍼術の方が効果的であるため、使用頻度が低下したらしい。

 とはいえ、全く使わない、というわけではない。

 例えば、打撲などのときは治癒魔術と湿布薬を併用した方が効果的なのだ。


「レイリアに相談しないと。場合によっては採りにいかないといけない」

「採りにいくって……まさか、薬草?」

「そう。予算削減のために、一部の薬は調薬している。アランも経験はあるでしょ?」

「もちろん。師匠からも叩き込まれたし」


 第一、田舎の治癒士は市販の薬など滅多に使わない。ほいほい使っていたら、あっという間に赤字になってしまうからだ。

 アランも簡単な湿布薬や傷薬、ポーションなどは自作していた。


「当然、私も薬草学や調薬術は学院で学んでいる」

「さすがヘレナ先生」

「ヘレナでいい、って言っているでしょう。全く」


 ふざけて名を呼べば、ヘレナは仕方なさそうに笑ってメモをまとめた。


「レイリアに話してくる。貴方は医務棟にいて」

「了解。お任せあれ」

「不埒な真似は許さないからね」

「しない、って言っているだろう? 全く」


 先ほどのヘレナの口ぶりを真似て言えば、彼女はくすくす笑いながら頷き、診察室を出ていく。その楽しそうな笑顔を振り返り、ふと思う。


(――なんだかんだで気安いやり取りができるようになったな)


 アランがヘレナに認めてもらってからすでに一週間が経っている。

 互いに呼び捨て、タメ口で話すようになったおかげが、以前に増してヘレナの遠慮はなくなり、冗談を交わしては笑い合えるほどに仲を深めていた。

 今やある程度は信頼され、こうして医務棟の留守を任されることもある。

 アランはぐっと背伸びしていると、ふと何か見られている気配を感じて振り返る。

 後ろにあるのは窓――だが、誰もおらず、外から響くのは素振りの掛け声。


(……最近、神経質になっているかな)


 ヘレナと交流を深め始めた頃と同時に、やたらと視線を感じるようになった。特に医務室の窓から見られているような気がしているのだ。

 ただ、振り返っても誰もいない以上、気のせいと思うしかない。

 アランがため息をこぼしていると、ふと扉が開く音が響き渡った。


「アラン先生、いますかー? 肩をまた診て欲しいんですけどー」

「ああ、いますよ。入ってください」


 束の間の休憩も終わりらしい。アランは診察の準備をしながら、すぐに声を掛けた。


   ◆


 医務棟の窓の外――リーゼロッテが膝を抱えて座っていた。


(――また機会を逸してしまいましたか)


 ここ最近、彼女は医務棟に足を運んではアランの様子を窓から伺っていた。その目的はアランに謝罪するための機会を得るため。

 その脳裏に過ぎるのは先日、ヘレナの悲鳴が響き渡ったときのこと。

 リーゼロッテは詳しい状況も確かめず、アランが悪いと決めつけ、犯罪者扱いして手荒な拘束をしてしまった――そのことが頭から離れないでいる。


(職務はきちんと果たしたまで――ではありますが、彼に非はなかったわけで)


 誤解とはいえ、不当な暴力を振るってしまった。それは軍人としてあるまじき行為――それを猛省し、リーゼロッテは謝罪の機会を伺い続ける。

 だが、アランは日々忙しくしており、なかなか話す機会が取れずにいた。


「ん、まだまだ肩が凝っていますね」

「重労働ですからねー、お、おお、効くぅ……っ」


(――兵士たちが羨ましいですね)


 気軽に診てもらえる状況も、彼と話せることも。

 リーゼロッテはため息をこぼすと、ゆっくりと立ち上がり、気取られないようにその場から離れる。もうしばらくで休憩時間も終わる。

 早足に医務棟から城塔に戻る。執務室に入ると、レイリアはヘレナと話しているところだった。


「――承知した。ならば近々、一隊を山に入れて薬草を探させよう。ただ今、目利きができる隊員が熱を出していてな」

「ああ、昨日、医務棟に来ていた子か。なら、私が同行してもいい」

「そこは要検討だな。とにかく、湿布の件は理解した。手は打つようにする」

「お願い。それじゃ」


 会話を終え、踵を返したヘレナと目が合う。リーゼロッテが目礼すると、ヘレナはぶっきらぼうな口調で告げる。


「リーゼロッテ、時間ができたら医務棟に顔を出して。アランが心配している」

「――アランさんが?」

「ん、前回、足の治療をしてから大分期間が空いているから」

「アランさんの鍼でもう充分、治りましたよ」


 右足を軽く持ち上げてみせるリーゼロッテを、ヘレナはじっと見つめていたが、やがてため息をついて首を振る。


「自己診断ほど、当てにならないものはない――事故を未然に防ぐなら、早々にアランに診てもらうこと。警告はしたからね」


 そう言い残して執務室を立ち去るヘレナを、リーゼロッテは少し複雑な心境で見送る。


(気軽に会いに行けたら、苦労しませんよ――)


 どの面を下げて会いに行けば良いのだろうか。それほど面の皮は厚くない。ため息をこぼしたくなるのを堪え、リーゼロッテはレイリアに向き直った。


「休憩から戻りました。隊長」

「ん、おかえり――その調子だと、今日もアラン殿と話せなかったかな」


 レイリアの苦笑に、リーゼロッテは肩を竦めて答えた。


「生憎、診療中でして」

「そこで引き下がらずともいいだろうに。診てもらう時間くらいは取ってやるぞ?」

「アランさんの治療を必要としている兵は多いです。軽傷の私が彼の負担を増やすわけにもいきません――ただでさえ、申し訳ないことをしたというのに」

「全く何を遠慮しているんだか」


 呆れたように言うレイリアから視線を逸らし、リーゼロッテは話題を変える。


「それよりも――ヘレナさんとは何を話していて?」

「ん、湿布薬を始め、いくつかの薬剤が不足しそうという話だ。だから、薬草を採る部隊を山に入れなければならない」

「なるほど。前回から期間が空きましたから、丁度良いかと」


 それに薬草探しは意外といい訓練になる。兵士たちの持久力を培い、山に慣れさせることもできるのだ。リーゼロッテは少し考えてから口を開いた。


「なら、新兵に調練させるいい機会かと」

「確かに今期の新兵を山に慣れさせるには丁度いい頃合いか。なら、それを前提に部隊を組むとして――ふむ」


 そこで言葉を切ると、レイリアはリーゼロッテを見てほんの少し目を細めた。


(――嫌な顔つきをしていますね)


 経験上分かる。こういう目つきをしている彼女は何かを企んでいるときだ。やがて彼女は一つ頷いてリーゼロッテに訊ねる。


「リーゼロッテ、確か薬草の目利きはできたな?」

「――まぁ、多少ですが」

「なら、薬草採集部隊の指揮は任せよう。今、目利きができる奴が熱を出している」

「そう言えば、そんな話もしていましたね。ただ、私だけで手が回るかどうか」

「なに、心当たりがもう一人いる。新入りだが、使えるはずだ」

「……了解しました」


 頷きながらも少し疑問を抱く。新兵に薬草の目利きができる者はいただろうか?


「ふむ、来週が丁度いいか。予定を調整しておこう」


 そんな疑問を抱くリーゼロッテを他所に、レイリアは予定を決めてしまう。上官の命令は拒否できない。彼女は敬礼して了承するしかなかった。


 そしてその日はすぐに訪れた。

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