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合同討伐(コラボ)その1


 Cランクダンジョン『死霊王の地下遺跡』。

 かつて栄華を極めた古代王朝が、呪いによって地下深くへと沈み、今では無数のアンデッドが彷徨う死者の迷宮だ。


 空気が重く、冷たい。呼吸をするだけで肺に微かな瘴気が入り込み、チリチリとした不快感をもたらす。


「さあ、偉大なる女神様たち! 本日はこの僕、下級神トップランカーであるギルバートの華麗なる戦いをご覧に入れましょう!」


 そんな重苦しい雰囲気などお構いなしに、ギルバートはカメラ(光球)の真正面を陣取り、自慢の白銀のフルプレートアーマーを光らせながらウインクを飛ばしていた。


 完全に僕の配信枠を乗っ取る気満々である。

 カシャ、カシャ……。


 通路の奥から、錆びた鎧を着た骸骨の兵士――スケルトンソルジャーが三体現れた。

 Cランクの標準的な魔物だ。


「フッ、雑魚が。僕の真の力を見せてやろう! ――《紫電のライトニング・ジャベリン》ッ!!」


 ギルバートが杖を振りかざすと、轟音と共に極太の雷撃が放たれた。

 過剰すぎるほどのエネルギーが狭い通路を駆け抜け、三体のスケルトンを一瞬で粉砕し、ついでに周囲の壁や床のレリーフまで黒焦げに吹き飛ばした。


「ハハハッ! 見たかい!? これがエリートの火力だよ! さあ、拍手スパチャの準備はいいかい?」


 ギルバートはカメラに向かってドヤ顔を決める。

 しかし、僕の視界の端に表示されているコメント欄は、彼の期待とは真逆の反応を示していた。


【叡智と探求の女神:……馬鹿なの? Cランクの骨ふぜいに、あんな無駄に魔力コストを消費する大魔法を撃って。

魔力効率が悪すぎるわ。それに壁を破壊したら、ダンジョンの構造が崩れる危険性があるでしょうに】


【美と闘争の女神:あーあ、ドロップアイテムの『魔石』まで雷で粉々にしちゃってるじゃない。

ただ力をぶっ放すだけのバカは美しくないわね。マイナス百点よ】


「……ふふっ」

 僕は思わず口元を押さえて吹き出しそうになった。


 神界のトップエリートであるギルバートの自慢の魔法は、最高位の女神たちから見れば「効率最悪の素人プレイ」でしかなかったのだ。


 もちろん、コラボ仕様でコメント欄の『文字』は見えているはずのギルバートだが、彼にはこのコメントの発信者が誰なのか、そしてなぜ辛辣なのかが理解できていないらしい。


「ふん。ライトのリスナーは随分と見る目がないな。

この圧倒的な火力が理解できないとは……まあいい、奥へ進むぞ」


 ギルバートは鼻を鳴らし、ずんずんと地下遺跡の奥へと進んでいく。


 だが、彼の「無駄に派手な魔法」は、ダンジョンにおいて最もやってはいけない致命的なミスを引き起こしていた。


 ――轟音が、遺跡の奥深くに眠る『主』を叩き起こしてしまったのだ。


 ズズズズズ……ッ!

 突然、周囲の気温が一気に氷点下まで下がった。

 通路の奥から、濃密な黒い霧が這い寄ってくる。その霧の中から姿を現したのは、ボロボロの王袍を纏い、青白い燐光を放つ半透明の魔物だった。


【警告:エリアボスの異常覚醒を確認しました】

【対象:死霊王の思念体レイス・ロード

【脅威度:C+】


「な、なんだこいつは!? いきなりボス格だと!?」

 ギルバートが慌てて杖を構える。


 レイス・ロードは物理攻撃が一切通用しない霊体アンデッドだ。

 しかも、周囲に展開されている黒い霧は、魔法の威力を減衰させる『瘴気の結界』だった。


「ええい、鬱陶しい! 消え去れッ! 《紫電の槍》!」

 ギルバートが再び大魔法を放つ。


 しかし、紫電の槍はレイス・ロードの黒い霧に触れた瞬間、ジュワッという音と共に霧散してしまった。


「なっ……僕の最大魔法が、弾かれた!?」

「ギルバート、ダメだ! 霊体系のボスに雷属性は相性が悪――」

 僕の制止も聞かず、パニックに陥ったギルバートは無作為に魔法を連発する。


 しかし、そのすべてが霧に阻まれ、無駄に魔力を消耗していくだけだった。

「シ、ィィィィッ……!」

 レイス・ロードが不気味な声を発し、ギルバートに向かって黒い霧の触手を伸ばした。


 触手はフルプレートアーマーをすり抜け、直接ギルバートの精神と生命力を削り取る。

「ぎゃあああああっ!!? 冷たいっ、痛いぃぃぃっ! 助けて、ライト! 盾になれ!」


 さっきまでの威勢はどこへやら。ギルバートは無様に尻餅をつき、僕を盾にするように背後へ這って逃げようとした。


【叡智と探求の女神:呆れた。自分の魔法の属性相性も理解せずに連発して、魔力切れ(ガス欠)を起こした挙句に仲間に泣きつくなんて。

……ライト、あの金ピカは捨てて構わないわよ】


【美と闘争の女神:本当に見苦しいわね! ライト、あんなヤツさっさと見捨てて、アンタがビシッと決めちゃいなさい!】


 二柱の女神様から、同時に「見捨てろ」という指示コメントが飛ぶ。

 だけど、ここで彼を見殺しにすれば、神界のシステム上、僕の査定にも傷がつく。


 それに、いくら嫌な奴でも、同期を見殺しにするのは後味が悪い。


「……仕方ないですね。デコイにはなってもらいますけど」

 僕は白銀の剣を抜き、這いつくばるギルバートの前に出た。

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