最高位女神たちのコメントバトル!? 無茶振りに振り回される2
叡智の女神が語った『高度な魔力制御』の理論と、闘争の女神が求めた『剣への炎の定着』。
それを実現するための代償として、僕自身の生命力と魔力が、滝のような勢いで削られていくのがわかった。
「ぐっ……、あぁぁぁっ!」
鼻から一筋の血がツツッと流れる。
全身の毛細血管が悲鳴を上げている。
それでも、僕は振り向きざまに白銀の剣を構え、左手の指で刀身をツーッと撫で上げた。
「スキル発動。――【火種】ッ!!」
ただの小さな火花を生み出すだけの最底辺スキル。
だが、限界突破した魔力制御によって、放たれた熱エネルギーは逃げ場を失い、刀身の表面に極限まで薄く、高密度にへばりついた。
「熱ッ……!」
剣の柄を握る両手から、ジューッという肉の焦げる嫌な音がした。
制御などできていない。
女神からもらった強力な剣だからこそ耐えられているが、僕の手が先に焼け落ちそうだ。
「はぁぁぁっ!!」
僕は痛みを気合でねじ伏せ、跳躍してきた先頭のオークに向けて、赤熱した剣を振り抜いた。
ズバァァァァンッ!!
棍棒ごと、オークの巨体が斜めに『溶断』された。
超高温によって瞬時に焼灼された切断面からは、一滴の血も流れない。
「ブ、ギュ……!?」
先頭の一体が真っ二つになったのを見て、残りの四体が驚愕に足を止めた。
しかし、僕も限界だった。
「ハァッ……ハァッ……! だめだ、これ以上は……維持できない……ッ!」
刀身の赤熱が明滅し、ボフッという音と共に【火種】の魔力が散らされた。
ただの一撃。
たった一振りで、僕の魔力は底をつきかけていた。
広範囲を薙ぎ払うなんて、今の僕のキャパシティでは到底不可能だったのだ。
【叡智と探求の女神:……馬鹿ね。本当にやりやがったわ。
でも、不完全よ! 剣の熱が持たないし、貴方の魔力も尽きかけてる! 走りなさいライト! 一秒でも早く亀裂へ!】
「はい……ッ!」
僕は焼け焦げた両手で剣を握り直し、再び岩山の亀裂へと向かって全力で駆け出した。
四体のオークが怒り狂って後を追ってくる。
僕は狭い亀裂の奥へ滑り込み、振り返って剣を構えた。
【美と闘争の女神:チッ、一網打尽とはいかなかったわね。でも、上出来よ! 根性だけは認めてあげるわ!】
「ブモォォォォッ!!」
亀裂の入り口に、一体のオークが巨体をねじ込んでこようとする。
幅が狭いため、オークは自慢の棍棒を振り回すことができず、また複数で同時に襲いかかってくることもできない。
叡智の女神様が指示した『地形を利用した各個撃破』の完成だ。
「ここなら……! 魔力がなくても、さっきの剣術で……!」
僕は、窮屈そうに腕を伸ばしてくるオークの攻撃を躱し、むき出しになった喉元へと白銀の剣を突き込んだ。
ザシュッ!
一体、また一体。
息を殺し、集中力を極限まで高め、狭い通路で正確に急所だけを貫いていく。
焼け焦げた手の激痛と、枯渇した魔力による目眩に耐えながら、僕はひたすらに剣を振るい続けた。
♦︎
「……終わっ、た……」
最後のオークが光の粒子となって消え去った瞬間、僕は足の力が抜け、その場にへたり込んだ。
亀裂の入り口には、オークが落とした棍棒や牙のドロップアイテムだけが転がっている。
【Dランク魔物:豚鬼×5の討伐を確認】
【群れ討伐ボーナス:存在値+300を獲得しました】
システムのアナウンスを聞きながら、僕は荒い息を整えた。
鼻血を拭い、火傷で水ぶくれになった両手を見る。レベルアップや拠点帰還の処理が入るまで、この痛みは消えない。
「……ははっ。一筋縄じゃ、いきませんね」
カメラに向かって苦笑いすると、二つのコメントが流れた。
【美と闘争の女神:まあ、少し不格好だったけど、あの魔法剣はロマンがあったわ! 次はもっと魔力を鍛えて、五体同時に真っ二つにしなさいな】
【叡智と探求の女神:無茶苦茶な理論を強引に成立させた挙句、最後は地道な各個撃破……。呆れた力技だけど、生存戦略としては及第点よ】
相変わらず意見の合わない女神様達だけど、不思議と温かさを感じた。
例外スキルは、女神たちの高度な要求を、僕の足りないスペックで無理やり出力するための「諸刃の剣」だ。
でも、だからこそ工夫のしがいがある。
「ありがとうございます。……次は、もう少し上手く立ち回れるように、自分自身も鍛えておきます」
僕は痛む手で白銀の剣を鞘に納めた。
底辺からの成り上がり。
その道のりは決して楽じゃないが、この頼もしい(そして少し厄介な)リスナーたちがいれば、なんだって超えていける気がした。




