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神様はつらいよ 〜視聴ゼロの底辺神、配信で信仰(スパチャ)を稼いで成り上がる〜  作者: 仁科異邦


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3/22

女神様のお友達とDランクの壁


 神界における『下界救済システム』の配信は、非常にシビアなアルゴリズムで管理されている。


 僕のような下級神の配信は、プラットフォームの検索の奥底に沈められ、誰の目にも触れることはない。


 空中に浮かぶウィンドウの視聴者数は、今日も『1』。

 だが、そのたった一人のリスナーが、僕にとっては神界で最も重く、心強い存在だった。


【美と闘争の女神:さあ、今日も私の退屈を紛らわせるような配信を期待しているわよ、ライト】


「はい! 見ていただきありがとうございます。

今日は、昇格して初めてのDランクダンジョン『咆哮する豚鬼(オーク)の谷』を探索します」


 僕はカメラ(光球)に向かって一礼し、荒涼とした岩山を歩き始めた。

 体には、女神様から昇格の前祝いとして贈られた純白の神官服。

 腰には白銀の直剣が提げられている。


 Eランクの『這い寄る粘液の洞窟』とは比べ物にならない、獣の体臭と血の匂いが入り混じったヒリヒリとする空気感。


 僕は気を引き締め、白銀の剣の柄に手をかけた。

「ブモォォォッ!!」

 突如、岩陰から地響きを立てて巨大な魔物が姿を現した。


 身の丈二メートル近い、筋骨隆々の豚頭の亜人――オークだ。

 手には丸太のような棍棒を握りしめている。


【対象:豚鬼(オーク)】

【脅威度:D】

「出たな……!」

 僕は白銀の剣を引き抜き、オークに向かって踏み込んだ。


 死神騎士の絶望的な速度に比べれば、オークの動きは目で追える。


 僕はオークが棍棒を振り下ろすより早く懐に潜り込み、その分厚い胴体に向けて剣を一閃した。


 ――ガキンッ!

「えっ……!?」

 手に強烈な痺れが走り、僕は弾き飛ばされて地面を転がった。


 オークの腹には浅い切り傷ができただけで、致命傷には程遠い。

「痛っ……! なんで……剣は最高級のはずなのに!」


 オークが怒り狂い、咆哮を上げて棍棒を振り回す。

 僕は泥まみれになりながら、必死に回避に専念した。

(そうか……! 武器がいくら良くても、僕自身の『筋力(STR)』が底辺のままだから、装甲のようなオークの筋肉を断ち切れないんだ!)


 死神騎士の時は、「奇策」で勝てただけだ。

 純粋な物理攻撃では、僕はまだDランクの魔物すら倒せない。


 これが、ごまかしの利かないDランクの壁。

 防戦一方になり、息が上がってきたその時だった。


 ピコンッ、と通知音が鳴った。

【現在の視聴者数:2】

「え……?」

 増えた。

 そして、コメント欄に見慣れないアイコンのテキストが流れる。


【???:これが貴女の言っていた面白いオモチャ?

……ただの非力な下級神じゃない。

上質な剣の重さに、自分自身の体幹が振り回されているわ】


【美と闘争の女神:あら、来てくれたのね。

ふふっ、見限るのはまだ早いわよ?】


 誰だ? 女神様の知り合いだろうか。

【???:見ていられないわね。

いい? 筋力が足りないなら、剣の『遠心力』と『重心』を使いなさい。

踏み込む時の軸足がブレているから、斬撃に体重が乗らないのよ】


 そのコメントが表示された瞬間だった。

 僕の脳内に、激しいアラートが鳴り響く。


【条件達成:視聴者からの『的確な技術的指摘』を受信しました】

【例外権能(エクセプション):『視聴者顕現(オーディエンス・ハック)』が起動します】


【コメント内の概念『剣の重心操作』および『体幹の安定』を抽出。対象(ライト)の戦闘技術(スキル)へ一時的に強制インストールします】


「……ッ!」

 僕の体に、不思議な感覚が降りてきた。

 ただのステータスアップではない。

 頭ではなく「筋肉」と「骨」が、剣の正しい振り方を一瞬で理解したような感覚。


 オークが、丸太のような棍棒を大上段から振り下ろしてくる。

 さっきまでの僕なら、慌てて後ろに逃げていただろう。


「……軸足を、固定!」

 僕は逃げず、ギリギリまで引きつけてから半歩だけ斜め前に踏み込んだ。


 視聴者のコメント通りに体幹を意識すると、あんなに重く感じていた白銀の剣が、まるで羽のように軽く感じられた。


 遠心力を乗せ、オークの棍棒を滑らせるようにいなしながら、剣の重心を先端へと移動させる。


「そこだっ!!」

 ズバァァァンッ!!

 すれ違いざまの一閃。

 今度は弾かれなかった。

 僕の筋力ではなく、剣の重さと遠心力、そしてオーク自身の突進力を利用した完璧なカウンターが、オークの太い首を深々と薙ぎ払っていた。


「ブ、モ……?」

 オークの巨体がドスンドスンと二歩歩き……そのまま地面に崩れ落ち、光の粒子となって消滅した。


【Dランク魔物:豚鬼(オーク)の討伐を確認】

【存在値+50を獲得しました】

「はぁっ、はぁっ……! た、倒せた……!」

 僕は膝をつき、荒い息を吐き出した。


 一撃必殺のチート能力じゃない。

 僕自身の戦い方を「最適化」してくれたんだ。

 空中のウィンドウを見ると、新しく来た視聴者がコメントを残していた。


【???:……なるほど。ただのステータス強化ではなく、視聴者の『指摘(コメント)』を、自身の戦闘プロセスの最適化に強制変換したのね】


【???:理外の権能……確かに興味深いわ。

少しだけ、貴方の成長を観察してあげることにするわ】


【システム:『叡智と探求の女神』からの継続視聴(サブスクライブ)を確認しました】


「叡智と探求の女神……! 美と闘争の女神様に続いて、また最高位の女神様!?」


 僕は目を丸くした。

 視聴者数は、たったの『2』。

 でも、神界で最も影響力を持つトップの女神様たちが、僕の配信枠に居座っている。


【美と闘争の女神:ふふっ、私の親友は見る目が厳しいわよ? せいぜい良い所を見せなさいな、ライト】


「はい……! ありがとうございます、お二人とも!」

 僕は剣についた汚れを払い、立ち上がった。


 視聴者からの的確な指示(コメント)があればあるほど、僕は戦い方を学習し、強くなれる。

 いきなり最強にはなれなくても、一歩ずつ、確実に。

 

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