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神様はつらいよ 〜視聴ゼロの底辺神、配信で信仰(スパチャ)を稼いで成り上がる〜  作者: 仁科異邦


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復興へのロードマップ 〜防衛拠点(フェーズ2)を作ろう〜 1


 朝の澄んだ空気の中、アデル村の復興ロードマップ【フェーズ1:衣食住の確保】の総仕上げが始まろうとしていた。


「ええと……まずは、雨風をしのげる『家』ですね」

 僕は腕を組み、かつて村だった場所の瓦礫を見渡した。


 立派な石積みの土台は残っているものの、上に建っていた木材は長年の瘴気で腐り果て、触れただけでボロボロと崩れてしまう。


 これでは、ゴードンさんとシエルちゃんを住ませるわけにはいかない。

「神官様。お気持ちはありがたいですが、家を建てるとなると木材だけでなく、大工の技術と大量の工具が……」


「そうですね……。一瞬で魔法の城を出すなんて芸当、僕にはできませんし」

 大工の経験なんてゼロだし、インベントリにノコギリや釘も入っていない。

 どうしたものかと悩んでいると、空中のウィンドウにポンポンとテキストが流れた。


【叡智と探求の女神:……なるほど、インフラ整備ね、ゼロから建てるのは非効率よ。

残っている『石の土台』を再利用しなさい。壁は森から切り出した丸太を積み上げ、隙間を『粘土』と『灰』を混ぜた自家製モルタルで埋めるの。

構造の基礎や組み方は、私がコメントで随時指示してあげるわ】


【美と闘争の女神:要は体力勝負でしょ! 丸太を切るなら、私が贈った剣を使いなさい。Aランク魔物の装甲すら断ち切る名剣よ、ただの木材なんて豆腐と同じ感覚で切れるわ!】


「なるほど! お二人とも、ありがとうございます!」

 例外スキルに頼らなくても、僕にはこの頼もしい「指示厨サポーター」がついている。


 それに、数々の死線を潜り抜けて中級神(Cランク)に昇格し、存在値が五万を超えた今の僕の基礎ステータスなら、ただの下級神だった頃とは比べ物にならない腕力と体力があるはずだ。


「ゴードンさん、シエルちゃん! 一緒に手伝ってくれますか? 僕は森で木を切り出してきますから、二人は村の隅にある粘土質の土と、昨日の焚き火の『灰』、それに水を混ぜて、ドロドロのモルタルを作っておいてください!」


「泥作り! わたし、お水くむ!」

「承知いたしました! なに、昔はワシも農作業で土を捏ねておりましたからな!」

 役割分担が決まると、僕は白銀の剣を抜き、村のすぐ外側に広がる森へと走った。


 美と闘争の女神が言う通りだった。

 名剣を斧のように振るうと、大木が一切の抵抗なくスパンッ! と切り倒されていく。

 枝葉を払い落とし、大人三人で抱えるような太い丸太を肩に担ぎ上げる。


 ズシリと重いが、今の僕の筋力なら十分に運べる重さだ。

「ふんッ!」

 ドスン、と丸太を土台の横に下ろす。


 一方、ゴードンとシエルは泥だらけになりながら、僕が【水滴】のスキルで出しておいた水を使って、一生懸命に粘土と灰をこね合わせてくれていた。


「神官様、泥の準備できましたぞ!」

「ありがとうございます! じゃあ、積んでいきますよ!」

 僕は叡智の女神様のコメント(指示)に従い、丸太を石の土台の上に井桁いげた状に積み上げていく。


 木材同士の隙間には、ゴードンとシエルが作ってくれた泥をたっぷりと詰め込んだ。

 釘がない分、重さと摩擦、そしてこの泥が接着剤の代わりになるのだ。


「仕上げは僕の魔法でやります! 下がっていてください」

 壁が組み上がり、切り出した板で屋根を塞いだ後、僕は家の壁に向かって両手をかざした。

「スキル発動。――【火種】!」


 炎を出すのではなく、熱だけを広範囲に放射する。

 隙間に詰められた泥の水分がジュワジュワと蒸発し、灰と混ざった粘土が陶器のようにカチカチに焼き固められていく。


 同時に、生の木材も適度に乾燥し、強度が増した。

「ふぅ……。完成、です!」

 昼過ぎ。

 太陽が真上に登る頃には、少し不格好だが、どっしりとした『土と丸太の家』が完成していた。


 魔法やチートスキルで一瞬にして作ったものではない。

 汗を流し、みんなで泥だらけになって作った、頑丈で温かみのある手作りの家だ。


「おおお……! たった半日で、立派な家が建つなんて……!」

「おうち! わたしたちのおうちだー!!」


 シエルが歓声を上げて、まだ木の香りがする家の中に飛び込んでいく。

 ゴードンも震える手でカチカチに固まった泥の壁に触れ、涙ぐんでいた。


【叡智と探求の女神:構造力学の計算に狂いはないわ。震度7相当の揺れや、下級魔物の体当たりにも耐えられる耐久性よ。モルタルの焼き固めも完璧ね】


【美と闘争の女神:まあ、少し泥臭すぎる気もするけど……アンタの汗だくの背中も、悪くなかったわよ。あのジジイとガキも喜んでるみたいだしね】


 二柱の女神様も、満足そうだ。

 神界の人事局(ブラック企業)で元々事務作業しかしていなかった僕にとって、この泥だらけの達成感は、何物にも代えがたい報酬だった。


「ゴードンさん。僕が留守の間は、基本的にこの家の中から出ないでください。

分厚い木の扉を内側からかんぬきで閉めていれば、下級の魔物ならやり過ごせます。

食料の焼き芋と、水瓶に綺麗な水もたっぷり用意しておきましたから」


「何から何まで、本当に……。神官様は、どちらへ?」

「ロードマップの【フェーズ2】……村の防衛機構を作るための素材を取りに、『北の廃坑』へ行ってきます」


 僕の言葉に、ゴードンの顔がサッと引き締まる。

「北の廃坑……。あそこは、瘴気で狂った鉱山獣や、魔物を引き寄せる『呪われた鉱石』があると言われています。どうか、ご無事で……!」


「ええ。任せてください」

 僕は泥を払い、ゴードンとシエルに見送られながらアデル村を後にした。

 背中越しに「いってらっしゃーい!」というシエルの元気な声が聞こえ、思わず剣の柄を握る手に力が入る。


 守るべき拠点と、帰るべき場所ができた。


♦︎


 アデル村から北へ。

 荒涼とした岩肌の山道を半日ほど進むと、景色は徐々に険しさを増していった。


 空はどんよりとした暗雲に覆われ、肌を刺すようなチリチリとした瘴気が漂い始める。


 やがて、切り立った崖のふもとに、巨大なあぎとのようにポッカリと口を開けた『北の廃坑』の入り口が見えてきた。


「ここか……」

 廃坑の入り口には、かつて鉱員たちが使っていたであろうトロッコの残骸や、錆びついたツルハシが散乱している。


 奥からは、ヒュゥゥ……という不気味な風の音と共に、強烈な魔力の波動が漏れ出していた。


【叡智と探求の女神:気をつけてライト。坑道の内部から、異常な質量の魔力反応を検出したわ。ただの魔物じゃないわよ、無機物が瘴気を取り込んで変異した『ゴーレム種』の可能性が高いわね】


【美と闘争の女神:いいじゃない! 農業だの大工だの、地味な作業ばかりで退屈してたところよ! 派手にぶっ壊して、最高級のコアを引きずり出しなさい!】


 女神様たちのコメントに後押しされ、僕は白銀の剣を抜き、暗い坑道の中へと足を踏み入れた。


 坑道の中は、発光する奇妙な苔のおかげで、松明なしでも辛うじて視界が確保できた。

 奥へ進むにつれて、壁に埋まったままの鉱石が、まるで心臓の鼓動のようにドクン、ドクンと赤黒い光を脈打たせているのがわかる。


「これが、ゴードンさんの言っていた『呪われた鉱石』か……」

 ズズン……ッ!


 その時、坑道の奥から、落盤のような重い足音が響いてきた。

「……ッ!」


 僕は瞬時に身を低くし、剣を構えた。

 暗闇の奥から、ゆっくりと『それ』が姿を現す。

 身の丈は四メートル以上。

 岩や土でできた普通のゴーレムではない。

 全身が、廃坑に残されていた錆びた鉄骨やトロッコの残骸、そして壁に埋まっていた『赤黒く脈打つ呪われた鉱石』で構成された、異形の機巧巨兵マキナ・ゴーレムだった。


【警告:エリアボスの変異体を確認しました】

【対象:瘴鋼の巨兵カースド・マキナ・ゴーレム

【脅威度:C+】


「ギィィィィィン……!!」

 金属が軋むような甲高い咆哮と共に、巨兵の頭部にある単眼が、赤く爛々と輝き僕を捉えた。


「こいつが、この廃坑の主……!」

 全身が分厚い鋼鉄と鉱石の装甲。

 オークとは比べ物にならない、圧倒的な『質量』と『硬度』を持った敵だ。


 だが、恐れはない。こいつの胸の奥で赤黒く輝いている巨大な鉱石コアこそが、アデル村の防衛結界を作るための最高の素材になる。


「さあ、女神様たち! ロードマップ『フェーズ2』の素材集め……早速に狩り(採掘)といきましょう!」


 僕は空中のカメラに向かって不敵に笑うと、圧倒的な質量を誇る鋼鉄の巨兵へ向かって、一直線に駆け出した。


 底辺神の村おこし配信、波乱の『廃坑探索編』が幕を開けた。


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