復興へのロードマップ 〜まずは拠点防衛(フェーズ1)から始めよう〜 2
「……ゴードンさん」
僕は焚き火に新しい薪をくべ、真っ直ぐに老人を見た。
「このアデル村だけを浄化しても、根本的な解決にはなりませんね。
西にあるルミナス村……いや、おそらくこの周辺の領地一帯が、同じように貧困と瘴気に苦しんでいるはずだ」
「ええ……。噂では、他の村も似たような状況だと……」
「なら、全部救いましょう」
僕の言葉に、ゴードン老人はポカンと口を開けた。
「ぜ、全部……? 神官様、お気持ちは痛いほどわかりますが、それはあまりにも……。
大国や高位の神殿が動かなければ、到底不可能な……」
「可能です。僕たちでやるんです」
僕は神官としての――いや、いずれ神界の理不尽をぶっ壊す者としての決意を口にした。
「このアデル村を『拠点』にします。
大地を浄化し、作物を育て、安全な防壁を築く。
そして、この村が豊かになったら、ルミナス村をはじめとする周囲の村から、迫害された人々や貧しい人々を受け入れましょう」
「なっ……! わ、ワシらのような口減らしの民を、受け入れると……!?」
「はい。神は……いや、僕が信仰する教義は、見捨てられた者を決して見捨てませんから」
綺麗事かもしれない。
でも、僕の端末には、先ほど彼らから得た『5000』という規格外の存在値(KPI)が刻まれている。
理不尽なシステムの外側で、彼らを直接救い、感謝と信仰を集める。
それが僕の『力』になり、いずれ神界の人事局(ブラック企業)に叩きつけるための強大な武器になる。
他の村も救済する。
それはつまり、圧倒的な数の『信者』を獲得するということに他ならないのだから。
【美と闘争の女神:あははははっ! いいわねライト! その野心、最高に痺れるわ!
神界のシステムなんかガン無視して、下界のど真ん中に貴方自身の巨大な『神殿』を作ってやろうじゃないの!】
【叡智と探求の女神:大胆な計画ね。でも、悪くないわ。
周辺の限界集落を吸収して巨大なコミュニティを形成すれば、それはやがて無視できない勢力になる。
……ふふっ、私のシミュレーションに、また新しい変数が加わったわ】
二柱の女神様が、僕の無謀な宣言に熱狂している。
この『大いなる反逆』のプロットは、どうやら最高位のリスナーたちのお気に召したようだ。
「……神官、様……」
ゴードン老人は、震える手で顔を覆い、嗚咽を漏らした。
絶望しかなかった彼の未来に、一条の光が差し込んだ瞬間だった。
「とはいえ、夢物語を語るだけじゃ何も進みません。まずは現実的な『復興へのロードマップ』を共有しておきましょう」
僕は地面の土を木の枝で払い、そこに簡単な図を描き始めた。
神界の人事局で、嫌というほど書かされてきた『プロジェクト進行表』だ。
まさか、下界の村おこしで役に立つ日が来るとは思わなかったが。
「ロード、マップ……?」
「今後の計画表みたいなものです。
ゴードンさんにも協力してもらう必要があるので、しっかり聞いてくださいね。
……大きく分けて、三つのフェーズ(段階)で進めます」
僕は土に「1,2,3」と数字を書き込み、枝の先でトントンと叩いた。
「まず【フェーズ1:衣食住の確保と拠点化】です。これは現在進行形ですね。
今日、畑を一つ作って芋を収穫し、飲み水も確保しました。
明日からは、これをもう少し拡大します。畑の面積を増やし、雨風をしのげる『家』を建てましょう」
「家を……。しかし、木材を切り出す道具も、大工の技術も……」
「そこは僕の『魔法』でなんとかします。ゴードンさんには、村の敷地の案内と、作物の管理をお願いしたいです」
ゴードンが真剣な表情で頷く。
「次に【フェーズ2:防衛力の強化】です。……これが一番の課題ですね」
僕は図の「2」の部分をグルグルと囲んだ。
ここが一番のネックだ。
「さっき大きな魔物(呪樹)を倒したので、今は静かですが……この放棄区画の瘴気が完全に消え去ったわけじゃありません。
森の奥や、ダンジョンの深層には、まだ強力な魔物がウヨウヨしているはずです」
「ひっ……! そ、そうですね……」
「僕が常にこの村にいれば問題ないんですが、浄化活動や他の村の視察のために、村を空ける時間も出てきます。
その間に魔物に襲われたら、ゴードンさんやシエルちゃんでは対処できません」
僕の指摘に、ゴードンの顔がサッと青ざめる。
どれだけ美味しいご飯があっても、寝首を掻かれる恐怖があれば、それはスローライフとは呼べない。
「だから、僕がいなくても村を守れる『防衛システム』を構築する必要があります」
【美と闘争の女神:防衛? そんなの簡単よ。
村の周囲に『絶対不可侵の結界』を張り巡らせればいいじゃない。
私の神聖属性を帯びた魔力を注ぎ込んであげるわよ】
【叡智と探求の女神:彼女の言うことも一理あるけど、広範囲の結界を常時維持するには、莫大な魔力リソースが必要よ。
ライトの魔力タンクじゃ、数分で干上がるわ。それよりも、自動迎撃を行う『魔力駆動のゴーレム(使魔)』を配備する方が効率的ね】
コメント欄で、二柱の女神による高度な防衛論議が始まった。




