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復興へのロードマップ 〜まずは拠点防衛(フェーズ1)から始めよう〜 1

 例外スキルによって生み出された【火種】の焚き火が、パチパチと心地よい音を立てて爆ぜている。


 崩れかけた小屋の地下室――いや、今はもう隠れる必要もないので、屋根の半分が吹き飛んだ地上のスペースに移動していた。


夜風は少し冷たかったが、燃え盛る炎の熱と、腹の底から湧き上がる黄金芋の活力が、僕たちの体をしっかりと温めてくれていた。


「ぷはぁっ……。神官様、何から何まで、本当にありがとうございます。

まさか、この呪われた死の土地で、こんな温かい夜を過ごせる日が来るなんて……」


 泥を落とし、少しだけ顔色が良くなったゴードン老人が、新しく湧き出た澄んだ白湯を啜りながら、深く息を吐き出した。


 その隣では、満腹になった孫娘のシエルが、毛布の代わりに僕が貸し与えた神官服の外套に包まり、安心しきった寝顔でスースーと規則正しい寝息を立てている。


「お腹がいっぱいになって、緊張の糸が切れたんでしょうね。ゆっくり寝かせてあげましょう」


「はい……。シエルがこんなに安らかな顔で眠るのは、本当に何ヶ月ぶりか……」

 老人はシエルの頭を優しく撫でながら、目尻に滲んだ涙を拭った。


 ひとまず、命の危機は脱した。

 だが、僕にはまだ聞いておかなければならないことがあった。


 ここは『放棄区画アデル』。瘴気に汚染され、神界のシステムでもCランクダンジョンと同等の危険度と認定されている場所だ。

 いくら隠れ潜んでいたとはいえ、ただの非力な老人と子供が、なぜこんな地獄のど真ん中にいるのか。


「ゴードンさん。一つ、聞かせてくれませんか」

「はい。神官様の問いとあらば、何なりと」


「あなたたちは、ずっとこのアデル村に住んでいたんですか? 瘴気に汚染される前から?」

 僕の問いに、ゴードン老人は焚き火の炎を見つめたまま、力なく首を横に振った。


「……いいえ。ワシらは、元々この村の住人ではありません。

ここから西に山を二つ越えた先にある、『ルミナス』という開拓村から流れてきたんです」


「別の村から……。じゃあ、なんでこんな危険な場所に?」

 ゴードンはゴクリと唾を飲み込み、枯れた声で語り始めた。


「ルミナスも、貧困に喘いでおったんです。年々強くなる瘴気の影響で、作物は育たず、魔物の襲撃は増えるばかり。

領主様に助けを求めても、派遣される討伐隊の費用として、さらに重い税を課せられる始末……」


「…………」

「村の備蓄はとうの昔に底をつき、若い者たちは傭兵や出稼ぎに出て、二度と帰ってきませんでした。

シエルの両親も、魔物から村を守るための防衛戦で命を落としました。

……そして、残されたのは、労働力にならない年寄りと、孤児だけ」


 ゴードン老人は、ギュッと拳を握りしめた。その手は細く、ひび割れ、長年の苦労を物語っていた。


「冬を越すための食料が足りない。

このままでは村が全滅する。

そう判断した村長は……涙ながらに、決断しました。

労働力にならないワシら老人と、身寄りのない子供たちを村から追放すると。

……いわゆる、『口減らし』です」


「口減らし……」

 重い響きだった。

 ファンタジーや歴史の物語の中だけの話だと思っていた残酷な現実が、今、目の前にある。


「ワシらを恨むな、生き残るためなんじゃと、村長は土下座して泣いておりました。

……誰も、悪くないんです。

悪いのは、この土地を覆う瘴気と、ワシらに生きる力がないこと。

追放されたワシらは、あてもなく彷徨い、魔物から逃げ隠れしているうちに、誰も寄り付かないこの放棄区画アデルの地下へと流れ着いたんです」


 ゴードンの声が震えていた。

 彼らは、捨てられたのだ。生き残るために、共同体から切り離された。


 そして、絶望の中で泥水をすすりながら、ただ死を待つしかなかったのだ。

「……そうですか」

 僕は静かに相槌を打ちながら、胸の奥でドス黒い怒りが湧き上がるのを感じていた。


 それは、ルミナス村の村長に対する怒りではない。彼らもまた、極限状態の中で苦渋の決断を強いられた被害者だ。


 僕の怒りの矛先は、この世界を「管理」しているはずの神界――あのブラック企業そのものに向いていた。

(神界の人事局は、この状況を知らないはずがない……)


 下界救済システム。ダンジョンを浄化し、人々を救うためのシステム。

 しかし、その実態は、上級神たちが『配信』という娯楽を楽しむためのプラットフォームに過ぎない。安全な玉座から高みの見物を決め込み、数字(KPI)と信仰心だけを吸い上げている。


 末端の下級神には理不尽なノルマを課し、下界の人間たちが口減らしという地獄の苦しみを味わっていても、一切の直接的な救済を行わない。

 それが、神界のやり方だ。


【美と闘争の女神:……胸糞悪い話ね。

神に祈りながら飢えて死んでいく人間を、神界のシステムは『自然淘汰』として処理しているのよ。本当に、反吐が出るわ】


【叡智と探求の女神:マクロな視点で見れば、リソースの枯渇による集落の崩壊は必然のプロセスよ。

でも……確かに、システムの管理体制としては怠慢が過ぎるわね。

何のための神界なのか、根本的な存在意義が問われるわ】


 二柱の最高位女神も、この世界の現状に対して強い不満と疑念を抱いているようだった。

彼女たちのようなトップ層ですら、巨大なシステムの構造的な腐敗には手を焼いているのかもしれない。

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