祝・中級神昇格! ……からの、呪われた限界集落(ダンジョン)への左遷!? その2
「うわっ!」
僕は跳躍して根の刺突を躱し、空中で白銀の剣を抜いた。
【叡智と探求の女神:アレがこの土壌を汚染している元凶の一つよ。
普通に斬っても無限に再生するわ。
中枢にある『瘴気のコア』を正確に切除し、同時に周囲の汚染された土を深く掘り起こして根絶やしにするのよ】
【美と闘争の女神:面倒くさいわね! あんなの、剣の腹で地面ごとぶん殴って、クレーターを作って更地にすればいいのよ!】
またしても、二柱の女神からの真逆の指示。
精密な切除と土壌の掘り起こしを求める叡智の女神と、圧倒的な暴力による更地化を求める闘争の女神。
普通なら両立不可能なその二つの概念を、僕の脳内でシステムが強引に結合する。
【条件達成:視聴者たちによる『精密な土壌の掘り起こし(耕作)』と『圧倒的な質量破壊』を受信しました】
【例外権能:『視聴者顕現』が起動します】
【コメント内の概念を抽出。白銀の剣の質量と形状認識を一時的に改変。対象に『神武農法』をインストールします】
「――ッ!?」
僕が握っていた白銀の剣が、異常な光を放ち始めた。
美しく細身だった刀身が、光の中で分厚く、そして先端が直角に曲がった無骨な形状へと変化していく。
それはどう見ても、畑を耕すための『鍬』だった。ただし、身の丈ほどもある巨大な光の鍬だ。
【美と闘争の女神:はあ!? 私の贈った美しい剣を、なんて形にしてんのよ!?】
【叡智と探求の女神:……なるほど。切除と粉砕、掘り起こしを同時に行う最適解のツール(農具)。……理にかなっているわ】
「これなら……耕せるッ!!」
僕は落下しながら、巨大な光の鍬を上段に構えた。
呪樹が僕を串刺しにすべく、無数の根を束ねて突き上げてくる。
「スキル発動! 【火種】!!」
鍬の刃の部分に、限界まで圧縮した【火種】の熱エネルギーを定着させる。
超高温を宿した巨大な光の鍬。
「ハァァァァァッ!! 開墾ッ!!」
ズドンッ!!!
僕が鍬を大地に叩きつけた瞬間。
呪樹の分厚い幹と無数の根が、紙切れのように消し飛び、同時にアデルの汚染された赤黒い大地が、深さ数メートル、半径三十メートルにわたって一気に『掘り起こされた』。
圧縮された火種の熱が、土の中に潜んでいた瘴気と毒素を一瞬にして焼き払い、浄化していく。
ドーム状に広がる爆風と土煙。
「ギャルォォォォ……ッ!?」
呪樹はコアごと完全に粉砕され、悲鳴を上げながら光の粒子となって消滅した。
【Cランク魔物:呪樹の討伐を確認】
【存在値+1000を獲得しました】
【アデル区画:セクター1の土壌浄化完了。KPI達成率:0.5%】
「ゲホッ、ゴホッ……! や、やった……」
土煙が晴れた後。
そこには、さっきまでのヘドロとイバラが嘘のように消え去った、ふかふかで温かい、綺麗な黒土の『畑』が広がっていた。
【美と闘争の女神:……ちょっと、なにあのダイナミックすぎる農作業。
剣が鍬になった時はどうしようかと思ったけど、威力は申し分ないじゃない!】
【叡智と探求の女神:土壌の深部まで完璧に熱処理されているわ。
これなら、すぐにでも神聖な作物が育つはずよ。
……ふふっ、なんだか新しいシミュレーションゲームを見ているみたいで楽しくなってきたわね】
二柱の女神様も、まんざらではないらしい。
僕はふかふかになった土の上に腰を下ろし、額の汗を拭った。
ただ敵を倒すだけの殺伐としたダンジョン探索から一転。
これからは、敵を倒し、大地を耕し、村を再建するという果てしない業務(スローライフ?)が待っている。
「ゼロス主任の思惑は外れましたね。……お二人のおかげで、ここ、最高の『拠点』にできそうです」
僕がカメラに向かって笑いかけると、ポツンと、耕された黒土の中から小さな緑色の『双葉』が顔を出したのが見えた。
理不尽な左遷から始まった、中級神ライトの辺境開拓配信。
ブラック企業に抗う僕の、新しい日常の幕開けだった。




