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第2章:最凶迷宮、最初の侵入者

「おいおい、広がり方が雑すぎるだろ」


朝いちばんの感想がそれだ。いや、正確には朝かどうかも怪しい。ここ、空がないし。時計も落下のときに壊れたし。体感時間だけが妙に正直で、たぶん寝て起きたから朝扱いでいいだろ、という雑なルールで生きている。


簡易寝台から起き上がると、石壁の向こうから低い駆動音みたいなものが響いている。昨日の夜、いや夜でいいのか知らないけど、とにかく眠る前に増設した自動迎撃罠がちゃんと仕事している音だ。ごとん、ぎぃ、ずしゃ、みたいな、工場見学なら怒られそうな物騒さが混じっている。


俺は寝癖のついた頭をかきながら、扉横の覗き穴から通路を確認する。


「……うわ」


魔狼が二匹、床下の回収穴にきっちり収まっていた。ひとつは落とし穴、ひとつは壁槍。死因の内訳がしっかり分かるあたり、我ながら嫌な意味で職人っぽい。


青い設計画面を開くと、素材表示がぴこんぴこん増えていた。


【魔核×9】

【石材×143】

【黒鉄石×21】

【低級獣皮×4】


「夜のうちに自動で稼げるの、だいぶ反則だな」


「迷宮の基本だ」


背後からアーキヴの声がする。こいつ、本当に気配なく出てくるな。ホラー演出としては満点だけど、心臓には優しくない。


「基本って言うな。普通の高校生の基本から五百キロくらい離れてる」


「お前はもう普通の高校生ではない」


「朝から重い現実を投げるな」


とはいえ、昨日より頭は冷えている。足首も添え木のおかげで歩ける程度にはなった。痛いけど。歩くたびに「無理すんなよ」と「でも動け」が同時に来る。人体、意見統一してほしい。


俺は加工台の前に座り、昨日掘り出した黒鉄石を並べる。画面に浮かぶ設計一覧の中から、《簡易つるはし》《補助短剣》《圧力板・改》を選ぶ。素材を投入すると、青い光が石台の上で組み上がり、じわっと形になる。


何度見ても意味がわからない。だが便利だ。便利なものは正義だ。理解はあとで追いつけばいい。


完成したつるはしを握る。ずしりと重い。柄の感触も悪くない。


「よし。採掘効率アップ。文明の夜明けだ」


「既に迷宮設計者の文明にいる」


「だから言い方が堅いんだよお前は」


鍛冶台――というより加工台だが、俺の気分的には鍛冶台だ――の横に、小さな保管棚も設置する。食料庫も広げる。壁を二マス掘って、収納箱を追加。干し肉っぽい保存食と水袋、あと見たことのない根菜が生成された。


「なんだこれ」


「栄養効率の高い地下野菜」


「急にダンジョン飯が始まったな」


それでも食えるなら何でもいい。昨日の俺は死にかけていた。今日の俺は食料庫を拡張している。人生、落差が激しい。


そのあとも俺はせっせと迷宮をいじる。入口通路の角度を変え、隠し通路を一本追加し、回収穴を素材保管室へつなげる。敵が落ちた先でそのまま素材に変換される仕組みまで組めそうで、気づけば無言で作業に没頭していた。


掘る。積む。ずらす。埋める。


壁を一枚動かすだけで、空間の意味が変わる。


これがたまらない。


どこをどう変えれば敵が嫌がるか、どうすれば自分が動きやすいか、考えたぶんだけ迷宮が応えてくる。誰かに奪われない。俺の判断が、そのまま形になる。


……気持ちいい。


いや、だいぶ気持ちいいな、これ。


「顔が悪役」


「迷宮作ってるやつに善人顔を期待するな」


アーキヴが何か言いたげにこっちを見るが、放っておく。


そんなふうに半日くらい――たぶん――作業していた頃だ。設計画面の端に、見慣れない波紋みたいな表示が出た。


【上層接続構造に変化を検出】

【設計反映率:3.4%】


「……ん?」


俺は手を止める。


「これ、何だ」


「お前がここで設計した迷宮構造は、現実側のダンジョンへ反映される」


アーキヴはいつもの平坦な声でとんでもないことを言った。


「反映?」


「地上から見えるダンジョンの一部は変質する。未確認通路、消えた階段、新規罠、隠し部屋。設計領域の構築結果が上層の構造へ滲み出る」


「ちょっと待て。じゃあ俺がここで壁増やしたら、上でも迷うやつが出るってことか」


「出る」


「落とし穴増やしたら」


「増える」


「……それ、だいぶ迷惑では?」


「迷宮とはそういうものだ」


さらっと正論を言われた。いや正論か? 迷宮側の正論って、世間的にはだいぶ犯罪寄りなんだが。


ともあれ、上に変化が出るなら、誰かが異常に気づくのも時間の問題だろう。政府か探索者か、配信者か、ろくでもない誰か。まあ、ろくでもない割合は高い。


俺が腕を組んで考えていると、画面にさらに別の反応が現れた。音の波形みたいな細い線が、迷宮の外周をなぞっている。


「これは?」


「侵入者だ」


「早いな」


「噂の拡散は人間の得意分野だろう」


たしかに。人類、だいたい余計なことを広める速度だけは速い。


俺は隠し通路へ滑り込む。壁の中を縫うように作った観察路だ。細いが、覗き窓を何箇所も仕込んである。自画自賛になるが、かなりいい出来だ。設計者本人の性格が悪いほど、防衛設備は育つ。


通路を進み、外周部の監視穴から様子をうかがう。


そこにいたのは、ひとりの女子だった。


短めに結んだ髪。動きやすそうな軽装。腰には二本の短剣。肩に小型カメラ。壁に耳を寄せ、靴裏で床の反響を確かめながら慎重に進んでいる。


そして俺は、その顔を知っていた。


「……橘スズ?」


都立蒼星高校の同級生。探索者配信で名を上げてる、うるさい、強い、口が悪い、でも妙に面倒見がいいと評判の女子。クラスでも浮いてるくせに目立つやつ。目立つのに、やたら周りを見ているやつ。


画面越しじゃなく実物を見るのは久々だが、相変わらず動きに無駄がない。


「なんでこんなところに」


「未確認迷宮の調査だろう」


アーキヴが答える。


「配信者だ。人より先に危険へ飛び込む種類だと記録されている」


「記録便利だなお前」


だが感心している場合じゃない。スズは俺の第一関門――偽装床と壁槍の複合罠――の前で止まり、しゃがみ込んで床を軽く叩いた。こつ、こん、と音が返る。


「へえ、空洞」


小さくつぶやいて、彼女は壁に向かって何かを打ち込む。細い金具だ。そこから糸みたいな振動が広がり、音の反響を拾っているらしい。


《音響探知》。


索敵系スキルの中でもかなり厄介なやつだ。見えない構造を、音で読む。地図係の俺とは相性が悪い。嫌な意味で。


スズは床の安全地帯だけを踏んで進み、落とし穴をすっと飛び越える。壁槍の起動位置もぎりぎりで回避した。


「うそだろ」


「解析精度が高い」


「知ってる。見ればわかる」


悔しい。ものすごく悔しい。


せっかく作った罠を、初見でこうもあっさり抜けられると、設計者としてのプライドがむずむずする。よし、追加だ。今すぐ追加だ。


俺は隠し通路の中で設計画面を開き、彼女の進行先に新しい罠を差し込む。通路幅を一マスだけ狭め、角の先に滑る床、その先に浅い落とし穴。落ちても死なないが、間抜けに転ぶ類のやつだ。実用性と嫌がらせの黄金比。


「大人気ない」


「うるさい。迷宮は本来、大人気ない存在なんだよ」


スズは二つ目の角を曲がる。そこで床を軽く鳴らし、また安全地帯を探る。だが今回は、さっきまでなかった変化がある。


彼女の右足が、するりと滑った。


「わっ、ちょ――」


そのまま落ちる。どさっ、と小気味いい音が響いた。


よし。


「勝った」


「落差は一・八メートル。まだだ」


「素直に喜ばせろよ」


覗き穴から見下ろすと、落とし穴の底でスズが顔をしかめている。怪我はなさそうだ。尻は打ったかもしれない。そこは知らない。


「……性格わっる」


底から聞こえる声に、俺は思わず肩を揺らした。いや、聞こえてるのかよ。独り言のつもりだったんだが。


スズはしゃがんだまま、穴の壁に指を当てる。次に、目を閉じた。


かすかな振動音が広がる。空気がぴんと張る感じ。嫌な予感しかしない。


「そこか」


「は?」


彼女が顔を上げた先は、俺がいる覗き窓の真下だった。


いや待て。ちょっと待て。なんで。


「そこ、息止めるの遅い」


「怖っ」


思わず声に出た。もうだめだ、バレた。


スズは穴の底からにやっと笑う。


「出てきなさいよ、朝霧カナタ」


背筋が固まる。


名前を呼ばれた瞬間、心臓が一回変な打ち方をした。


生きてると知られた。しかも、よりによって最初の侵入者が顔見知り。


俺は隠し通路の中で数秒悩み、結局ため息をついた。ここで黙っていても格好がつかない。もともとそんなに良くもないが、さらに悪くなるのは避けたい。


壁を一部だけ開き、俺はスズの前に姿を見せる。


「よ。罠の感想どうぞ」


スズは俺を見たまま、数秒止まった。


普段ならまず「バカなの」とか「生きてんじゃないわよ」とか飛んできそうなのに、珍しく言葉が出てこないらしい。目だけが大きく開いている。


「……は?」


今日、何人目だその反応。


「その台詞、わりと聞き飽きた」


「いや、だって、あんた」


彼女は穴の底で立ち上がり、俺をにらむ。にらんでいるのに、目の端が少し赤い。泣く直前みたいな顔をしているのが、一番予想外だった。


「死んだって」


「俺もそう思った」


「軽く言うなバカ」


「重く言う場面か?」


「そういうとこ!」


声が反響して、狭い通路にわんわん跳ねる。いつもの調子だ。なのに、どこか違う。怒っているのに、安心したような、そういう混ざった声だ。


俺は穴の壁に即席の階段を作ってやる。スズはそれを見て、一瞬だけ眉を上げた。


「何それ」


「企業秘密」


「企業でもなんでもないでしょ、あんた一人じゃん」


「個人事業主な」


「迷宮の何屋よ」


「設計施工管理まで一括でやっております」


「ふざけてる場合?」


「真面目にやるとしんどいだろ」


その言葉に、スズがわずかに口を閉じた。


彼女は階段を上がって俺の前まで来る。近い。ダンジョンの湿った空気の中に、金属と石鹸の匂いが混じっている。肩のカメラは切ってある。少なくとも今は配信していないらしい。


「……ほんとに、カナタなんだ」


「偽物でこの地味さは再現できないだろ」


「そこは否定しない」


「ひど」


だが次の瞬間、スズの表情が硬くなる。


「追い返すつもりなら、その前にこれ見なさい」


彼女は腰のポーチから小型端末を取り出した。画面には録画データ。再生ボタンを押す。


映ったのは、あの日の崩落直前の通路だった。


角度が悪い。たぶんスズが上層で拾った監視ログか、誰かのサブカメラ映像だろう。音は少し割れているが、顔と声は十分わかる。


『左は落盤の危険ありだ』


俺の情報をハヤトが自分の手柄みたいに言っている、そこまではいつものことだ。


問題は、その後。


映像の端で、ハヤトがわざと通路先へ雷槍を撃ち込む。魔物もいない場所へ。壁の薄い部分を正確に狙って。


俺の警告を聞いた上で。


その次に、床が崩れる。


そして、落ちる俺を見下ろして、はっきりと口が動く。


『お前はもう足手まといなんだよ』


そこまで再生して、スズは端末を止めた。


通路がしんとする。


自分で聞いたはずの言葉なのに、記録として突きつけられると、別物みたいに重かった。言い逃れできない形になると、怒りは熱より先に冷える。冷えたまま、芯のところだけが焼ける。


「……故意、か」


「そう」


スズの声は低い。


「崩落事故じゃない。あいつがやった」


俺は笑おうとして、失敗する。


悔しいとか、腹が立つとか、そういう単語じゃ足りない。胸の奥の柔らかいところを、靴で踏まれたみたいな感じだ。しかも何度も。


見下されるのは慣れている。


手柄を横取りされるのも慣れている。


でも、殺されかけるところまで行くと、さすがに慣れたくない。


「……へえ」


自分でも驚くくらい、声が低く出た。


「俺、思ってたより、あいつのこと許してたんだな」


「今ので、許せなくなった?」


「いや」


俺は端末の画面を見たまま答える。


「今ので、ちゃんと怒れた」


スズが息を呑むのがわかった。


たぶん、俺は普段、怒るのが下手だ。笑って流す。軽口で逃がす。そうしないと、自分が削れるから。けど今は違う。逃がしたくない。逃がしたら、二度と回収できない気がする。


そのとき、迷宮の外周で複数の魔力反応が跳ねた。


青い画面が警告を出す。


【外敵侵入反応:多数】

【群体モンスター接近】


「っと、話してる場合じゃないな」


俺はすぐに設計画面を開く。反応位置は三方向。たぶんスズが入ってきたことで外周が乱れ、周囲のモンスターを引き寄せた。迷惑客の二次災害つき。サービス精神が旺盛で困る。


「数は?」


スズが短剣を抜く。


「十七……いや、二十。小型多め。速いやつが混ざってる」


「見えるの?」


「地形で読むのが俺の仕事なんで」


「へえ、役立つじゃん」


「今さら知った?」


言い返しながら、通路の形を組み替える。一直線だった通路を蛇行させ、入口に仕切り壁を追加。落とし穴は二段式に変更。さらに左右の狭間に石弓罠を設置。俺一人なら隠れて処理できるが、今はスズがいる。だったら彼女の動きやすい空間も必要だ。


「橘、右側の通路に誘い込め。音で散らせるか」


「できる。あんたは」


「道を作る」


「ほんと、変なコンビ」


「褒め言葉として受け取る」


最初の一群が突っ込んでくる。甲殻を持つ大型ネズミみたいなやつが先頭、その後ろに羽虫型、さらに壁を走る細足のトカゲ。うわ、見た目が忙しい。


スズが指を鳴らすみたいに短剣の柄を打つ。甲高い反響音が走り、群れの先頭が一瞬だけそちらを向く。


「ほら、こっち」


挑発する声と同時に、彼女が軽く跳ぶ。モンスターが追う。


そこへ俺が床を一列だけずらす。


先頭集団の足場が消え、三体まとめて落下。後続が渋滞したところへ、壁の石弓が連射される。ぎゃっと耳障りな悲鳴。スズは狭い足場を渡って次の角へ滑り込み、さらに音で敵を引きつける。


速い。判断もいい。


悔しいが、頼もしい。


二方向目から入ってきたトカゲ型は、壁面移動で罠を避けてきた。だが、そんなのは見えてる。


「上、潰すぞ」


「やって」


天井ブロックを落とす。通路ごと圧縮された空間に、トカゲたちが挟まれて動きを止める。そこへスズが低く潜り込み、短剣を一閃。首筋だけを正確に断つ。


血飛沫が散る。発光苔の青と混じって、妙に鮮やかだ。


「配信者ってもっとキラキラしてる仕事じゃないのかよ」


「誰の偏見よ。現場はこんなもん」


「夢がないな」


「夢を売るのが配信で、現実は泥まみれってこと」


言いながらも、彼女の呼吸は乱れない。強い。たぶん、俺が思っていたよりずっと。


最後の群れが正面から雪崩れ込む。数で押す気だ。だったら、通路そのものを敵にする。


俺は入口直前の壁を左右から閉じ、幅を半分にする。もたついた先頭が詰まったところで、スズが音を弾く。群れが一気に前へ寄る。そこをまとめて、二段落とし穴へ。


落ちる音、潰れる音、跳ねる悲鳴。


静かになった。


しばし遅れて、設計画面に大量の素材取得表示が流れる。


「……勝ったか」


「勝ったわね」


俺とスズは、ほぼ同時に息を吐いた。


通路には血と石片と甲殻の破片が散らばっている。いい景色ではない。でも、守り切った。侵入者だったはずのスズと、迷宮の主になった俺で。


妙な気分だ。


スズは短剣についた血を払ってから、俺を見る。


「ねえ、カナタ」


「ん?」


「一緒に見返してやろうよ」


まっすぐな声だった。


軽口も、皮肉もない。配信用の派手な演技でもない。本気の声だとわかる。


「ハヤトも、あんたを切り捨てた連中も。あと、上で好き勝手言ってるやつら全部」


「物騒だな」


「今さら?」


「まあ、たしかに」


俺は笑う。今度は、ちゃんと笑えた。


怒りは消えていない。むしろ芯のところで燃え続けている。でもそれだけじゃない。目の前に、使える現実がある。味方になるかもしれないやつがいる。設計できる迷宮がある。


だったら、やることは一つだ。


「条件がある」


「なによ」


「勝手に俺の居場所を配信しない」


「するわけないでしょ」


「あと、罠を突破したことを毎回得意げに言わない」


「それは言う」


「却下」


「言う」


「くそ、面倒なやつ」


スズはそこで、ようやくいつもの調子で笑った。


「バカ。でも、あんたのそういうとこ嫌いじゃない」


その言い方が妙に自然で、俺は一拍遅れて視線をそらす。ダンジョンの中は湿ってるのに、顔だけ少し熱いのが腹立つ。


誤魔化すように、俺は隠し扉を開いた。


通路の奥、今まで誰にも見せていない中枢区画へ続く道だ。広くはないが、俺が最初に掘って、最初に守って、最初に「ここが俺の場所だ」と思えた中心。


簡易寝台、拡張した食料庫、加工台、素材棚、採掘口、制御盤代わりの設計台。まだ仮設も仮設だ。城にはほど遠い。でも、俺にとってはもう立派な拠点だ。


スズが足を踏み入れ、周囲を見回す。


「……へえ」


「またそれか」


「今度のは褒めてる。あんた、ほんとに作ったんだ」


「攻略するより、作ったほうが早いだろ」


「その台詞、ちょっとムカつくけど、いまは似合ってる」


彼女は収納箱を見て、加工台を見て、入口の三重罠を振り返る。


「なんか、秘密基地みたい」


その一言に、胸の奥が少しだけ軽くなる。


秘密基地。


いい響きだ。誰にもいらないと言われない、小さな居場所の名前としては、かなり悪くない。


「だろ」


俺は拠点の中心に立ち、青い設計画面を開く。素材は十分。できることも増えた。隣には、まだ信用しきるには早いが、それでも背中を預けて戦えたやつがいる。


だったら次は、もっとちゃんと作る番だ。


誰にも奪わせない場所を。


簡単には攻略されない迷宮を。


俺は画面の向こうに広がる設計可能領域を見て、にやりと笑う。


「歓迎するよ、橘」


「侵入者なのに?」


「特別に中枢見学付きだ。光栄に思え」


「何その上から目線」


「迷宮の主だからな」


「調子乗ってると蹴るわよ」


「罠に引っかかってから言え」


言い合いながらも、俺の目は自然と次の設計へ向いている。


上では、未確認迷宮の噂が広がっているはずだ。ハヤトも、探索者たちも、まだ俺がここにいるとは知らない。いや、これから知ることになる。


そのとき、連中が相手にするのは、追放された地図係じゃない。


自分の場所を、自分の手で作り始めた設計者だ。


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