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タイの物語  作者: Shadow
第I部:第II部:過去の根源と真実
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第40話 ― 新しい人生

王宮を出た。


だが――勇者たちが前にいた。


剣の勇者が何かを喋っている。


長々と。


くだらない。


俺は煙草に火をつけ、その横を通り過ぎた。


だが――


「俺たちはお前に話している」


槌の勇者が俺を呼び止めた。


視線を向ける。


いつの間にか、奴の手が俺の肩に置かれていた。


その瞬間――


圧力が溢れ出した。


勇者たちの表情が凍る。


王宮全体が震えた。


静かに言う。


「手を離せ」


槌の勇者は顔を引きつらせた。


ゆっくりと手を離す。


その目には恐怖が浮かんでいた。


俺は傷口を見た。


治療できる。


大した傷ではない。


そのまま歩き出した。


勇者たちなどどうでもよかった。


――――


突然、大量の紙が周囲を包み込んだ。


見上げる。


空が見える。


あそこから抜けられる。


脚に力を込めた。


跳び上がろうとした瞬間――


天井が閉じた。


なら前だ。


地面を蹴った。


紙の壁へ突っ込む。


衝撃が走る。


だが所詮は紙。


切れる。


紙の弱点は水だ。


水魔法を使おうとした瞬間――


紙の中から剣の勇者が飛び出した。


剣を振り下ろす。


俺は素手で剣の腹を殴った。


金属音が響く。


剣筋が逸れた。


剣の勇者が目を見開く。


一歩下がった。


俺は言った。


「失せろ」


そして続ける。


「ガキのお前には、自分が何を相手にしているのか分かっていない」


剣の勇者が怒鳴った。


「王を侮辱した罪人だ! 死ね!」


冷たく見返した。


血は流れている。


だが戦える。


その時――


頭上に気配。


反射的に盾を掲げた。


激しい衝撃。


腕が痺れる。


見上げる。


槌の勇者だった。


二人の勇者。


そして紙の結界。


完全に囲まれていた。


俺は笑った。


最初は小さく。


だが次第に止まらなくなった。


二人の顔が強張る。


槌の勇者が言う。


「降伏しろ。そうすれば命だけは助けてやる」


俺は黙った。


そして答えた。


「お前の言葉と行動は矛盾している」


視線を向ける。


「降伏したところで処刑されるだけだろう」


剣の勇者が叫ぶ。


「そんなことはさせない!」


俺はそいつを見た。


距離がある。


一歩踏み出す。


次の瞬間には目の前だった。


剣の勇者の瞳が揺れる。


逃げようとした首を掴んだ。


「本当にそう思うなら――俺を行かせろ」


剣の勇者が剣を掲げた。


黒雲が空を覆う。


雷鳴。


稲妻。


振り下ろされる刃。


その雷光の中に、自分の姿が映った。


俺は剣を奪う。


そのまま槌の勇者へ投げつけた。


そして叫んだ。


盾が巨大化する。


頭上へ持ち上げ――


叩き落とした。


轟音。


爆風。


暴風が吹き荒れる。


紙の結界が揺らぐ。


逃げられる。


そう思った瞬間――


二人の勇者が同時に突っ込んできた。


どちらかを受ければ手が潰れる。


なら――


両方だ。


俺は笑った。


盾を掲げる。


そして手放した。


二人の攻撃が盾へ叩き込まれる。


直後――


暴風が解放された。


俺は地面へ身を沈める。


指を土へ突き刺した。


糸を流し込む。


煙草を一吸いした。


煙を吐く。


そして言った。


「さようならだ」


地中から無数の糸を引き上げた。


紙の結界全体へ絡ませる。


二人の勇者の顔に浮かんだ恐怖。


実に面白かった。


俺は叫んだ。


「ここからが本番だ!」


糸が雨のように降り注ぐ。


紙を切る。


結界を切る。


勇者たちを切る。


その隙に盾を回収した。


そして姿を消した。


――――


十分な距離を取った。


傷を治療する。


包帯を巻く。


それから考えた。


王を脅した。


城を半壊させた。


今さら戻れない。


なら――


冒険でもしてみるか。


俺を無理やり勇者にした世界。


その世界を知ってみるのも悪くない。


十分ほど考えた。


結論は出た。


旅をしよう。


この世界を見て回ろう。


まずは武器屋だ。


装備を知る。


敵の武器も知る。


そう決めて歩き出した。


――――


武器屋へ入った。


一本の剣が目に留まった。


手を伸ばす。


その瞬間――


盾が電撃を放った。


激痛。


腕の感覚が消える。


盾を外そうとした。


外れない。


視界に文字が現れる。


『盾を煩わせるな』


剣を戻した。


別の武器を見る。


鎌。


問題ない。


短剣。


問題ない。


槌。


触れた瞬間――爆発した。


「どうしてその話を知っている」


俺がそう聞くと、老婆は肩をすくめた。


「買うのか」


「帰るのか」


「それ以上は話さない」


俺は諦めた。


「分かった」


それ以上追及する気はなかった。


代わりに別の質問をする。


「魔法について教えてくれ」


老婆は頷いた。


「闇魔法を知っているか」


首を横に振る。


「知らない」


「闇魔法には様々な系統がある」


老婆は指を折りながら続けた。


「炎」


「風」


「土」


「光」


「他にも数え切れない」


少し考えた後、さらに言う。


「全ての魔法を扱う者もいる」


「そして全てを極め、新しい魔法を生み出す者もいる」


「そういう者は極めて稀だ」


俺は別のことを思い出した。


尻尾を持つ人間を見たことがある。


だから聞いた。


「この世界には人間しかいないのか」


「奴隷種族はいないのか」


老婆は首を振った。


「いる」


「亜人だ」


「エルフ」


「ドワーフ」


「狼人族」


「他にも多く存在する」


必要な情報は手に入った。


俺は席を立った。


「世話になった」


老婆は何も言わなかった。


ただ静かに俺を見ていた。


――――


店を出た。


冒険を始めようとしていた時だった。


再び王の連中が現れた。


今度は殺しではない。


奴隷として捕らえるつもりらしい。


内心で笑った。


ちょうどいい。


利用させてもらおう。


奴隷になれば奴隷たちのいる場所へ入れる。


中から解放できる。


そう考えた。


そして抵抗せず捕まった。


奴らは俺を地下へ連れていく。


臭い。


酷い臭いだった。


空気は濁り。


蝿が飛び回る。


吐き気がする。


地下牢の扉が開いた。


背中を押される。


中へ入れられた。


鉄格子が閉まる。


周囲を見回した。


子供たちがいた。


痩せ細っている。


骨と皮だけの者もいる。


目に光がない。


その光景を見た瞬間――


怒りが込み上げた。


胸の奥から。


抑えられないほどに。


くだらない王国だ。


鎖を引き千切った。


近くにいた少年へ向かう。


血を吐いていた。


酷い状態だった。


治療しようとした。


だが――


遅かった。


少年は俺の腕の中で息を引き取った。


何もできなかった。


助けられなかった。


しばらく動けなかった。


だが。


怒りは消えなかった。


牢を破壊した。


轟音が響く。


奴隷商人たちが駆けつけてくる。


一人が剣を持って突っ込んできた。


頭を掴む。


そのまま地面へ叩きつけた。


骨が砕ける音。


持ち上げる。


もう一度叩きつける。


今度は動かなかった。


残りの連中が足を止める。


恐怖している。


だがすぐに怒鳴り始めた。


数に頼ろうとした。


一斉に向かってくる。


死んだ男の死体を掴んだ。


投げた。


死体は砲弾のように飛ぶ。


正面の男たちへ直撃した。


吹き飛ぶ。


隊列が崩れた。


俺は止まらない。


既に走っていた。


静寂。


一瞬だけだった。


荒い呼吸だけが響く。


奴らの目を見る。


怒りではない。


恐怖だった。


原始的な恐怖。


最も背の高い男が叫ぶ。


「殺せ!」


「相手は一人だ!」


言い終わる前に懐へ入った。


剣を振る。


遅い。


肩を傾けるだけで避けられた。


拳を突き出す。


喉へ。


鈍い音。


男の目が見開く。


悲鳴は出ない。


そのまま首元を掴み、引き寄せた。


矢が飛んでくる。


男を盾にした。


背中へ何本もの矢が刺さる。


息絶える前に放り捨てた。


次は弓兵。


瓦礫を飛び越える。


目の前へ降り立つ。


弓が手から落ちた。


恐怖で顔が歪む。


俺は囁いた。


「次はお前だ」


右手を掴む。


捻る。


骨が砕けた。


絶叫。


壁へ叩きつける。


石壁が崩れた。


男ごと埋まる。


血と土埃が舞った。


振り返る。


残り三人。


誰も動けない。


仲間の死体と俺を見比べている。


一歩前へ出た。


それだけだった。


三人は武器を捨てた。


逃げ出した。


暗い通路の奥へ。


だが逃がさない。


一人も。


誰一人。


生かして帰す気はなかった。


――――


しばらくして足音が止まる。


奴らは息を整えていた。


その時だった。


一人が消えた。


突然。


跡形もなく。


残った二人が凍りつく。


恐怖が広がる。


速い足音。


二人が振り返る。


俺は目の前に立っていた。


二人は逃げようとする。


遅い。


糸を放つ。


体に絡みつく。


そのまま空中へ吊り上げた。


ゆっくり近づく。


その瞬間――


耳を何かが貫いた。


矢だった。


血が流れる。


吊られた二人が叫ぶ。


「頭領!!」


ゆっくり振り返る。


そこに男がいた。


弓を構えている。


自信に満ちた顔。


「知らないのか」


男が笑う。


「ここへ生きて入った者は、生きて出られない」


耳から矢を抜いた。


投げ返す。


弓へ命中した。


砕け散る。


男の笑みが消えた。


俺は言った。


「知っている」


少年の顔を思い出した。


「少し前に、子供が俺の腕の中で死んだからな」


拳を握る。


糸が収縮する。


吊られた二人の体が裂けた。


血が降る。


男は絶句していた。


俺は歩き出す。


頭領へ向かって。


男も走った。


そして――


互いに拳を放った。


拳と拳がぶつかった。


鈍い衝撃音。


床に亀裂が走る。


男は驚いていた。


俺も少し驚いた。


他の連中とは違う。


多少は戦えるらしい。


男が笑う。


「なるほど」


「少しは楽しめそうだ」


俺は答えない。


再び踏み込んだ。


拳を放つ。


男も応じる。


数度の打ち合い。


だが結果は変わらない。


俺の方が速い。


俺の方が重い。


俺の方が――怒っていた。


男の顎へ拳がめり込む。


首が跳ねる。


意識が飛んだ。


その場で崩れ落ちる。


終わりだった。


俺は頭を掴んだ。


壁へ叩きつける。


轟音。


もう一度。


さらにもう一度。


血が飛び散る。


男は目を覚まさなかった。


そのまま引きずる。


地下を出る。


近くの下水へ放り投げた。


見届けることもなく背を向ける。


興味はなかった。


――――


奴隷商人は全員殺した。


残ったのは奴隷たちだけだった。


拘束を解いていく。


礼を言う者。


泣く者。


呆然としている者。


様々だった。


その中で――


俺はある光景を見つけた。


一人の少女。


その背後に、小さな少年。


少女は傷だらけだった。


それでも弟を守るように抱きしめている。


震えながら。


恐怖しながら。


それでも離さない。


その姿を見た瞬間――


胸が痛んだ。


昔を思い出した。


忘れたはずの記憶が蘇る。


気付けば涙が流れていた。


少女へ近付く。


しゃがみ込む。


そして言った。


「お前は――世界一の姉だ」


少女は怯えていた。


俺を見て泣き出した。


優しい言葉に慣れていないのだろう。


俺は静かに続けた。


「安心しろ」


「お前も弟も家へ帰してやる」


少女が震える声で言った。


「本当に……?」


「ああ」


少ししてから尋ねる。


「お前たちは何族だ」


少女は答えた。


「エルフです」


耳を見る。


右耳は無事だった。


だが左耳は――切り落とされていた。


思わず目を閉じた。


胸の奥が重くなる。


治療魔法を使う。


傷を癒した。


少女は驚いた顔をしていた。


弟も同じだった。


俺は二人を連れて地下を出た。


――――


宿へ戻った。


まず食事を用意した。


二人は夢中で食べていた。


途中で泣きながら食べていた。


どれだけ空腹だったのか。


考えたくもない。


食事を終える。


風呂へ入れた。


服も用意した。


ようやく人らしい顔になった。


二人をベッドへ寝かせる。


疲れているはずだ。


すぐ眠ると思った。


だが違った。


――――


俺は宿のバルコニーにいた。


煙草に火をつける。


夜風が吹く。


空を見上げた。


昔を思い出す。


母親から逃げる時。


殴られたくない時。


いつもバルコニーへ逃げていた。


煙を吐く。


その時――


部屋から物音が聞こえた。


戻る。


少女と弟が起きていた。


二人とも震えている。


近付いて聞いた。


「どうした」


少女が俯いたまま答える。


「眠れないんです……」


「夢を見るから」


「鞭で打たれた時の夢」


「殴られた時の夢」


「閉じ込められた時の夢」


言葉が続かない。


途中で泣き始めた。


弟も泣き出す。


俺は二人を抱き寄せた。


最初は怯えた。


だが抵抗はしなかった。


しばらくして。


二人は声を上げて泣き始めた。


俺は何も言わない。


ただ背中を撫でる。


涙を拭う。


そして静かに言った。


「大丈夫だ」


「もう終わった」


「俺がいる」


少女は泣きながら頷いた。


弟も小さく頷く。


やがて泣き疲れた二人は眠った。


安心したような顔だった。


俺は二人の傍に座った。


そのまま夜を過ごした。


――――


翌朝。


朝食を買いに行こうとした。


部屋の扉を開ける。


そこで足が止まった。


宿の前に――


衛兵たちが並んでいた。


数は多い。


全員武装している。


隊長らしき男が前へ出た。


そして言った。


「盾の勇者」


俺は黙っていた。


男は剣の柄へ手を置く。


「お前を逮捕する」


煙草を取り出した。


火をつける。


ゆっくり煙を吐いた。


そして笑った。


――面白い。


(第40話・了)

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