第三十二話 ― 殺す
皆様にとって楽しい読書です
ニノの部屋に入った。
誰もいなかった。
窓が割れていた。
ガラスが、静かに床に散らばっていた。
月明かりだけが部屋を満たしていた——まるで何事もなかったかのように。
——攫われたのか。
考えが終わる前に、スマホが鳴った。
「メッセージを見ただろう。なぜ返事をしない。今すぐ最寄りの駅へ行け——さもなくば、ニノの首がお前の手元に届く」
切れた。
ゆっくりと、スマホを下ろした。
それから——叩き割った。
病院へ向かった。地下へ降りた。
防弾ベスト。サイレンサー付き拳銃、二丁。ナイフ、二本。
手が、自然に動いた。考えなかった。体が覚えていた。
最寄りの駅へ向かった。
――――
——少し前のこと——
ニノの部屋を出ようとした時、床に箱があった。
開けた。
写真だった。
俺の写真だった。
……なんだ、これは。
幼い頃だった。
路地を歩いている。物陰を移動している。知らない場所にいる。
一枚一枚——全部、俺だった。
ずっと見られていた。
子供の頃から。
組織は——俺が物心つく前から、俺を見ていた。
そして箱の底に、ビデオテープがあった。
手書きで、こう書いてあった。
「お誕生日おめでとう」
……俺のじゃない。
ニノのだ。
今は関係ない。
――――
駅に着いた。
“0”がいた。
近づいた。
男子トイレに引きずり込んだ。
背中を壁に叩きつけ、喉を掴んだ。
指に力を込めた。
「ニノは——どこだ」
“0”は笑った。
「人質だ。ボスのところにいる」
――――
冷たい白いタイル。
汗と血が壁を伝う。
“0”の呼吸が、俺の指の下で細くなっていく。
もう少し。
あと少しだけ絞れば——
冷たい金属が、こめかみに触れた。
銃口だった。サイレンサー付き。
背後に、男が立っていた。
ゆっくりと手を離した。
振り返った。
——同じ顔だった。
“0”と、完全に同じ顔。同じ目。同じ輪郭。
歪んだ鏡に映したような——双子だった。
片方が低く笑った。
「最後の間違いだ」
心臓が跳ねた。
だが手は——迷わなかった。
横の壁を蹴った。体を弾かせた。
銃声——くぐもった音がタイルに散った。
サイレンサーを抜き、片方の脚を撃った。
叫び声。よろめいた。倒れなかった。
もう一方が飛びかかってきた。
壁に叩きつけられた。
拳が顔に入った。眉から血が走った。
ナイフを抜いた。太ももに刺し込んだ。
血が手の甲に噴いた。
悲鳴がタイルに反響して消えた。
撃たれた方がまた銃を上げた。
もう一丁から撃った——肩を抜いた。
倒れた。
だが死ななかった。
……こいつらは。
痛みが、奴らを——もっと凶暴にしていた。
二丁のうち一丁を、床に投げた。
奴らが前に出てくる。
一歩。また一歩。
同じ顔をした死が、二つ。並んで歩いてくる。
片方が血まみれの口を開いた。
「燃え尽きても——お前を沈める」
胸の奥で何かが、燃えた。
引き延ばせば俺が死ぬ。
これ以上は——ない。
ゆっくりと、手を上げた。
指先が震えた。
一瞬だけ。
それから——止まった。
深く、息を吸った。
「もう遊びは終わりだ」
指の間から——鉄線が伸びた。
細い。
銀色に光る。
刃より静かで、刃より深く切る——糸。
二人の目が、止まった。
一人が突っ込んできた。
糸が空気を裂いた。
手首に巻きついた——引いた。
手が、紙のように断ち切れた。
武器が床に落ちた。
血が白いタイルに広がった。
もう一人が引き金を引こうとした。
糸が手首を捕らえた。
腕が——自分の顎に向いた。
銃声。
くぐもった爆発が、奴自身の顔を撃ち抜いた。
倒れた。のたうち回った。
俺は中央に立っていた。
息が荒い。全身が痛い。
糸が、亡霊のように俺の周りを漂っていた。
一人が血の中を這った。
立ち上がろうとした。
糸が胸に刺さった。
ゆっくりと——押し込んだ。
鉄が、心臓を貫いた。
体が、折れた。
もう一人——顔の半分が焼けていた。
残った片目で、俺を見た。
震える手が、ゆっくりと伸びてきた。
まるで命を——乞うように。
俺は見ていた。
それでも——迷わなかった。
糸が首に絡んだ。
ゆっくりと——締めた。
息が消えた。
目が見開いた。
それから——閉じた。
体が、床に沈んだ。
糸を引き戻した。
血に染まった白いタイルを見た。
自分の手を見た。
体が、崩れ落ちそうだった。
それでも——笑った。
「二人でかかっても——俺は倒れない」
その時、内側で声がした。
糸を捨てようとしていたのに。
今のお前は——もう、以前のお前じゃない。
俺は何も答えなかった。
分かっていたから。
――――
足を引きずってトイレを出た。
呼吸まともにできない。
体の節々が悲鳴を上げていた。
倒れた男のスマホが、床で鳴っていた。
拾った。
出た。
「見事だ、タイ——期待通りだ」
声が、楽しそうだった。
俺は静かに言った。
「覚悟しておけ。次は——お前の番だ」
少し間を置いた。
「期待なんてするな。お前はもう——死ぬ側にいる」
[章の終わり]
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