第二十八話 ― 主導権
物語を愛するすべての方へ。
この物語を楽しんでいただければ幸いです。
そして、物語があなたの好みに合わせて進化していくことを願っています。
俺が無実を告げた直後、法廷の空気は凍りついた。
「……続けてください、検察官」
裁判官の声
だけが、やけに鮮明に響く。
検察官は――一瞬、言葉を失った。
その隙を、逃す理由はない。
「どうした?」
「用意し
てた筋書き、崩れたか?」
「それとも――そこまで考えてなかったか?」
木槌の音が響く。
「タイ。発言は順序を守れ」
……順序?
笑わせるな。
検察官は咳払いを一つして、書類を整えた。
「では質問する」
「一ヶ月半前の
月曜日、正午――お前は病院にいたな?」
「ああ」
「ついでに言うと、その場には――俺を殺そうとした奴もいた」
――ざわめき。
陪審員、そして裁判官までもが息を呑む。
検察官の指が、紙を握り潰しかけている。
「…
…怖いのか?」
「質問には答えたぞ?」
「それとも、続きも欲しいか?」
「お前が言うはずだったこと――先に全部、教えてやろうか?」
「……黙れ。次の質問だ」
「ああ、いい顔だ」
「覚悟はできたみたいだな」
検察官の目が鋭くなる。
「調書によれば、お前は三
ヶ月前に十八歳になった」
「サカに引き取られ、育てられた――これは事実か?」
「違うな」
「それに……その質問、弱い」
一歩、前に出る。
「もっと“使える質問”、教えてやろうか?」
「……ふざけているのか?」
「ああ、してる」
「この裁判自体が――茶番だからな」
空気が
張り詰める。
「証拠もないまま俺を立たせて」
「人数だけ揃えた陪審員は、中身を理解していない」
「それで裁判のつもりか?」
木槌が叩きつけられる。
「タイ、度を越すな」
「度?」
「最初から壊れてる場で、何を守れって言うんだ?」
一拍。
「――証人を呼べ」
「俺が直接、潰す」
沈黙
。
そして――
「……いいだろう」
裁判官の声が低く落ちる。
「検察官、証人を」
検察官は舌打ちを飲み込みながら言った。
「証人、前へ」
席に戻る途中――視界の端に映る影。
……あいつか。
胸の奥が、わずかにざわつく。
(……まだ手錠は外さないのか)
鎖の感触を無視する。
証人が前に立つ。
――医者。
「あなたは、被告タイが犯人だと?」
「
はい。その通りです」
「では証言を」
――思わず、笑いが漏れた。
「……早いな」
「随分あっさり売るじゃないか」
証人の顔がわずかに歪む。
言葉に詰まりながらも、やがて話し始める。
……内容は同じだ。
取調べと、何一つ変わらない。
「異議あり」
「理由は?」
――来た。
一番欲しかった言葉。
「俺が尋問する」
一瞬の静寂。
「……許可する」
「
納得できなければ、その時点で判断に入る」
……十分だ。
ゆっくり歩み寄る。
「名前は?」
「……なぜそんなことを聞く?」
裁判官が口を挟む。
「知らないからだ」
「俺はこいつを知らない」
「だが、こいつは俺を知っているらしい」
視線が集まる。
「……妙だと思わないか?」
「つまり――監視していたってことだろ?」
空気が揺れる。
裁判官が興味深そうに目を細める。
「続けろ」
証人に向き直る。
「どうやって俺を知った?」
沈黙。
だが、すぐに口を開いた。
「……斎藤と申します」
「あなたの両親の離婚時、DNA鑑定に立ち会いました」
……逃げたな。
だが問題ない。
一歩踏み込む。
「じゃあ聞
く」
「俺の両親は誰だ?」
「……ニノはあなたの妹です」
「ただし――異父兄妹」
――思考が止まる。
ニノが……妹?
(……後だ)
今は切るな。
「答えが早いな」
「だが、その話はこの裁判と関係ない」
一歩、距離を詰める。
「検察の質問には詰まった」
「だが俺の質問には即答」
「――どういうことだ?」
静寂。
「つまりお前は――選んで喋ってる」
「都合のいいことだけな」
その瞬間――
拍手。
視
線が動く。
……裁判官だ。
「見事だ」
「流れを完全に取ったな、タイ」
「光栄だ」
「だが、まだ終わりじゃない」
視線を巡らせる。
「次だ」
陪審席へ歩く。
一歩ごとに――場の支配が深まる。
見つけた。
「あいつだ」
「前へ」
呼ばれた男が震えながら出てくる。
――学校の警備員。
「お前は警備員だな?」
「は、はい……一度、見たことがあります」
「俺がニノを待っていたことは?」
「いえ、ありません!」
即答
。
「彼女が外に出ていたのは――あなたが入院していたからです!」
「あなたは、ずっと病院にいた!」
……決まりだ。
「――これで終わりだ」
「閉廷を求める」
「根拠は?」
「今の証言だ」
「必要なら、記録も出せる」
裁判官が笑う。
「見せろ」
書類を渡す。
目を通しながら、口元が歪む。
「……最初から、読んでいたか」
「ああ」
「最初からだ」
静かに言う。
「王が後ろにいる時は――策がある」
一拍。
「だが前に出た
時は――」
「盤面は、支配されている」
沈黙。
木槌。
一度。
二度。
三度。
「――判決」
「被告タイを、すべての罪状において――無罪とする」
完全な静寂。
そして――
読者の皆様へ
今後は毎週日曜日に章を公開することにいたしました。
この決断は、皆様にもっと面白く、楽しく読んでいただけるようにするためです。
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