第二十七話 ― 無情なる運命
お待たせして申し訳ありませんでした。(:
壁の中から声が聞こえた時、幻聴だと思った。
だが今になってわかる――あれは約束だったのだ。
壁が喋ったのではない。彼の声を伝えていただけだ。
あの医者は治療していなかった。ただ、俺を観察していたのだ。
白い実験室から放たれた言葉が、頭の中で渦を巻く。
本当に、全てが彼の仕業なのか?
子供たちの誘拐、あの路地、警察への通報、治療という名の監視。
サカを狙った男、サカの誘拐、俺への幻覚の植え付け、そしてサカの死……
全部、計画通りだったというのか?
「……は?」
どういうことだ。
俺がこんな状態になったのも、全部アイツのせいか?
受け入れなければならない。現実を。
その考えが頭をよぎった瞬間、内側から声が叩きつけるように響いた。
「――ここで終わるのか?」
怒りが胸の奥で焼き付く。
「関係ない?」
「だから黙って受け入れるのか?」
「ふざけるな」
「まだ残ってるだろ」
「守るべきものが」
「ニノに会え」
「勝て」
「負けるな」
「――お前は、タイだ」
……
気づけば、視界が戻っていた。
俺は笑った。声を出して。
医者が眉をひそめる。
「……何がおかしい? そこまで追い詰められたか?」
俺は笑ったまま答えた。
「怖いのか?」
「全部、お前の作り話なんじゃないのか?」
「真犯人――暴いてみろよ」
「サカは死んだ。それがお前たちの望みだろう」
「だが――俺は負けない」
医者の表情がわずかに歪む。
その後、留置場へ送られた。
「明日までここだ」
静かだった。
あいつは“全て”ではない。
もっと上がいる。操っている何かが。
だが、まだ分からない。
眠れぬまま夜が過ぎた。
翌日。
「出ろ。裁判は14時だ。今は13時だ」
車椅子はなかった。どうでもいい。
昨日の警官はいない。
「どこだ?」
「もう裁判所だ」
妙だな。
別の警官の車に乗せられる。口数が少ない。
裁判所には人が多すぎた。
「弁護士は?」
「いない」
なるほどな。
そこまで仕込んでいるか。
「いいだろ」
「最後に笑うのは――俺だ」
⸻
開始5分前。
突然、一人の男が飛び出した。拳銃。
「息子の仇だ!!」
遅い。
俺は警官を掴み、盾にする。
男が一瞬怯む。
距離を詰め、蹴りを入れる。肋骨へ。
崩れたところへ顔面。
男は泣いていた。
勘違い野郎が。
俺は耳元で囁く。
「一つ教えてやる」
「犯人は――ここにいる」
「俺じゃない」
警官が動こうとする。
「動くな」
睨むと止まった。
「死にたいのか?」
静寂。
俺は立ち上がり、振り返る。
「俺を犯人だと思ってる奴らへ」
中指を立てる。
「――失せろ」
誰も動かない。
そして――開廷。
⸻
裁判官は、見覚えのある男だった。
あの時の――離婚裁判の男。
「では、始めましょう」
全員起立。
俺だけは立たない。
視線が刺さる。
どうでもいい。
ゆっくり立ち上がる。
「始めろ、裁判官」
「高みに立てば、落ちる時も楽だろう」
空気が変わる。
裁判官が言う。
「記録しろ。発言は全て証拠とする――被告人」
「高みに立つとはどういう意味だ?」
「裁判はまだ始まっていないのに、もう敵か?」
俺は答えた。
「そんなことも分からないのか?」
裁判官が沈黙する。
木槌が鳴る。
開廷。
検察官が進み出る。
「本件被告は誘拐の容疑者であり――さらに別件も存在します」
俺は進み出て言った。
「異議あり」
「却下する」
「なぜだ?」
「本件は誘拐だ。他の事件を混ぜるな」
「発言は許可されていない」
「そうか」
少し揺さぶれれば十分だ。
検察官が続ける。
「一ヶ月半前に崩壊したビルの件も関係しています」
「尋問を許可願います」
許可された。
早い。通常は終盤だ。
「名前はタイで間違いないな?」
俺は黙る。
ざわめき。
「なぜ答えない?」
「言っただろ」
「喋るな、と」
空気が凍る。
「ふざけているのか」
「いや?」
「遊びじゃないのは分かっている」
「だが証拠もないまま連れてきたのはお前たちだ」
「別件で縛るつもりか?」
「――答える価値があるか?」
静寂。
(第二十七話・終)
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