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タイの物語  作者: Shadow
第I部:第II部:過去の根源と真実
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第二十章 ― サカの奪還

全てを始末し、扉を開けた。


踏み込んだ瞬間――

膝がわずかに崩れた。


一歩進むたびに、身体の均衡が壊れていく。

このまま倒れても、おかしくはない。


静かに扉を閉める。

振り返る余裕すらない。


視線だけを前へ。


長い廊下。

白すぎる壁は、まるで無菌室のように現実感を奪う。

冷たい光が、血に濡れた俺の影を歪ませていた。


歩くたびに――

傷が、存在を主張してくる。


重い。

鈍い。

だが確実に、俺を削っていく。



その時――


十メートル先の扉が開いた。


二人。


一人は異様な巨体。

二メートル近い身長。

武器はない。


だが、必要ない。


あれ自体が――暴力だ。


もう一人は細身。

手には長い刀身。

光を反射し、冷たく瞬く。



巨体が笑った。


確信に満ちた、勝者の笑み。


ゆっくりと歩いてくる。

床が軋むような重さ。


俺は即座に機関銃を構えた。


短く撃つ。


弾丸が肉を裂く。

血が飛び散る。


だが――止まらない。


痛覚が存在しないかのように。


ただ前へ。



額を冷たい汗が伝う。


後方へ飛び、拳銃を抜く。

サプレッサーを装着したまま、照準を頭へ。


発砲。


――外れた。


あり得ない速度で、軌道を外される。



次の瞬間。


目の前。


拳が振り下ろされる。


岩塊のような質量。


咄嗟に身を沈める。


衝撃。


背後の壁が砕けた。


紙のように。



残された力を脚に込め、蹴りを叩き込む。


反応は――薄い。


効いていない。


肩が悲鳴を上げる。

外れた関節が軋む。


それでも――撃つ。


今度は、喉と胸。


血管を断ち切る。


それでも、一歩。


さらに――一歩。


そしてようやく、


崩れた。


遅すぎる死。



間髪入れず、もう一人。


速い。


異常な速度。


最初の一撃で――終わっていたはずだった。


首が飛ばなかったのは、偶然に近い。


転がるように回避。

拳銃を向け、撃つ。


だが――


刃が弾いた。


火花。


金属音。



呼吸が乱れる。


視界が歪む。


痛みが増幅する。


だが――倒れない。


倒れるという選択肢が、もう存在しない。



刃が腹を狙う。


避けきれない。


左腕を差し出す。


貫通。


熱と痛覚が同時に爆ぜる。


だが、そのまま掴む。


逃がさない。


力任せに腕を固定する。


拳銃を胸に押し当てる。


「終わりだ」


引き金。


心臓を撃ち抜く。


目が見開かれ、

力が抜ける。


刃が手から滑り落ちる。


そのまま崩壊した。



……立っているのが、不思議だった。


腕から刃を引き抜く。


血が溢れる。


止まらない。


神経が焼けているような感覚。


痛みが、もはや輪郭を持たない。



数秒。


武器を下ろす。


呼吸を整えようとするが、うまくいかない。


血に濡れた自分の身体を見下ろす。


これは――本当に俺か?



廊下は、まだ続いている。


次の扉が、そこにある。


だが身体は限界を超えている。


それでも――


一歩。


また一歩。


意地だけが、俺を動かしていた。



戦いは終わった。


だが――


俺はもう、自分の身体を感じていない。


剣を拾う。


歩く。


意識が削れていく。


白い廊下が歪む。


終わりのない円環の中を、彷徨っているようだった。



前方に扉。


だが、身体が追いつかない。


意識よりも遅い。


いや――


身体の方が、先に壊れている。



崩れ落ちた。


動けない。


呼吸が重い。


肺が焼ける。


それでも――


サカのためだ。



ポケットに手を伸ばす。


震える指。


アドレナリン注射。


時間が引き延ばされる。


一瞬が、永遠のように長い。


それでも――


太ももに突き刺した。



冷たい液体が血管を走る。


全身に拡散する。



変化。


痛みが消える。


身体が軽い。


だが――代償が来る。


視界が歪む。

像が重なる。

平衡感覚が崩れる。


酩酊。


だが止まらない。



ふらつきながら進む。


扉が近づく。


近づく。



そして――


意識が戻りかけた、その時。



声。


壁の奥から。


どこでもない場所から。



「素晴らしい……」


「実に興味深い」


「その殺し方……無駄がない」



「欲しいな、お前を」



「必ず手に入れる」



(第二十章・完)

お待たせして申し訳ありませんでした。

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