第十七章 ― サプライズ
大変申し訳ございません。「送信」ボタンを押したと思ったのですが、実際には押さなかったことが判明しました。それでは、今日は二つの授業を読むことになりますね。
「俺、金を持ってないんだ」
そう言った俺をよそに、ニノは迷いなくレジへ向かった。
会計は――二万五千。
……なんで、そこまでしてくれる?
支払いを終えたあと、彼女は俺の手を取った。
柔らかくて、温かい手だった。
優しく微笑みながら言う。
「次は美容院ね。今の顔、子供の落書きみたいだし」
俺は思わず笑った。
「その言葉、忘れないからな」
⸻
美容院に入ったときの俺は、ひどい有様だった。
顔はボロボロ、髪も伸び放題。
だが――
出てきたとき、まるで別人だった。
少し整えただけのはずなのに、まるで生まれ変わったようだった。
美容師すら驚いた顔をしていた。
しばらくして来たニノも、目を見開いた。
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モールは広かった。
腹は減っていたが、彼女に奢らせる気にはなれなかった。
だが――
「タイ、すごくかっこよくなったわ。いい感じの髪型ね」
そう言ってから、彼女は続けた。
「それと……お腹すいた。レストラン行こう」
「……いいな」
⸻
レストランへ向かう途中、周囲の視線が俺に集まっているのが分かった。
女たちの視線。
その瞬間――
ニノが俺の腕にしがみついた。
「……いい? あの子たち見たら、後悔するわよ」
……危険を感じた。
俺は視線を逸らし、誰にも反応しなかった。
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レストランが見えてきたその時――
ニノの友達と遭遇した。
例の、メガネの女も一緒だ。
「ほら、レストランあそこだ」
俺は何気なく顔を上げ――
気づいた。
「あれ、お前の友達じゃないか」
「ほんとだ……なんで私抜きでいるのよ」
「じゃあ、俺いらないってことか?」
ドンッ!
蹴られた。
「夢見てんじゃないわよ」
……この一言が、後で少しだけ引っかかった。
⸻
メガネの女が近づいてきた。
その後ろから、ぞろぞろと他の連中も来る。
「ねえ、その人誰? まさかタイに浮気?」
ニヤニヤしながら言う。
「まあでも、こんなイケメンなら仕方ないか」
俺とニノは同時に笑った。
「これがタイよ。分からないの?」
彼女はメガネを外し、拭いて、もう一度俺を見る。
「……いや、タイには見えない」
ゴンッ!
ニノの拳が飛んだ。
「分かるわけないでしょ」
メガネの女は笑った。
「冗談よ。でも、ほんとにかっこよくなったわね」
そして――
「ちょっと貸してくれない?」
「はあ!? ふざけないで」
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俺は軽く言った。
「俺たち、今から飯なんだけど……一緒に来るか?」
ニノは明らかに不機嫌になったが、何も言わなかった。
メガネの女がニヤリと笑う。
「遠慮しとくわ。せっかくの“デート”なんでしょ?」
……デート?
何のことだ?
ニノの顔が一気に赤くなった。
俺は額に手を当てる。
「大丈夫か? 顔、真っ赤だぞ」
メガネの女が笑う。
「ほんと、鈍いわね」
そう言って、全員去っていった。
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ニノの様子がおかしい。
だが、腹が減っているだけだと思った。
俺たちはレストランに入った。
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席に着き、注文を取られる。
「何にする?」
ニノは少しぼんやりしていたが、やがて答えた。
「オムレツと……オレンジレモンジュース」
……どんな組み合わせだ。
俺はオムレツとバーガー、炭酸を頼んだ。
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料理を待つ間、ニノが口を開いた。
顔はまだ赤い。
「ねえ、タイ……私のこと、どう思う?」
俺は食べ物のことで頭がいっぱいだった。
「男が求めるもの、全部持ってる」
……沈黙。
視線を上げると、ニノが俺を見ていた。
青い瞳。
どこか不安げで、それでいて――綺麗だった。
その瞬間、彼女はバッグで顔を隠した。
……何だ?
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料理が来た。
ようやく食べられる。
だが、気がかりはニノだった。
様子がおかしい。
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食事を終え、彼女が会計を済ませる。
そして言った。
「明日、映画館に行こう」
「面白い映画、やってるの」
断る理由はなかった。
「いいな。美味い店だといいけど」
……沈黙。
そして――
彼女は笑い出した。
涙が出るほどに。
「なんで笑う?」
涙を拭きながら言う。
「映画館って分かる?」
俺は自信満々に答えた。
「料理が出る場所か、服屋だろ」
彼女はまた笑った。
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しばらくして落ち着くと、説明した。
「映画を見る場所よ」
「……初めて聞いた」
彼女は優しく笑った。
「じゃあ、いい経験になるわね」
「悪くない」
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別れ際。
彼女は一人で帰ろうとした。
俺はその手を掴んだ。
「送る」
「この時間に一人は危ない」
彼女は少し迷ったが――
結局、頷いた。
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夜は冷えていた。
あの夜を思い出す。
だが――
もう嫌いじゃない。
あの夜で、俺は変わった。
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寒さが増していく。
ニノの体が震えているのに気づいた。
俺はコートを脱ぎ、彼女に渡した。
拒まれたが、無理やり着せた。
その拍子に包帯が落ちた。
俺はすぐに新しい服を着た。
傷を見せないために。
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しばらく歩いたあと、彼女が言う。
「ここから近いわ。もういい」
「いや、送る」
「いいってば。あなたの方が遠いでしょ」
何度も断られ――
俺は仕方なく引き下がった。
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背を向けて歩き出す。
その時――
気づいた。
……俺、寝る場所がない。
そして――
雪が降り始めた。
まるで秋の落ち葉のように、静かに。
⸻
(第十七章・完)
皆さん、どうぞお楽しみください!(:




